172 / 296
出会い
出会い
しおりを挟む
朝、目が覚めて、いつもの脇に、いつもの奴がいない。
それが当たり前で、普通で、安心できる状況のはずなのに…。
テルディアスは上半身を起こし、爽やかな朝の光が部屋を照らす中、頭を抱えた。
当たり前であるはずのこの状況に、違和感を感じるようになってきてしまっていることに…。
「じゃ、俺は用はねーな」
キーナが女の子の事情で動けなくなったことを知ると、サーガは早速鎧を脱ぎ捨て身軽になり、
「遊び…、じゃなくて情報収集に行ってきま~す」
とルンルンと出かけていった。
遊びってはっきり言ったよね?
メリンダはサーガの背中を睨み付けて見送った。
「じゃ、俺も行ってくる」
「はいはい」
キーナの様子を見てから、テルディアスも情報収集に行こうと、メリンダに声をかけた。
その背中を見て、メリンダが声をかける。
「あんたも少しは羽目を外して来たら?」
テルディアスがずっこけた。
「奴と一緒にするな!!!!」
「ハイハイ」
プリプリと怒りながら、テルディアスも出かけていった。
(真面目なのはいいけど…、そういう奴に限って、いろいろ心配なのよね~)
真面目なのはいい。紳士的なのもいい。
ただ、そういうお年頃なのに、興味も示さないのはちょっと…。
しかも戦闘に身を置く者としては、そちらも発散させないといけないはずなのだけれど…。
まあ、テルディアスのことだから、女性に乱暴はしないだろう…、と思うけれど、溜まりに溜まったものがいつか爆発するのではないかと、メリンダちょっぴり心配であった。
見てない所でちゃんと自主的に発散させているのだろうか?
なんだかテルディアスだとそういう事も想像がつかず、メリンダは首を傾げながら、部屋に戻った。
男性の場合、自主的に発散させることもしないと、病気になってしまうと聞いたことがあるので。
女と違って大変だ。
最悪、無理矢理にでも発散させてやろうかなどとメリンダが考えていると、
「ごめんねぇ、メリンダさん…」
ベッドの方から弱々しい声が聞こえてきた。
「気にしなくていいのよ、キーナちゃん」
向かいのベッドに腰掛けて、借りてきた本をメリンダは開く。
「あたしもまだ地底宮の疲れが取れてないし、いい骨休めだわ」
「ふにゃぁ…」
キーナが動けないので、メリンダがそのお世話のために残ったのである。
キーナは、自分のせいで皆が足止めをくらい、しかもメリンダは部屋に缶詰状態になってしまったことに、申し訳なく思うのであった。
しかし、こればかりは体が言うことを聞いてくれないので、仕方がない。
とにかく痛みを忘れるため、キーナは眠ってしまおうと布団を被り直した。
街中を歩くテルディアスの元に、警備兵が2人近寄ってきた。
「お顔を拝見できますか?」
「は?」
テルディアスの格好は、もちろん、いつものフードにマント。
顔が見えないようにフードを目深に被り、口元にはマスク。
長く伸ばした前髪で、ほぼ顔は見えないようになっている。
不審者に見られても可笑しくはない格好ではあった。
「いやなに、隣の町で、連続殺人をしでかした凶悪な奴がこの街に来たらしいという情報がありまして、皆様に確認させて頂いてるんですよ」
と、一枚の指名手配紙を見せてきた。
そこに描かれている肖像画は、テルディアスとは似ても似つかない、丸顔の団子鼻、目が小さくて目つきの悪い、青みがかった黒髪の男であった。
まあ、髪の色はどうとでも変えられてしまうので、あまり関係ないかもしれない。
が、絶対に違う。
断じて人違いである。
なのではあるが、テルディアスは絶対に人に顔を晒す訳にはいかないわけでありまして。
顔を見せたら違う騒動が巻き起こり、今動けないキーナ達も巻き込まれてしまう危険性もありまして。
いくら口で「違う」と言っても、顔を見せなければ納得されないであろう。
となると、取る手段はただ一つ。
逃げた。
ダッシュで。
「逃げた?!」
突然ダッシュで逃げ出したテルディアスを、警備兵達が追いかける。
「待て――!!」
この時点で、警備兵達にとっては、テルディアスは犯人であると確定されてしまったのであった。
人違いなのに。
うまく建物の陰を利用して、上空に飛び、屋上に身を隠す。
路地を覗き込んだ警備兵達が舌打ちする。
「しまった…。逃がした…」
先の曲がり角も一応覗いて確認するも、どちらへ行ったのか検討がつかなくなってしまった。
「緊急配備だ! 灰色のフードにマントの長身の人物!」
「おう!」
一人が報告しに行くのか、通りに向かって駆け出していった。
残った一人は路地を警戒しながら進んで行った。
それを屋上から覗き見していたテルディアスは、こっそりと溜息を吐いた。
「まずいことになった…」
コンコン
本を読んでいたメリンダが顔を上げた。
なんだか窓の方から音がする。
コンコン
振り向いて目を剥いた。
「テルディアス?!」
窓の外に、テルディアスが浮かんでいた。
慌てて窓を開けてやる。
「なんで窓から?!」
「実は…、困ったことが…」
窓からのっそり入って来たテルディアスが、今し方あったことを簡単に説明した。
「ブッ…」
ククク…とメリンダが肩を震わせる。
「おい」
人が困っているのに笑っている場合ではない。
が、ベッドの方からも、くっくっく…と小さく声が聞こえてくる。
「キーナまで…」
テルディアス、ちょっぴり傷ついた。
「ゴメンゴメン、大丈夫よ。外を歩けるようにしたいんでしょ?」
今のままでは外を歩けない。となると、
「あたしにまっかせなさ~い!」
メリンダが胸を叩いた。
数分後、化粧を施し、服も着替えたテルディアスが街中を歩いていた。
(落ち着かない…)
化粧をしているメリンダの生き生きした様と言ったら…。
何故男に化粧をするのにそんなに張り切るのか、テルディアスには分からない。
おまけに、どこかから服も借りてきて、
「服も借りてきたわ~。はい、それ脱いで着替えて! そのフードとマント、この街出るまで着用禁止ね!」
ひん剥かれそうになったのをなんとか阻止し、素直に着替えたらフードとマントを取り上げられた。
「自由に歩き回りたけりゃ、多少は我慢なさいっ」
と追い出されたのだった。
頭にはもちろん布を巻き、耳を隠している。
おまけに多少ではあるが髪も整えられ、いつもと違って視界が広がり、なんだか道行く人達の視線が痛い(実はほぼ女性の視線なのだが)。
(まあ、今は仕方ない…)
途中で先程の警備兵達と擦れ違ったが、今度は顔も隠していないせいか、声も掛けられなかった。
どうやら彼らは先程までのテルディアスを探しているようである。
彼らがちゃんと凶悪犯を見つけられるように、祈るしかない。
窓辺に立って外を見たその人物は、女性達の視線を集めながら道行くその男の姿を見て、驚きの声を漏らした。
「あれは…」
メリンダがふと顔を上げると、キーナはすやすやと眠っていた。
生理中はいつもより体が重くて眠気も倍増されるので、薬の効き目も待たずにキーナは眠ったようであった。
その寝顔を見て微笑みながら、メリンダは読んでいた本をぱたりと閉じる。
(キーナちゃんも寝入ったし、しばらくは起きないだろうし、あたしもちょっと買い物行ってくるかな~? テルディアスの服も借りっぱってなわけにはいかないしね~)
そして、そっと、その腰の革袋に入れていた鉱石に触れる。
(ついでにコレ、いくらになるか聞きに行ってみたいし~)
とにやりと笑う。
キーナの為にも、お金、資金は必要だ。
特に生理中などは野宿ではなく、宿屋のベッドに寝かせてあげたいし。
お金がなくて野宿なんて、そんな悲しいことキーナにはさせられない。
音を立てないようにメリンダはそっと部屋を出て行く。
(ちょっと行ってくるわね~)
心の中でキーナに声を掛け、静かにドアを閉めた。
メリンダの足音が部屋から離れて行った後、その部屋の窓の外から部屋の中を窺う、小さな影が動いた。
「テルディアス様?」
足早に歩いていたテルディアスに声を掛けてきた者がいた。
「テルディアス様でいらっしゃいますか?」
声を掛けてきた男をチラリと見るが、特に怪しい気配はなかった。
一見、従者のような出で立ちをしている。
「何者だ? 何故俺を知っている?」
警戒しながら、問いかける。
一応そこそこ名が売れていることは自覚している。
3年の月日が経っているとは言え、テルディアスの顔を知っている者がいてもおかしくは無い。
「ああ、いえ、私ではなく、私の主人があなた様をよくご存じだと…」
(主人?)
どうやら見かけ通り、誰かの従者であるらしかった。
ボソボソと何かを喋っている声が聞こえ、キーナが薄く目を開くと、向かいのベッドに座っている人影が見えた。
本来ならば、そこにはボインの女性が座っているはずなのであるが、何故かそこに居たのは、年の頃5歳くらいか?の小さな男の子。
なにやらがっかりしたように、一人でボソボソ呟いている。
キーナが目を見開いた。
「あ」
男の子が気付く。
キーナが起き上がった。
「こりゃ失敬。起こしちった?」
男の子が済まなそうに頭をかいた。
「メ…」
キーナは自分の中で思った疑問を口に出して叫んだ。
「メリンダさんがちっさくなっちゃった!!」
んなわけあるかい。
男の子もベッドから転がり落ちそうになっていた。
その男に案内され、テルディアスはとある宿屋の一室に案内された。
扉を開けると、中で待っていた人物が、飛び上がるように立ち上がった。
「テルディアス?!」
嬉しそうにその人物は足早にテルディアスに近づいて来る。
「来てくれないかと思ったよ…」
少し安心したような、それでいてどこか不安そうな顔で、その人物はテルディアスを見つめた。
テルディアスもその人物の顔を見つめる。
自分とよく似た顔のその男。
テルディアスは深々と頭を下げて、挨拶をした。
「お久しぶりです。クラディウスさん」
その他人行儀な挨拶を受け、クラディウス、テルディアスの父親は、少し悲しそうな顔をした。
「あ、ああ…。久し、ぶりだ…」
目の前の男の子が、メリンダさんではないと納得したキーナが、次の質問を口にする。
「君は誰? どこから来たの?」
「おいらボン。そこの窓から来たの」
言っている事に間違いはない。
ニュアンスの違いはあるが。
しばし黙って見つめあう。
キーナの目つきが悪くなっていく。
まあ、寝ている間に黙って部屋に入ってこられたら、誰でも警戒するでしょう。
あれ? そういう本人が毎度やってる気が…。
ゲホゲホゲホン。
「で、何故ここにいる?」
ワントーン低くなったキーナの声を聞き、ボンが冷や汗を垂らす。
「あ~、ちょっと、人を探してて~」
元より隠す気もないのか、ペラペラと喋り始める。
「似た気配を追いかけてきたらここに着いたの。人違いだったけど」
「人捜し?」
「そ」
ボンがにっかりと笑う。
「君と同じ、異世界からの異邦人」
キーナの目が、驚きに見開かれた。
それが当たり前で、普通で、安心できる状況のはずなのに…。
テルディアスは上半身を起こし、爽やかな朝の光が部屋を照らす中、頭を抱えた。
当たり前であるはずのこの状況に、違和感を感じるようになってきてしまっていることに…。
「じゃ、俺は用はねーな」
キーナが女の子の事情で動けなくなったことを知ると、サーガは早速鎧を脱ぎ捨て身軽になり、
「遊び…、じゃなくて情報収集に行ってきま~す」
とルンルンと出かけていった。
遊びってはっきり言ったよね?
メリンダはサーガの背中を睨み付けて見送った。
「じゃ、俺も行ってくる」
「はいはい」
キーナの様子を見てから、テルディアスも情報収集に行こうと、メリンダに声をかけた。
その背中を見て、メリンダが声をかける。
「あんたも少しは羽目を外して来たら?」
テルディアスがずっこけた。
「奴と一緒にするな!!!!」
「ハイハイ」
プリプリと怒りながら、テルディアスも出かけていった。
(真面目なのはいいけど…、そういう奴に限って、いろいろ心配なのよね~)
真面目なのはいい。紳士的なのもいい。
ただ、そういうお年頃なのに、興味も示さないのはちょっと…。
しかも戦闘に身を置く者としては、そちらも発散させないといけないはずなのだけれど…。
まあ、テルディアスのことだから、女性に乱暴はしないだろう…、と思うけれど、溜まりに溜まったものがいつか爆発するのではないかと、メリンダちょっぴり心配であった。
見てない所でちゃんと自主的に発散させているのだろうか?
なんだかテルディアスだとそういう事も想像がつかず、メリンダは首を傾げながら、部屋に戻った。
男性の場合、自主的に発散させることもしないと、病気になってしまうと聞いたことがあるので。
女と違って大変だ。
最悪、無理矢理にでも発散させてやろうかなどとメリンダが考えていると、
「ごめんねぇ、メリンダさん…」
ベッドの方から弱々しい声が聞こえてきた。
「気にしなくていいのよ、キーナちゃん」
向かいのベッドに腰掛けて、借りてきた本をメリンダは開く。
「あたしもまだ地底宮の疲れが取れてないし、いい骨休めだわ」
「ふにゃぁ…」
キーナが動けないので、メリンダがそのお世話のために残ったのである。
キーナは、自分のせいで皆が足止めをくらい、しかもメリンダは部屋に缶詰状態になってしまったことに、申し訳なく思うのであった。
しかし、こればかりは体が言うことを聞いてくれないので、仕方がない。
とにかく痛みを忘れるため、キーナは眠ってしまおうと布団を被り直した。
街中を歩くテルディアスの元に、警備兵が2人近寄ってきた。
「お顔を拝見できますか?」
「は?」
テルディアスの格好は、もちろん、いつものフードにマント。
顔が見えないようにフードを目深に被り、口元にはマスク。
長く伸ばした前髪で、ほぼ顔は見えないようになっている。
不審者に見られても可笑しくはない格好ではあった。
「いやなに、隣の町で、連続殺人をしでかした凶悪な奴がこの街に来たらしいという情報がありまして、皆様に確認させて頂いてるんですよ」
と、一枚の指名手配紙を見せてきた。
そこに描かれている肖像画は、テルディアスとは似ても似つかない、丸顔の団子鼻、目が小さくて目つきの悪い、青みがかった黒髪の男であった。
まあ、髪の色はどうとでも変えられてしまうので、あまり関係ないかもしれない。
が、絶対に違う。
断じて人違いである。
なのではあるが、テルディアスは絶対に人に顔を晒す訳にはいかないわけでありまして。
顔を見せたら違う騒動が巻き起こり、今動けないキーナ達も巻き込まれてしまう危険性もありまして。
いくら口で「違う」と言っても、顔を見せなければ納得されないであろう。
となると、取る手段はただ一つ。
逃げた。
ダッシュで。
「逃げた?!」
突然ダッシュで逃げ出したテルディアスを、警備兵達が追いかける。
「待て――!!」
この時点で、警備兵達にとっては、テルディアスは犯人であると確定されてしまったのであった。
人違いなのに。
うまく建物の陰を利用して、上空に飛び、屋上に身を隠す。
路地を覗き込んだ警備兵達が舌打ちする。
「しまった…。逃がした…」
先の曲がり角も一応覗いて確認するも、どちらへ行ったのか検討がつかなくなってしまった。
「緊急配備だ! 灰色のフードにマントの長身の人物!」
「おう!」
一人が報告しに行くのか、通りに向かって駆け出していった。
残った一人は路地を警戒しながら進んで行った。
それを屋上から覗き見していたテルディアスは、こっそりと溜息を吐いた。
「まずいことになった…」
コンコン
本を読んでいたメリンダが顔を上げた。
なんだか窓の方から音がする。
コンコン
振り向いて目を剥いた。
「テルディアス?!」
窓の外に、テルディアスが浮かんでいた。
慌てて窓を開けてやる。
「なんで窓から?!」
「実は…、困ったことが…」
窓からのっそり入って来たテルディアスが、今し方あったことを簡単に説明した。
「ブッ…」
ククク…とメリンダが肩を震わせる。
「おい」
人が困っているのに笑っている場合ではない。
が、ベッドの方からも、くっくっく…と小さく声が聞こえてくる。
「キーナまで…」
テルディアス、ちょっぴり傷ついた。
「ゴメンゴメン、大丈夫よ。外を歩けるようにしたいんでしょ?」
今のままでは外を歩けない。となると、
「あたしにまっかせなさ~い!」
メリンダが胸を叩いた。
数分後、化粧を施し、服も着替えたテルディアスが街中を歩いていた。
(落ち着かない…)
化粧をしているメリンダの生き生きした様と言ったら…。
何故男に化粧をするのにそんなに張り切るのか、テルディアスには分からない。
おまけに、どこかから服も借りてきて、
「服も借りてきたわ~。はい、それ脱いで着替えて! そのフードとマント、この街出るまで着用禁止ね!」
ひん剥かれそうになったのをなんとか阻止し、素直に着替えたらフードとマントを取り上げられた。
「自由に歩き回りたけりゃ、多少は我慢なさいっ」
と追い出されたのだった。
頭にはもちろん布を巻き、耳を隠している。
おまけに多少ではあるが髪も整えられ、いつもと違って視界が広がり、なんだか道行く人達の視線が痛い(実はほぼ女性の視線なのだが)。
(まあ、今は仕方ない…)
途中で先程の警備兵達と擦れ違ったが、今度は顔も隠していないせいか、声も掛けられなかった。
どうやら彼らは先程までのテルディアスを探しているようである。
彼らがちゃんと凶悪犯を見つけられるように、祈るしかない。
窓辺に立って外を見たその人物は、女性達の視線を集めながら道行くその男の姿を見て、驚きの声を漏らした。
「あれは…」
メリンダがふと顔を上げると、キーナはすやすやと眠っていた。
生理中はいつもより体が重くて眠気も倍増されるので、薬の効き目も待たずにキーナは眠ったようであった。
その寝顔を見て微笑みながら、メリンダは読んでいた本をぱたりと閉じる。
(キーナちゃんも寝入ったし、しばらくは起きないだろうし、あたしもちょっと買い物行ってくるかな~? テルディアスの服も借りっぱってなわけにはいかないしね~)
そして、そっと、その腰の革袋に入れていた鉱石に触れる。
(ついでにコレ、いくらになるか聞きに行ってみたいし~)
とにやりと笑う。
キーナの為にも、お金、資金は必要だ。
特に生理中などは野宿ではなく、宿屋のベッドに寝かせてあげたいし。
お金がなくて野宿なんて、そんな悲しいことキーナにはさせられない。
音を立てないようにメリンダはそっと部屋を出て行く。
(ちょっと行ってくるわね~)
心の中でキーナに声を掛け、静かにドアを閉めた。
メリンダの足音が部屋から離れて行った後、その部屋の窓の外から部屋の中を窺う、小さな影が動いた。
「テルディアス様?」
足早に歩いていたテルディアスに声を掛けてきた者がいた。
「テルディアス様でいらっしゃいますか?」
声を掛けてきた男をチラリと見るが、特に怪しい気配はなかった。
一見、従者のような出で立ちをしている。
「何者だ? 何故俺を知っている?」
警戒しながら、問いかける。
一応そこそこ名が売れていることは自覚している。
3年の月日が経っているとは言え、テルディアスの顔を知っている者がいてもおかしくは無い。
「ああ、いえ、私ではなく、私の主人があなた様をよくご存じだと…」
(主人?)
どうやら見かけ通り、誰かの従者であるらしかった。
ボソボソと何かを喋っている声が聞こえ、キーナが薄く目を開くと、向かいのベッドに座っている人影が見えた。
本来ならば、そこにはボインの女性が座っているはずなのであるが、何故かそこに居たのは、年の頃5歳くらいか?の小さな男の子。
なにやらがっかりしたように、一人でボソボソ呟いている。
キーナが目を見開いた。
「あ」
男の子が気付く。
キーナが起き上がった。
「こりゃ失敬。起こしちった?」
男の子が済まなそうに頭をかいた。
「メ…」
キーナは自分の中で思った疑問を口に出して叫んだ。
「メリンダさんがちっさくなっちゃった!!」
んなわけあるかい。
男の子もベッドから転がり落ちそうになっていた。
その男に案内され、テルディアスはとある宿屋の一室に案内された。
扉を開けると、中で待っていた人物が、飛び上がるように立ち上がった。
「テルディアス?!」
嬉しそうにその人物は足早にテルディアスに近づいて来る。
「来てくれないかと思ったよ…」
少し安心したような、それでいてどこか不安そうな顔で、その人物はテルディアスを見つめた。
テルディアスもその人物の顔を見つめる。
自分とよく似た顔のその男。
テルディアスは深々と頭を下げて、挨拶をした。
「お久しぶりです。クラディウスさん」
その他人行儀な挨拶を受け、クラディウス、テルディアスの父親は、少し悲しそうな顔をした。
「あ、ああ…。久し、ぶりだ…」
目の前の男の子が、メリンダさんではないと納得したキーナが、次の質問を口にする。
「君は誰? どこから来たの?」
「おいらボン。そこの窓から来たの」
言っている事に間違いはない。
ニュアンスの違いはあるが。
しばし黙って見つめあう。
キーナの目つきが悪くなっていく。
まあ、寝ている間に黙って部屋に入ってこられたら、誰でも警戒するでしょう。
あれ? そういう本人が毎度やってる気が…。
ゲホゲホゲホン。
「で、何故ここにいる?」
ワントーン低くなったキーナの声を聞き、ボンが冷や汗を垂らす。
「あ~、ちょっと、人を探してて~」
元より隠す気もないのか、ペラペラと喋り始める。
「似た気配を追いかけてきたらここに着いたの。人違いだったけど」
「人捜し?」
「そ」
ボンがにっかりと笑う。
「君と同じ、異世界からの異邦人」
キーナの目が、驚きに見開かれた。
0
あなたにおすすめの小説
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから
渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。
朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。
「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」
「いや、理不尽!」
初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。
「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」
※※※
専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり)
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた
黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。
そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。
「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」
前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。
二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。
辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる