キーナの魔法

小笠原慎二

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アディとナト

効果が切れた日

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とある宿屋の一室。
夕飯も終わり、後は寝るだけくつろぎタイムに、なにやら股間を見つめて固まる黄色い髪の青年。

「た…、た…、た…、たった――!!」

嬉しそうな声が響き渡った。
そのまま廊下に走り出る。

「姐さん! 姐さん!」

キーナとメリンダがいる部屋へと急ぐ。

「姐さん!」

バタン!と荒々しく扉を開けると、

「なによ」

ベッドの上でキーナと何か話していたのか、冷たい眼でこちらを睨み付けるメリンダ。
そんな眼に構わず部屋へ踏み込む。

「見てくれ! 俺の息子が復活…」

その先の言葉は続けられなかった。
メリンダが放り投げたベッドの下敷きになったからである。
どうやって投げたんだろう…。
よいこらとベッドを元に戻し、潰れたサーガを引き起こす。

「キーナちゃんになんてもの見せてんのよ…」

と首に手を掛けながら、サーガの頭を前後にシャッフルする。

「よ、喜びのあまり…、つい、我を忘れてまひた…」

虚ろな顔で言い訳するサーガ。
よく生きてるものだ。
そんな2人を眺めながら、キーナが頭にハテナマークを浮かべていた。

息子が復活・・・・・? サーガに息子なんていたの?)

キーナにはまだその言葉の意味は分からないようだ。
サーガとメリンダがキーナに聞こえないようにボソボソと話す。

「てなわけだからさっ、今晩ろよしくっ!」

予約確定とばかりにウィンク。

「え、ちょ、ちょっと、サーガ?!」

誰がいいと言ったんだとメリンダが言う前に、するりと足早に去って行くサーガ。

「楽しみにしてっからん!」

嬉しそうに自分の部屋へと帰っていった。

(あんにゃろう…)

キーナの前で堂々と宣言して逃げて行きやがった。
思わず拳を握りしめ、後で5、6発は覚悟しとけよ…、と心の中で呟く。

「サーガと何かするの?」

キーナが不思議そうにメリンダに問いかける。
もう夜も遅いというのに、何かするのかしら?
慌てて取り繕うメリンダ。

「あ~、いいのよ、ほっといて。さ、寝る支度しましょ」
「うん」

キーナは素直に頷き、寝る支度を始めた。














キーナがすやすやと眠るのを確認し、そっとベッドを抜け出す。
音を立てないように部屋を出て、足早にサーガの部屋へと向かった。

(まったく、あいつったら。キーナちゃんの前では言うなって言ったのに)

はっきりと言ったわけではないけれど、何かあるという風に言われるのも困りものだ。
メリンダにとってキーナは、純粋で綺麗で汚したくない存在。
自分の汚れもあまり見せたくない。
サーガとのことも絶対に知られたくない。
サーガの部屋の前に立ち、扉をノックする。

(5、6発じゃ済まないわね)

とにかく一言言ってやらねばと、仁王立ちで扉の前で待つ。
ゆっくりと扉が開かれる。

「ちょっと、サーガ…」

いきなり腕を掴まれる。

「きゃ!」

そのまま勢いよく部屋の中に引き摺り込まれる。
荒々しく扉が閉まり、勢いよろしく、メリンダはベッドに転がされる。

「な…」

にすんのよと言葉を吐き出す前に、メリンダの両足が開かれ、股の間に頭を突っ込んできた。

「ギャー!!」

たまらず悲鳴を上げる。
そのまま下着の上から舌を這わせ始める。

「や…! ちょ…、なにをぉ…」

渾身の力を込め、サーガの頭を引っぺがす。

「するか――!!」

そのまま足で蹴り上げる。

バキィ!

勢いよく吹っ飛んだサーガは、天井に頭を、ついでに上半身までめり込む。

ここが最上階で良かったね。

腰から下を天井から生やし、プラ~ンと垂れ下がる。
ぜいぜいと肩で息するメリンダ。
突然引っ張り込まれたら誰だって驚くわい。
グスリと目に涙を溜める。いきなり引っ張り込まれたので少しショックだったのだ。
当然だ。

「あんたが、そんな…、女を襲うような奴だったなんて…」

女にだらしないとは思っていたが、まさかいきなり襲いかかるような下劣な奴とは思わなかった。
サーガに対する信用度が地に落ちる。

「そんな屑野郎は…、大事な所を消し炭にしてやるわ…」

そう言うと掌に火の力を集め出す。
その言葉が聞こえたのか、天井から生えた下半身が、オタオタと暴れ出す。

バキバキ…ズシン!

「あでっ!」

天井からサーガが生還してきた。
そのまま間を置かず、メリンダに向かって土下座する。

「わー! すいません。ごめんなさい。申し訳ありません!」
「あん?」
「一月ぶりにできると思ったら、理性のタガが外れてしまって、あんな真似を…!お許し下さいい!!」

メリンダに向かって猛省しておりますと、瞳をウルウルさせながら懇願するも、

「極刑」

下された判決は厳しいものだった。

「きゃー!」

命ならぬ息子の危機。メリンダの足元に必死に縋り付く。

「お許し下さい! 二度としませんから! 何でも言うこと聞きますから!!」

その言葉を聞き、メリンダがニヤリと微笑んだ。

「何でも?」

その顔を見て、サーガは早まったと後悔したが、もう遅い。

「は…はい…」

逃げ道は閉ざされ、サーガはそう答えるしかなかった。
かくして、サーガはメリンダの下僕の道を歩み始める。
南無三。







次の日。
爽やかな朝日が大地を照らし始め、いつものように小鳥が騒ぎ始める頃。
それを遮るかのように、テルディアスの悲鳴が街中に響き渡った。






テルディアスの悲鳴で眼を覚ましたメリンダ。

(そういえばあの悲鳴を聞くのも一月ぶり…)

と寝ぼけ眼をこすりながらベッドの上で身を起こす。
と、なにやら下半身に違和感。
目をやれば、なにやら足元の布団がゴソゴソと動いている。
布団を手に取り、バサッと取り上げてみれば、

「あ」

黄色い瞳と目が合った。
そのまま見つめ合う。
にーっこりと笑いかけ、

「何を、しているのかしら?」

と、努めて冷静に問いかける。
サーガは、冷や汗のような脂汗のようなよく分からない汗を垂らしながら、なんとか笑顔を作ってみせる。

「え…と、久しぶりに、朝から息子も元気だし…、もう一戦なんて…」

そのまま、笑顔のままでしばし見つめ合った。

バキィ!

何かが壊れる音が響いた。











「そこで反省なさい!」

メリンダが荒々しくサーガの部屋の扉を閉めた。
もしその時部屋をちらりとでも覗いた者がいたなら、天井から人の足が生えていることを、不思議に思ったに違いない。

「まったく…」

足早に自分の部屋へと向かう。

(ま、でも…。昨夜はあたしも久々に満足しちゃったし~…)

なにせ一月の間、サーガが「もう俺は男じゃない」などとへこんでおり、その言葉通り、男としての勤めを果たせないでいたので、メリンダにとっても久々のことで…。
と考えて我に返る。

(って! 何考えてんのよ!)

アホなこと考えてないでさっさと支度しなければ、と余計に足を早く動かし、部屋へと戻っていった。














街を出て、街道を進む4人組。

「どったの? テル?」

キーナが不思議そうにテルディアスに話しかける。

「ここしばらく平気だったじゃない?」

ここのところ、朝目を覚ましても悲鳴なんぞ上げることもなく、冷静に怒っていたのだが。
決して平気だったわけでは無い。
それが今日、何故かいつもよりも驚き、久々悲鳴を上げていた。
テルディアスはむっつり黙って何も答えようとはしなかった。

「あの宝玉の効果が切れたらしいわよ」

メリンダが笑顔で説明した。

「あの宝玉」

あの壊せなかった無色透明の宝玉。
あれに触ってからというも、何故かスッキリした顔をしていたテルディアス。
なるほど、効果が切れたのかと納得。

「だからなんだかサーガがキラキラしてるんだ」
「しばらく近づかないようにね、キーナちゃん」
「あい」

反対に、今朝から異様にスッキリした顔をしているサーガ。
ずっと満面の笑顔を湛えており、不気味だ。

「でもなんでサーガは元気になって、テルは落ち込んでるんだろう?」

素朴な疑問を口にする。
その言葉を聞き、テルディアスは余計なことを聞かれるまいと足を早めた。

「テル待って! 早いよー」
「待ちなさいよー!」

足を早めても結局キーナは追ってくるのだから意味ないのだけれどね。
キーナが追えば、メリンダも追ってくる。
そうなるとやはりサーガも追ってくるのであるが、サーガの足取りは終始ルンルンとしており、端から見ると怪しい人にしか見えなかった。













街道から外れ、森の中を一人の少年が歩いている。
草を掻き分け、枝を掻き分け、疲れた体を引き摺るように足取り重く歩いて行く。

「ア…ディ…」

そう呟くと、とうとう力尽きたのか、少年はそのまま前に倒れ込み、動かなくなってしまった。
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