キーナの魔法

小笠原慎二

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狙われる御子編

東の果ての都

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暇な時は遊び回っていると思われているサーガであるが(実際遊んでもいるが)、実は人知れずしていることがある。
今日も振られたのか、事が済んだのか、とある街の酒場で、一人酒を飲んでいると、後ろの席の方の話が耳に届く。

「光の御子様がいるらしいって…」
「俺達もあやかりたいものだな!」
「光の御子様に会えたなら…」
「あんな願いとかこんな願いを…!」

徐に席を立つと、話をしている二人の男の席へと向かい、遠慮なしにどかりと席に座り込む。

「俺も聞いたぜ! 光の御子様の話!」

そう言いながら。

「なんだボーズ?」
「どんな話だ?」

男達は無遠慮にやって来たことなど構わず、新しい話を持って来たサーガの言葉に食いつく。
サーガはことさら秘密感を出すかのように口元に手を当て、少し声を落とす。

「ここだけの話、光の御子様を見たって奴の話なんだが…」
「フンフン!」

男達はサーガの言葉を聞き漏らすまいと、思わず顔を近づける。
サーガは少しもったいつけるように間を開けると、指を立て、言い放つ。

「なんでも、絶世の美女・・・・・らしい!!」
「おおお~~~」

男達が感嘆の溜息を吐く。
男であれば、美女と聞いて悪い気はしない。

「目も眩むような美人らしいぜ!」
「そいつは見てみたいな!」
「一度でいいから見たいなぁ…」

美人と言うことで、男達の話も盛り上がっていく。

(嘘は言ってないぞ。あの姿になればそれなりに美人だし)

何故か心の中で言い訳しつつ、サーガは光の御子様について、華美に脚色していくのであった。
何故こんなことをしているのかというと、偏にキーナの身の安全の為である。
まさか、光の御子とも呼ばれるべき存在が、少年のような格好をして、その辺りを歩いているとは思うまい…。

光の御子へのイメージを華美に盛り上げることにより、キーナ本人への注目を下げさせる。
これによりキーナは、今までも街中で特に注目を集めるでもなく、通り過ぎることができた。
どちらかというと、目立っていたのはフードにマントで全身をほぼ隠しているテルディアスの方だったりする。
もし光の御子だとバレたりしたら…。

「ったく、光の御子ったって、何でも願いを叶えてくれる万能の神じゃねーんだっつーの」

宿屋への道を辿りつつ、サーガが溜息を吐いた。
人の欲望は底が知れない。
なので、光の御子が現われたなどという噂が立っても、どうせ光の宮にいるのだろうとか、絶世の美女という話を真に受けて、キーナに気付く者はいなかった。
まさか少年のような格好をして、普通に街を歩いているとは思うまい。
本人としては、ただショートヘアの方が活動するのに楽だからというだけであって、少年の格好をしている気はないのだが。

そう、気付く者は、誰もいないはずだったのだ。


















国境や大きな街となると、お馴染み検問などがあったりするのである。
決して作者が書き忘れていた訳ではない。
最初二人旅の頃は、それほど大きな街に入らなかったということもあるのだ。
だからなのだ!
メリンダやサーガが仲間になって、ある程度誤魔化しが利くようになってからは入るようになった。
毎度ドキドキではあるが。

そして、辿り着いたこの街、東の未開地域に隣接しているこの国の、王都でもあるこの街に、一行は入ろうとしているのであるが。
何やら検問所で止められている様子。
さっきからなんだか待たされている4人。
そんな4人を見ながら、衛兵らしき人達が、何か書状を見ながらボソボソと相談している。
こんな時の対応係のサーガが、顔を曇らせながら、コソコソと話をする衛兵達を観察している。
そそそっとメリンダがサーガの側に寄ってくると、

(な~に? 何か長くない?)

とコソコソとサーガに耳打ち。

(ああ、なんか、例の御一行だとか、国王に連絡とか、変な事言ってるんだよな…)

コソコソ話そうがヒソヒソ話そうがボソボソ話そうが、空気そのものを操る事のできるサーガに、拾えない音はない。
4人に聞こえないようにと声を潜めて話している衛兵達の会話も、サーガには丸聞こえであった。
こういう時は本当に非常に便利な力である。

(避けて行きたいけど、この先でかい街とかないとなると…)

この王都から先は小さな街か村しかない。
別名東の果ての都とも呼ばれていた。

(ここで補給していかねばならない…)

テルディアスも不安を覚えつつ、この先の事を考えると、やはりこの街に入りたいと思っている。
未開地域といっても完全に人がいないわけではないが、おそらくあっても小さな村や集落。
地図もなく彷徨うにはリスクが高い。
旅の消耗品など、手に入れることが困難になると予想されるので、やはりこの街に寄っていきたいのである。
足止めはさらにしばらく続いた。
キーナは待ちくたびれて欠伸していた。
のんきだな。



















いい加減お役所仕事にしても時間がかかり過ぎではないかい?とさすがのキーナも待ちくたびれて、ご機嫌がちょっと傾いて来た頃。

ガラガラガラガラ…

2台の少し豪華な馬車がやってきた。

「ワオ。馬車だ」

滅多に見ない豪奢な馬車に、キーナが声を上げる。
すると、衛兵達がやって来て、

「あなた様はこちらへ」

そう言ってキーナだけを前の馬車に案内していく。

「後のお三方は2台目にご乗車下さい」

そう言って3人を後ろの馬車へと案内しようとする。

「何故キーナだけ別なんだ?」

テルディアスが問いかける。

「乗り合いの方がいらっしゃって、あの方で満員なのです」

テルディアスとサーガはキーナを見た。
なんの疑いも持たない様子で、キーナは言われた通りに前の馬車に乗り込んでいく。
ちらりと一瞬目配せをした2人は、それ以上何も言わず、後ろの馬車へと乗り込んだ。



















ゴトゴトゴトゴト

馬車に揺られ、進んで行く。

(知らない人と二人きり…)

1人前の馬車に乗り込んだキーナ。
中には人が1人先に乗り込んでいて、向かいの席に腰掛けている。
フードを被っているので男か女かもよく分からない。
なんとなく気まずくて、キーナは窓の外を眺めていた。
しばらくすると、突然その人物が話しかけてきた。

「タンジェント王国へようこそおいでくださいました」

声の感じからして女性らしい。
次に出て来た言葉に、キーナは驚いた。

「御子様」

ギクリとなったキーナが、思わず声を荒げる。

「どうして僕が御子だって分かったの…」

キーナが言い終える前に、その女性はキーナに向かって何かを吹き付けた。
その臭いを嗅いだ途端、キーナは意識が遠ざかり、そのまま横に倒れ込んだ。
女性はスヤスヤ眠るキーナを、ただ見守っていた。
















「行かないで! お願い!」
「…ごめん。君の側にずっといたかったけど、僕は…行かなきゃ…」
「嫌! 嫌よ!」
「アリーシャ。僕の分までこの国を守ってあげてくれ」
「行かないで! テッド! テッド――――!」






「光の宮へなど行く必要は無い。我がハーレムの一員となり、よい世継ぎを産むのだ。それが其方の使命なのだ」

愛しいあの人は遠くへ行ってしまった。
私は選ぶ自由もなく、ほぼ強制的にハーレムへと入れられた。
子を成す為だけに体を開く。
もう、涙も流れない。
この国を守る。
あの人が、テッドがそう望んだ。
ならば私は…。
私は…。
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