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とある街にて
過去との邂逅
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その頃、
「ルルンルンルンルン♪」
とある路地を、キーナが鼻歌混じりに歩いていた。
「ホヨ?」
ふと後ろを振り向くと、あれだけしつこく付いてきていたサーガの姿がない。
「アリ? 付いてきてると思ったのに」
とキョロキョロ。
「んもう、目を離すとすぐどっか行っちゃうんだから!」
お前がな。
サーガが聞いたら怒りそうな台詞だ。
「…んで、ココハドコカシラ?」
おいおい…。
面白そうだと飛び込んだ裏路地。
確かにこういう裏路地は変に入り組んでいたりしていて、歩いてみると面白いものがあったりするけれども。
しかしここは平和な日本ではない。
裏路地はそれだけ危険が増す。
それをこやつはいい加減学習しない。
「まあ道は繋がってるんだし、何れ何処かに辿り着くっしょ」
とまたフンフン鼻歌を歌いながら歩き始めた。
すると横から、
「お嬢ちゃん」
と声を掛けられた。
「ニュ?」
もちろんお嬢ちゃんであるキーナは反応し、そちらに視線を向けた。
これで坊ちゃんと呼ばれていたら、多分反応はしなかったであろう。
するとそこには、赤い服を着て、簡単なマントを羽織った、赤茶けた少し長い髪を後ろで一つに縛った、青年が立っていた。
人の良さそうな笑みを浮かべ、
「こんな所で一人で歩いていたら危ないよ?」
とキーナに語りかける。
「ニュ?」
キーナはその青年をじぃぃぃぃ……と、少し失礼なくらいじーっと見つめる。
あまりにじーっと見つめられ、冷や汗を掻きながら、青年が尋ねる。
「ど、どうかした?」
「お兄さん、前に何処かであった?」
キーナの問いに、何故かギクリとなる青年。
「い、いや、まさか。君のような可愛い子、一度会ったら忘れないよ」
「そうそれ!」
どれ?
「どうして僕が女の子だって分かったの?」
言ってて虚しくならないか?
ところが、明らかにギクリとなる青年。
「や、その、どっからどう見ても、女の子にしか見えないよ?」
と苦し紛れに言い訳。
「フニュ?」
あまりに男の子に間違えられる事が多かったキーナ。
青年の言動に少しばかり違和感を感じる。
そしてまたじいいぃぃぃぃ……と見つめる。
タジタジとなる青年。
「ま、いっか」
特に悪意も感じないし、それならばとっくに手にかけているだろうし。今までの経験からして。
コラコラ。自覚あるんかい。
特に害意もなさそうだし、まあいいかとまた歩き出す。
明らかにほっとする青年。
(まあ、初めて会った時は、男の子と間違えてしまったのだがね…)
やはり何かを隠している。
歩き出したキーナの背中に、
「こんな裏通りを歩いていると危ないよ。表通りまで送ってあげるから…」
と声をかけると、
「少しくらいなら話している暇もあると思うわよ。レオちゃん」
明らかに今までのキーナとは違う口調で、キーナが答えた。
ハッとなる青年。
「まさか…、ミリヤ?」
キーナが振り向いた。
しかし、その顔はいつものキーナではなく、少し大人びたような表情をしていた。
「久しぶりね。元気だった? レオちゃん」
そう言ってにっこり笑った。
一瞬の事だ。
そんなに遠くへは行っていないだろう。
そう思って近くを片っ端から探し回ったが、キーナの姿は何処へ隠れたのか、見つからなかった。
路地を片っ端から探し回るしかない。
サーガは頭を抱えた。
顔を上げ、建物と建物の壁を交互に蹴って飛び上がり、少し高い建物の屋上へと上がる。
「ったく! 毎度毎度手間かけさせやがって~~~…、あんにゃろう!!」
風を繰り、路地を探し始めた。
「まさか本当にまた会えるとは思ってなかったわ」
側に置かれていた箱に座り、キーナとその青年、レオナルド・ラオシャスが話していた。
「俺もだよ」
今その顔に、髭はない。
髭のないその顔は、24、5歳くらいの青年にしか見えなかった。
『長き時の果てに、また会う事もあるかもね…』
そう言っていた事が、本当に実現するとは。
レオにとっては嬉しいような嬉しくないようなことだった。
時の牢獄に閉じ込められ、終わりの来ない変わらない毎日。
「また、力を使ったのね」
「ああ…」
研究は続けていた。
いけないと分かっていても、その力を必要とする時があるかもしれないからと。
色々な可能性を信じ、色んな方面から真理を探った。
だが結果は…、今の通り。
「仕方なかったのは分かるけど、あまり入りすぎると、他の三人からも置いてけぼりをくらうわよ」
他の三人。
そう聞いてレオは目を閉じて、組んでいた両手に額を乗せた。
「…さすがに、それはきついな~…」
これ以上置いて行かれるのは辛い。
「本当~に相変わらずね」
キーナ、もといミリヤが溜息を吐いた。
「ん?」
風を繰るサーガの瞳が険しくなる。
「なんだ?」
意識を尖らす。
「風の流れが…、おかしい?」
いつもと感じ方の違う場所に気付いた。
「あら? さすがは風の子。優秀だわ」
ミリヤが顔を上げる。
「そのようだね」
レオも顔を上げた。
時間稼ぎに留めていた風達が動き出す。
「あらあ? 分かるう? さすがは大魔道士様でありますこと」
「君も変わらないね」
茶化すような口ぶりに、懐かしさを覚える。
「一つくらいなら、あなたの疑問にも答えてあげられるわよ」
その言葉に、レオがふっと笑う。
「そうだな…」
レオが問いを口にした。
ミリヤは、その問いに、少し困った顔をした。
「あの辺り、あの辺りを中心に…、風の流れがおかしい!」
サーガが屋上から飛び出した。
「それじゃ、レオちゃん。今度は向こうで会えるといいわね」
そう言うと、ミリヤはレオの手を握った。
「ああ…」
レオもミリやの、今はキーナの手を握り返した。
「ああ、最後に一つ。彼《・》については、私の手引きというわけではないからね」
「え?」
彼とはなんのことか、と問いかける前に、キーナの瞳が閉じ、すや~と倒れ始める。
「えええええ?!」
慌ててキーナを支える。
「相変わらず…、謎めいた言葉を残していくんだね…」
昔会っていた時も、何かしら謎めいた言葉を残して去って行った彼女。
その言葉にどれだけ振り回された事か…。
まあ役に立った事もあるけれど。
「ムニュウ…。ふにゃ?」
キーナが目を開けた。
「大丈夫かい? お嬢ちゃん」
レオ、もとい謎の青年がキーナに笑いかける。
キーナが目を大きく開いた。
「おじいさん!」
青年がビクッとなる。
「に似てるんだ」
と一人納得し、うんうんと頷くキーナ。
バレたのか? いや、バレてない?
キーナの天然っぷりに、自分の正体がバレたのかとヒヤヒヤの青年。
バレてもいいけれども、この姿で行動している事を、できれば公にはしたくない。
どうしたものかとヒヤヒヤしていると、上空から風が押し寄せてきた。
「!」
明らかに青年を狙っている。
青年は風を繰り、その風の束をいくつもに切り分け、霧散させた。
上空に浮かびながら、それを放ったサーガが驚く。
(俺の風をいなした?! 何者だあいつ?!)
サーガは素早く地上へと降り立った。
「オーガ…」
サーガの姿を見て、呆然と青年が呟いた。
小さな小さな声で。
キーナにやっと届くくらいの声で。
(オーガ? あれはサーガなのに?)
誰と間違えているのだろう?
「おいてめえ!」
臨戦態勢のまま、サーガが青年を睨み付ける。
「何者だ?!」
再び風を繰ろうとするが、
「サーガ待って」
キーナが手を上げて、サーガを止める。
(サーガ…?)
青年がはっとなる。
目の前に居る少年は、とても懐かしい顔立ちをしているが、自分が知っている人物よりも、背が低かった。
背が低かったのだ。
「いきなり攻撃仕掛けてくるなんて失礼でしょ! この人は僕の事を助けてくれてたのよ!」
と怒り出すキーナ。
(相変わらず人を疑わんやっちゃな~)
人が良さそうに見せかけて連れて行かれる…。
以前にもあったことだと思うけれど…。
どうにもキーナは危機意識が低い。
と、青年が一歩前に出て、
「き、君、サーガ君と言うのかい? 君の父上と母上の名は?」
と問いかけた。
「あ?」
いきなり人の両親の名を聞かれ、不審な眼差しを向ける。
「いや、その…。君にそっくりな人と昔会った事があって…、父上かもしれないと…。世話になったんでね、礼が言いたいんだよ」
と慌てて取り繕う青年。
疑わしげな目をして青年を睨むサーガ。
とりあえず笑って誤魔化そうとする青年。
「そりゃ無理な話だ」
少し警戒を解き、サーガが答える。
「二人共17年前に死んでる」
サーガの年齢は今17歳。
ということは…。
「親父はオーガっつったっけ。俺が生まれる時、戦場で死んだ。母親はサラだったかな。俺を産み落として死んだ。っても、村の場所が分かんない今じゃ。生きてても会うのは難しいけどな」
平然と話すサーガに、キーナが心配そうに寄ってくる。
「んな顔すんなボケ。俺の村じゃ珍しい事じゃねーよ」
とデコピン。
「ニュ」
傭兵の村であったサーガの村。
父親が戦場で死ぬ事も、母親が病で亡くなる事も珍しくは無かった。
片親がいない、両親がいないことも珍しく無かったのだ。
青年が口元に手を当て、何か考え込んでいる。
「そうか…。あの二つの墓石は…、そういうことか…」
その呟きはサーガの耳にも届いた。
「おいあんた」
「え?」
「親父とはどこで会ったんだ?」
自分の親を知る謎の青年。
サーガが少し興味を持って問いかける。
青年は少し遠くを見るような、懐かしい顔をして、
「ああ…。彼とは、一度戦場で手合わせしたことがある…。強い男だった」
脳裏に浮かぶ青年の笑顔。
屈託のない、子供のような無邪気な笑顔。
青年にとって、レオにとって、忘れられない男の一人。
そんな回想めいている間に、サーガが不思議そうな顔をして、なにやら考えている。
「あんた、年はいくつだ?」
青年がギクリとなる。
明らかに顔にしまったと書いてある。
「どー見ても30いってるようには見えないが…」
と青年をじろじろと眺め回す。
戦場に出る年はおおよそ15歳から。
成長が早ければ13歳で出ることもあるかもしれないが…。
それに17年を足せば…、どういっても30歳はいってなければおかしい。
しかし、目の前の青年はどう見ても20代前半。
30過ぎだというならかなりの若作りであると言える。
「お若いですねとよく言われるよ…」
としどろもどろの青年。
キーナとサーガの不審の眼差しが強くなり…。
「それじゃ、私はこれで」
そう言ってその場から逃げた。
信じられない早さで。
あっという間にその姿は見えなくなった。
「逃げた…」
「だね」
ポカンとそれを見送った二人。
まあとりあえず何もなかったのだからいいかと、サーガが溜息。
「お前もなぁ、勝手にフラフラと行くなよ」
「フラリフラリコフラリンコ」
フラリ三段活用。
いや、違くて。
「反省してねーだろ!!」
「うっきゃきゃ~い」
また追いかけっこが始まった。
懲りない奴らだ。
その姿をとある建物の上から、青年、レオが、冷や汗を拭きながら見ていた。
「危ない危ない。うっかり口が滑った。ミリヤのせいか?」
ほっと溜息。
『彼については…』
彼女の言葉を思い出す。
「彼…ね。本当にビックリだよ。オーガ…。君にそっくりだな。背は足りないけど。君は、命を繋げる事ができたんだね…。羨ましいよ…」
少し寂しそうに呟くと、静かにその場から姿を消した。
下では、キーナとサーガが、そろそろ飯の時間だから帰ろうと、暢気に話していた。
「ルルンルンルンルン♪」
とある路地を、キーナが鼻歌混じりに歩いていた。
「ホヨ?」
ふと後ろを振り向くと、あれだけしつこく付いてきていたサーガの姿がない。
「アリ? 付いてきてると思ったのに」
とキョロキョロ。
「んもう、目を離すとすぐどっか行っちゃうんだから!」
お前がな。
サーガが聞いたら怒りそうな台詞だ。
「…んで、ココハドコカシラ?」
おいおい…。
面白そうだと飛び込んだ裏路地。
確かにこういう裏路地は変に入り組んでいたりしていて、歩いてみると面白いものがあったりするけれども。
しかしここは平和な日本ではない。
裏路地はそれだけ危険が増す。
それをこやつはいい加減学習しない。
「まあ道は繋がってるんだし、何れ何処かに辿り着くっしょ」
とまたフンフン鼻歌を歌いながら歩き始めた。
すると横から、
「お嬢ちゃん」
と声を掛けられた。
「ニュ?」
もちろんお嬢ちゃんであるキーナは反応し、そちらに視線を向けた。
これで坊ちゃんと呼ばれていたら、多分反応はしなかったであろう。
するとそこには、赤い服を着て、簡単なマントを羽織った、赤茶けた少し長い髪を後ろで一つに縛った、青年が立っていた。
人の良さそうな笑みを浮かべ、
「こんな所で一人で歩いていたら危ないよ?」
とキーナに語りかける。
「ニュ?」
キーナはその青年をじぃぃぃぃ……と、少し失礼なくらいじーっと見つめる。
あまりにじーっと見つめられ、冷や汗を掻きながら、青年が尋ねる。
「ど、どうかした?」
「お兄さん、前に何処かであった?」
キーナの問いに、何故かギクリとなる青年。
「い、いや、まさか。君のような可愛い子、一度会ったら忘れないよ」
「そうそれ!」
どれ?
「どうして僕が女の子だって分かったの?」
言ってて虚しくならないか?
ところが、明らかにギクリとなる青年。
「や、その、どっからどう見ても、女の子にしか見えないよ?」
と苦し紛れに言い訳。
「フニュ?」
あまりに男の子に間違えられる事が多かったキーナ。
青年の言動に少しばかり違和感を感じる。
そしてまたじいいぃぃぃぃ……と見つめる。
タジタジとなる青年。
「ま、いっか」
特に悪意も感じないし、それならばとっくに手にかけているだろうし。今までの経験からして。
コラコラ。自覚あるんかい。
特に害意もなさそうだし、まあいいかとまた歩き出す。
明らかにほっとする青年。
(まあ、初めて会った時は、男の子と間違えてしまったのだがね…)
やはり何かを隠している。
歩き出したキーナの背中に、
「こんな裏通りを歩いていると危ないよ。表通りまで送ってあげるから…」
と声をかけると、
「少しくらいなら話している暇もあると思うわよ。レオちゃん」
明らかに今までのキーナとは違う口調で、キーナが答えた。
ハッとなる青年。
「まさか…、ミリヤ?」
キーナが振り向いた。
しかし、その顔はいつものキーナではなく、少し大人びたような表情をしていた。
「久しぶりね。元気だった? レオちゃん」
そう言ってにっこり笑った。
一瞬の事だ。
そんなに遠くへは行っていないだろう。
そう思って近くを片っ端から探し回ったが、キーナの姿は何処へ隠れたのか、見つからなかった。
路地を片っ端から探し回るしかない。
サーガは頭を抱えた。
顔を上げ、建物と建物の壁を交互に蹴って飛び上がり、少し高い建物の屋上へと上がる。
「ったく! 毎度毎度手間かけさせやがって~~~…、あんにゃろう!!」
風を繰り、路地を探し始めた。
「まさか本当にまた会えるとは思ってなかったわ」
側に置かれていた箱に座り、キーナとその青年、レオナルド・ラオシャスが話していた。
「俺もだよ」
今その顔に、髭はない。
髭のないその顔は、24、5歳くらいの青年にしか見えなかった。
『長き時の果てに、また会う事もあるかもね…』
そう言っていた事が、本当に実現するとは。
レオにとっては嬉しいような嬉しくないようなことだった。
時の牢獄に閉じ込められ、終わりの来ない変わらない毎日。
「また、力を使ったのね」
「ああ…」
研究は続けていた。
いけないと分かっていても、その力を必要とする時があるかもしれないからと。
色々な可能性を信じ、色んな方面から真理を探った。
だが結果は…、今の通り。
「仕方なかったのは分かるけど、あまり入りすぎると、他の三人からも置いてけぼりをくらうわよ」
他の三人。
そう聞いてレオは目を閉じて、組んでいた両手に額を乗せた。
「…さすがに、それはきついな~…」
これ以上置いて行かれるのは辛い。
「本当~に相変わらずね」
キーナ、もといミリヤが溜息を吐いた。
「ん?」
風を繰るサーガの瞳が険しくなる。
「なんだ?」
意識を尖らす。
「風の流れが…、おかしい?」
いつもと感じ方の違う場所に気付いた。
「あら? さすがは風の子。優秀だわ」
ミリヤが顔を上げる。
「そのようだね」
レオも顔を上げた。
時間稼ぎに留めていた風達が動き出す。
「あらあ? 分かるう? さすがは大魔道士様でありますこと」
「君も変わらないね」
茶化すような口ぶりに、懐かしさを覚える。
「一つくらいなら、あなたの疑問にも答えてあげられるわよ」
その言葉に、レオがふっと笑う。
「そうだな…」
レオが問いを口にした。
ミリヤは、その問いに、少し困った顔をした。
「あの辺り、あの辺りを中心に…、風の流れがおかしい!」
サーガが屋上から飛び出した。
「それじゃ、レオちゃん。今度は向こうで会えるといいわね」
そう言うと、ミリヤはレオの手を握った。
「ああ…」
レオもミリやの、今はキーナの手を握り返した。
「ああ、最後に一つ。彼《・》については、私の手引きというわけではないからね」
「え?」
彼とはなんのことか、と問いかける前に、キーナの瞳が閉じ、すや~と倒れ始める。
「えええええ?!」
慌ててキーナを支える。
「相変わらず…、謎めいた言葉を残していくんだね…」
昔会っていた時も、何かしら謎めいた言葉を残して去って行った彼女。
その言葉にどれだけ振り回された事か…。
まあ役に立った事もあるけれど。
「ムニュウ…。ふにゃ?」
キーナが目を開けた。
「大丈夫かい? お嬢ちゃん」
レオ、もとい謎の青年がキーナに笑いかける。
キーナが目を大きく開いた。
「おじいさん!」
青年がビクッとなる。
「に似てるんだ」
と一人納得し、うんうんと頷くキーナ。
バレたのか? いや、バレてない?
キーナの天然っぷりに、自分の正体がバレたのかとヒヤヒヤの青年。
バレてもいいけれども、この姿で行動している事を、できれば公にはしたくない。
どうしたものかとヒヤヒヤしていると、上空から風が押し寄せてきた。
「!」
明らかに青年を狙っている。
青年は風を繰り、その風の束をいくつもに切り分け、霧散させた。
上空に浮かびながら、それを放ったサーガが驚く。
(俺の風をいなした?! 何者だあいつ?!)
サーガは素早く地上へと降り立った。
「オーガ…」
サーガの姿を見て、呆然と青年が呟いた。
小さな小さな声で。
キーナにやっと届くくらいの声で。
(オーガ? あれはサーガなのに?)
誰と間違えているのだろう?
「おいてめえ!」
臨戦態勢のまま、サーガが青年を睨み付ける。
「何者だ?!」
再び風を繰ろうとするが、
「サーガ待って」
キーナが手を上げて、サーガを止める。
(サーガ…?)
青年がはっとなる。
目の前に居る少年は、とても懐かしい顔立ちをしているが、自分が知っている人物よりも、背が低かった。
背が低かったのだ。
「いきなり攻撃仕掛けてくるなんて失礼でしょ! この人は僕の事を助けてくれてたのよ!」
と怒り出すキーナ。
(相変わらず人を疑わんやっちゃな~)
人が良さそうに見せかけて連れて行かれる…。
以前にもあったことだと思うけれど…。
どうにもキーナは危機意識が低い。
と、青年が一歩前に出て、
「き、君、サーガ君と言うのかい? 君の父上と母上の名は?」
と問いかけた。
「あ?」
いきなり人の両親の名を聞かれ、不審な眼差しを向ける。
「いや、その…。君にそっくりな人と昔会った事があって…、父上かもしれないと…。世話になったんでね、礼が言いたいんだよ」
と慌てて取り繕う青年。
疑わしげな目をして青年を睨むサーガ。
とりあえず笑って誤魔化そうとする青年。
「そりゃ無理な話だ」
少し警戒を解き、サーガが答える。
「二人共17年前に死んでる」
サーガの年齢は今17歳。
ということは…。
「親父はオーガっつったっけ。俺が生まれる時、戦場で死んだ。母親はサラだったかな。俺を産み落として死んだ。っても、村の場所が分かんない今じゃ。生きてても会うのは難しいけどな」
平然と話すサーガに、キーナが心配そうに寄ってくる。
「んな顔すんなボケ。俺の村じゃ珍しい事じゃねーよ」
とデコピン。
「ニュ」
傭兵の村であったサーガの村。
父親が戦場で死ぬ事も、母親が病で亡くなる事も珍しくは無かった。
片親がいない、両親がいないことも珍しく無かったのだ。
青年が口元に手を当て、何か考え込んでいる。
「そうか…。あの二つの墓石は…、そういうことか…」
その呟きはサーガの耳にも届いた。
「おいあんた」
「え?」
「親父とはどこで会ったんだ?」
自分の親を知る謎の青年。
サーガが少し興味を持って問いかける。
青年は少し遠くを見るような、懐かしい顔をして、
「ああ…。彼とは、一度戦場で手合わせしたことがある…。強い男だった」
脳裏に浮かぶ青年の笑顔。
屈託のない、子供のような無邪気な笑顔。
青年にとって、レオにとって、忘れられない男の一人。
そんな回想めいている間に、サーガが不思議そうな顔をして、なにやら考えている。
「あんた、年はいくつだ?」
青年がギクリとなる。
明らかに顔にしまったと書いてある。
「どー見ても30いってるようには見えないが…」
と青年をじろじろと眺め回す。
戦場に出る年はおおよそ15歳から。
成長が早ければ13歳で出ることもあるかもしれないが…。
それに17年を足せば…、どういっても30歳はいってなければおかしい。
しかし、目の前の青年はどう見ても20代前半。
30過ぎだというならかなりの若作りであると言える。
「お若いですねとよく言われるよ…」
としどろもどろの青年。
キーナとサーガの不審の眼差しが強くなり…。
「それじゃ、私はこれで」
そう言ってその場から逃げた。
信じられない早さで。
あっという間にその姿は見えなくなった。
「逃げた…」
「だね」
ポカンとそれを見送った二人。
まあとりあえず何もなかったのだからいいかと、サーガが溜息。
「お前もなぁ、勝手にフラフラと行くなよ」
「フラリフラリコフラリンコ」
フラリ三段活用。
いや、違くて。
「反省してねーだろ!!」
「うっきゃきゃ~い」
また追いかけっこが始まった。
懲りない奴らだ。
その姿をとある建物の上から、青年、レオが、冷や汗を拭きながら見ていた。
「危ない危ない。うっかり口が滑った。ミリヤのせいか?」
ほっと溜息。
『彼については…』
彼女の言葉を思い出す。
「彼…ね。本当にビックリだよ。オーガ…。君にそっくりだな。背は足りないけど。君は、命を繋げる事ができたんだね…。羨ましいよ…」
少し寂しそうに呟くと、静かにその場から姿を消した。
下では、キーナとサーガが、そろそろ飯の時間だから帰ろうと、暢気に話していた。
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渡里あずま
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出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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