キーナの魔法

小笠原慎二

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港町編

平和な一日

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サーガが言った。

「光の御子っつったらよ~、この世で一番にいい女ってことだろ? となると男としてはだな~、やっぱし一回やってみたいと思…」

ガッコーン…

「空の果てまで飛んで行け――――!!」

メリンダの綺麗なフルスイングが決まった。

あ~れ~…

と声を残しながら、サーガが空の彼方に消えていった。
振り切った後の棒を肩に担ぎ、手を額に当て、サーガが消えていった空を見上げる。

「お~。よく飛んだ飛んだ♪」

前を歩いていた二人は、突然の奇行に言葉もない。
棒を道ばたに捨てたメリンダが、二人に追いついてくる。

「何かあったの?」

キーナの素朴な疑問。

「んふ。ちょっとね」

多くは語らないメリンダ。いや、語れない、か?

(大体想像はつく…)

相変わらずキーナ以外には、愛想も言葉も少ないテルディアス。
まあ、今回は言葉に出せないという事で、メリンダも納得。










なだらかな丘の頂上に三人がたどり着くと、その先に広がる景色が一望できた。

「うわあ。港町だ!」

大きな帆船が2隻泊まっているのも見える。
どうやらここは交易が盛んな所らしい。
街も入り組んでいて、とても立派な街並みだった。


空の彼方から復活してきたサーガが地図を広げる。

「次の宿場町まで結構あるみたいだぜ」

お金はかかるが、安全と、キーナ達女性陣の体調を鑑みて、できるだけ宿に泊まる事にしている。

「じゃ、今日の宿はこの街ね」
「だな」
「ああ」

………。

返事が一つ足りない。
そこに、テルディアスの側に居るはずの、一番小さな人影が、いつの間にか消えていた。

「キーナ?!」
「キーナちゃん?!」

慌てて三者三様に振り向くが、キーナの姿を捉える事はできなかった。

「いつの間に、どこに消えたんだ…?」

風、気配を読むのに得意なサーガの感知さえもすり抜けるとは…。

(あいつは~~!!)

危ない目に何度かあっているはずなのに、ちょっと目を離すとすぐにどこかへ消えてしまうあの学習能力があるのか疑わしい少女を思い浮かべ、テルディアスがギリギリと歯噛みする。

「とにかく探しましょ。テルディアス」
「ああ」

テルディアスの双子石(最初に買っておいて本当に良かったと胸を撫で下ろしている)を頼りに、キーナを探す。
テルディアスが双子石に集中する。
共鳴音が聞こえてくる。

「こっちだ」

スタスタと通りを歩き出す。
と、音が違う方から聞こえ出す。

「いや、こっちか」

ズカズカと通りを歩き過ぎる。
と、またもや音が違う方向から聞こえ出す。

「いやこっちだ」

ドカドカと通りを進んで行く。
と、またもや音が別の方向から聞こえ始め…。

「動き回り過ぎだ! あいつは!」

いい加減我慢のできなくなったテルディアスが、道端で叫んだ。
目の前にいた通行人が、何事かとビックリして、思わず後退った。
いい迷惑だ。

「キーナらしい…」

神出鬼没、という言葉がサーガの頭に浮かんだ。

(あたしと会った時も、こういう状況だったのね…)

メリンダと初めて会った時のテルディアスも、なんだかあちこちをキョロキョロ見回しながら、足早に進んでいたものだった。
今だからこそ、テルディアスの苦労が少し分かるメリンダだった。













港の桟橋辺りに、小さな人影。
海を覗き込み、丸くなって座っている。
じぃ~っと波間を見つめていたが、

「クラゲみたいのがいる…」

と言ってにまりと笑った。
海はキーナも大好きだ。
すくっと立ち上がると、ルンルンとスキップをしながらその場を離れて行く。

「う~み~は~ひろい~な~、おっきぃ~なぁ~」

お馴染みの歌を歌いながら、ルンルンと進んで行くと、漁師船らしき物が並んでいる所に出た。

「およ?」

その内の一つの船に、人影が動いていた。
臆する事なく、キーナはその船に近づいていった。

「こんちわー。いっぱい獲れた~?」

と船に向かって声をかけると、いかにも海の男然とした、いかついおやじが顔を覗かせた。

「わっはっは。籠の中見てみな!」

陸に上げられていた、籠の中を見ると、いろんな魚がピチピチと跳ねていた。

「わ~! お魚たくさ~ん!」

とキーナが目を輝かせる。

「なんだ? 魚好きなのか? ボウズ」

キーナずっこけた。

「え? 嬢ちゃん?」

おやじさんが半笑いの笑みを浮かべた。

「お魚好きだよ! フライも刺身も!」

もちろん泳いでいる姿も!
そんなキーナに気をよくしたのか、

「そーかそーか、んじゃ、お詫びにコレをやろう」

となにやらゴソゴソ。

「ほれ、食ってみな」

とキーナの目の前に、なにやら貝類を差し出してきた。

「ホヨ?」

生で食う=カキ
という図式の出来上がっていたキーナが、

(カキかしら?)

と、そのまま口に運ぶ。
カキ自体も食べた事はないのだけれど(作者も)。
ぷるんとした貝の身が、舌の上に滑り込む。
途端に広がる海の味と匂い。
その食感もふわふわでコリコリで、味わい深い。
噛めば噛むほどに味が染み出てきて…。

「おいっひ~~~~」

とキーナが幸せの雄叫びを上げた。

「だろう? ハハハハ!」

キーナの幸せな悲鳴を聞いて、いっそう機嫌をよくするおやじさん。

「獲れ立ては味が違うだろう?」

獲れ立ては漁師の特権です。

「うん~、こんなにおいひーの食べたの初めて~~」

あまりの美味しさの幸せにまみれて、キーナの顔が崩れまくっている。
その背後に、

「キィーナァ…」

ずぬぬぬぬん

と怒り爆発寸前の暗いオーラを背にしょって、テルディアスが立った。
ギクリとキーナの顔が引きつる。

「人にさんざん探し回らせといて! お前という奴は!」
「にゃ~ん、ごめんなさ~い」

お説教タイム強制突入イベントであったか。
テルディアスがガミガミと怒る中、その後ろでほっと息をつくメリンダとサーガ。

「あ~、でも良かった。もしかして人攫いにって、気が気じゃなかったんだから」
「ごめんにゃ…」

さすがに殊勝な態度で謝るキーナ。

「これでやっと宿を探せるな~」

キーナを探しにあちこちうろうろしていたもので、まだ宿も見つけていない。
と、

「お? あんたら宿を探してるのか?」

と海のおやじが話しかけて来た。

「そーでーす」

キーナが元気に手を上げる。

「なら安くて美味い飯の食える宿を紹介してやるよ!」

とニコニコのおやじ。

「わーい」

と無邪気に喜ぶキーナ、だったが。

「うぴ?」

テルディアスの視線がキーナに突き刺さってきて、さすがのキーナもなんとなくいたたまれなかった。

「にへ」

と笑って誤魔化しても、テルディアスには効かなかった。
その笑顔に釣れたのは、

(さすがキーナちゃん♡)

とキーナを溺愛しているメリンダだけだった。













なんだかんだ(キーナのせいで)手間取りながらも、そこそこ良い宿屋に泊まれることになった。
これはキーナの手柄なんだろうか?
まあ、つまりは、あのおやじの宿屋だったというわけなんだけれども。
女将さんが、獲れ立ての魚を見事な手つきで捌き、綺麗にお皿に盛り付け、それを子供と運んできた。

「うほ~」
「すげ~」

普段獲れ立ての魚など口にしない一行には、かなり珍しい料理である。

「獲れ立てのササゴの造りと、アジのハラミ巻き煮だよ! たんと食べておくれよ!」

女将さんがご飯のお代わりもあるからねと、一言添えて、厨房へ戻っていく。
早速頂く一行。
久しぶりの刺身に、下を唸らせるキーナ。
この世界に来て、刺身なんて初めてでないかい?
あまりの美味しさに、言葉少なに平らげていく一行。
そんな所に、宿屋の少年がぴょこんとテーブルを覗いてきた。

「うめぇか? 兄ちゃん達」

キーナの目が据わる。

「え? 姉ちゃん?」

それ以上はどちらも追求しなかった。

「父ちゃんが獲ってきた魚を、母ちゃんが料理してんだ! うまいに決まってるさ!」
「うん! すごくおいしいよ!」
「おいら、父ちゃんみたいな漁師になんのが夢なんだ! んで美味い魚いっぱい獲ってくんだ!」
「うわ~、そしたら僕に食べさせてね!」
「いいぞ! 半額サービスで食わしたる!」
「コラ! ジョーイ! お客さんの邪魔しないの!」
「ぴゃ!」

女将さんの雷に驚き、少年があたふたと逃げていった。
その後ろ姿を、キーナ達は微笑ましく見送った。














「あ~、美味しかったね~」
「そうだな…」

少しの間。
テルディアスがベッドに座り込んだまま、頭を抱える。
そして疑問を口にする。

「で? 何故俺の部屋にいる?」
「にゅ?」

寝る支度を済ませ、つまり寝間着姿で、テルディアスの部屋に押しかけてきたキーナ。
そして、この街の寝間着はまた際どい。
南の地で暖かいせいか、ノースリーブのワンピース、裾は膝上というより、股下で計った方が早いのではないかというくらいの短い丈。

テルディアスはなるべく視線を下に向けないように気をつけていた。

窓に肘をつけ、キーナが答える。

「メリンダさん、サーガと飲みに行っちゃった。僕飲めないから暇だし」

メリンダ、サーガと連れだって、大人の会話、もとい、今後の対策について話し合いに出かけた。
さすがにそこにキーナは連れて行けないので、テルディアスの部屋にでも行ってて~、という言葉に、忠実に従っている。

「そろそろ帰ってくるだろう。部屋に戻れ」
「え―――――――――!」
「え――――じゃない!」
「つまんないよう! 遊ぼうよう!」
「やかましい!」

ぶー垂れるキーナを絶対に相手するものかと、目を合わさないテルディアス。

「ね~い、いいじゃ~ん」

キーナが膝の上に擦り寄ってきた。
その柔らかさと温もりに一瞬ギクリとなるテルディアス。
しかし、キーナをなんとか引っぺがす。

「お前は猫か!」
「ミイ」

鳴き真似してもだめだ。
テルディアスの腕を器用に逃れ、窓から外を眺めるキーナ。

「海の香りがするね~」

テルディアス、キーナの相手することに疲れを感じる。

ふわりと、海風が部屋に入ってきた。
ふわりと、テルディアスの顔を風が撫でた。
ふわりと、キーナの顔にも風が通り過ぎる。
そして、あるはずがないのに、ふわりと、風がキーナの長い髪をなびかせるのが、テルディアスの目に映った。

見知ったはずのキーナの横顔が、遠くを見る瞳が、不思議な美しさを秘めている気がした。

何故、この少女は、髪が長くなるだけで、こんなにも印象が変わってしまうのだろう…。

そんなことをぼんやりと考えた。

「お? 漁り火?」

キーナの言葉にはっとなる。
自分は今一体何を見ていたのだろう…。
きっと疲れているんだ。そーだそーに違いない。
でなければ、あんな幻など見るはずがない。
自分で自分を納得させる。

「も、戻れ…。とにかく戻れ…」

これ以上この少女の側にいたくない。その姿を見ていたくない。

「うえ~?」

キーナが不満の声を漏らす。

「もちょっとだけ。メリンダさん帰ってくるまで♡」

などと膝に甘えてくるが、

「戻れったら戻れ!」

問答無用。
途端に、しゅんとなるキーナ。
傷ついたようなしょぼくれた顔。

「一人…、やなんだもん…。寂しいから…」
「ぐ…」

そう言われると、テルディアスも弱い。
キーナが何気に寂しがり屋だということは、よく分かっている。
こいつは…と心の中で悪態をつく。
とりあえず妥協することにする。

「分かった…。俺の側に寄るな…」

一緒には居てやっても良いが、くっつくのはお断りだ。

「なんで?」

アホな質問を純粋に投げかけてくるキーナ。
テルディアスに答える術はない。

「なんでもだ!」

力ずくでねじ伏せる。

「ふに?」

通じない奴がここに…。

「じゃ、くっつくー!」

とテルディアスの背にドーン!

「ギャ―――!!」

悲鳴を上げるテルディアス。あれ、今、朝じゃないよね?

「お前は――――!!」

と枕を持って応戦。

「ニャホ♪」

楽しそうにキーナは逃げ出した。















ゼイコラゼイコラと息をつくテルディアス。
キーナの相手はとても疲れるようだ。

「キーナ…、いい加減に…」

もうメリンダも戻ってくるだろうから部屋に戻れと、振り向いたその視線の先に、

「すや~」

眠りこけるキーナの姿。

「寝たのか…」

寝てますね。

「というか…、自分のベッドで寝ろ…」

ここはテルディアスの部屋、そして、キーナが寝ているのはもちろん、テルディアスのベッドでした。
ご苦労さん。















マントとフードを被り直し、キーナを持って、部屋を移動する。
二つあるベッドのうちの一つに、キーナを横たわらせる。

「まったく…」

やれやれと溜息をつく。
本当にまったくだ。
キーナはムニャムニャと、目を覚ます様子もなく眠っている。
その寝顔は本当に平和そうで…。

顔にかかった髪を、少し手で払ってやる。
触れた頬が柔らかかった。
無防備に眠るその姿に、なんだか気が抜けていくテルディアス。
先程までのドタバタ劇はなんだったのだろう。

「まったく…」

もう一度軽く溜息をつくと、掛け布団を手にし、キーナへとかけてやろうと、布団を上に引いた。

バターン!

「たっだいま~、キーナちゃ~ん!」

元気よくメリンダが帰って来た。
テルディアスとメリンダの動きが止まる。
サーガも、おかしな空気を感じ取り、足を止めた。

部屋を覗き込むと、布団を手にしているテルディアス。
その格好は、布団をはいでいるようにも見え…。

「テ、テルディアス…、ま、まさか…、よ、よば…」
「ち、違…!」
「夜這い――――?!」
「違―――――――う!!」

キーナはスヤスヤと、とても平和そうに眠っていた。
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