キーナの魔法

小笠原慎二

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風の女

悶える女性

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「ん?」

固まる4人を見つめ、目をパチクリさせる女性。
いつも来る行商の者達かと思えば、まるで見たことのない者達。

「誰? あんた達」

腕を組んで問いかければ、ビクッとなる4人組。

「あ、その、あの~…」

メリンダがオドオドとしながらも、へこへこ頭を下げる。

「森で、道に迷いまして~…」
「食料もなくなってしまって~」

隣でサーガもへこへこと頭を下げる。
叩っ殺されなくとも、ここで食料を確保しなければこの先はない。
必死に何とかご機嫌を損ねないように取り繕う。

「少しで良いので、食べ物をわけて貰えないかと~…」

その女性の目が、後ろで心配そうに見守るキーナに釘付けになっていた。
そして、何故か無言で扉を静かに閉めてしまった。
何故何も言わずに扉を閉めてしまったのか、機嫌を損ねてしまったのか、よく分からない4人は顔を見合わせる。

「・・・・・・」
「怒らせた?」
「かもしれない」
「どうする?」
「どうすべ」

せめて少しでいいから食べ物が欲しいと、4人は何とかあの女性と掛け合えないかと話し始める。














(ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って…。な、な、な、なんでここに、なんでここに、光の御子が?!)

扉の内側でしゃがみ込み、女性が頭を抱えていた。

(レオから何も聞いてないわよー! ってかあの人もそういつも御子達のこと見てるわけじゃないか。でも突然すぎない?! なんで森で迷ってうちに辿り着くのよ?! 普通は街道通ってればここに辿り着くはずないのよ! いや、そうじゃなくて、どうしよう。家に上げていいものかしら? あの子達あたしが黄だって知ってるわけじゃなさそうだし、でも万一黄だってバレたら…。いやでも、黙ってりゃバレやしないか…。ていうか、ていうか…御子ちゃんと話してみたい!!!)

女性の瞳が輝いている。
その頭の中には、赤い服を好んで着るとある男の言葉が蘇っていた。

(「会ってみれば分かるよ」)

あの男はそう言った。
4賢者の中でも御子と接触がある唯一の者。
姿を隠したがる賢者の中でも、世間にふらふらと姿を現している変わり者。

(あんな事言ってたけど…、確かに…)

ちらりと表の様子を伺う。
4人の話す声が聞こえてくる。

(光の御子…、全てに愛される存在…か…)

あの男から、光の御子は女性だと聞いている。
ぱっと見少年にしか見えなかったあの少女。何故髪を短く切っているのかは知らないが、なんだかその髪型も自然に見えてよく似合っていた。

(か…かんわいいいい…♡)

目が♡になってるぞ。
幾年月過ぎたとしても、女性は可愛い者が好きなのは変わらない。側にあったぬいぐるみを引っつかみ、思わずぎゅうっと抱きしめる。

(やだも~!! 抱きしめて頬ずりした~い!! キャ~~~!)

一通り悶え終わるとぬいぐるみを片付け、一度深呼吸。

(いいや、入れちゃえ。なんとかなるでしょ!)

あの悩んだ時間は何だったのか。女性はあっさり、4人を中に招き入れることにしたのだった。












どおすべと話す4人の前で、扉が再び開かれた。
中からあの女性が、今度はにこやかな笑みを浮かべていた。

「ごめんなさい。実験中で気が立ってて、森で迷ったんですって? 大した物はないけど、良かったら上がって行って?」

その女性の言葉に、4人は女性を神と崇めた。















「あ~、生き返った~」

腹が膨れたサーガが、お腹をさすりながら息を吐く。

「ありがとうございます。おかげで助かりました。タナーさん」

メリンダがお礼を言う。

「いいのよ。私も久しぶりに賑やかで楽しかったわ」

タナーと名乗った女性が笑いかける。

「お姉さん1人で住んでるの?」

サーガが質問すると、何故かギクリとなるタナー。

「え?! いいえ! 奥に師匠がいるわよ!」
(本当はあたし1人だけど…)

何故師匠も一緒に食べないのかなどと聞かれたらどうしようかとドキドキ。

「この木の樹齢ってどのくらいなの?」

キーナがそんな素朴な質問をしてきたのでほっとする。

「そうね~。見つけた時1500年くらいだったから、今1600年ってところかしら?」

とにこやかに返事して、その場の全員が固まった。
見つけた時1500年?今1600年?え?100年の経過?

「お姉さん、今いくつ?」
「え? あたし?」

サーガの質問に再びギクリとなるタナー。

「あたしはピチピチの27歳よ~。見つけたのは師匠よ!」

と可愛く頭を傾げてみせる。

「へえ?! お師匠さんていくつ?」
「さ、さあ?」

サーガの度重なる質問に崖っぷちに追い込まれていくタナー。
なんだか自ら自分の首を絞めているような感じになっていく。何故だ。

その時、テルディアスの頭には、とある人物の顔が浮かんでいた。
赤い服を好んで着て、赤茶けた髪を一纏めにした大魔導師。

(似たような話を…)

あの人も確かな年齢は誰も知らない。

「魔道の研究をしてるからね! 何か長寿の秘訣でも見つけたんじゃないかしら?」

なんとか上手い理由を見つけて逃げるタナー。

「そ、それよりテルディアス君。フード取ったら?」

今度は4人がギクリとなる番だった。

「い、いや、これは…」
「大丈夫大丈夫。レオから事情は聞いてるから」

タナーのそのお気楽な言葉に、警戒心を露わにするテルディアス。

(あれ? あたし何か変なこと言った?)

何がテルディアスに引っかかったのか分からず、冷や汗を垂らす。

「レオ…とは、レオナルド・ラオシャス様のことですか?」
(様)
(様)
(様)

様なんぞと滅多に口にしない単語に、3人が意外そうにテルディアスを見た。
一応テルディアスも他人を敬うような言葉を口にするのだなと感心。

「え、ええ! そうよ! レオと師匠が知り合いでね!」

警戒色の消えないテルディアスに首を捻りながら、タナーが答える。
テルディアスはしばしタナーを見つめていたが、フードの胸元をそっと押さえながら、取る気はないことを口に出す。

「そうですか。しかし、お目汚しになりますのでこのまま…」
「 取 っ て・ ・ ・ も大丈夫よ」

に~~~~っこりと微笑みながら、とても強制力のある言葉を吐く。
どう聞いても、「取って」というより、「取れ」と言っているようにしか聞こえなかった。

(「テルディアスは多分君のモロ好みの顔してるよ」)

赤い男の言葉が思い出される。

(あんな事聞いたら絶対見たいに決まってるでしょ!)

うん、このお姉さん見るまで諦めないね。
異様な圧力にテルディアスが折れた。

「で、では、失礼して…」

しぶしぶという感じではあったが、テルディアスがフードを取る。
露わになる青緑の肌、尖った耳、そして銀の髪。
しかし顔の造形は美男子という部類に分けられる物で…。
何故かタナーが口元を押さえて後ろを向く。

「お姉さん?」

タナーの様子に不思議がる4人。何故後ろを向く?テルディアスの状態を知っていたはずでは?
その頃のタナーの心情は…。

(フオオオオオオ!!! 美少年というか美青年というか、その丁度狭間のちょっと未成熟な所がまた良い味になって…、容姿的にも年齢的にもムチャクチャ好みだわ!!!)

悶えていた。

そして、キリッとした顔になって戻ってくると、

「テルディアス君」

テルディアス、その変わり様にビビる。

「後であたしの研究室まで来てくれる? 是非君の呪いの検証をしたいわ」

内心舌舐めずりしつつ、真面目な顔でタナーは言った。

「…はあ…」

なんとなく背筋がムズ痒い感じはしたものの、この呪いを解く何らかの手立てが見つかるのであればと、了承するテルディアス。

(何か不穏な空気が…)

サーガもなんだかムズ痒い空気を感じていた。
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