キーナの魔法

小笠原慎二

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男娼の館編

ダンショーの館

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(寒…)

ブルッと体を震わせ、ふと目を開けてみれば、そこは知らない場所。

(あれ?!)

ガバリと身を起こして周りを見渡す。
二段ベッドの下段に横になっていたらしい。すぐ目の前に上のベッドの底がある。
右隣に同じように二段ベッドが据え付けられており、男の子が一様に暗い顔をして座っていた。

(??? ココハドコ?)

部屋の入り口らしきところは全面檻になっており、廊下の様子がよく見える。
というか、言ってみれば、ここって牢屋にベッドを持ち込んだだけじゃね?と周りをキョロキョロ見回していると、

「よく寝られたもんだな」

隣のベッドの同じく下段に座っていた男の子が話しかけてきた。

「アナタダレ? ココハドコ?」

記憶喪失人間のような口調で少年に話しかける。年はキーナと同じか少し下くらいだろう。

「攫われてきたくち・・か。すぐに分かるさ」

それだけ言って、少年は視線を外してしまった。
もう何を話しかけても答えてくれないだろうことは、何となく理解する。

サラワレテキタ・・・・・・・?!)

少年の言った言葉を頭の中で反芻する。遅ればせながら理解すると、落ち込んだ。

(やっぱり僕攫われてたー!!)

思い出してみれば、あの裏路地の辺りから記憶が途切れている。
やっちまったという気持ちと、テルに怒られるという気持ちが沸き起こり、ワタワタし始めた時、廊下の奥の階段から足音が聞こえて来た。
コツン、コツン、コツンと、規則的な足音が響いてくる。
ヒールの音だろうかと首を傾げていると、その人物が檻の向こうに姿を現した。

「うふ。さて、今夜は新しい羊ちゃんと遊んでみようかしら?」

と、禿頭でドギツイピンクの全身タイツのような物を着込んだ、男の人・・・がしゃなりしゃなりと現われた。
しかも手元には柔らかそうな素材で作られた扇を持って、程よく口元を隠してなんかしていたり。

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(変な人来た…)

キーナが身を強ばらせた。ぱっと見気持ち悪い。
そんなこと言っちゃダメですよ。仕方ない気もするが。
檻の前を行ったり来たりして、各部屋?を覗いていく。

「さて、誰が良いかしらね~?」

と一人一人丹念に見回して行くと、ふとキーナと目が合う。

「ん?」

衝撃が走った。

ピンときた。
ビビッと来た。

そしてキーナの背筋には悪寒が走った。

「おお…お…」

ピンクのおじさんがなにやら呻いている。

「トビー! トビー!」

誰やらの名を呼ぶと、後ろに一人の青年が現われた。

「はい旦那様」

こんなのが旦那様なのか。可哀相に。などとちょっと同情。
だがしかし、

「あの子よ! あの子が良いわ!」

なんだかそのピンクの旦那様が、キーナを見ながら騒いでいる。

「あのマントの子! あの子が今夜のあたしの羊ちゃんよ!」

マント…。

(マントって…、どう考えても…僕?!)

隣のベッドの子らも、普通に服を着ているだけだし、マント羽織っているのはどうやら自分だけらしいと推察。
というか、台詞的にもの凄く嫌な感じしかしないのだけれど…。

「お客様用にもいくつか見繕っておいて頂戴ね」
「はい」
「ウフフフフフフ…」

怪しい言葉と怪しい視線と怪しい笑いを残して、ピンクの旦那様は去って行った。
悪寒しかしない。

(なんか分からんけど、嫌な予感がする)

とにかくどうにかしないと、どうにかこうにか嫌な目に遭いそうな気がするので、脱出を考えるけれども…。

(あれ?)

耳に触って気がついた。そこにあるはずの物がなくなっている!

(双子石がない――!! テルが僕の事探せないじゃんか――!)

テルディアスとキーナを繋ぐ双子石。それがなければテルディアスはキーナの居所を知る事はできない。
ここでサーガの存在をすっかり忘れているのがキーナらしいというか…。

(しかも僕今、魔法使えないし…。たぶんみんな探してくれてるとは思うけど…)

魔法が使えないので、ここにいるよの合図なんかも出せないし、無理矢理突破!みたいな強硬手段もできませぬ。
隙を見てドロボウ七つ道具を使って脱出、的な事はできるかもしれないけれど、ここが屋敷のどの辺りなのかも分からないと、どこに向かって行けばいいのかも分からない。

(う~、どうにか自力で脱出できないもんかな~?)

しかもできるだけ早めがいい。
そんな事を考えていると、

「…ぃ、おい!」
「へ?」

目の前の少年に声を掛けられていたことに気付いていなかった。

「ぐずぐずするな。酷い目にあうぜ」
「ほへ?」

何をぐずぐずしないのでしょう?と呆けた顔をしていると、

「遅いぞ! 早くしろ!」

檻の入り口を開けて、ちょっとごつい男の人がこちらを睨んでいた。

「あ、はい」

少年が無理矢理キーナの手を引き、そのまま一緒に檻から出て行く。

「ホラ、早く!」
「え? わわわ…」

急に引っ張られて足がもつれながらも、なんとか少年に従っていくキーナだった。

(どーなっちゃうの僕…?!)

どーなっちゃうのでしょうね?














「攫われてきてショックなのは分かるけど、言う事を聞いていれば酷い事されないし、ご飯もちゃんと食べられるし、考えようによっては悪い所じゃないぜ?」

キーナの方に視線は向けなかったが、少年はキーナに気遣うような言葉を向けた。

(いい人…)

少年の隠れた優しさが見え隠れして、キーナはこの少年は信頼に足る人物だと、勝手に判断する。即決で決めすぎだろう。

何やら奥の方へ腕を引かれて付いていき、奥の個室に向かって少年達が一列に並んでいるのが見えた。
キーナもそこに大人しく並ぶ。
列が動いて途中の机の前に来ると、そこに座っていた厳い男の人から、何やら衣装を一式渡される。

「中でシャワーを浴びてこれに着替えろ」

と指示される。

「え?」

中でシャワー?
前を見る。
後ろを見る。
見事に全員男の子。

「あの、すいません」
「あ?」
「女子用は?」
「は?」

目が点になる。

「何言ってんだ? 女用があるわけないだろう?」
「え?」

目が点になる。
双方、言っている意味が分からず、一瞬空白の間ができる。

「じゃあどうしろっていうの!! 男の子と一緒にシャワー浴びろとでも?!」
「は?」

いくら男らしく見えると言っても、一応体はきちんと女の子であって、きちんと出る所も出て来ている所であって…と言いかけた所へ、口を塞がれる。

「フゴ――!!」
「すいません!」

先程から色々助けてくれている少年だった。

「来たばかりでまだ錯乱してるみたいで!」

とキーナをズリズリと廊下の隅の方へと引き摺っていった。
列から離れた所でようやっと口元の手をどけられる。

「逆らうなっていったろ!」

少年から注意される。

「だ、だって…、僕、女の子・・・だよ? 男の子と一緒にシャワーなんて無理だよう」
「は?」

少年の目が点になる。
キーナの足元からゆっくりと視線を上げていって、首を捻った。

「女?」
「です!!」

どうして首を捻る。

「本当に本と?」
「本当に本と!」

何故信じられないのだ。

「う~ん…」

少年が困ったように唸りだした。

「その…、君が本当に女の子だって言うなら…、無事にここから早々に出られると思うよ」
「ふにゃ?」

どういうことだ?

「にゃんで?」
「いや、だって、ここ…。男娼の館・・・・、だから…。しかも、少年専門の…」

・・・
・・・
・・・

「ダンショー?」

談笑?ダンスショー?とキーナ首を捻る。
キーナはまだ純粋であった。

「え…と…」

少年が言葉に詰まった。
そりゃそうだ。

「まあ、つまり、この館に女性はいないんだよ。上にさえ出られれば、無事に追い出されると思うよ」
「追い出され?」

出られる、ではなく、追い出されるのか?と首を傾げるキーナ。

ここでは女性だって言わない方がいいよ」

少年がこっそりとキーナに耳打ちする。

「にゃ?」
「上の奴らはともかく、下に居る奴らは普通の奴らみたいだから。無事にここから出たいならね」

キーナにその違いはよく分からなかった。

「最後に並んで色々誤魔化そう。とにかく上に行けばなんとかなるよ。上に行くには渡された服を着なければ行けないから」

これね。とキーナ、腕の中の衣装を見る。
青くてちょっぴりキラキラした感じの服。
みんな一律で同じ衣装を着て上に上がるらしい。
ふと見ると、檻の中に、幾人かの少年が取り残されていた。
気のせいか、その子らの表情は、表に出ている子らよりも、幾分かほっとしたような気の抜けたような顔をしていた。














最後に並んで、幾分か誤魔化して、急いでシャワー室に入る。
シャワー室は、洋画に良く出てくる、真ん中だけに仕切りの扉がある、簡素な作りの物が6つ程あった。
上手く誤魔化しながら仕切りの中に飛び込んで、シャワーを浴びる。
頭と足元は見えているので、他の個室の子に覗かれやしないかとちょっとヒヤヒヤした。
他の子が全て出て行ったのを確認する。

「最後の奴だ。今のうちだよ」
「うん」

一緒に最後まで残っていた少年が、他の個室も確認してくれた。
ついでにタオルも取ってくれた。
タオルで全身を拭く。
その間に少年は着替えを済ませてしまう。

「あの…、できるだけこっち見ないで下さい…」
「分かってるから」

さすがのキーナも恥ずかしい。

「早くしないと見回り来るよ」

と少年が顔を少し向けて言った。

「ワキャー!」

キーナが慌てて出て来た。
意図せず、その姿が視界に入ってしまう。
慌てて少年、視線を逸らした。えらい。

(本当に、女の子だった…)

でもしっかり見ちゃったのね。
と言ってもタオルを体に巻き付けている姿だけれども。
タオルを巻き付けているだけでも、大きくは無いけれども胸の膨らみや、腰の辺りから足までの緩やかな丸みが嫌でも見えてしまっていた。
それは男の子の体には絶対に無いものであって…。
しばらく少年は自身の天使と悪魔と戦ったという。











「上に行ったらバラバラになるけど、多分大丈夫だから」

どうやらケリが付いたらしい少年が、キーナに話しかけた。
背は向けたままです。

「君は、攫われて来たんじゃないの?」
「僕? 僕は違うよ…。僕は…売られたんだ」

目の前で金が両親の手に渡されるのを見ていた。

「男ばかりの5人姉弟、7人家族。家は貧しくて食べていくのもやっとだった。兄は家の仕事を手伝う大事な戦力だったし、弟達はまだ幼すぎた。僕が一番適当だったんだ。家族が生きていく為に、仕方がなかったんだ…」

馬車の檻に入れられて、遠ざかって行く家を見ていた。
父はうなだれ、母はずっと泣いていた。

「すまん」
「ごめんね」

それが両親の最後の言葉だった。

「別に恨んでるとか言うわけじゃないよ。仕方なかったってのは分かってるから。言ったろ。考えようによっては、ここも悪くない所だって。ご飯もいっぱい食べられるし、ベッドも用意されてるし。良い所だよ。ちょっと、仕事は辛いけど…」
「・・・」

上着のボタンを嵌めながら、キーナは思った。

(ここで見た子達…。みんな同じように、死んだ目をしてる…)

良い所だと言うわりには、目に光がない。
仕事が辛い。それが一番の本音なのだろう。
寒いよりは、食べられないよりは確かにましなのかもしれないけれど。
上着もきちんと着終わってみると、どこからどう見ても、キーナは男の子にしか見えなくなっていた。

いや、元からか?

「終わったであります!」

キーナがそう言うと、

「ああ」

少年がようやくこちらを向いた。
紳士だ。

「あ、そーそー、僕キーナ。君は?」

今更ながらに自己紹介。

「ああ、僕は、タクト」

儀礼的に握手を交わす。

「タクト、家に帰りたい?」

何でもないかのようにキーナが気楽に聞いたが、タクトの顔がすぐに曇った。

「帰りたくても、帰れないよ…」

悲しそうな顔…。
キーナの瞳が真剣味を帯びた。
何やら考えているらしい…。
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