キーナの魔法

小笠原慎二

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風の女

森の中の家

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「く、くく…、くぅ…、く…く…く…」

黄色い斑点のある、毒々しいキノコを手に、メリンダが唸っている。

「く…く…くぅ…う…」
「やめとけ姐さん。キノコはやばい」

メリンダの腹が唸り声をあげた。
いつまでもキノコを放しそうにないメリンダを宥めつつ、サーガは先を進むキーナ達の後を追う。
キーナとテルディアスも、キョロキョロと周りを見渡しながら歩いている。
キーナのお腹も声を上げる。

「森の中なのに食べられる物が見つからないとは…」

野草の勉強でもしておけば良かったなと思うキーナ。
実が成っている木が見つかれば言うこともないが、何故か森にいるだろう獣にも出会うこともできず、キーナ達は既に丸一日程森を彷徨っていた。

「携帯食料も尽きたしな…」

もしもの為にと用意しておいた食料も、底をついてしまっている。
森に入る前に立ち寄った街で、あんなことがなければ、今頃食料に悩むこともなく、道に迷って森の中を彷徨うこともなかったはず。などと考えてもどうしようもないので、とにかくこの際食料を最優先で見つけなければと、4人は森の中を目を凝らしながら歩いていた。

「せめて魚のいる川でも見つかりゃぁ…」

臭いに敏感なサーガ。川や湖なども臭いで見つける優れモノ。水に関してはどうにか魔法で召喚したり、サーガが見つけたりとなんとかなってはいる。

「さっきのは小川だったわね…」
「うん、ちっちゃ過ぎる小川だったね…」

メリンダのがっかりした声に、キーナも答える。
サーガが水の臭いがすると向かった先に、確かに水は流れていた。
流れてはいたが、岩の影から染み出した水がちょろちょろと流れているだけの小川と呼ぶのも怪しい小川だった。もちろん魚などいる気配もない。

「お?」

サーガが鼻をくんくんと動かす。

「なんか美味そうな臭いがする!」

そう叫ぶと走り出す。

「ほんと?!」
「食べ物?!」
「ぬ」

3人もサーガの後を追って走り出した。
サーガは風を司るが故、臭いに関しては3人共信頼している。臭いに関しては。
木立の間を走り、草を掻き分け、低木を飛び越え走っていくと、突然開けた場所に出た。
その真ん中に、天を衝くような、周りにある木とは比べ物にならないほどの大きな木が立っていた。

「おお?」

よく見れば、その木には、扉や窓や煙突などがついているではないか。

「木の家? 家の木?」

キーナが首を傾げる。
木で作った家なのか、家の為に作った木なのか。

「不思議ねぇ」

メリンダもその木を眺めて目をぱちくりさせる。

「面白ぇな」

サーガも感心したようにその家を眺めた。

「とにかく、人もいるみたいだし、食料を恵んでもらいに行こう!」

脇のほうにある煙突からは、薄く煙が吐き出されている。
つまり誰かがいるということだ。

「賛成!」
「ラジャー!」
(異議なし)

サーガの言葉に三者三様頷いて、4人はその家に向かった。
玄関に続いている小道を辿り、扉の前に立つと、余計に木の大きさに圧倒される。
玄関の扉にぶら下げられている札に、サーガが目を向ける。

「『実験中。邪魔する者は容赦なく叩っ殺す。覚悟せよ』なんじゃこりゃ?」

何やら物騒な文面に、冷や汗を垂らす。

「実験中だから静かにしてください。ってことかな?」
「きっとそうだわよね」

キーナの柔らかく訳した言葉に、メリンダが頷いた。

「ま、呼び鈴鳴らしてみるべ」

実験中かどうかは分からないが、こちらとしてもお腹が空いて溜まらないので、ダメならダメでその時は謝ろうと、横にぶら下がっていた紐を、サーガが強く2、3度引っ張った。
家の中から、カラリンカラリンと少し重そうなベルの音が鳴り響いてきた。
すぐに揺れも収まり、ベルの音もカランと鳴って、それきり黙った。
これで誰か出てくるはず、と身構えていた4人であったが、家の中は静まり返り、誰かが出てくる気配もない。
その後もサーガが何度か紐を引っ張り、ベルを鳴らすが、やはり反応はない。

「実験に集中しすぎて気づいてない?」
「聞こえてないんだね」

メリンダとキーナが話し合う。
煙突から煙が出ているのだから、家の中にいるはず。まさか火を起こしながら出かけるなんてこともしないだろう、とは思うが。
それに実験中の札。もし出かけているなら、外出中の札をかけるのでは?と思う。
変えるのを忘れていなければ、だが。

「まいったなぁ」

何度鳴らしても出てくる気配がなく、サーガがポリポリと頭をかく。

「お腹空いて倒れそう」

また抗議の声を上げたお腹を押さえ、メリンダが悲しそうにつぶやく。
それを見て、サーガが余計な一言を口に出す。

「姐さん見かけによらずよく食うよな。そのうち腹が胸みたくなるんじゃね?」

メリンダの足が素早く動き、サーガの顔面を襲った。

めり・・・

そんな音が聞こえてきそうな蹴りだった。
顔面に靴の後をくっきりとつけたサーガの襟首をつかみ上げ、激しく揺らしだす。

「気にしてないわよ気にしてないわよ近頃お腹がちょっとプニプニになってきたなんて…」
「メリンダさぁん」

呪いの言葉を吐くかのようにつぶやき続けるメリンダを、キーナが止めようとする。
ところがメリンダは止まらない。
テルディアスに至っては、触らぬ神に祟りなしとばかりにそっぽを向いている。
そのままギャーギャーと騒ぎ立てていると、家の中からドスドスとちょっと重い音が近づいて来て、

バン!

「ぃやっかましい!! この看板の文字が読めんのか!!」

空色の髪に黄色い瞳の女性が飛び出してきた。
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