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港町編
弾けた力
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光が弾けた。
ゾクッ
テルディアス、サーガ、メリンダの背筋を、言いようのない悪寒が走った。
目の前の建物の間から、光のドームが見えた。
先ほどまでは無かった物。
そして、その方向を、双子石は指し示している。
「あれは…?」
(光…? キーナか?)
ドームは凄い早さで、どんどん大きくなっていく。
はっきり言って、目の前に見える物から背を向けて逃げ出したかった。
しかし、キーナを迎えに行かなければならない。
テルディアスは足に力を入れ、地を蹴った。
光の方へ。キーナの方へ。
自分が行かなければならないのだと言い聞かせながら。
(今のは…?)
悪寒のする方へ顔を向けると、光のドームが見えた。
(それに、あの光…)
突如現われた光のドーム。嫌な予感が背筋を走る。
そんなメリンダの腕をガシリと掴む者。
「逃げるぞ! 姐さん!」
サーガが怖い顔して風を集め出す。
「な、ちょ、ちょっと待ってよ!」
まだキーナがと言う前に、
「感じなかったのか?! 今の!!」
サーガが怒鳴り返す。
「か、感じたわ! 感じたけど…」
メリンダが言い終える前に、風が舞った。
「きゃ!」
風が二人を包み込み、空へと持ち上げる。
そのまま勢いよく、建物の上を飛んで逃げ出した。
「まってサーガ! まだ…! まだ、キーナちゃんが…!」
「分かってる! だが今は…! あれから逃げねーと!」
メリンダが振り向くと、光のドームは先程よりも大きくなっている。
そしてその膨らみはまだまだ終わらないようで、周りの建物を巻き込みながら、どんどん大きくなっていく。
(あれは…何?!)
その正体は分からないが、とてつもなくやばい物だということは、何故か肌で感じていた。
いくつかの曲がり角を曲がり、光の方へ光の方へと走って行く。
そしてその曲がり角を曲がった時、目の前に、光のドームが迫ってきていた。
はっきり言って逃げ出したい。
回れ右して絶対に安全と思える所まで走り抜けたい。
だが、この中にキーナがいるとするならば、そんなわけにはいかない。
テルディアスは腹を決め、なんとなしに左手を伸ばした。
光が迫り、左手の先から飲み込まれていく。
フオン
全身が光のドームの内側に入った。
(なんだ…? 浮遊感?)
引力は正常に働いているのに、体が浮き出しそうなおかしな感覚がする。
(どこまでも白い…空間?)
見渡してみても、今まですぐ側にあった壁さえも失くなっていた。
辺り一面、空も地上も分からない、ただただ白い空間だった。
「う…うあ…」
後ろの方からうめき声が聞こえて来た。
振り向くと、何人かの人影が見えた。
立っている者、うずくまっている者。
そこにはやはり建物も何もなく、ただ人がいた。
「あ…あ…ああ…! うああああああ!!」
いくつかの人影が悲鳴を上げる。
すると、
ボヒュッ
という音だけを残し、人影が次々と失くなっていくではないか。
(人が…消えて…?!)
その時、ピシ…パキ…という微かな音が聞こえてきた。
耳を澄ますと、どうやら腕の辺りかららしい。
なんだ?と思い、袖を捲ると、亀裂の入った腕が現われた。
「?!」
そして、顔の辺りでも、パキ…という音が鳴った。
「サーガ!」
「なんだ?!」
「早いわ! 追いつかれる!」
「くっそー!!」
サーガが全速力で飛んでいるのに、光のドームは易々と追いついてきた。
もう少しで街壁を飛び越えられるというのに。
そして、光のドームは、二人も飲み込んでいった。
辺りが一面真っ白くなる。
サーガも、風を纏っていられなくなり、二人は落ちるかのように地面へと舞い降りる。
「う…うう…」
メリンダがうめき声を上げた。
「あ…ああ…」
サーガもうめき声を上げた。
「あ…ああ! ああああああ!!」
「か…があ! ああああああ!!」
堪えきれなくなった二人が、悲鳴を上げた。
「ああ―――!!」
「うあ―――!!」
メリンダの体から、火の力が噴き出した。
サーガの体から、風の力が湧き出した。
二人は溢れる力を押さえることができず、ただ悲鳴を上げ続ける。
光の中心へとテルディアスが走る。
双子石がその音を鳴らし、片割れがそこにいると告げる。
(間違いない。キーナはあそこに…)
ズキイ!!
突如、左手の先が痛んだ。
(なんだ?)
足を止め、手先を見る。
体中がピシピシ…、パキパキ…という音に包まれている。
左手の手袋を取ってみた。
「!」
左手の先、中指の先端が、肌色になっている。
ズキイ!!
「ぐ…」
その部分が痛みを発していた。
(呪いの解ける痛み? いや、呪いが解けた場所が痛んでいる…?)
ズキイ!!
「く…!」
顔が突如痛み始めた。
おでこの辺りがほんのちょっぴり。
しかも、ただ痛いのではない。
激痛だ。
ある程度の痛みには耐えられるとは言っても、この痛みが体中に広がれば…。
(このままだといずれ痛みで動けなくなる…!)
テルディアスが今まで以上に足を動かし始めた。
(キーナ!)
とにかく、キーナの元へ行かなければならないのだ。
「あああああああ!!」
「うああああああ!!」
炎の柱と風の柱が大きく猛り狂う。
その中心部で悲鳴を上げ続ける二人。
(体が…! 力が…!)
(内側から…! 全てが…!)
(弾ける!!)
二人の体から、ミシリ…という音が聞こえ始めた。
光の中心。
光が最も強い場所で、その少女は浮かんでいた。
ぼんやりと立ちながら空を見上げるような格好で、少女は光っていた。
ズザッ
側で膝をつく者がいた。
荒い呼吸を繰り返し、頭を上げる。
その髪は黒くなっており、耳も丸くなっている。
顔もところどころ、ペンキが剥げたかのように、肌色になっていた。
ただ、その表情は苦痛に歪んでいた。
「く…」
体中から痛みが走る。
パキリ…カキリ…と音が続く。
痛みで気絶してしまいそうになる。
「キ…ナ…」
なんとか目の前の少女に向かって手を伸ばそうとするが、
パキィィン!!
顔の青緑の部分が、ガラスが割れるように剥がれ落ちた。
「うああああああ!!」
耐えきれない痛みに、テルディアスが悲鳴を上げた。
白い白い、どこまでも白い空間。
上も下も右も左も分からない、そんな白い空間。
白以外何も見えない空間に、ぽつんと座り込む人影があった。
人影の名はキーナ。
光に選ばれた特異な者。
しかし、少女は両腕で膝を抱え、そこに頭を突っ伏して、動こうとはしない。
もう… 何も見たくない…
もう… なにも感じたくない…
こんな世界…
無くなってしまえばいい…
膝を抱えて丸まったまま、キーナは何も考えないようにしていた。
と、その耳に、どこからか、何か叫んでいるような音が聞こえた気がした。
ゆっくりと顔をあげ、辺りを見回す。
誰?
誰も… いるわけないか…
そう、ここはキーナだけの世界。
誰も入っては来られない場所。
誰もいるわけがないのだ。
キーナがまたゆっくりと頭を落とす。
もうずっとここで、こうしていられれば…
もう何も、考えなくて済む…
また、何も考えないようにと、腕の中に顔を埋める。
ここでこうしていられれば、悲しい事も苦しい事も何もない。
それでいいのだ。それで…。
誰かの手が、頭を優しく撫でた。
手?
誰の?
温かい…
誰?
キーナが顔を上げた。
だが、誰もいない。
いるわけがない。
誰も…
いないよね…?
では、今の手の感触は?
なんだったのだろう?と首を捻ったその時、
「…!」
誰かが叫んだような声が聞こえた気がした。
誰?
誰か…いるの?
もう一度しっかりと辺りを見回す。
ダン!!
何かが壁を叩くような音が響いた。
音のした方向へ振り向く。
そこには、今まで誰もいなかったはずなのに、人影。
キーナと同じ顔をした少女が、長い髪を振りかざし、仕切りに何か叫んでいるようだった。
あ…
前にも2度程見た事のある少女。
名前も知らないが、何故か自分にそっくりな少女。
その少女が、何かを叫んでいるらしく、仕切りに口をパクパクと動かしている。
「え?」
キーナは立ち上がり、少女の側へ行く。
近づけば聞こえるかとも思ったのだが、厚いガラスの壁にでも遮られているのか、まったくその声は聞こえてこない。
「何? 何て言ってるの?」
キーナの言っている事が分かったのか、少女がとても悲しそうな顔をした。
悔しそうに涙を流す。
そして、キーナに見えるように、その口をゆっくりと動かし始めた。
「た」
「い」
「せ」
「つ」
「な」
「も」
「の」
「大切な、もの?」
「キーナ!」
名を呼ばれ、振り返る。
遠くの方で、
「キーナ!」
またその声がした。
「テ…ル…」
その声の主の名を思い出す。
「テルッ!!」
キーナは走り出した。
声のする方へ向かって。
その後ろ姿を、悲しそうに涙を流しながら、少女は見送っていた。
白い空間を、キーナはひたすら走り続けた。
「キ…ナ…」
激痛を堪えながら、テルディアスがキーナの肩と腕を掴む。
なんとかキーナを正気に戻さなければならないと分かってはいるのだが…。
ビキイ!!
「ぐあああああああ!!」
また全身を激痛が走り抜ける。
その時、キーナの瞳に光が戻り…
キュオ!!
広がり続けていた光のドームが、一瞬にして消え去った。
そして、髪が黒くなり、耳が丸くなり、顔の半分が肌色に戻ったテルディアスの目の前に、いつもの少女が、髪を長くし、虚ろな目をして、テルディアスをぼんやり見下ろしていた。
「テ…ル?」
キーナはそう呟くと、瞳を閉じた。
途端に、長い髪は消え、いつもの短い髪に戻り、体を纏っていた光も、消えた。
ぐらりと体が揺れる。
テルディアスがその体を両腕で優しく包み込んだ。
テルディアスの腕の中で、キーナはいつものように、眠り込んでいた。
「あ…ああ…」
「う…うう…」
力の奔流が収まり、二人がドサリと地面に倒れ込んだ。
周りに何もなくなった大地に、サーガとメリンダは転がった。
ゾクッ
テルディアス、サーガ、メリンダの背筋を、言いようのない悪寒が走った。
目の前の建物の間から、光のドームが見えた。
先ほどまでは無かった物。
そして、その方向を、双子石は指し示している。
「あれは…?」
(光…? キーナか?)
ドームは凄い早さで、どんどん大きくなっていく。
はっきり言って、目の前に見える物から背を向けて逃げ出したかった。
しかし、キーナを迎えに行かなければならない。
テルディアスは足に力を入れ、地を蹴った。
光の方へ。キーナの方へ。
自分が行かなければならないのだと言い聞かせながら。
(今のは…?)
悪寒のする方へ顔を向けると、光のドームが見えた。
(それに、あの光…)
突如現われた光のドーム。嫌な予感が背筋を走る。
そんなメリンダの腕をガシリと掴む者。
「逃げるぞ! 姐さん!」
サーガが怖い顔して風を集め出す。
「な、ちょ、ちょっと待ってよ!」
まだキーナがと言う前に、
「感じなかったのか?! 今の!!」
サーガが怒鳴り返す。
「か、感じたわ! 感じたけど…」
メリンダが言い終える前に、風が舞った。
「きゃ!」
風が二人を包み込み、空へと持ち上げる。
そのまま勢いよく、建物の上を飛んで逃げ出した。
「まってサーガ! まだ…! まだ、キーナちゃんが…!」
「分かってる! だが今は…! あれから逃げねーと!」
メリンダが振り向くと、光のドームは先程よりも大きくなっている。
そしてその膨らみはまだまだ終わらないようで、周りの建物を巻き込みながら、どんどん大きくなっていく。
(あれは…何?!)
その正体は分からないが、とてつもなくやばい物だということは、何故か肌で感じていた。
いくつかの曲がり角を曲がり、光の方へ光の方へと走って行く。
そしてその曲がり角を曲がった時、目の前に、光のドームが迫ってきていた。
はっきり言って逃げ出したい。
回れ右して絶対に安全と思える所まで走り抜けたい。
だが、この中にキーナがいるとするならば、そんなわけにはいかない。
テルディアスは腹を決め、なんとなしに左手を伸ばした。
光が迫り、左手の先から飲み込まれていく。
フオン
全身が光のドームの内側に入った。
(なんだ…? 浮遊感?)
引力は正常に働いているのに、体が浮き出しそうなおかしな感覚がする。
(どこまでも白い…空間?)
見渡してみても、今まですぐ側にあった壁さえも失くなっていた。
辺り一面、空も地上も分からない、ただただ白い空間だった。
「う…うあ…」
後ろの方からうめき声が聞こえて来た。
振り向くと、何人かの人影が見えた。
立っている者、うずくまっている者。
そこにはやはり建物も何もなく、ただ人がいた。
「あ…あ…ああ…! うああああああ!!」
いくつかの人影が悲鳴を上げる。
すると、
ボヒュッ
という音だけを残し、人影が次々と失くなっていくではないか。
(人が…消えて…?!)
その時、ピシ…パキ…という微かな音が聞こえてきた。
耳を澄ますと、どうやら腕の辺りかららしい。
なんだ?と思い、袖を捲ると、亀裂の入った腕が現われた。
「?!」
そして、顔の辺りでも、パキ…という音が鳴った。
「サーガ!」
「なんだ?!」
「早いわ! 追いつかれる!」
「くっそー!!」
サーガが全速力で飛んでいるのに、光のドームは易々と追いついてきた。
もう少しで街壁を飛び越えられるというのに。
そして、光のドームは、二人も飲み込んでいった。
辺りが一面真っ白くなる。
サーガも、風を纏っていられなくなり、二人は落ちるかのように地面へと舞い降りる。
「う…うう…」
メリンダがうめき声を上げた。
「あ…ああ…」
サーガもうめき声を上げた。
「あ…ああ! ああああああ!!」
「か…があ! ああああああ!!」
堪えきれなくなった二人が、悲鳴を上げた。
「ああ―――!!」
「うあ―――!!」
メリンダの体から、火の力が噴き出した。
サーガの体から、風の力が湧き出した。
二人は溢れる力を押さえることができず、ただ悲鳴を上げ続ける。
光の中心へとテルディアスが走る。
双子石がその音を鳴らし、片割れがそこにいると告げる。
(間違いない。キーナはあそこに…)
ズキイ!!
突如、左手の先が痛んだ。
(なんだ?)
足を止め、手先を見る。
体中がピシピシ…、パキパキ…という音に包まれている。
左手の手袋を取ってみた。
「!」
左手の先、中指の先端が、肌色になっている。
ズキイ!!
「ぐ…」
その部分が痛みを発していた。
(呪いの解ける痛み? いや、呪いが解けた場所が痛んでいる…?)
ズキイ!!
「く…!」
顔が突如痛み始めた。
おでこの辺りがほんのちょっぴり。
しかも、ただ痛いのではない。
激痛だ。
ある程度の痛みには耐えられるとは言っても、この痛みが体中に広がれば…。
(このままだといずれ痛みで動けなくなる…!)
テルディアスが今まで以上に足を動かし始めた。
(キーナ!)
とにかく、キーナの元へ行かなければならないのだ。
「あああああああ!!」
「うああああああ!!」
炎の柱と風の柱が大きく猛り狂う。
その中心部で悲鳴を上げ続ける二人。
(体が…! 力が…!)
(内側から…! 全てが…!)
(弾ける!!)
二人の体から、ミシリ…という音が聞こえ始めた。
光の中心。
光が最も強い場所で、その少女は浮かんでいた。
ぼんやりと立ちながら空を見上げるような格好で、少女は光っていた。
ズザッ
側で膝をつく者がいた。
荒い呼吸を繰り返し、頭を上げる。
その髪は黒くなっており、耳も丸くなっている。
顔もところどころ、ペンキが剥げたかのように、肌色になっていた。
ただ、その表情は苦痛に歪んでいた。
「く…」
体中から痛みが走る。
パキリ…カキリ…と音が続く。
痛みで気絶してしまいそうになる。
「キ…ナ…」
なんとか目の前の少女に向かって手を伸ばそうとするが、
パキィィン!!
顔の青緑の部分が、ガラスが割れるように剥がれ落ちた。
「うああああああ!!」
耐えきれない痛みに、テルディアスが悲鳴を上げた。
白い白い、どこまでも白い空間。
上も下も右も左も分からない、そんな白い空間。
白以外何も見えない空間に、ぽつんと座り込む人影があった。
人影の名はキーナ。
光に選ばれた特異な者。
しかし、少女は両腕で膝を抱え、そこに頭を突っ伏して、動こうとはしない。
もう… 何も見たくない…
もう… なにも感じたくない…
こんな世界…
無くなってしまえばいい…
膝を抱えて丸まったまま、キーナは何も考えないようにしていた。
と、その耳に、どこからか、何か叫んでいるような音が聞こえた気がした。
ゆっくりと顔をあげ、辺りを見回す。
誰?
誰も… いるわけないか…
そう、ここはキーナだけの世界。
誰も入っては来られない場所。
誰もいるわけがないのだ。
キーナがまたゆっくりと頭を落とす。
もうずっとここで、こうしていられれば…
もう何も、考えなくて済む…
また、何も考えないようにと、腕の中に顔を埋める。
ここでこうしていられれば、悲しい事も苦しい事も何もない。
それでいいのだ。それで…。
誰かの手が、頭を優しく撫でた。
手?
誰の?
温かい…
誰?
キーナが顔を上げた。
だが、誰もいない。
いるわけがない。
誰も…
いないよね…?
では、今の手の感触は?
なんだったのだろう?と首を捻ったその時、
「…!」
誰かが叫んだような声が聞こえた気がした。
誰?
誰か…いるの?
もう一度しっかりと辺りを見回す。
ダン!!
何かが壁を叩くような音が響いた。
音のした方向へ振り向く。
そこには、今まで誰もいなかったはずなのに、人影。
キーナと同じ顔をした少女が、長い髪を振りかざし、仕切りに何か叫んでいるようだった。
あ…
前にも2度程見た事のある少女。
名前も知らないが、何故か自分にそっくりな少女。
その少女が、何かを叫んでいるらしく、仕切りに口をパクパクと動かしている。
「え?」
キーナは立ち上がり、少女の側へ行く。
近づけば聞こえるかとも思ったのだが、厚いガラスの壁にでも遮られているのか、まったくその声は聞こえてこない。
「何? 何て言ってるの?」
キーナの言っている事が分かったのか、少女がとても悲しそうな顔をした。
悔しそうに涙を流す。
そして、キーナに見えるように、その口をゆっくりと動かし始めた。
「た」
「い」
「せ」
「つ」
「な」
「も」
「の」
「大切な、もの?」
「キーナ!」
名を呼ばれ、振り返る。
遠くの方で、
「キーナ!」
またその声がした。
「テ…ル…」
その声の主の名を思い出す。
「テルッ!!」
キーナは走り出した。
声のする方へ向かって。
その後ろ姿を、悲しそうに涙を流しながら、少女は見送っていた。
白い空間を、キーナはひたすら走り続けた。
「キ…ナ…」
激痛を堪えながら、テルディアスがキーナの肩と腕を掴む。
なんとかキーナを正気に戻さなければならないと分かってはいるのだが…。
ビキイ!!
「ぐあああああああ!!」
また全身を激痛が走り抜ける。
その時、キーナの瞳に光が戻り…
キュオ!!
広がり続けていた光のドームが、一瞬にして消え去った。
そして、髪が黒くなり、耳が丸くなり、顔の半分が肌色に戻ったテルディアスの目の前に、いつもの少女が、髪を長くし、虚ろな目をして、テルディアスをぼんやり見下ろしていた。
「テ…ル?」
キーナはそう呟くと、瞳を閉じた。
途端に、長い髪は消え、いつもの短い髪に戻り、体を纏っていた光も、消えた。
ぐらりと体が揺れる。
テルディアスがその体を両腕で優しく包み込んだ。
テルディアスの腕の中で、キーナはいつものように、眠り込んでいた。
「あ…ああ…」
「う…うう…」
力の奔流が収まり、二人がドサリと地面に倒れ込んだ。
周りに何もなくなった大地に、サーガとメリンダは転がった。
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