キーナの魔法

小笠原慎二

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光の宮再び

迎えに

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カストーニャ平原を見渡せる崖の上に、その赤い服を着た男は立っていた。
手に持っていた花束を、その崖の上に置く。
風に飛ばされないよう、小さく地の力で留め置く。
その時、一際強い風が吹き、その男のマントを揺らした。
一つに纏めた髪も、風に踊る。

「シャオ…、カイリ…、ブルーマン…」

男が、誰かの名を呟いた。

「いつになったら俺にも、終わりが来るんだろうな…」

また一段と強い風が吹いた。
マントがはためいて、バタバタと鳴った。
花束も、ガサガサと風に飛ばされそうになる。
赤い服の男は、崖から見える平原を見渡した。
在りし日の事を思い浮かべる。
そして、そこに現われた、あの少女の姿も…。

(俺の時には…、彼女がいた…)

あの長い髪を揺らし、彼女は自分の側にいてくれた。

「嬢ちゃんにはテルディアスがいる…。大丈夫だろう…」

また強い風が吹いて、花束がガサガサと音を立てて揺れた。















「そんな…。光の宮が、そんな所だなんて…」

メリンダの手に力がこもる。
掻き抱いた腕から血が出そうなほどに。
意に沿わず、しかも無理矢理組み敷かれる悔しさ、悲しさ、辛さをメリンダは知っている。
それが日常的に行われているということに、ショックを隠しきれない。
背を向けながら、テルディアスは語る。

「俺は、キーナを連れ戻しに行く」

込められた強い意志が垣間見えるかのような口調。

「でも! キーナちゃんの意思で光の宮に行ったのなら…!たとえ、行ったとしても…、キーナちゃんが…」

行かないと言うかもしれない。
光の宮にいると、言うかもしれない。
もう一緒に歩く事も、できないかもしれない…。

「連れ戻す! 力尽くでも…!!」
「テルディアス…」

ただの我が儘なのかもしれない。
自分の事しか考えていないと言われるかもしれない。
しかし…。

(あいつが…、あいつがいなければ…、俺は…! 俺は…!!)

出会わなければ、歩き出す事もなかった。
話さなければ、側に居る事もなかった。
ただそこにいてくれるだけで、テルディアスはダーディンではない、ただのテルディアスでいられた。

離したくない。
離れたくない。
テルディアスは生まれて初めて、執着心を覚えていた。
そんな感情をうっすらと察するメリンダも、何も言えない。

「ま、何にせよ、キーナが居なきゃ、何も始まらねーだろ」

サーガが口を挟んできた。

「一時の気の迷いってこともあんだろーし、キーナの為だから、宝玉探しも協力してたんだし」

てめーの為じゃねーと、テルディアスに向かって舌を出す。
それを睨み返すテルディアス。
やれやれ。
そしてまたいらん事を発する。

「それに、キーナのお初は俺が貰うと決めたんだ。んな奴らにやられてたまっか」

メリンダとテルディアスずっこける。
すかさず突っ込み態勢に入る二人。

ドゴオ!

「こんな時にあんたって奴ぁ…」

二人のフルスイング突っ込みをまともに受けたサーガが、奥の大木に突き刺さった。
そのまま放っておこう。

「ん、でも、そうね。あたしも、キーナちゃんがいたからこそ、一緒に旅して来たんだし…」

キーナと共に歩きたいと思ったから、あの街を出て、村も再び出て来たのだ。
キーナが居なければ、そもそもあの街から離れることなど考えなかっただろう。

「本当、キーナちゃんがいないと、何も始まらないわね」
「そう…だな…」

キーナに出会ったからこそ、テルディアスもメリンダも、止まっていたその歩みを進める気になったのだ。
キーナが居なければ、二人が出会う事もなく、この場にいることもなかった。
すべては、キーナがいたからこそ、なのだ。

「んじゃ、決まりだな。俺達の誠に身勝手な理由で、キーナを連れ戻す!」

なんとか大木から抜け出して来たサーガが、ヨロリとよろけながらも口を出してくる。

「そうね!」

言ってることはまあ、まともな事もあるのだけれど…。

「でもあんたと同じ部類ってのは何か違うわよね!」
「まったくだ!」
「なんだよ~! 目的は同じだろ~!」

と一悶着がありました。





一人は、キーナとただ一緒に居たいが為。
一人は、己が人として在る為。
一人は、キーナとP…ではなく、己の幸せの為に。

なんか文章が締まらないなぁ…。
三人は、光の宮を目指し、走り出した。













光の宮の女神官達にかしずかれ、衣服を改められ、キーナはボンヤリなすがままに身を任せていた。
一通りの着替えが終わり、御子の為の広い部屋から出て、長い廊下を歩いて行く。
前を行く女神官が突き当たりにある立派な扉に案内する。

「こちらです」

両開きの扉を恭しく開ける。
女神官が一歩下がり、キーナの為の道を開ける。
キーナがその扉をくぐり、中に入っていった。
見覚えのある部屋。
前回来た時は、テルディアスが真ん中に倒れて、その周りを神官達が囲んでいた。
今は魔法陣もなく、祭壇の前に、三人の神官達が頭を垂れ、膝を付いていた。

「お待ちしておりました」

神官達が頭を上げる。

「この神殿は御子様の為にあるものです。この場にて光の神へ祈りを捧げ、ご神託を受ける為に」

キーナが祭壇の前の階段にゆっくりと歩み寄る。
神官達はそれを見守った。
階段の前でキーナが立ち止まる。

「しばらく、しばらく一人にさせて下さい」

ボンヤリとしたままで、そう呟いた。

「は…」

神官達は何も言わず、神殿を去って行く。

「何かございましたら、お呼び下さい」

そう言うと、神殿の扉を静かに閉めた。
神殿の祭壇の前で、キーナは独りきりになった。
そのままそこにくずおれる。
突っ伏したまま、動こうとしない。
自分を責める言葉が頭の中で谺する。

どうして…どうして僕が…
僕がいなければ…
僕がこの世界に来なければ…
あの街の人達は死なずに済んだのに…
どうして…?!

その谺は止む事なく、キーナを責め続けた。













森の中を風のように走り続ける。

「テルディアス!!」

後ろからの声に、テルディアスは勢いのついた足を止めた。
振り向くと、随分と離れた所に、メリンダが座り込み、その側にサーガが立っている。

「なんだ? どうした?」

訝しげに二人に近づくと、

「姐さんが限界だ」

サーガが厳しい表情で答えた。
テルディアス、思わずメリンダを見下ろす。
座り込んだメリンダが申し訳なさそうな顔をする。

「ごめんなさい。でもやっぱり、あんたらに付いて行くなんて…、あたしには無理だわ。あたしの事はいいから、二人で先に行ってちょうだい」
「バッカ。こんな所に女一人置いて行けるかよ」

思わぬ優しい言葉に、サーガの顔を見上げてしまう。
なんだかんだで、サーガは何気に人に気を使う奴だ。
サーガがテルディアスを見る。

「しかしよぉ、テルディアス。いきなり走り出したけど、光の宮って、ここからそんな近くないだろ?」
「む?」

テルディアスが場所を知っているということで、いきなり走り出したので、二人共特に疑問に思わず付いてきたが、サーガの知り得る情報からだと、確か光の宮ってここからかなり遠かったような気がするのだが…。

「当たり前だろ。光の宮はレティースト山脈の西側にあるんだ」

さもありなんと、さらりと答えるテルディアス。

「レ、レティーストォ?!」
「知らなかったのか?」

さすがにそこまでの情報は持ってなかった。

「ちょ、ちょっと待て。そこまで、まさか走って行く気だったとか…?」
「ん?」

今居る場所は、あの港町から少し行った辺り。
この大陸のほぼ南に位置する場所。
そして、レティースト山脈は、この大陸の中央より少し北にある。
つまり、何千キロという単位である。
それを走って…?

「全力で走り続ければ、10日くらいで着けるかと…」
「走れるか!!」

こいつ、不眠不休で走り続ける気だったな…。

「走れないのか?」
「てめえの物差しで考えんな!!」

普通は、ムリ、です。

「俺はともかく、姐さんにできるわけねーだろ」
「む?」

そこでテルディアス、何故かとても不思議そうな顔をしてメリンダを見つめた。

「?」

そして視線を外すと、

「そういえば、(体力は)普通の人間だったか…」
「どおいう意味だ?!」

無理もない…。

「どう見たって、かよわい乙女でしょうが」

とさらりと髪を掻き上げる。

「かよわい?」
「乙女?」

男二人が禁止ワードを思わず口走る。
そこへ飛んで行くメリンダの火拳。
男二人の頭に、ぽっこりこぶが出来上がった。

「そういう繊細な所に突っ込んでると、命がいくつあっても足りないわよ?」

(こういうのが普通の人間とは思えん…)

普通の女だったら、こんなに拳が熱くもないし痛くもないだろうに…。
とは口が裂けても言わないでおく。
いい心構えだ。

「と、とりあえず、走って行くのは無理臭い、と」
「う、うむ」

テルディアス納得する。

「ほんで、しゃーねーから、この俺様が力を貸してやろう」

そう言うと、サーガが風を集め始めた。
三人の周りに風が集まり、みるみる風の膜のようなものができていく。
そしてそのまま、三人を包んだまま、それは空に飛び上がった。

「疲れるから、あんまし暴れんなよ」

一応釘を刺し、サーガが進行方向を見る。
テルディアスは知っている。
以前レイにコレと同じ魔法を掛けられたことがある。
風の結界だ。
風の結界を張り巡らし、それで空を飛んでいるのだ。

眼下を森が流れていく。
高い山もひとっ飛びである。
走って行くよりも何倍も早い。
メリンダはその景色に目を奪われながら、素直に感心した。

「サーガ」
「ん?」
「あんたも役に立つ事あるのね」

サーガずっこけた。
普段から大分役に立ってると思うのですけども…。

「俺がただのスケベなだけのイケメンだと思ってた?」

態勢を立て直しながら答える。
その答えに、メリンダが顔をしかめ、一瞬考える。

「ただのスケベとは思ってたけど、イケメンだとは思ってないわよ?」

サーガ再びずっこけた。

「うおおい!」
「何か変な事言ったかしら?」

おかしな漫才を繰り広げながら、風の結界に乗った三人は、光の宮を目指し飛んで行った。
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