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闇の宮編
闇の宮での宴
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闇の宮はまさに小さな村だった。中心に街があり、その周りをのどかな田園風景が広がっている。
「すまねえな。何もない所で」
「ううん。綺麗で良い所だと思うよ」
お世辞ではなく心から感想を述べるキーナ。キーナはこういうのどかな風景は大好きである。
「本当になんもねえな」
そう呟いたサーガの頭にメリンダの手刀が下ろされる。
「そういえば、はぐれ闇はいるけど、はぐれ光なんてのはいないのか?」
とサーガが質問した。その言葉にテルディアスとメリンダはふと思い出す。とある国の光の者。
「いんや、光の者は現われたら皆から大歓迎だからな。まずはぐれることがねーよ」
ルイスが答える。
「まあ、そうだよな…」
サーガとメリンダが目を合わせた。
「ん? なんかあるのか?」
「えっと…」
サーガが説明する。東の果ての国で出会った光の者のことを。
「本当か?! それ、本当に光の?!」
ルイスが興奮したようにサーガに食ってかかる。
「や、本当のことだけど…」
「東の果ての国ってえと…」
ルイスが何かブツブツ呟く。
「そういえば、光の宮から出た人もいたねぇ」
キーナが思い出す。1度光の宮に捕まった時、一緒に脱出したあの親子のことを。
キーナがテルディアスを見ると、テルディアスも思い出したのか頷いた。
「ちょ、そこんとこ詳しく!!」
またまたルイスが食いついてくる。
キーナのちょっと朧気な記憶にテルディアスが補足しながら説明する。
「名前がアイ…。とすると…」
またまたルイスがブツブツ呟いている。
「すまん! ちょっと急用ができた! あっち回っていくとさっき言ってた温泉があるから、なんだったらそこで寛いでてくれ!」
そう言うと空間跳躍をしたのか、ルイスの姿がかき消えた。
「なんか…大事になっちゃった?」
キーナの呟きに、顔を見合わせる一同。
しかしぼーっと突っ立てる訳にもいかないと、説明された場所へと向かい、温泉を堪能したのであった。
その時にサーガがやはり覗きをしようとして、メリンダに焦がされたのは言うまでもない。
温泉を堪能した一同が、説明を受けた宿屋へと向かう。
「よ!」
ルイスが待っていた。
「ルイスさん」
気付いたキーナが手を挙げる。
「すまねえな。置いてけぼりにさせちまって」
「ううん。何かあったの?」
キーナが聞くと、ルイスがとても嬉しそうににっかり笑った。
「あったあった。あんたらのおかげだ!」
そう言ってキーナの頭をぐりぐり撫でる。テルディアスの目が少し鋭くなった。
「おかげでこの宮の住人が増えたよ。当人達も喜んでるしな。それで、他に光の者を宮の外で見たって話しはないか?」
ちょっとソワソワとルイスが聞いてくる。
顔を見合わせるキーナ達。
「ないね?」
「ないな」
「ないわね」
「ねーな」
ダンは何も語らない…。いや、きっと知らないからだろう。
「そうか…」
とてもがっかりしたようなルイス。
「そう上手くはいかないよな…」
「「「「?」」」」
「ああ、それでな、新しく住人も増えたし、あんたらも来てるしで、夜にちょっとした宴会でもしようって話しになっててさ。それまで宿でゆっくりしててくれ」
そう言うとルイスは足早に去って行った。
「宴会か」
サーガがちょっと嬉しそうにしている。
「まあ温泉入ってちょっと疲れたし、お言葉に甘えて宿で休んでましょ」
「そうだね」
そしてキーナ達一同は宿で夜まで体を休めたのだった。
キーナ達が宿で微睡んでいると、日が暮れかけた頃に用意ができたとルイスがやって来た。
「さーさー、まあまあ、楽しんでくれよ」
用意された席に座ると、四方八方から視線が集まる。当然のことか。
リーステインが杯を持ち上げ、
「今宵は珍しいお客様に新しい民を迎えることができました。皆さん、存分に楽しんで下さい」
そう言って宴が始まった。
キーナに間違っても酒類が渡らないようにテルディアスとメリンダが気を配り、サーガは遠慮なく杯を煽る。ダンも大きな口なのにちまちまと料理を口に運んでいる。
「ちょっといいか?」
食事が一段落した頃に、ルイスが後ろに数人従えてやって来た。
「あんたら、特にキーナちゃんに礼が言いたいって奴等を連れてきたんだ」
ルイスが脇に避けると、3人の男女が前に出て来た。
「あ、君は」
キーナが声を上げる。
「覚えていて下さいましたか」
真ん中の男の子が嬉しそうに微笑んだ。
「お久しぶりです。御子様。それに、テルディアス様も」
男の子の右にいた女性も頭を下げた。
左側の男性は知らない顔だ。
「あんたは…」
テルディアスも少し驚いた顔をしている。
光の宮で出会った親子。キーナ達が光の宮から脱出する時に一緒に脱出したアイとソウの親子だった。
「確か、ソウ君」
「はい。名前まで覚えていただけているとは、光栄です」
「そんな堅苦しい喋り方しないでいいよ。ソウ君にはお世話になったし」
光の者に捕まって光の宮へ連れて行かれたキーナの世話をしてくれたのがソウ君だ。嫌な顔せずにキーナのお世話をしてくれた母親想いの良い子だ。
「あれから私達は頂いたお金のおかげで然程困ることもなく生活できました。本当に感謝しております」
アイが改めて頭を下げる。
「いへいへそんな」
その後キーナ達は自分達がお金を持っていないと知り、食い逃げしそうになるのだが。
「できればいつかお返ししようと思っておりました。こちら、だいぶ使ってしまいましたが、お返し致します」
アイがお金の入った袋を出して来た。確かに半分くらい減っているように見える。
「差し上げたお金ですから、返さなくても良いですよ」
「いいえ。私達はこれからこの闇の宮に住むことが許されまして、もうお金はいらないのです。ですから、これからも入り用の貴女様方に持って行って頂きたいのです」
「ええと…」
もう使わない物をまだまだ持ってろとも言えない。
メリンダがキーナをつつく。ちらりとキーナがメリンダを見ると、にこやかに頷いた。
「あ、じゃあ、その、頂きます」
「はい。お返し致します」
キーナは素直に貰っておくことにした。
「あれから僕達は本当に穏やかに過ごすことができました。感謝しています」
「この子と過ごす人生を頂きまして、本当にありがとうございます」
ソウとアイが揃って頭を下げる。
「そしてこの度、闇の宮へ住むことができるようになりましたのも、御子様のおかげと聞きました」
「本当に重ね重ねありがとうございます」
またまた頭を下げる親子。その隣にいた男性も頭を下げた。
「いやいや、その、今回のことはよく分かってないんですけど…」
キーナ達はそういう人がいるとルイスに零しただけで、本人達に何かをした自覚はない。
「御子様方が私達の事を闇の方に伝えて頂いたとか。ロストから聞きました」
アイが男性を紹介する。男性がペコリと頭を下げる。
「ロストは私と同じ村で育った幼馴染みなのです。その、いわゆる将来を誓い合った仲だったと申しましょうか…」
アイが照れている。
「アイが光の宮へ連れて行かれ、私がこの宮へ来てその実情を知り、ずっと心配していたのです。この度御子様のおかげでこうしてまた会う事ができました。本当に感謝しております」
「はあ、そうなんですね。えと、良かったですね」
「「「はい。ありがとうございます」」」
その後も3人は口々に感謝の言葉を述べ、これから3人で暮らしていくのだと少し惚気、そして去って行った。
3人が去った後には、今度は男女の二人。今度はどちらの顔にも覚えがない。
「御子様。申し訳ございません」
今度はいきなり女性が謝ってきた。
「あの時は命を受けていたとは言え、御子様に大変に失礼なことを致しました。誠に申し訳ありません」
土下座する勢いで頭を下げる女性。
「いや、あの、待って下さい。その前に、どちらさまでしょうか?」
何処の誰に何を謝られているのか、キーナは尋ねる。
「私は、東の果ての国におりました、光の者。名をアリーシャと申します。御子様と馬車に乗った、と申した方が分かりやすいでしょうか」
「ああ!」
やっとキーナは思い出した。
しかしあの時は顔にも覆面のような物があったので、全く顔を見ていないのだ。
辛うじて聞いた事があるような声、ということしか分からない。
「あの時はまったく失礼な事を致しました。どんな罰も受け入れる覚悟はできております」
アリーシャが深く頭を下げる。
「御子様! アリーシャだけのせいではありません! アリーシャを置いて行ってしまった私にも責任があるのです! どうか罰を受けるならば私も!」
アリーシャの隣の男性が意気込んできた。
「どちらさまで?」
「は! 失礼致しました。アリーシャの幼馴染みで名をテッドと申します。御子様。どうかお慈悲を…」
どうして罰することが前提になっているのかとキーナが首を傾げる。
「鞭打ちでいいんじゃないか?」
めずらしくテルディアスが口を挟んで来た。
「はい?」
「百叩きね」
メリンダも口を挟んで来た。
「ええ?!」
「この場で裸踊りでもいいんじゃね?」
ついでにサーガも口を挟んで来た。
「ちょっとぉ?!」
キーナをおいて皆罰する気まんまんのようだ。
目の前の二人が青ざめているのが分かる。
「しないしないです! そんなことしないでいいですよ!」
「甘いぞキーナ」
「まあそれがキーナちゃんだけど…」
「男はいいから女の方が裸踊り…」
ゴス
「皆酷くない?! そんなに酷い目にあったっけ?!」
そう言われてふと思い返す。
どちらかというとキーナが一番酷い目にあっているのだが…。
((テルディアスは面白い目に合ってたよな(わよね))
メリンダとサーガが同じ事を考える。
「あって…ないわけじゃないけど…」
キーナに至っては唇を奪われた。
したくもない奴と、絶対にしたくもない奴と、気持ち悪いからしたくもない奴と。
ちょっと怒りが湧いてくるキーナ。
しかし悪いのはあの考えがぶっ飛んでいるあの王様なのであって、目の前の女性ではない。
「あ、あれはあの王様が悪いのであって、貴女ではないです。だから特に罰したりはしません」
「御子様…」
「貴女も酷いことをされていたのでしょう? だから、今までの事は全部忘れて、ここで幸せに暮らして下さい。ね、全部忘れましょう!」
「御子様…」
女性が驚いた顔をする。
そして俯いた。
「あ、ありがとうございます…」
その後もやはり謝罪の言葉を口にし、テッドに支えられながらアリーシャも去って行った。
テルディアスもメリンダもサーガも、アリーシャの事情はさりとて知らないが、それを察知するキーナに少し驚愕しつつ呆れつつ。しかしアリーシャもキーナ達を逃した時にそれなりにあの国で罰は受けているだろうと、それ以上は追求しないことにした。
なにしろキーナが忘れると言っているのだ。
「ありがとうな、キーナちゃん」
今の二組で終わりらしい。ルイスが声を掛けてきた。
「いいよ。大したことはしてないよ」
どこがだ
その場にいた何人かのツッコミは置いといて、再び宴を楽しむ一行。
そろそろお腹もいっぱいになり、音楽が流れ人々が踊り始める。
「腹ごなしに少し踊る?」
「踊ろう!」
メリンダの誘いにキーナがのっかり、テルディアスも引き摺ろうとするがそれには失敗したのだった。
「すまねえな。何もない所で」
「ううん。綺麗で良い所だと思うよ」
お世辞ではなく心から感想を述べるキーナ。キーナはこういうのどかな風景は大好きである。
「本当になんもねえな」
そう呟いたサーガの頭にメリンダの手刀が下ろされる。
「そういえば、はぐれ闇はいるけど、はぐれ光なんてのはいないのか?」
とサーガが質問した。その言葉にテルディアスとメリンダはふと思い出す。とある国の光の者。
「いんや、光の者は現われたら皆から大歓迎だからな。まずはぐれることがねーよ」
ルイスが答える。
「まあ、そうだよな…」
サーガとメリンダが目を合わせた。
「ん? なんかあるのか?」
「えっと…」
サーガが説明する。東の果ての国で出会った光の者のことを。
「本当か?! それ、本当に光の?!」
ルイスが興奮したようにサーガに食ってかかる。
「や、本当のことだけど…」
「東の果ての国ってえと…」
ルイスが何かブツブツ呟く。
「そういえば、光の宮から出た人もいたねぇ」
キーナが思い出す。1度光の宮に捕まった時、一緒に脱出したあの親子のことを。
キーナがテルディアスを見ると、テルディアスも思い出したのか頷いた。
「ちょ、そこんとこ詳しく!!」
またまたルイスが食いついてくる。
キーナのちょっと朧気な記憶にテルディアスが補足しながら説明する。
「名前がアイ…。とすると…」
またまたルイスがブツブツ呟いている。
「すまん! ちょっと急用ができた! あっち回っていくとさっき言ってた温泉があるから、なんだったらそこで寛いでてくれ!」
そう言うと空間跳躍をしたのか、ルイスの姿がかき消えた。
「なんか…大事になっちゃった?」
キーナの呟きに、顔を見合わせる一同。
しかしぼーっと突っ立てる訳にもいかないと、説明された場所へと向かい、温泉を堪能したのであった。
その時にサーガがやはり覗きをしようとして、メリンダに焦がされたのは言うまでもない。
温泉を堪能した一同が、説明を受けた宿屋へと向かう。
「よ!」
ルイスが待っていた。
「ルイスさん」
気付いたキーナが手を挙げる。
「すまねえな。置いてけぼりにさせちまって」
「ううん。何かあったの?」
キーナが聞くと、ルイスがとても嬉しそうににっかり笑った。
「あったあった。あんたらのおかげだ!」
そう言ってキーナの頭をぐりぐり撫でる。テルディアスの目が少し鋭くなった。
「おかげでこの宮の住人が増えたよ。当人達も喜んでるしな。それで、他に光の者を宮の外で見たって話しはないか?」
ちょっとソワソワとルイスが聞いてくる。
顔を見合わせるキーナ達。
「ないね?」
「ないな」
「ないわね」
「ねーな」
ダンは何も語らない…。いや、きっと知らないからだろう。
「そうか…」
とてもがっかりしたようなルイス。
「そう上手くはいかないよな…」
「「「「?」」」」
「ああ、それでな、新しく住人も増えたし、あんたらも来てるしで、夜にちょっとした宴会でもしようって話しになっててさ。それまで宿でゆっくりしててくれ」
そう言うとルイスは足早に去って行った。
「宴会か」
サーガがちょっと嬉しそうにしている。
「まあ温泉入ってちょっと疲れたし、お言葉に甘えて宿で休んでましょ」
「そうだね」
そしてキーナ達一同は宿で夜まで体を休めたのだった。
キーナ達が宿で微睡んでいると、日が暮れかけた頃に用意ができたとルイスがやって来た。
「さーさー、まあまあ、楽しんでくれよ」
用意された席に座ると、四方八方から視線が集まる。当然のことか。
リーステインが杯を持ち上げ、
「今宵は珍しいお客様に新しい民を迎えることができました。皆さん、存分に楽しんで下さい」
そう言って宴が始まった。
キーナに間違っても酒類が渡らないようにテルディアスとメリンダが気を配り、サーガは遠慮なく杯を煽る。ダンも大きな口なのにちまちまと料理を口に運んでいる。
「ちょっといいか?」
食事が一段落した頃に、ルイスが後ろに数人従えてやって来た。
「あんたら、特にキーナちゃんに礼が言いたいって奴等を連れてきたんだ」
ルイスが脇に避けると、3人の男女が前に出て来た。
「あ、君は」
キーナが声を上げる。
「覚えていて下さいましたか」
真ん中の男の子が嬉しそうに微笑んだ。
「お久しぶりです。御子様。それに、テルディアス様も」
男の子の右にいた女性も頭を下げた。
左側の男性は知らない顔だ。
「あんたは…」
テルディアスも少し驚いた顔をしている。
光の宮で出会った親子。キーナ達が光の宮から脱出する時に一緒に脱出したアイとソウの親子だった。
「確か、ソウ君」
「はい。名前まで覚えていただけているとは、光栄です」
「そんな堅苦しい喋り方しないでいいよ。ソウ君にはお世話になったし」
光の者に捕まって光の宮へ連れて行かれたキーナの世話をしてくれたのがソウ君だ。嫌な顔せずにキーナのお世話をしてくれた母親想いの良い子だ。
「あれから私達は頂いたお金のおかげで然程困ることもなく生活できました。本当に感謝しております」
アイが改めて頭を下げる。
「いへいへそんな」
その後キーナ達は自分達がお金を持っていないと知り、食い逃げしそうになるのだが。
「できればいつかお返ししようと思っておりました。こちら、だいぶ使ってしまいましたが、お返し致します」
アイがお金の入った袋を出して来た。確かに半分くらい減っているように見える。
「差し上げたお金ですから、返さなくても良いですよ」
「いいえ。私達はこれからこの闇の宮に住むことが許されまして、もうお金はいらないのです。ですから、これからも入り用の貴女様方に持って行って頂きたいのです」
「ええと…」
もう使わない物をまだまだ持ってろとも言えない。
メリンダがキーナをつつく。ちらりとキーナがメリンダを見ると、にこやかに頷いた。
「あ、じゃあ、その、頂きます」
「はい。お返し致します」
キーナは素直に貰っておくことにした。
「あれから僕達は本当に穏やかに過ごすことができました。感謝しています」
「この子と過ごす人生を頂きまして、本当にありがとうございます」
ソウとアイが揃って頭を下げる。
「そしてこの度、闇の宮へ住むことができるようになりましたのも、御子様のおかげと聞きました」
「本当に重ね重ねありがとうございます」
またまた頭を下げる親子。その隣にいた男性も頭を下げた。
「いやいや、その、今回のことはよく分かってないんですけど…」
キーナ達はそういう人がいるとルイスに零しただけで、本人達に何かをした自覚はない。
「御子様方が私達の事を闇の方に伝えて頂いたとか。ロストから聞きました」
アイが男性を紹介する。男性がペコリと頭を下げる。
「ロストは私と同じ村で育った幼馴染みなのです。その、いわゆる将来を誓い合った仲だったと申しましょうか…」
アイが照れている。
「アイが光の宮へ連れて行かれ、私がこの宮へ来てその実情を知り、ずっと心配していたのです。この度御子様のおかげでこうしてまた会う事ができました。本当に感謝しております」
「はあ、そうなんですね。えと、良かったですね」
「「「はい。ありがとうございます」」」
その後も3人は口々に感謝の言葉を述べ、これから3人で暮らしていくのだと少し惚気、そして去って行った。
3人が去った後には、今度は男女の二人。今度はどちらの顔にも覚えがない。
「御子様。申し訳ございません」
今度はいきなり女性が謝ってきた。
「あの時は命を受けていたとは言え、御子様に大変に失礼なことを致しました。誠に申し訳ありません」
土下座する勢いで頭を下げる女性。
「いや、あの、待って下さい。その前に、どちらさまでしょうか?」
何処の誰に何を謝られているのか、キーナは尋ねる。
「私は、東の果ての国におりました、光の者。名をアリーシャと申します。御子様と馬車に乗った、と申した方が分かりやすいでしょうか」
「ああ!」
やっとキーナは思い出した。
しかしあの時は顔にも覆面のような物があったので、全く顔を見ていないのだ。
辛うじて聞いた事があるような声、ということしか分からない。
「あの時はまったく失礼な事を致しました。どんな罰も受け入れる覚悟はできております」
アリーシャが深く頭を下げる。
「御子様! アリーシャだけのせいではありません! アリーシャを置いて行ってしまった私にも責任があるのです! どうか罰を受けるならば私も!」
アリーシャの隣の男性が意気込んできた。
「どちらさまで?」
「は! 失礼致しました。アリーシャの幼馴染みで名をテッドと申します。御子様。どうかお慈悲を…」
どうして罰することが前提になっているのかとキーナが首を傾げる。
「鞭打ちでいいんじゃないか?」
めずらしくテルディアスが口を挟んで来た。
「はい?」
「百叩きね」
メリンダも口を挟んで来た。
「ええ?!」
「この場で裸踊りでもいいんじゃね?」
ついでにサーガも口を挟んで来た。
「ちょっとぉ?!」
キーナをおいて皆罰する気まんまんのようだ。
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「しないしないです! そんなことしないでいいですよ!」
「甘いぞキーナ」
「まあそれがキーナちゃんだけど…」
「男はいいから女の方が裸踊り…」
ゴス
「皆酷くない?! そんなに酷い目にあったっけ?!」
そう言われてふと思い返す。
どちらかというとキーナが一番酷い目にあっているのだが…。
((テルディアスは面白い目に合ってたよな(わよね))
メリンダとサーガが同じ事を考える。
「あって…ないわけじゃないけど…」
キーナに至っては唇を奪われた。
したくもない奴と、絶対にしたくもない奴と、気持ち悪いからしたくもない奴と。
ちょっと怒りが湧いてくるキーナ。
しかし悪いのはあの考えがぶっ飛んでいるあの王様なのであって、目の前の女性ではない。
「あ、あれはあの王様が悪いのであって、貴女ではないです。だから特に罰したりはしません」
「御子様…」
「貴女も酷いことをされていたのでしょう? だから、今までの事は全部忘れて、ここで幸せに暮らして下さい。ね、全部忘れましょう!」
「御子様…」
女性が驚いた顔をする。
そして俯いた。
「あ、ありがとうございます…」
その後もやはり謝罪の言葉を口にし、テッドに支えられながらアリーシャも去って行った。
テルディアスもメリンダもサーガも、アリーシャの事情はさりとて知らないが、それを察知するキーナに少し驚愕しつつ呆れつつ。しかしアリーシャもキーナ達を逃した時にそれなりにあの国で罰は受けているだろうと、それ以上は追求しないことにした。
なにしろキーナが忘れると言っているのだ。
「ありがとうな、キーナちゃん」
今の二組で終わりらしい。ルイスが声を掛けてきた。
「いいよ。大したことはしてないよ」
どこがだ
その場にいた何人かのツッコミは置いといて、再び宴を楽しむ一行。
そろそろお腹もいっぱいになり、音楽が流れ人々が踊り始める。
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