キーナの魔法

小笠原慎二

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光の宮再び

自問自答

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何もなくなった港に、波が打ち付ける。
天頂を過ぎた太陽が傾いていく。
何もなくなった大地以外、何もかもいつも通りだ。
体力の回復をはかる為に、軽く眠っていたメリンダが、目を開けた。
のそりと、洞から出てくるテルディアスの姿が目に入った。

「テルディアス」

メリンダが体を起こす。

「キーナちゃんの様子は?」
「大分落ち着いた。軽く寝るから、一人にしてくれと」
「そう…」

サーガが用意した焚き火の側に腰を下ろす。
メリンダも火の側に寄った。
三人で焚き火を囲むような格好になった。

「まあ…、無理もないだろ」

火を見つめながら、サーガが呟いた。
そのまま、誰も言葉を発する事もなく、ただ時折、パチリと炎が音を立てる。

「そういえばテルディアス、あんたが助かったのって、やっぱ…、その呪いのおかげ?」

メリンダがチラリとテルディアスを見た。

「ああ…、そうみたいだな…」
「あたし達が助かったのは、多分…、精霊の加護のおかげ…」

あの時、風の力が、火の力が、体中を駆け巡っていた。
テルディアスの証言によれば、なんの力も持たない普通の人間は、すぐに消えてしまったということだ。
他の人間達が全て消え去った中、テルディアスが存在しているのはやはり…。

「皮肉なものね。呪いに助けられるなんて…」

テルディアスが自分の腕を見る。
呪いが解けかかった、痛みの激しかった腕。

「あの中で、呪いが解けかけた」

テルディアスの言葉に、メリンダとサーガが目を見張った。

洞の中でボンヤリと外の声を聞いていたキーナも、目を見開いた。

「だが、もし、あの中で、この呪いが完全に解けていたら…、俺も今頃、他の人間達と同じように…、消えてしまっていたかもしれない…」

キーナの顔から血の気が引いていく。
薄ボンヤリと、あの白い空間の事を思い出す。
自分と同じ顔をした少女が、必死に自分に向かって何かを叫んでいた。
唯一読み取れた唇の形、

『た・い・せ・つ・な・も・の』

あれはこのことを言っていたのだろうか…。

(もし…もし…あの時…、あの人が現われていなかったら…、僕は…?!)

両手で顔を覆う。

(テル達さえ消してしまっていたかもしれない…?!)

あのまま正気に戻る事がなければ、テルディアスの呪いも全て解け、そして消えてしまっていたかもしれない。
あのまま正気に戻る事がなければ、サーガもメリンダも、全ての力を放出し、消えてしまっていたかもしれない。
そしてそのまま、世界を、全てを飲み込んでしまったかもしれない。

(僕…、僕…)

キーナは震えた。
自分の恐ろしさに。

(自分が怖い…。どうして…、どうして僕が光の御子なんかに…?)

どうしてどうしてと、同じ疑問が頭の中をぐるぐる回る。
自分にそんな資格があるのか。
何故自分なのか。
絶望的な気分でキーナは自問自答を繰り返す。


力の制御もできず…
のらりくらりと旅をして…
いつの日にか運命の人に出会えれば良いって…
そんな…そんな甘い考えていたから…
こんな…こんなことに…










メリンダがふと顔を上げた。

「キーナちゃん?!」
「え?」
「なんだと?!」

一斉に洞に向かって顔を向ける。
洞からキーナが這い出してきていた。
テルディアスが立ち上がり、近づく。

「キーナ、どうした?」

落ち着いたと思っていたのだが、まだダメだったのだろうかと心配するが、

「トイレ」
「ああ…」

踏み込めない一言で突き放された。

「キーナちゃん…」

心配そうなメリンダの顔を見るに見れず、キーナは森の奥へと向かった。
無論、見えない所を探す為です。
一人にしておくのは心配ではあったが、生理現象を止めるわけにも行かず、テルディアスもメリンダも、その後ろ姿を心配そうに眺めるしかできなかった。

サーガはいつものように寝転がりながら、密かに、気付かれないように、風の守りをキーナに纏わせた。
万が一何かがあっても、これで最悪のことにはならないはずである。

森の奥に消えていくキーナの背を見ながら、テルディアスはその視線をなかなか外す事ができなかった。
でも外してあげてね。のぞきになるから。












木立の間を縫って行く。
もう少ししたら、テルディアス達の姿も見えなくなるだろう。
のろのろと歩きながら、キーナはもやもやと考える。

どうして…どうして…どうして…と。

自分さえいなければ。
自分が御子でなければ。
自分がこの世界にこなければ…。

ぐるぐると、ああだったらば、こうだったらばと、同じ事を同じように考える。
そうすれば、あの街も、あの街の人々も消えることはなかったのに…と。
ぐるぐると、ぐるぐると。

チラリと後ろを振り返る。
もうテルディアス達の姿は、木立の間にほぼ隠れてしまい、頑張って頭を動かさないと見えない位置まで来ている。
トイレを済ますならば、まあまあ最適な位置であろう。
だが、キーナはそこでもふらりと考える。

(もう、このまま…、いっそ、このまま…)

森の奥へ歩んで行ってしまった方がいいのかもしれない。
そうすれば、あの三人だけでも巻き添えにしないで済む。
もとより、自分はこんな所にいていい存在ではないのかもしれない。
そんな投げやりな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消える。
キーナの足が、更に奥へ向かおうとしたその時、

「お迎えに上がりました。御子様」

暗く立ち並ぶ木立の間から、声が掛けられた。
声の方へ顔を向けると、そこには一人の青年が、白い服を着た、神官のような格好をした背年が立っていた。
髪の色が、白に近い色になっている。













テルディアスがその気配に気付いた。
サーガもその気配に気付いた。
テルディアスが突然走り出す。
キーナの消えていった方向へ。

「テルディアス?!」

メリンダが何事かと声を上げる。
走って行った方向…。

「まさか…のぞき?」

そんな度胸があったのか?あの男?などと考えているのんきなメリンダの目の前で、サーガが怖い顔をしていた。

「あいつ…、何か知ってやがるのか…?」

サーガの手が震えていた。
サーガの様子に、初めて何かが起きていることに気付いたメリンダ。
しかし、サーガがなんの事を言っているのか分からない。

「これは…、この、気配は…?!」














白に近い髪の色をした、白い神官のような服を着た青年が手を伸ばす。

「我らの元にいれば、今回のようなことは起こりません。たとえ暴走したとしても、我らで止めることができましょう。世界の為に、人々の為に、そして、あなた様自身の為に、光の宮へ共に参りましょう」

キーナの耳に、その言葉がすんなり素直に入って来た。
暴走が起こらない、暴走を止められる?!

(光の…宮へ…?)

そうだ、一度光の宮へ行った時に、そういう説明をされた覚えが、おぼろげにある。
光の宮は、光の御子が、神託を受ける為に造られた、聖なる場所だと。

(光の宮へ行けば…。そうだ、あのまま、光の宮にいれば…、みんな消えなくて済んだのに…)

あのまま宮に留まって、旅などしなければ、今回のような事は起こりえなかったのだ。
キーナの足が、ふらりと青年の方へ向かって動き出す。

(もう誰も…、傷つけないで済む…)

宮へ行けば、暴走することもない。
そうすれば、誰も傷つける事もない。
テルディアスも、メリンダも、サーガも大丈夫だ。
自分が宮へ行きさえすれば、それで全て丸く収まるのだ。
そもそも、御子は宮にいるべきなんだ…きっと。

キーナの足は青年に向かう。
それを止める理由はない。
青年の手が伸びてくる。
キーナも手を伸ばす。
そこへ、

「キーナ!!」

テルディアスが走り込んできた。
キーナが振り向く。

「テル…」
「キーナ…」

怖い顔でキーナを見つめるテルディアス。
肩で息をしている。
余程必死で走ってきたのか。

「御子様、我らの元へ…」

青年が微笑みながら、手を伸ばしてきた。

「行くな!! キーナ!!!」

テルディアスが怖い顔をしながら、キーナを引き留めようとする。

「テル…」

一瞬立ち止まったキーナであったが、すぐにその足は動き始めた。
テルディアスを悲しそうに見つめると、

「ごめんね…」

そう言って、目の前の青年の手を取った。

「キーナ!!」

テルディアスが必死に手を伸ばすが、

カッ!

光の膜が二人を包み込み、あっという間に空へ飛び上がり、どこかへと消え去って行ってしまった。
ギリギリ、二人が光った瞬間に滑り込んできたメリンダとサーガは、何が起きたか分からず、ポカンと空を見上げた。

「な、なんだ?!」
「なんなの?! 今の?!」
「何があったんだ! テルディアス!!」

突如光ったと思ったら、あっという間に消えてしまった二人。
一人は知らない青年。
何があったのかテルディアスに問い詰めようと迫ろうとした二人が、足を止めた。

ズドオ!!

テルディアスが右腕を勢いよく突き出す。
すると、そこにあった一本の、それほど細くもない木が、メキメキと音を立て、地響きを立てながら、倒れた。
タラリと汗を流す二人。
テルディアスの背中からも、彼がぶち切れていることが、なんとなくオーラで見えるようだった。

(キーナ…!!)

テルディアスが、誰も居なくなった空間を睨みつけながら、歯ぎしりをした。
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