キーナの魔法

小笠原慎二

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狙われる御子編

なかったことにした

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夜の空、木立の天辺に、どうやっているのか立っている人影。
メリンダを抱えたまま、器用に木立の上に立っているサーガである。
彼の周りには風が集い、目を閉じ、何やら集中している模様。

「どう? 分かりそう?」

邪魔しないように大人しくしていたメリンダであったが、いい加減焦れたのか、サーガに声を掛ける。
サーガの目が薄らと開かれ、

「いた!」
「ホント?!」
「行くぞ!」
「ええ!」

サーガが木立を蹴り、風を纏い宙空へと飛び上がる。
僅かな月明かりの中を飛び、暗い森へと視線を向けていたが、

「いた!」

目当ての2人を見つけ、メリンダが声を上げた。
少し開けた大きな木の根元で、倒れるように重なる2人の姿。
すぐさまサーガが高度を下げ、2人の側へと降り立つ。
メリンダもサーガの腕の中から下ろして貰い、2人の側へ駆け寄る。

「テルディアス!」
「キーナちゃん!」

サーガがテルディアスの肩を揺すると、

「う…」

テルディアスが呻き声を上げ、目を開けた。

「う…?」

頭を軽く振りながら体を起こす。

「大丈夫か?」

少しぼやっとした顔をしながら、周りを見渡す。

「キーナちゃん?!」
「むにゅ?」

テルディアスの影でキーナも目を覚ます。

「ここはどこだ?」
「あ?」

ぼやっとしながらサーガに尋ねるテルディアス。

「知らねーよ。てめえがここまで飛んで来たんだろうが」
「俺が?」

キーナが目覚めて体を起こす。

「大丈夫? キーナちゃん?」

何を言ってるこのマヌケ、ボケてんのかミドリ野郎などと2人が言い合い出す。
キーナもぼうっとした顔をして、

「オファヨー、メリンダサン」

何故カタコトだ。

「大丈夫そうね…」

いつも通りのキーナの反応にほっと息を吐くメリンダ。

「もう体、火照りはない?」
「火照り?」

やいのやいのと言い合う声をぼんやり聞きながら、キーナは少し考える。

「そういえば寒い!」

と今更ながらに体を震わせ、両手で体を覆い出す。

「着替えは持って来たから…」

とメリンダ抱えていた荷物をキーナに差し出した。
キーナ、改めて自分の格好を見てびっくり。
なんじゃこのスケスケの見え見えの格好は。

「向こうで着替えておいでなさい」

メリンダが荷物を渡し、キーナを立たせた。
キーナ木陰にダッシュ。
そして、

「いい加減うっさいわよ! あんたたち!!」

ずっとギャーギャー言い合っていた男共が、ピタリと口を閉じた。
さすがはメリンダである。













「で。あんだけのことしといて、何にも覚えてないわけ?」
「何があったんだ?」

ハテナマークを浮かべる渋い顔のテルディアスに、メリンダとサーガが状況を説明する。
木陰でキーナも着替えながら、しっかり話を聞いていた。
キーナも媚薬のせいか、ところどころ記憶がボンヤリしていたのだ。
2人の説明を聞き、テルディアスがしばし何か考えていると、

「一つ、考えられる事がある」

と口を開いた。

「メリンダ、以前闇の者と関わった時の事を覚えているか?」
「ああ、まだキーナちゃんと3人で旅してた時の?」




それはサーガと出会う前。
とある街で、初めてテルディアスが人の姿に扮した時のこと。
身なりのいい女に誘われ、一泊の宿を借り受ける話になり、その女の屋敷へと行った。
そこで、ルイスという名の闇の者に会ったのだ。
メリンダは気絶させられていてほとんど覚えていないが。




「その時に言われたんだ。俺には闇の力が与えられている、と。魔女は気に入った人形《・・》に力を与えることもあったから、俺にあっても不思議じゃない」

メリンダの顔が少し険しくなる。

「でもそれって…、ヤバいんじゃないの…?」

選ばれた者しか使ってはいけないとされるその力。
そんな力の片鱗とは言え、持っているとはまずいのではないのか。
テルディアスが視線を落とす。

「ああ…。あまり、使わない方が良いとは思う…」

火の村で、どうにかその力を使えないかと考えた時、寝ていたはずのキーナが身を起こし、光を纏った姿で言った。

『無理に使おうとすれば暴走するかもしれない。眠っているものを無闇に引き出してはダメ…』

と。
本人は欠片も覚えていないだろうが。
















(ふ~む、そんなことがあったのか~)

木陰で着替えながら、キーナも考える。

(僕も薬のせいで記憶あやふやなのよね~。気持ち悪いものが覆い被さってきたと思ったら、急にいなくなって、今度は暖かいものに抱っこされて、この辺り多分テルだな)

話の内容と照らし合わせると、多分テルディアスが王を殴った辺りだろう。

(そいでその暖かいのに包まれたと思ったら…
「…てやる…」
 って何か言われて…)

次に思い出した記憶に、キーナが固まる。
その暖かいものが自分の唇を、暖かくて柔らかいもので塞いだと思ったら、体の火照りが消えていったのである。

(ん?)

その暖かくて柔らかいものって…。

テルディアスのく・・・

(何にゃ―――――!!!! この記憶―――――!!!!)

キーナの顔が瞬間湯沸かし器のように一瞬で赤くなる。
まるでそこに現われた映像を掻き消すかのように、両手を空中でざかざか動かすと、

(うん! 何も覚えてない!)

強く頷きながら、なかったことにした。
















「着替えたよ~」
「よかった。ぴったり」

着替え終えたキーナが出てくると、メリンダがにっこり微笑んだ。
腰には有り難いことに、水の都で貰った泥棒7つ道具の袋がしっかりつけられている。
メリンダがしっかり探してくれたらしい。
キーナにとってこれは失くしたくない大事な物であった。

「体はなんともない?」
「大丈夫だよ!」

元気に答えるキーナに、サーガが顔を顰める。

(薬ってそんなに早く抜けるもんだっけ?)

大分長くあの薬を嗅いでいただろうに、キーナはすでにけろっとしている。
訝しみながらも、キーナだからかも知れないと、無理矢理納得する。

「おし、ともかくとっととここから去ろうぜ」
「そうね」

キーナも元気なのであれば、ここで立ち止まっている理由は無い。

「なんせ王様殴ったし」
「大軍が追ってきてもおかしくないわね」

ヒソヒソヒソと、テルディアスに聞こえるように・・・・・・・ヒソヒソ話す2人。
いや、意味ないだろう。
テルディアスとしては何か言い返したい所ではあるのだが、何も覚えていないので、なんとも言えない。
テルディアスが渋い顔をしていると、キーナが何故かテルディアスの顔をじっと見つめている。
その視線は、何故か口元に吸い寄せられているようだが…。

「どうした?」

テルディアスがキーナの視線に気付き、声を掛けると、キーナが何故かバタバタと慌て出す。

「何もないん!!」

顔を赤くしてそっぽを向いてしまう。

「?」

意味が分からないテルディアスであった。




















夜の森、サーガが時折上空へ飛び上がり、星の位置を確認し、進む方向を見定める。
メリンダが火を灯し、目立たないように4人は森の中を進んで行く。

「あの街で補給できなかったのは痛いなぁ~」
「まあ、仕方ないじゃない」

サーガが溜息を吐き、メリンダがそれを慰める。

「しばらくは自給自足だわな」
「そうね~」

あまり良い予感はしないが、多少は保存食などもあるので、それで食い繋いで行くしかない。
早めに村などを見つけて、食料は確保する必要があった。

「あともう一つ、問題があるんだよな」
「何が?」

食料の確保も、その他消耗品の確保も、村が見つからなければ叶わない。
そして村を見つけるために必要な物。

「地図がない」








今までの地図はこの国までしか記されておらず、この先を行くには、この国で地図を贖う必要があったのだが…。
道さえ分からぬ未開の夜の森の中を、4人はとにかく東へ向かって歩き続けた。
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