キーナの魔法

小笠原慎二

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沈黙の森編

テルディアスを探せ

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「テル!! テルゥ!!」
「落ち着いてキーナちゃん!」

ダンの腕を振りほどき、崖下へ飛び込もうとするキーナを、必死に止めるメリンダ達。

「降りる所はないのか?!」

サーガがダンに尋ねる。
ダンが頷き、キーナを押し止めながら、森へ入る所があると説明する。

「早く、早く行こう!」

多少は落ち着いたキーナが、ダンを急かして上って来た山道を下っていった。
サーガがちらりと眼下に広がる森を見つめ、考える。

(この森の中から、探し出せるのか…?)

精霊との繋がりが希薄なので、いつもの通りの探索の力は使えないだろう。それは多分ダンも同じだ。そして、例え見つけ出したとしても…。

(手遅れでなけりゃいいけどな…)

暗い気持ちを押し出すように、足を早めた。















「う…」

サーガの張った結界が効いたのか、岩の衝撃は落下速度を速めたのと、弱くはないが致命的とまではいかないダメージを与えたのみで終わった。落下速度もなんとか風の魔法で緩めたとはいえ、普通に落ちるよりは若干といったくらいにしか軽くはならなかった。
そのまま地面に落ちたら、さすがに骨の1本2本というところでは済まなかったかもしれないが、有り難い事に下は森。木々が落下の衝撃を多少和らげてくれたことにより、打撲のみですんだ。非常に幸運だったと言えるだろう。

足のダメージが一番大きいのか、ずきずきと痛みを訴えてくる。身体のあちこちに意識を向ければ、そこかしこから痛みを訴えて来た。無事、とは言えない状態だ。
試しに魔法での治療を試みるが、多少痛みが和らぐくらいでしかなかった。

(とにかく…、合流しないと…)

多分、キーナ達もすぐに森へと向かい、自分を探し始めるだろう。
森の出口がどこにあるのかは分からないが、来たのは山道。1度そこを下るに違いない。
落ちてきた崖を確認し、痛む身体を抱え、引き摺るようにして歩き出す。

そして歩き出して違和感に気付く。いつもならば気にもせずに方角を感じながら歩いているのに、この森の中では、その方角が何故かよく分からない。崖に沿って歩いていたはずなのに、いつの間にか崖が見当たらなくなっていた。

これはまずい…。

本能的にそう思う。自分がどこに向かっているのかすでに分からなくなっている。
このまま歩き続けたら、どうなることか。
テルディアスは諦めて、少し大きな木の根元に座り込んだ。
下手に歩き続けておかしな所へ行ってしまうよりは、このまま留まって皆を待った方がいい。
心許ない魔法での治療を続けながら、テルディアスは大人しく待つことを選んだ。
ふとダンの食事を思い出し、なんだかお腹が空いてきたような錯覚を覚えるのだった。















ようやっと山道を下りる。ダンの案内で進んで行くと、草原が現われた。その向こうに見える森が、沈黙の森だ。
森を確認した途端に走り始めるキーナを、待てとばかりにサーガがその襟首を掴む。

「ぐぴ!」
「いきなり走るなこの阿呆!」

テルディアスのこととなると、本当に後先考えなくなるキーナである。

「てめえまで迷子になったらどうする気だ! 皆と歩調を合わせろ!」
「にゅう。ごめんなさい…」

ただでさえ、何故か突然いなくなることには定評のあるキーナ。こんな森の中ではぐれたなら、見つけ出すのは容易ではない。
持ち場を離れるなときつくサーガに言われ、大人しくダンの後ろをついて行く。
その後ろからメリンダ、そして殿はいつもの通りサーガ。
思った通り、魔法での探索は難しそうだ。これは、心当たりをしらみつぶしに探すしかないだろう。
どれだけかかるのか分からないことに、サーガはげんなりするも、とにかくキーナを見張りつつ周りに気を張りつつ、森の中へと入っていったのだった。















思ったよりも下草は生えておらず、進むのにそれほど苦労はない。
だがしかし、ダンの顔色も、サーガの顔色も冴えない。
普段から普通に使っている感覚を使えないのが気持ち悪いのだろう。
メリンダも微妙な顔をしてはいるが、火系の魔法には探索系の魔法はないので、こちらはそれほどでもないようだ。
キーナにいたっては、忙しなく周りをキョロキョロと見ながら歩いている。いつか首が外れるのではないかと心配になるほどに。

一行はとにかく崖の近辺を歩いて行く。テルディアスが落ちているとするならば、やはり崖の側であろうから。
色々幸運が重なって無事でいたとしても、もしかしたら致命的な傷を負っているかもしれない。それを考えると足は早まるが、万が一の見逃しを考えるとそこまで早くも歩けないというジレンマ。特にキーナはジリジリしていた。
ダンが時折上を見上げて、位置を確認しながら進んで行く。木々で見えないはずなのだが、そこはさすが地の一族。残った薄い感覚で、崖と自分達の位置を確認しているのだった。
ダン君万能。

大分来た所で、ダンが足を止めた。

「どうしたの?」

ジリジリしているキーナが問いかける。
ダンがキーナに振り向き、前方を指さした。
木々の枝が不自然に折れて地面に転がっている。明らかに何かが上から落ちてきた形跡。しかし、そこにいるはずの姿はない。

「ち、移動したか」

思ったほど重症ではなかったようで、サーガも多少ほっとするが、その姿が見えないとなると、さらに探索の範囲を広げなければならないことに顔を顰める。

「どこに行ったのかしら?」

メリンダもキョロキョロ辺りを見回すも、その姿は見えない。
ダンが地面を調べ始める。何かが引き摺って行った跡。
その跡を追って行こうとした所、

「これがあった!」

キーナが声を上げた。

「双子石! これでテルの居場所が分かるよ!」

キーナが早速耳元に集中し出す。

「そういや、それがあったか」
「こんな所で役に立つとはね」

サーガとメリンダもほっとなる。これならば然程時間もかからずに見つかるだろう。
ダンもそんなものがあったのかと、地面の跡から目を離し、キーナを見つめた。

「こっち!」

キーナが走り出した。

「ちょ、待て!」
「キーナちゃん!」

サーガもうっかりしていた。メリンダもその速さを忘れていた。
ダンも、いきなり駆け出したキーナの背中が、あっという間に木立の間に隠れそうになっていき、慌て出す。
サーガ、メリンダと走り出し、ダンも遅れまいとその後ろに続いた。
キーナの姿を見逃すまいと、サーガも必死に追いかけるが、その後に続くメリンダ達の事を考えるとそこまで駆け抜けることが出来ない。

「待て! キーナ!」

サーガの声も届かなかったのか聞こえなかったのか、とうとうサーガの視界からキーナの姿が消える。

「クソ! あのバカ!」

遅れてバタバタと走ってきたメリンダとダンが、ぜーぜー呼吸をしながら辺りを見回す。

「キーナちゃんは…」
「ごらんの通りだよ」

風を操るが、その気配を追うことが出来ない。

「くそ!」

おもわず地面を蹴り上げる。
これで、遭難者が2人になった。
そして、探す手立てもない。

と思ったが、何か、ダンが指し示している。

「あん? なんだ?」
「地面、引き摺った跡、あった。追えるかもしれない」
「まじか!」

サーガの輝くも、その跡が始めの落下地点から追わないと分からない、と聞いてがっかりする。

「じゃあ1度戻らないと…」

と呟いて、サーガは愕然となった。
自分達がどちらから来たのか、さっぱり分からなくなっていた。
深い森の中、自分の位置が分からないというのはとてつもない恐怖だ。
しかし、ダンは分かっているのか、迷いもせずに歩き始めた。
その後ろに大人しくメリンダとサーガも続いたのだった。
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