キーナの魔法

小笠原慎二

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男娼の館編

走る悪寒

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館の外の木陰に、静かに佇むマントにフードの男。
見る人が見れば、今なら彼に気付いたであろう。
何故なら、不穏な空気をその身に纏わせていたからだ。
隠れるならばせめてその殺気を隠さんかい。

(くそ…)

流れ出る殺気に気付かずに、木陰に隠れてるつもりになっているテルディアス。
バレないのはそれほど館の警備が厳重ではないからだ。
館の警備は、外からの侵入者よりも、中からの逃亡者向けになっている。

『動くなよ、テルディアス』

突然テルディアスの耳元で声がする。

「分かってる!」

近くに人がいれば、何この人突然独り言言ってるんだろうと首を傾げたかもしれない。
幸か不幸か?周りには誰も居ないので、怪しい人にはならないでいる。
いや、すでに怪しい人か。
サーガの風に乗せた声は、届けられた本人にしか聞こえない。便利な物だ。

「早く来い!」

またまた独り言を呟くテルディアス。
少し遅れて、

『もう着く』

またテルディアスの耳元に声。
イライラジリジリしながら、テルディアスは声の主が到着するのを待った。

少しすると、上空からゴウ…と何かを燃やすような音が近づいてきた。
そして目の前に下りてきた赤い髪の女性と、女性に負ぶわれた黄色い髪の男。
赤い髪の女性の足元から、鉄腕○トムのようなロケット噴射のように伸びる炎。
それが収まると、ストンと地面に降り立った。

「はあ~、着いた」
「ご苦労さんっす」

ゆっくりとメリンダの背中から下りるサーガ。
テルディアス特製松葉杖を付き付き、ひょこりと地面に降り立つ。
メリンダがう~んと伸びをした。

「風ほど飛ぶのは慣れてないから」

と腕を回し、肩を回す。
慣れない事をしたので、ちょっとくたびれたらしい。

「いやいや、大したもんだよ」

サーガ素直に褒める。
風ほど早くはなかったが、街からここまで飛んでこれたのだ。火の魔法だけでこれだけの距離を飛ぶなど、普通の人にはできまい。

「おい…。早くキーナの居所を調べろ!」

ほんわか雰囲気をぶちこわし、テルディアス割って入ってきた。

「わーってるってば」

一応怪我人なのよ?とぶちぶち言いながらも、側に倒れていた倒木に腰掛け、早速館の内部を探り始める。
イライラしながらその様子を眺めるテルディアスに、メリンダが声を掛ける。

「よく動かないで待てたわね。テルディアス。あんたの事だから、皆殺しに行ってるんじゃないかって、サーガと心配してたのよ」

と冗談半分に言うと、

「…キーナが悲しむからな」

ボソリとテルディアスが呟いた。

(悲しまなかったら殺ってたと…?)

冷や汗タラリ。
キーナが良い子で良かったと、メリンダ胸を撫で下ろした。

「オッホホ~。いたぜ~。キーナだ」
「どこだ?!」
「どこに?!」

サーガの言葉にすぐに食いついてくる二人。

「慌てんなって。まだ無事だぜ」

サーガがニヤリと笑った。













地下から階段を上がって行く。
目の前には案内の青年。
手首には、シャワーから出てすぐに付けられた鉄枷。

(シャワー出たらこれだもんね。タクトと離されちゃったし。上に向かってるみたいだし…)

コツコツと狭い通路に固い音が良く響く。
階段を上がると細い廊下が目の前に延びていた。
案内の青年が脇にどくと、

「このままお進み下さい」

と廊下の先を指し示す。

「は、はあ…」

嫌な感じしかしないけれども、他に行く事もできず、廊下を進んでいく。
少し暗い廊下を進んでいくと、突き当たりがバルコニーのようになっている。
柵にもたれ、あのピンクの旦那様が立っていた。
こちらに振り向くと、扇で口元を隠しながら、

「待ってたわ。あたしの子羊ちゃん♡」

キーナの背筋が凍った。
すると、ピンクの旦那様が向こうに振り向き、両手を上げると、

「さあ、お集まりの皆様! 今宵も甘美な時を存分にお楽しみ下さいませ!!」

と声を張り上げた。
途端に、バルコニーの向こう側がざわめく。
どうやら外では無く、室内のホールのようになっているらしい。
廊下を出て下を覗き込むと、煌びやかな衣装を纏い、顔に仮面を付けた大勢の人々がひしめいていた。
幾人かの人々がキーナを見て、何か呟いているのが聞こえてくる。

「まあ、領主様のお連れの子、なんと可愛らしい」
「おお、次は私がお相手願いたいものだな」

その台詞を聞いて、キーナの背筋が北極圏に突入した。

「さあ、子羊ちゃん。いらっしゃい」

そう言って、ピンクのどうやら領主様が、キーナの肩に手をかけ、バルコニーの端の部屋へと連れて行く。
その肩に置かれた手がとても気持ち悪い。

(分かる! 見なくても鳥肌になっているのが分かる!)

肩から右腕にかけてがザワザワしている。絶対に鳥肌になっている。
かと言って振りほどけるわけもなく、大人しく連行されていく。
早く追い出されないかと願いながら。
キーナが去る後ろから声が聞こえてきて、思わず振り向いた。

「それでは、今日一番最初の子。今日来たばかりの正真正銘の初夜です!」

先程案内していた青年が、別の少年を横に立たせ、階下の人達によく見えるようにしている。
下からは、

「100だ!」
「200だ!」
「500!!」

などと競り合う声が聞こえてきた。
立たされた少年は、青い顔をして震えていた。

(震えて…)

苦々しく思いながらも、キーナはピンクの領主に連れられて行った。













一番端の部屋に入ると、しっかりと扉を閉められる。

「さあ、あたしの子羊ちゃん。まずは上着を脱ぎましょ」

と言って、キーナの胸元に手を伸ばしてくる。
キーナの全身に、南極ほどの悪寒が走り去る。

「フギャ――!!」

思わずおもっくそ力を込めて、肘鉄をお見舞いしてしまう。

ドゴン!

いい音を響かせ、ピンクの領主はズッデンと床に倒れた。
これ幸いと、キーナ部屋の隅まで超速で距離を取った。

「な、なんてこと…!」

鼻に当たったのか、鼻血をボタボタたらしながら、ピンクの領主が起き上がる。
部屋の隅でガタガタと震えるキーナ。

「とんだじゃじゃ馬だわ」

流れ出る鼻血を拭きつつ、ピンクの領主がキーナに近づき、その腕を取る。

「いらっしゃい」
「いやああ!」

目一杯暴れるキーナだったが、手に枷があり、一応領主様も男であり力があるので、抵抗虚しく引き摺られて行ってしまう。
ベッドの上に乗せられ、手かせに付けられた輪に、鎖がはめ込まれる。
真ん中の鍵穴に鍵を入れて捻ると、枷が真ん中から分かれた。
鎖の長さを調節し、キーナは両手を広げたまま、身動きが取れなくなってしまった。

「…う…ぬ」

さすがにこの状況では、一応腰元に忍ばせてきたドロボウ七つ道具も使えない。

「ホホホホホ。ふふ、これで動けないわよ」

そう言ってピンクの領主がキーナの上から覗き込んできた。
そのあまりの気持ち悪さに、

「う…、フンギ――!!」

と思わず左足を思い切り振り上げてしまう。
そして上手い具合にピンクの領主の頭にその足が当たった。

「ぶへっ」

無様な声を出し、ピンクの領主がキーナの上に倒れ込んできた。
攻撃の方向を考えれば当然だ。
キーナの顔の横に、ピンクの領主の顔が落ちてきた。
考えていなかった状況に、体が強ばるキーナ。ついでに鳥肌MAX。

「…っの…、このガキィ!!」

ピンクの領主がさすがにぶち切れたのか、手をついて身を起こす。
ところがその手をついた所が問題だった。

「ニャ―――!!」

キーナの胸だった。

「ムニュ?」

その柔らかさに、一瞬止まるピンクの領主。
確かめるように2、3度モミモミ。
キーナの顔が青ざめた。
ピンクの領主の顔も青ざめた。

「イ…」
「きゃああああああああ!!!!」
「やぁぁぁ…あ?」

キーナの悲鳴はピンクの領主の悲鳴で掻き消された。
超速でベッドの端まで逃げ、天蓋の柱に縋り付く。

「む…、胸…、胸が…、小さいけど胸がある!」
「小さいは余計じゃ!!」

キーナ思わず突っ込んでしまった。

「ま、ままま、まささか…、女の子ぉ!!」
「そーです」

失敬な奴だなと睨み返すキーナ。
ピンクの領主の顔は青ざめたまま。

「イヤアアアアア! なんで女なんかいるのよぉ! どっか行ってえええぇぇぇ!!」

とギャーギャー喚きだした。

「なら外せ」

キーナの突っ込みも聞こえていないらしい。

と、

「アラ?」

ふとピンクの領主気付いた。

「変ねぇ。じんましんが出ないわ?」

と自分の手を眺めている。
早く外してくれないかな?とキーナがピンクの領主を眺めていると、何やらピンクの領主の目つきが変わってきた。
チラリとキーナを見ると、

「あなた本当に女?」

と失礼な事を聞いてきた。

「今触ったでしょう!!」

触って悲鳴を上げてたのはどこのどいつだ。
ピンクの領主が再び自分の手を見る。

「女なのに…、じんましんが出ない…?」

と何やら呟いている。
チラリとキーナを見る。
頭から足の先まで。

「見た目は少年だし…」

ぺろりと舌舐めずりし始める。

「何か、新しい趣向を試したいとは思っていた所なのよね…」

ジリジリとキーナに近づいて来る。
再びキーナの体を氷河期の極寒と、鳥肌MAXの悪寒が走る。

「女なんて好きじゃないけど…」

だったら近づいて来るな―!と心で悪態を吐くが、両手は動かない身動き取れない。気持ち悪すぎて声も出てこない。
ピンクの領主がキーナの膝に手をかける。
その手の感触がまた気持ちが悪い。必死に力に抗い、膝を開かせまいとする。

「ちょっとくらい試してみても…、面白いわよね♡」

男の力にはやはり叶わない。
必死で抗うも、少しずつ膝は開かれ、ピンクの領主が体を入れてくる。

「イ…イヤアアアアア!」

あまりの悍ましさに、キーナは悲鳴を上げた。
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