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シゲール襲来編
大事な話
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いつも通りに振る舞うというのは意識するとなかなか難しいもので。
テルディアスに呆れた視線を向けられつつも、ダンは頑張った。頑張ったのだ。
でもキーナにも不審な目を向けられていた…。演技力のなさよ…。
眠ったままのメリンダを思い浮かべつ、食材をどうしようか悩む。眠っている人にもなんとか食べさせられる方法があれば良いのにと思うが、さすがにそれは出来ない。(もちろんだが点滴などと言うものはない)
多少日持ちする果物も購い、足取り重く森へと向かう。
壁を抜け、結界を抜けて行くと、焚き火の前に今日は2つの人影。
メリンダとサーガだ。
目覚めたのかと安堵する一方、どのような状態なのか不安が過ぎる。しかし、
「うす」
「おはようダン」
普通の反応だった。
目をぱちくりさせながら側に寄る。
「あ、結界解いてくんね? 俺達水浴びしたいのよ」
「ダン、なんか、今までお世話になってたみたいで、ありがとうね」
普通の反応だった。
サーガとメリンダを交互に見遣る。
「ま~気持ちは分かるが、いったん落ち着け。そして結界を解け」
言われた通り、深呼吸をして腰を下ろした。そして結界を解く。
「姐さん、先行ってきたら? 少しこいつと話しあるし。後で俺と一緒でもいいけど」
「先に行くわ」
場所を聞いてメリンダが川へと向かった。
「さてそんじゃ、現状から」
昨夜のことからサーガが話し始めた。
昨夜目覚めた時には記憶も戻り、多少精神的な揺らぎはあるものの、ほぼ元に戻ったということ。しかし、
「まだ心配な点はある」
改めて寝ようとした時、小屋の中が暗くて怖いと言ってきた。どうやら暗い場所に対しても恐怖心があるらしい。それと、
「お前の姿を見た時、姐さんが息を飲んだ」
それまでダンに会うのも久しぶりなのだなと笑っていたメリンダが、ダンの姿を目にした途端、硬直した。若干顔も強ばり、呼吸が浅くなった。平気そうに取り繕ってはいたが、ダンが近づいて来ると顔が青ざめていた。
「男」に対する恐怖心も芽生えてしまったらしい。
「俺はまあ、平気らしいんだが…」
その理由が背丈であるとは思いたくない。いいや絶対に違う。違うはずだ。
「テルディアスも連れてきてもらって、荒療治にはなるが男慣れしないと不味いかなと」
ダンは頷いた。無表情に見えるが、内心かなり落ち込んでいる。
自分が「男」であるが故に、メリンダに恐怖心を抱かせている。それがちょっと悲しい。
「テルディアスを連れてくる時は、くれぐれもキーナに気をつけろよ」
変な所で勘が鋭い。テルディアスは会いに行けるのに何故自分は行けないのかと駄々をこねそうだ。
メリンダにもキーナに会いたいかを尋ねたが、
「会いたい、けど、まだ…難しいかな…」
と目を伏せた。
変な話かもしれないが、キーナだからこそ今の弱っている自分を見せたくないのだ。キーナの前では頼れるお姉さんでいたいのである。
だからまだキーナには合わせられない。ダンは深く頷いた。
「それと、正気を失っている時のことはある程度話したが、幼児化してた時の話はぼかしてあるから。お前も喋るなよ」
ダンは首を傾げた。
サーガは溜息を吐く。
「あのなぁ。自分が正気を失ってたってだけで心苦しいだろうに、それが幼児化だぞ? あの姿で「バブー」とか言ってたんだぞ? お前が同じようになって後から知って、嬉しいか?」
ダンはちょっと想像してみた。
このでかい姿で寝転がって「バブバブ」言っている所を。
そしてそこでサーガに世話をされている姿を…。
赤面した。恥ずかしいったらありゃしない。恥ずか死ねる。
ダンは何度も頷いた。絶対に言わない。心に誓った。
「よし」
それから明日にでもテルディアスを連れて来ようかと話していると、メリンダが戻って来た。
「さっぱりしたわ~。サーガも行ってきたら?」
「お、じゃあ俺も」
メリンダが少し離れて座ったのを見つつ、サーガも川に向かった。
「ダン。改めて、ありがとう」
メリンダが頭を下げた。ダンが首を横に振る。
「良かった」
一言だけかい。
「買い出しなんかはダンがやってくれてるんだって?」
メリンダがちらりと川の方を見た。サーガの姿は見えない。
メリンダが小枝を拾い上げた。何をするのかとダンは首を捻る。
「さすがにこの服だと街に行けないから、とりあえず適当に見繕ってきてくれる?」
そう言いながら、地面に何か書き出した。
「下着なんかはキーナちゃんに聞けば分かると思うから」
話しながらメリンダは文字を書き上げる。そこには、
『大事な話があるから、サーガを薬で眠らせてほしい』
と書いてあった。
「分かった?」
メリンダがにっこり微笑む。でも目が笑っていない気がする。
背筋に寒い物を感じながら、ダンはゆっくりと頷いた。
それほど時を置かずにサーガが戻って来た。地面に書いた字は消してある。
「あらサーガ、良い所に。ダンの持って来たお茶、美味しいわよ」
水浴びをして喉が渇いたというメリンダに、持っていたお茶を入れていた所だった。
「お、いいね。俺にもくれよ」
心得ていたのか、ダンがすぐに茶を用意してサーガに差し出した。
「香がいいわね。このお茶」
「んだな」
見知らぬ物から汲まれたお茶などなかなかに手をつけないサーガだったが、気心が知れた者から汲まれたお茶だったせいか、何の疑いも持たずに口をつけた。
「あ~うめぇ…」
そして地面にひっくり返った。
メリンダがサーガの顔をいじくり、眠っていることを確認。ダンが苦しくないように体勢を整えてやる。
「さて、これで、ゆっくり話しが出来るわね」
メリンダがにっこり笑った。
「ダン、あたしが眠っていた時のことを話してくれない?」
座り直し、メリンダが真剣な表情でダンを見る。
ダンは目を泳がす。自分に上手く喋ることが出来るとは思えない。
「粗方はサーガから聞いたわ。でもこいつ、肝心なこと喋ってない気がするのよ」
メリンダは気付いていた。サーガが内容をぼかしていることを。
何故「メリンダ」呼びしていたのか尋ねても、「その方が姐さんが落ち着いたから」としか話さなかった。此奴は話さないと決めたら断固として話さないところがある。
気を使ってくれているのは嬉しいが、知らないことがあるというのは気持ちが悪い。しかもそれが自分の事だから尚更である。
「ダンは、毎日ここに通ってくれていたんだし、サーガほどではないにしてもいろいろ知っているわよねぇ?」
笑っているけど目が笑っていない。その顔には「話せ」の文字が書いてあるのが見えそうだ。
ダンはなるべく余計な事は喋らないように、気をつけて言葉を吐き出す。
「メリンダ、正気、失った。サーガ、世話」
「うんうん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
メリンダの「話せ」圧力が怖い。
「目、覚めた。戻った」
「その前」
「・・・・・・」
ダンは逃げ出したかった。しかしメリンダの視線が怖くて立ち上がる事も出来ない。仕方なくダンは喋り続ける。
「メリンダ、食べない。サーガ、口移しで、無理矢理、食べさせた」
「く・ち・う・つ・し?」
何故メリンダは顔を引き攣らせているのだろう。そして若干顔が赤い気がする。
「で、元気、なった」
これでどうだとメリンダを見るが、さっきよりも怖い笑顔になっている。
「もう隠していることはない?」
笑顔が怖い。
「本当に、ない?」
怖い。
「ダン?」
怖さのあまり、ダンはサーガに心の中で謝りながら、メリンダが幼児化していたことを話してしまったのだった。
メリンダが頭を抱えている。
ダンはそそくさと仕事をこなす。と言ってもメリンダが洗い物もやっておいてくれたし、洗濯もやっておいてくれたので、料理をするだけなのだが。
居心地の悪さを感じつつも、ダンは手を動かす。メリンダはショックで動けないようなので、そっとしておく。
昼過ぎにサーガが目覚めた。飛び起きるとそのままダンに掴みかかった。
「てめえ! 何入れやがった!」
ダンは顔を青くしてブルブル震えるだけ。
「サーガ」
そこを助けたのはメリンダの冷えた一言。
そのあまりの温度の低さに、サーガも固まる。そして機械仕掛けの人形のようにぎぎぎっとメリンダを見ると、やはり冷えた笑顔を顔に貼り付けたメリンダ。
「後で、話しがあるから」
「…はい…」
温かいご飯も、何故か冷たく感じられたお昼だった。
その後、さっさと料理を作り終えると、ダンは足早に立ち去った。
「ありがとうね、ダン」
そう言って見送ってくれたメリンダの笑顔がなんだか怖かった。
サーガはメリンダに睨まれて青ざめながら座っていた。帰って行くダンを恨めしそうに睨んでいたのは言うまでもない。
いつもよりも早い帰宅となり暇になってしまったダンは、メリンダに頼まれた服を買おうと街へと行ってみた。
今までに着ていた服の好みから似たような服を買えば良いのかと頭を捻るが、如何せんダンにはそんな乙女心は理解出来ない。とりあえず街に出られる服装ということで、古着を適当に見繕った。
しかし、まだ問題はあった。下着である。こればかりは古着屋では買えない。そればかりか、そんな店にダンが入れる勇気もなく…。
キーナに頼んで後で買ってきてもらうことにした。
ついでに夕食の材料も少し買い足し、仮宿へと帰る。夕飯の準備をしていると、キーナとテルディアスが並んで帰って来た。
いつもより豪勢な夕飯を見て、キーナが目を輝かせる。
「何か良いことあったの?!」
ダンは頷いた。
夕飯を頂きながら、メリンダが良くなったと報告。キーナも嬉しそうに声を上げる。
「お見舞いに行って良いの?!」
それはまだ駄目だった。
一瞬でキーナの顔が曇る。
「なんでぇなんでぇ? 早くメリンダさんに会いたい~~~」
「キーナ。我が儘を言うな」
「だってぇ。テルだって早くメリンダさんに会いたいでしょぅ?」
「…まあ」
「別に」とは言えなかった。
「メリンダも、会いたい、言ってた。もう少し、我慢」
「う~~~~~…、分かった。我慢するぅ…」
思い切り不満気な顔をしながらも、キーナは頷いたのだった。
キーナがお風呂で抜けた後、テルディアスと2人で話をする。
「そうか…。ほぼ元通りに…」
テルディアスの顔もほっとしたように緩む。一応テルディアスなりに心配はしていたのだろう。
「暗闇、怖がる。男、怖がる。慣れさせる、テルディアス、会いに行く」
ダンの拙い説明も、テルディアスは理解してくれたようだった。
「分かった。明日キーナを送った後、街の外で合流しよう」
キーナに悟られない為に、テルディアスも詳しい場所は知らなかった。なのでダンに案内してもらう必要がある。
ダンは頷いた。そして、キーナに伝えたいことがあったことを思い出した。
テルディアスに呆れた視線を向けられつつも、ダンは頑張った。頑張ったのだ。
でもキーナにも不審な目を向けられていた…。演技力のなさよ…。
眠ったままのメリンダを思い浮かべつ、食材をどうしようか悩む。眠っている人にもなんとか食べさせられる方法があれば良いのにと思うが、さすがにそれは出来ない。(もちろんだが点滴などと言うものはない)
多少日持ちする果物も購い、足取り重く森へと向かう。
壁を抜け、結界を抜けて行くと、焚き火の前に今日は2つの人影。
メリンダとサーガだ。
目覚めたのかと安堵する一方、どのような状態なのか不安が過ぎる。しかし、
「うす」
「おはようダン」
普通の反応だった。
目をぱちくりさせながら側に寄る。
「あ、結界解いてくんね? 俺達水浴びしたいのよ」
「ダン、なんか、今までお世話になってたみたいで、ありがとうね」
普通の反応だった。
サーガとメリンダを交互に見遣る。
「ま~気持ちは分かるが、いったん落ち着け。そして結界を解け」
言われた通り、深呼吸をして腰を下ろした。そして結界を解く。
「姐さん、先行ってきたら? 少しこいつと話しあるし。後で俺と一緒でもいいけど」
「先に行くわ」
場所を聞いてメリンダが川へと向かった。
「さてそんじゃ、現状から」
昨夜のことからサーガが話し始めた。
昨夜目覚めた時には記憶も戻り、多少精神的な揺らぎはあるものの、ほぼ元に戻ったということ。しかし、
「まだ心配な点はある」
改めて寝ようとした時、小屋の中が暗くて怖いと言ってきた。どうやら暗い場所に対しても恐怖心があるらしい。それと、
「お前の姿を見た時、姐さんが息を飲んだ」
それまでダンに会うのも久しぶりなのだなと笑っていたメリンダが、ダンの姿を目にした途端、硬直した。若干顔も強ばり、呼吸が浅くなった。平気そうに取り繕ってはいたが、ダンが近づいて来ると顔が青ざめていた。
「男」に対する恐怖心も芽生えてしまったらしい。
「俺はまあ、平気らしいんだが…」
その理由が背丈であるとは思いたくない。いいや絶対に違う。違うはずだ。
「テルディアスも連れてきてもらって、荒療治にはなるが男慣れしないと不味いかなと」
ダンは頷いた。無表情に見えるが、内心かなり落ち込んでいる。
自分が「男」であるが故に、メリンダに恐怖心を抱かせている。それがちょっと悲しい。
「テルディアスを連れてくる時は、くれぐれもキーナに気をつけろよ」
変な所で勘が鋭い。テルディアスは会いに行けるのに何故自分は行けないのかと駄々をこねそうだ。
メリンダにもキーナに会いたいかを尋ねたが、
「会いたい、けど、まだ…難しいかな…」
と目を伏せた。
変な話かもしれないが、キーナだからこそ今の弱っている自分を見せたくないのだ。キーナの前では頼れるお姉さんでいたいのである。
だからまだキーナには合わせられない。ダンは深く頷いた。
「それと、正気を失っている時のことはある程度話したが、幼児化してた時の話はぼかしてあるから。お前も喋るなよ」
ダンは首を傾げた。
サーガは溜息を吐く。
「あのなぁ。自分が正気を失ってたってだけで心苦しいだろうに、それが幼児化だぞ? あの姿で「バブー」とか言ってたんだぞ? お前が同じようになって後から知って、嬉しいか?」
ダンはちょっと想像してみた。
このでかい姿で寝転がって「バブバブ」言っている所を。
そしてそこでサーガに世話をされている姿を…。
赤面した。恥ずかしいったらありゃしない。恥ずか死ねる。
ダンは何度も頷いた。絶対に言わない。心に誓った。
「よし」
それから明日にでもテルディアスを連れて来ようかと話していると、メリンダが戻って来た。
「さっぱりしたわ~。サーガも行ってきたら?」
「お、じゃあ俺も」
メリンダが少し離れて座ったのを見つつ、サーガも川に向かった。
「ダン。改めて、ありがとう」
メリンダが頭を下げた。ダンが首を横に振る。
「良かった」
一言だけかい。
「買い出しなんかはダンがやってくれてるんだって?」
メリンダがちらりと川の方を見た。サーガの姿は見えない。
メリンダが小枝を拾い上げた。何をするのかとダンは首を捻る。
「さすがにこの服だと街に行けないから、とりあえず適当に見繕ってきてくれる?」
そう言いながら、地面に何か書き出した。
「下着なんかはキーナちゃんに聞けば分かると思うから」
話しながらメリンダは文字を書き上げる。そこには、
『大事な話があるから、サーガを薬で眠らせてほしい』
と書いてあった。
「分かった?」
メリンダがにっこり微笑む。でも目が笑っていない気がする。
背筋に寒い物を感じながら、ダンはゆっくりと頷いた。
それほど時を置かずにサーガが戻って来た。地面に書いた字は消してある。
「あらサーガ、良い所に。ダンの持って来たお茶、美味しいわよ」
水浴びをして喉が渇いたというメリンダに、持っていたお茶を入れていた所だった。
「お、いいね。俺にもくれよ」
心得ていたのか、ダンがすぐに茶を用意してサーガに差し出した。
「香がいいわね。このお茶」
「んだな」
見知らぬ物から汲まれたお茶などなかなかに手をつけないサーガだったが、気心が知れた者から汲まれたお茶だったせいか、何の疑いも持たずに口をつけた。
「あ~うめぇ…」
そして地面にひっくり返った。
メリンダがサーガの顔をいじくり、眠っていることを確認。ダンが苦しくないように体勢を整えてやる。
「さて、これで、ゆっくり話しが出来るわね」
メリンダがにっこり笑った。
「ダン、あたしが眠っていた時のことを話してくれない?」
座り直し、メリンダが真剣な表情でダンを見る。
ダンは目を泳がす。自分に上手く喋ることが出来るとは思えない。
「粗方はサーガから聞いたわ。でもこいつ、肝心なこと喋ってない気がするのよ」
メリンダは気付いていた。サーガが内容をぼかしていることを。
何故「メリンダ」呼びしていたのか尋ねても、「その方が姐さんが落ち着いたから」としか話さなかった。此奴は話さないと決めたら断固として話さないところがある。
気を使ってくれているのは嬉しいが、知らないことがあるというのは気持ちが悪い。しかもそれが自分の事だから尚更である。
「ダンは、毎日ここに通ってくれていたんだし、サーガほどではないにしてもいろいろ知っているわよねぇ?」
笑っているけど目が笑っていない。その顔には「話せ」の文字が書いてあるのが見えそうだ。
ダンはなるべく余計な事は喋らないように、気をつけて言葉を吐き出す。
「メリンダ、正気、失った。サーガ、世話」
「うんうん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
メリンダの「話せ」圧力が怖い。
「目、覚めた。戻った」
「その前」
「・・・・・・」
ダンは逃げ出したかった。しかしメリンダの視線が怖くて立ち上がる事も出来ない。仕方なくダンは喋り続ける。
「メリンダ、食べない。サーガ、口移しで、無理矢理、食べさせた」
「く・ち・う・つ・し?」
何故メリンダは顔を引き攣らせているのだろう。そして若干顔が赤い気がする。
「で、元気、なった」
これでどうだとメリンダを見るが、さっきよりも怖い笑顔になっている。
「もう隠していることはない?」
笑顔が怖い。
「本当に、ない?」
怖い。
「ダン?」
怖さのあまり、ダンはサーガに心の中で謝りながら、メリンダが幼児化していたことを話してしまったのだった。
メリンダが頭を抱えている。
ダンはそそくさと仕事をこなす。と言ってもメリンダが洗い物もやっておいてくれたし、洗濯もやっておいてくれたので、料理をするだけなのだが。
居心地の悪さを感じつつも、ダンは手を動かす。メリンダはショックで動けないようなので、そっとしておく。
昼過ぎにサーガが目覚めた。飛び起きるとそのままダンに掴みかかった。
「てめえ! 何入れやがった!」
ダンは顔を青くしてブルブル震えるだけ。
「サーガ」
そこを助けたのはメリンダの冷えた一言。
そのあまりの温度の低さに、サーガも固まる。そして機械仕掛けの人形のようにぎぎぎっとメリンダを見ると、やはり冷えた笑顔を顔に貼り付けたメリンダ。
「後で、話しがあるから」
「…はい…」
温かいご飯も、何故か冷たく感じられたお昼だった。
その後、さっさと料理を作り終えると、ダンは足早に立ち去った。
「ありがとうね、ダン」
そう言って見送ってくれたメリンダの笑顔がなんだか怖かった。
サーガはメリンダに睨まれて青ざめながら座っていた。帰って行くダンを恨めしそうに睨んでいたのは言うまでもない。
いつもよりも早い帰宅となり暇になってしまったダンは、メリンダに頼まれた服を買おうと街へと行ってみた。
今までに着ていた服の好みから似たような服を買えば良いのかと頭を捻るが、如何せんダンにはそんな乙女心は理解出来ない。とりあえず街に出られる服装ということで、古着を適当に見繕った。
しかし、まだ問題はあった。下着である。こればかりは古着屋では買えない。そればかりか、そんな店にダンが入れる勇気もなく…。
キーナに頼んで後で買ってきてもらうことにした。
ついでに夕食の材料も少し買い足し、仮宿へと帰る。夕飯の準備をしていると、キーナとテルディアスが並んで帰って来た。
いつもより豪勢な夕飯を見て、キーナが目を輝かせる。
「何か良いことあったの?!」
ダンは頷いた。
夕飯を頂きながら、メリンダが良くなったと報告。キーナも嬉しそうに声を上げる。
「お見舞いに行って良いの?!」
それはまだ駄目だった。
一瞬でキーナの顔が曇る。
「なんでぇなんでぇ? 早くメリンダさんに会いたい~~~」
「キーナ。我が儘を言うな」
「だってぇ。テルだって早くメリンダさんに会いたいでしょぅ?」
「…まあ」
「別に」とは言えなかった。
「メリンダも、会いたい、言ってた。もう少し、我慢」
「う~~~~~…、分かった。我慢するぅ…」
思い切り不満気な顔をしながらも、キーナは頷いたのだった。
キーナがお風呂で抜けた後、テルディアスと2人で話をする。
「そうか…。ほぼ元通りに…」
テルディアスの顔もほっとしたように緩む。一応テルディアスなりに心配はしていたのだろう。
「暗闇、怖がる。男、怖がる。慣れさせる、テルディアス、会いに行く」
ダンの拙い説明も、テルディアスは理解してくれたようだった。
「分かった。明日キーナを送った後、街の外で合流しよう」
キーナに悟られない為に、テルディアスも詳しい場所は知らなかった。なのでダンに案内してもらう必要がある。
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