キーナの魔法

小笠原慎二

文字の大きさ
119 / 296
港町編

人の波

しおりを挟む
小さい宿屋なので、おやじさん、女将さん、息子のジョーイと勢揃いで、キーナ達をお見送り。

「じゃな! 姉ちゃん!」

ジョーイが手を振って見送る。

「ちっちっち、そういう時はね、またねって言うのよ!」

キーナが偉そうにジョーイに指導。

「またね?」
「さよならはもう会えない時に。またねはまた会おうねって約束なのだよ」

つまりまた泊まりに来てねと安易に含ませると。

「まるほど! そっか!」

小さい宿屋ならばこそ、リピーターは大歓迎であろう。

「じゃ、またな! 姉ちゃん!」
「うん! 魚料理楽しみにしてるよ!」

拳と拳を付き合わせ、キーナは少年と再会の約束。

「またなー!」

キーナ達の姿が見えなくなるまで、ジョーイは手を振っていた。

「ワッヒャッヒャッヒャ~イ。次来た時も美味しいお魚料理食べられるん」

また来る事確定なのか。

(食べる事ばかりだな…)

こいつはまだ色気より食い気だなとサーガ心で呟く。

「良かったわねキーナちゃん」
「うん!」

満面の笑顔でメリンダに答え、一行は街を進んで行く。
そのまま綺麗な街並みを過ぎて、街の外へと出るつもりであった。
ところが。

プオ~、プオ~

「んにゃ?」
「お?」

ホラ貝のような音が鳴り響いた。
そしてあちこちで声が上がり出す。

「海賊だ―! 海賊が来たぞ―! みんな逃げろ―!!」

陸に滅多にやってこないはずの海賊が乗り込んできたらしい。
しかもすでに海上は突破され、港に乗り込んで来ているらしいと話が飛び交う。

「こりゃあ、巻き込まれる前に逃げた方がいいな」
「そうね。行きましょう」

街をぐるりと囲む壁から外へ出るには、門を通らねばならない。そこに人が殺到するだろう。
その波に巻き込まれても、たまったものじゃない。

「え、でも、街の人達助けなきゃ…」

一応自分は光の御子であるし、力もあるし、こういう時はお話しの展開上、街の有力者などと協力して街を守らねばならないのでは?とも考えるけれども。

「んなこと言える立場か!」

サーガが一喝した。

「てめーの身も守れねー奴の吐く台詞じゃねーだろ!」
「う…」

それを言われると…。
今まで戦いはテルディアス任せ。危ない目にあうとテルディアスに助けてもらってばかりで…。

「俺とテルディアスはともかく、お前と姐さんは実践慣れしてねーだろ! いくら強い力持ってても、戦い慣れしてねー奴は足手まといなんだよ!」
「うう…」

知識という力を持っていても、それを実際に使った経験がなければ、何も身についていないのと同じだ。

例えば、水泳について、泳ぎ方をいくら口で説明されて分かった気になっても、実際に水の中に入ってみたら、聞いた通りにはまったく動けないのと同じである。
作者も平泳ぎを習得するのに、かなり時間がかかったっけ…。
それは置いといて。

「それに、こういう所だ。そういうことも想定して造ってあんだろ」

街が入り組んだ造りになっているのも、防壁の意味を兼ねているのかもしれない。

「そうそう。警備隊とかだっているわよ!」

海に面している大きな街などでは、沿岸警備隊などがあるのが普通だろう。

「そか」

考えてみればそうだろうとキーナ納得。
折角力があるのに役に立てない事にちょっとがっかりではあるけれど。

「んじゃ、急ごうぜ」

サーガを先頭に、メリンダ、キーナ、テルディアスの順で走り出す。
キーナ達が揉めている間に、街中の人達も避難を進めていたらしく、門までの道が人で溢れてきていた。

「街の出口が門一つとはね…。何考えてんだ」

今までに襲われた事がなかったのだろうか?

「はぐれるなよ」
「うん」

ともすれば、すぐに目の前から消える少女に、テルディアスが念を押す。
さすがにキーナも横道に逸れる気はなさそうだ。
人が混み合って来る。

ドン

「わ!」

比較的背の低いキーナが、横の人に押されてふらつく。

「キーナ…」

その体を支えようと腕を伸ばすが、後ろから来た女性がそれを押しのけて前に出る。

「およ?」

その女性にさらに押され、キーナとテルディアスの距離が空く。
テルディアスが女性を押しのけ、キーナとの距離を縮めようとするが、体が小さければ体重も軽いキーナは、後ろから横から押され、何故かどんどんテルディアスと反対の方向へ流されていく。

「キーナ!」

腕を伸ばして掴む事もできない。

「キーナちゃん?!」

後ろの惨状に気付いたメリンダが声を上げた。

「キーナ?!」

メリンダの声に振り向いたサーガが、キーナの姿が消えている事に気付いた。
だが人の波はどんどん多くなっていき、三人もお互いの姿を捉えるのが難しくなっていった。

「キーナ!!」

必死に人の波を掻き分け、キーナの元へ行こうとするも、縦に移動する人の波を横に移動するのは至難の業だ。

「テル! メリンダさん! サーガ!」

最早姿が見えなくなってしまった三人の名を呼ぶが、それも人の波に揉まれていった。

















押されて揉まれて踏んづけられて。
まさにもみくちゃという言葉がぴったりな状況を、キーナがしこたま踏ん張って耐えていると、

「わわっ!!」

突然人の壁がなくなり、空間に放り出される。

べしゃ

「ぎゃふん!」

狭い路地に押し出されたキーナが、しこたま尻餅をついて転がった。

「あいたたた…。お尻が…」

いくら贅肉が体のどこよりも付いているからと言っても、しこたまぶつければ痛いものは痛い。
尻をさすりながら顔を上げると、ラッシュアワーかと思える程の人の波、いや壁?

「通勤ラッシュ並に凄い…」

キーナはまだ学生なので、通勤ラッシュは体験した事はないが、テレビなどで見た事がある、通勤ラッシュ時の映像が、目の前で繰り広げられていた。
いや、それよりも凄い?

「でも、なんとかしてテル達と合流しないと!」

と勇敢にも立ち上がり、ふんと腹に力を込める。

「秘技、駆け込み乗車―!!」

訳の分からん気合いの言葉を唱え、キーナ、果敢にも人の波、壁に向かって突っ込んだ。
ところが。

どべっ

「うわっ」

上手く乗れず、人の壁に押し返される。

べしゃ

「ふぎゃん!」

またまた同じように地面に尻餅をついて転がった。

「失敗…」

同じ所をぶつけ、痛みが二倍になってしまい、尻をさする。
痛いの痛いの飛んでけ~。
皆さんも、無理な駆け込み乗車は危ないのでやめましょうね。

「この人の波に乗るのは、至難の業だな~」

通勤ラッシュ経験のないキーナには難しい所業であった。

「お、そーだ!」

キーナの頭の中で電球が煌めく。古い表現方法だ。

(裏道から抜けていけば行けるのでは?)

と考える。
大概、大きな通りに平行して、裏通りなどが敷かれていたりするものだ。

「うん! とりあえず、行ってみよう!」

と痛む尻をさすりながら、すっくと立ち上がる。
そして、人の波溢れる通りに背を向けて、路地を走り出した。














この街はかなり入り組んだ造りになっている。
裏通りが敷かれているのであれば、そこも人でいっぱい、もしくは、そこへ向かって人が押し寄せているはずである。
しかし、人はこの通りに集まっている…。
以上から考えられることは…。














「キーナちゃん! キーナちゃん!」

押し流されようとする流れに逆らいながら、メリンダがキーナの姿を探す。
その腕を誰かの手が掴んだ。
メリンダがその手の先を見る。

「姐さんっ!」

この人の波を後退してきたのか、サーガだった。

「キーナは?!」
「あたしも、はぐれて…」
「くそっ! テルディアスと一緒に居りゃいいが…」

一番手がかかって、一番心配な奴が行方不明。
一応頼りになる男が側に居たはずだが…。

「キーナちゃん…」

サーガが小さく風の結界でも張ったのか、二人が人の波に押される力が弱くなった。
メリンダが人の波に目を凝らすが、あの小さな姿は捉える事ができなかった。












「キーナ! キーナ!!」

名を呼ぶが、答える声はない。
周りの音に掻き消され、テルディアスの声も遠くまで届かない。
人の波を掻き分けて進もうにも、人が密集しすぎて、間を縫う事もできない。

(くそっ! 進めない!)

テルディアスはなんとか人の間を進もうと、もがく。













テテテッ
裏通りを走るキーナ。

「あり? なんか変だなぁ。人が少なくなってきた…」

大きな道に突き当たるだろうと、適当に曲がり角を曲がってきたのだが、何故かどんどん人が少なくなってきている気がする。
まるで、避難する人達と逆の方向に進んでいるよう。

「こっちじゃないのかなぁ…」

立ち止まってしばしう~んと考えるが、

「試しにこっちに行ってみよう!」

と、さらに曲がり角を曲がって行ってしまった。

そしてどんどんテルディアス達と距離が開いていく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...