キーナの魔法

小笠原慎二

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テルディアス求婚騒動編

騒動の決着

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じいやが屋敷内をひた走る。
あの儚げなお嬢様はどこへ行ったのかと。
ふと思い立ち、お嬢様の部屋へ向かった。
その窓辺に、立ち尽くす後ろ姿があった。

「お嬢様!」

息を切らしながら、お嬢様が無事で良かったと胸を撫で下ろす。

「こちらにおいででしたか…」

きっと気落ちして涙を流しているに違いない、と思ったが、

「じいや」

意外にハッキリとした声が聞こえてきた。

「はい?」
「私、領主になります」

力強い声で、そうキッパリ宣言した。

「は?!」

まさか!
意外すぎて言葉が出てこない。
窓辺に咲く可憐な花のような、どこか頼りなげな存在だったのに。
この変わり様は…。

「あの人に言われたの。私、何もしないで人の助けを待ってばかりだって。確かにそうだわ。お父様が生きていた頃はお父様に。お父様が亡くなってからはじいやに…。自分で何かを成そうとはせず、人に頼ってばかりで…」
「お嬢様…」

そうではないとは言えなかった。
お嬢様の父先代領主も、じいや自身も、お嬢様の事を一番に考え、行動してきた。
お嬢様が願う事はできる限り答え、道を示して来た。
だがそれは、お嬢様の考える力を削ぐだけのことになるとは、父もじいやも少しも思いつかなかったのだ。
故に、父親の死後、お嬢様は全ての事に、じいやの判断を求めた。
一介の執事でしかない自分が、そこまでするのはおこがましいとは思ったが、お嬢様のためと思い、万事に力を貸してきた。
だがそれは、間違いだったのだ。
お嬢様が振り向いた。

「私だって、ラディスティク家の人間です。それに、あのお父様の娘なんですもの。代18代目領主として、私も頑張ってみようと思うわ」
「お…嬢…様…」

胸を張り、そう宣言したお嬢様は、それまでのか弱い様子はどこかへ行ってしまっていた。
凜とした光を瞳に灯し、それまでの可憐なだけの美しさでは無い、何かが備わっていた。

「それに、結婚相手だって、あんな宝玉に頼らずに、自分で見つけてみせるわ!」
「お嬢様…」

じいやの瞳が涙で曇った。
ああそうだ。自分が分かっていなかっただけで、この女性はこんなにも力強い女性だったのだ。と。
嬉しさと寂しさと、色んな感情が交ざり、じいやの目から涙が零れた。
お嬢様が窓の外に視線を移す。
半月より少し太い月が、空で煌々と輝いていた。

(誰かに何かに頼るのでは無く、自分の力で…!)

厳しい言葉で自分を諫めてくれたあの人に、今度は自分から真正面に立つ事ができるように。
月に向かい、強くなろうと、心に誓った。







街からだいぶ離れた森の中。
暗いながらも枯れ枝を探し歩く二人の姿。

「サーガ達大丈夫かなぁ?」

キーナが木々の間にチラチラ見える空を見上げる。

「大丈夫だろ」

魔法の明かりで地面を照らし、テルディアスがそれらしき小枝を拾い上げる。
なんとか焚き火ができるくらいに、薪になるものを拾わなければならない。
チラリとキーナが背後のテルディアスの背中を見る。
なんとなく、テルディアスが距離を取っているように思える。
キーナもなんとなく、いつものようにじゃれつけるような雰囲気では無く、なんとなく居心地の悪さを感じていた。
別に喧嘩をしたわけではない。
勝手にキーナが嫉妬して、機嫌を悪くしただけなのだ。
自分があんな行動を取ったから、テルディアスが距離を取っているのだろうことは、キーナにも何となく分かる。
謝らなければ。
でなければ、この、微妙な距離は縮まらない。
そんなことになったら、キーナが一番悲しい。
キーナは大きく深呼吸する。

「あの…、テル…?」

呼ばれて、テルディアスが顔を向ける。キーナの背中が見えた。

「その…、ゴメンね」

モジモジと、こちらに振り向く。

「あの、…その、え…と…」

モジモジと、手に持った小さな小枝を弄ぶ。
そして一声。

「む、虫の居所が悪かったの!」

作者ずっこけた。
え?そんな言い訳でいいの?

「だ、だから、その…、変な行動取ったりしたけど…」

モジモジモジモジ

「き、嫌いになったわけじゃないよ?」

ずっと落としていた視線を上げる。
ちょっと泣きそうな顔、潤んだ瞳。そしてちょっぴり頬が赤い。
テルディアス、一瞬全ての表情が抜け落ち、それまでに集めた小枝を、手から全て滑り落とした。
カランカランと音が響く。
キーナは何だか気まずくて、また手元を見てモジモジ。

「その、ね。テルを、傷つけるつもりじゃなくて…ね」

なんとか分かって貰おうと、言葉を紡いでいた所に、頭にポシッとテルディアスの大きな手が置かれた。
テルディアス、そっぽ向いたまま、

「ああ…」

分かったからそれ以上言わなくても大丈夫だ、の意味。
キーナ、腕に隠れそうになるテルディアスの顔を、恐る恐る下から覗き込みながら、

「怒った?」
「…いや」

キーナを安心させようと、テルディアスがキーナの方へ顔を向けた。
暗くてよくは分からないが、若干赤くなっている。ことにキーナはもちろん気付いていない。
テルディアスの表情がいつもと同じことから、許してくれたのだとほっとして、

「よかったぁ」

と、へにゃりと相好を崩した。
テルディアスにとって、何時間ぶりかのキーナの笑顔だった。
破壊力抜群だった。
心臓がキュゥ~と鳴った気がした。
頭に血が上ってくる。
キーナはそんなテルディアスに気付かず、喋り続ける。

「テルをね、傷つけたんじゃないかってね、ちょっと心配してたの」

テルディアスの手が頭から顔に下りてくる。
撫でられているようで(実際そうだろう)キーナはちょっぴり気持ちいい。

「でももう大丈夫だから」

テルディアスの瞳と正面から見つめ合う。
なんだか少し、驚いているような顔をしている。

「これからは、もそっと気をつけるね」

てへ、と顔をポリポリ。
テルディアスの手がキーナの顎の下まで到達する。

「? テル?」

自然と、手に誘導され、上を向く。
テルディアスのもう片方の手が、キーナの肩を抱いた。

「キーナ…」

テルディアスの顔が近づいてきた。
何故かその瞳はギラギラしているように見えて、ちょっぴり怖いと思った。
そして風が吹いて…。





「いや~、暗いから、見つけんのに時間かかっちまったい」
「キーナちゃん!」

空から声が降ってきて、ついでにメリンダを抱いたサーガも降ってきた。
テルディアスがキーナの前から飛び上がって消えた。
キーナが振り向く。

「メリンダさん! サーガ!」

素直に無事を喜ぶ。

「良かったぁ。無事だったんだね~!」

サーガの腕から下ろされたメリンダの胸に飛び込んだ。

「アハ♡」

メリンダも嬉しそうにキーナを抱きしめた。
そして、前方に視線を向け、

「ところで…」

サーガもその方向を見つめた。

「何やってんの? テルディアスの奴…」
「さあ…?」

少し離れた大木に、テルディアスが何故か頭を打ち付けていた。
何度も、何度も、何度も…。








森の中の一夜が明け、街道をまた四人が歩いて行く。
本日はキーナとテルディアスが先に楽しそうに歩き、後ろからメリンダとサーガが並んで歩いていた。
メリンダよく眠れなかったのか、大欠伸している。
前の二人をじっと観察していたサーガが、

「姐さん」

と声を掛ける。

「あによ?」

欠伸が終わったばかりで「な」が「あ」になったメリンダが返事する。

「あの二人、もんの凄~~~~く、いい関係に見えるんだが…、俺の目が悪いんかな?」
「あんたもそう思う?!」

メリンダが速攻で反応した。
前の二人に聞こえないよう、顔を近づけボショボショボショ。

「別に恋人ってわけではないんだよな?」
「テルディアスはあんなだし、キーナちゃんは好きってことがよく分からない、って言ってたわ」
「とすると…」

チラリと前の二人を見る。

「俺の入る余地もまだある?」

メリンダがサーガの胸元を掴み上げる。

「キーナちゃんに手を出したら…」

鬼のような形相になってますが…。

「ちょ! 待って! たんま!」

まだ何もしてないのに殴られたくない。
というかすでに一回殴られてるし…。結構痛いんだな、あれが。

「俺から、キーナ、はダメなんだろ?」
「あん?」
「じゃ、キーナから、俺、は?」

つまり、サーガがキーナに手を出すのはダメだけれども、もしもキーナがサーガに擦り寄ってくるようなことがあったらば…。

「ありえないわね」

きっぱりさっぱりすっぱり言い切った。
どう考えてもそんな光景浮かばない。

「ぐ…」

あまりのきっぱりさっぱりすっぱりぶりに、ちょっと傷ついたサーガ。

「もし、ありえたら、もちろん、大丈夫だよな?」

と、一応念を押す。
するとメリンダ、嘲るような蔑むような哀れむような、万が一にも不可能、とんだ奇跡が起こらなければ絶対に無理、というようなものすごい顔をして、

「ま~、頑張ってみれば~~?」

とクスクス。

「わー。すっげームカつくその顔」

そしてまた言い合いが始まった。







前を歩くキーナとテルディアス。
またもや起きた二人の喧嘩?じゃれ合い?に顔を向けると、

「仲良いね~」

とのんきなキーナ。

「…そだな」

あれを仲がいいと言って良いのだろうかとも思うテルディアス。
微妙な返事。







一通り言い合いが終わると、また前の二人が気になる。

「しっかしよぉ。あの、テルディアスのなんとも言えない幸せそうな顔…」

キーナ相手ではなければ、絶対に見せない穏やかな顔。
多分本人気付いてない。

「ぶち壊したくなるよな~」
「あんたもそう思う?!」

またもやメリンダ速攻で反応した。
一呼吸の間、二人がお互いの顔を見合わせた。
そして、にた…、と笑い合う。
怪しい。







後ろがなんだか静かになって、キーナが振り向くと、何やら二人でボショボショと相談している。

「ホント、仲良いね~」

とのんきな感想。

「…そ…うだな…」

先程とは違った何かを感じ、煮え切らない返事のテルディアス。
気にしないようにして、前を向いて歩く。






後ろの二人が、相談事が終わったのか、顔を離した。
にたあ…
と怪しげな笑みを浮かべ、前を歩く背の高い男を見つめる。






テルディアス、何故か寒気を感じて、ゾクッとなった。

「どしたの?」
「…悪寒が?」

体調が悪いわけでもないのに、何故悪寒?
首を傾げるテルディアスの後方で、二人が街に着いたら飲もうなどと、談笑しているのが聞こえた。

(悪寒が…?)

テルディアスは消え去る事のないおかしな悪寒を感じながら、そのまま歩いて行った。


この時、テルディアスにとって、このうえなく傍迷惑な同盟が組まれた事など、当のテルディアスは、知る由もなかった。
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