キーナの魔法

小笠原慎二

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青い髪の少女編

水娘

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検問を待つ間もシアは1人騒がしい。

「テルディアス様、まるで私達を祝福するかのように花が咲いてますわ」

とか

「テルディアス様、まるで私達の将来を約束するかのような日差しですわ」

とか

「テルディアス様、まるで私達の仲の良さを歌うような鳥の歌声ですわ」

とか、全ての出来事が自分達に対しての祝福とでも言うかのように1人話す。
その間、テルディアスは能面、いや、怒りを抑えるかのような能面顔?だった。
テルディアス達をチラチラと見ながら、サーガとメリンダが小声で話す。

「俺、今テルディアスの気持ちが分かりたくもないけどすんげぇ分かるわ」
「奇遇ね。あたしもよ」

とヒソヒソ。
キーナも時折後ろを振り返る。テルディアスはどこか遠くの一点をじっと見つめているようだった。その顔には、

「うるさい。離れろ。気持ち悪い」

という文字が見える気がした。
いつもならば苦笑いをするところなのだが、何故か今日はその笑いが出てこない。ひっつくシアを見ると胸が「もやっ」とする。後ろが気になるけれど、見るほどに「もやっ」が広がっていく感じがしてキーナはなんとなく後ろを見ることが出来なかった。でもやっぱり、

「うふふふふ、テルディアス様~」

なんて声が聞こえてくると振り向いてしまいたくなってしまい…。
四半時も待ったわけでもないのに、なんだかとても長く感じた待ち時間だった。















無事に街中へ入るとテルディアスはシアの腕を振りほどき、姿を消した。

「テルディアス様~!」

追いかけようとしたシアの足元の地面が突然陥没。シアは地面に正面激突。

「な、なんですの?!」
「追いかける。駄目」

街中で蔓を巻き付ける訳にもいかないので、とりあえずダンは忠告する。

「何を言ってるんですの?! テルディアス様が私をお待ちになってますわ!」

と立ち上がり、一歩踏み出すと何故か地面が陥没。再び地面に正面激突。

「ど、どうなってるんですの?!」

シアが顔を上げるとすでに地面は元の平らに戻っているので、何が起きているのか分かっていないのかもしれない。

「駄目。宿、行く」
「で、でも…」
「どうせテルディアス、来る」
「あ、そうですわね!」

一緒に行動しているのだ。宿もどうせ一緒になるのだ。探し回るよりも宿で待っていた方がいいとシアも気付いたようだった。

「おいちょっと待て。お前、金なしだろ」

サーガが突っ込んで来た。

「お金? もちろんありませんわ!」

胸を張ることではない。

「あたしたちのお金は出さないわよ?」
「はい?」

まあ当然か。

「何を仰っているのです? 私は王族でしてよ。もちろんですがそこら辺の宿ではなく、きちんとした宿でなくてはいけませんわ」
「自分で稼いでこい」

サーガ冷たく言い放つ。お金に関してはシビアである。

「何を仰っているのか分かりませんわ」
「王族だろうが何だろうが俺達には関係ねー。お前が勝手に付いてきてるだけだろ。自分の分くらい自分で稼いでこいや」

確かに、シアは至極勝手に付いてきているだけですね。
まあそれを言うならメリンダもサーガもダンも同じような感じではある。
しかしメリンダは一応自分で貯めていたお金を使ったり、キーナのように働いて稼いだりしているし、サーガも時折妙な小遣い稼ぎをしている。ダンに至っては自作の薬などを売ったりして実は稼いでいたりする。
旅の道中でもダン、メリンダ、キーナは炊事を担い、テルディアスとサーガは周辺の警備をしている。きちんとそれぞれが仕事をこなしているのだ。

しかしシアはどうだろうか。料理はてんで駄目。警備と言っても隙あらばテルディアスを追いかけ回しているだけ。まさに只飯食らい。働かざる者食うべからずである。

「俺、出す」

珍しくダンが口を挟んで来た。

「あん? おいおい、お前正気か?」
「俺、出す。大丈夫。一緒に泊まる」
「甘やかすとつけあがるぞこういうの」
「仕事も、教える」

いつも無口なダンの必死な様子に、サーガは溜息を吐いた。

「なら、お前が面倒見ろよ。てかもうほぼ見てるか」

見てるね。
話の様子から、どうやらダンが助けてくれたことを理解したシア。

「礼を言っておきますわね、ダン」

一応素直に感謝の意を示した。その辺りは素直なようだ。
しかしその後、宿を決めるに当たって文句を付けてきた。

「テルディアスが~」

とサーガが口にするとすぐに黙ったのだった。
うん、素直…?














宿が決まるとすぐに、サーガは風文を出しに出かけると言う。
メリンダがなんとなくオロオロしているのにキーナが気付いた。

「サーガ、一緒に行ってもいい?」
「あん? 別にいいけど」

メリンダがほっとした顔をしたので、これで良かったのだとキーナも胸を撫で下ろす。
あの事件以降、メリンダがサーガを頼りにしていることはキーナもうすうす気付いていた。離れることが不安なのだろう。かと言ってキーナを1人にすることもできない。
キーナも1人になるのは不安だったので丁度良い。それに風文にも興味がある。なので3人で連れ立って出かけることになった。
ちなみにシアは、

「ここで待っていればテルディアスが来る」

とダンに言いくるめられたので、宿で大人しく留守番することになっている。
風文は所謂郵便である。目的地に向かって風で文を飛ばすのだ。大概の街には風文取り扱い所があり、専門の魔導師が風の魔法で目印となっている場所へと飛ばすのである。距離が遠くなる場合は、中継地などを伝って行くこともある。
中で紙を買い、ペンを借り、サーガが何かスラスラと文章を書いていた。書き終わるとそれを紙飛行機のように折った。

「折るんだ?」
「この方が風に乗りやすいだろ?」
「折り鶴とかにもするの?」
「なんだそりゃ?」

サーガが面白そうだとキーナに手紙を渡した。キーナはそれをちょっと正方形に調整してから、苦戦しつつも鶴の形に折り上げた。

「へえ、こりゃ面白え」

出来上がった物を手に取り、サーガが繁々と鶴を眺める。メリンダも珍しそうに眺めていた。

「後で折り方教えてくれよ」
「いいよ。でも正方形のほうが折りやすいよ」
「あのう…」

それを見ていた職員が声を掛けてきた。

「出来れば、私共にも教えて頂けると…」
「いくら出す?」
「ええ? いいよお金なんて」
「ダメダメ。情報は只でやっちゃいけないものなの」
「サーガだって只で…」
「俺は仲間だから良いの」

いいのか。
その後値段をつり上げそうになるサーガを抑えつつ、少しの間キーナの折り鶴教室が開かれた。もちろんメリンダも参加していた。

その後、風文に長方形と正方形の紙が用意されるようになったとか。

サーガが鶴の形になった手紙を自分で飛ばす。

「俺がやった方が早えーもん」

だと。
普通の魔導師では中継地を使わなければいけない距離らしいのだが、サーガであれば一気に飛ばせるのだそう。目印だけ聞いて、あとはさっさとそこを出たのはそういうわけらしい。

「早くても明日の午後か、遅くても2、3日くらいで返事は来ると思うんだけどな」
「本当か?」
「にゃ―――!」

突然後ろから声が聞こえたので、キーナがビックリして声を上げた。テルディアスだった。

「いや、返事は来ても、引き取りにくるのはそれ以上に時間がかかると思うぜ…」
「レオサークはすぐに来ただろう」
「あの時はそこそこ近場だったし、あそこが高名な魔導師の国でもあったからだが」
「く…」

そんなに悔しい顔をしないで。

「て、テル…どこから…」
「ああ、宿から様子を見てたんだが、どうやらあの水娘がいなさそうだったからな」

様子を見ていたらしい。余程嫌なのだね。

「部屋は3階の3号室よ。食事はどうするの?」

メリンダが尋ねる。

「さすがに、外で適当に食う」

1階は食堂であるが、そこで食べるということはもれなく水娘が付いてくる。

「そか…」

キーナがしゅんとなる。テルディアスが側にいないのが寂しいらしい。
テルディアスがポン、とキーナの頭に手を置く。

「そんな顔するな。お前からは見えないかも知れんが、俺はずっと側にいるぞ」

ストーカー発言ですね。
しかしキーナは顔を上げ、嬉しそうに笑う。

「うん!」

ストーキングされることに喜びを感じているようである。これは特殊な例だからね?
そんな2人を生温かい目で見つめるサーガとメリンダ。いや、メリンダはちらりとサーガを見ていたりもしていた。羨ましいのかしらん?
水娘にちらりとでも会いたくないというのでテルディアスとはそこで別れ、3人はブラブラと宿へと帰って行った。











夕飯時。

「テルディアス様が帰ってきませんわ!」

とシア。
どうやら3階の3号室に勝手に入って待っていたらしい。鍵は受付でもらうのだが、

「妻です!」

と強引に言いくるめて鍵を出してもらったのだとか。一応サーガなどが仲間らしき言動をしていたので、受付の人も然程疑わず鍵を出したのだと思える。

「へ~、そんで鍵は?」
「これですわ!」
「ん、没収しとく」
「何をするんですの?!」

素直?なシアはサーガに言われるままに鍵を出し、サーガに没収された。

「ダン、ちゃんと見とけっつたろ」

ダンが申し訳なさそうに頭をぺこぺこ下げる。いや、ダンが悪いわけではないんだけどね。

「返してくださいまし! テルディアス様のお帰りを待つのは妻の勤めですわ!」
「いや、勝手に人の部屋に入るのは仲間内でも失礼だぞ」

ですよね。

「私は妻ですのよ!」
「いやいや、それでも限度っちゅーものがある。いいか、よく聞けお嬢さん。このままじゃ本当にテルディアスに嫌われるぞ?」
「そんなことありませんわ!」

どの口が言う…。

「いやいや、テルディアスはどちらかというと少し距離を置きたい奴なんだ。特に人前でベタベタするのは恥ずかしくて嫌なんだと」

そうだろうな、と他人の振りして聞いていたメリンダも頷いた。

「だからなんです?」

少しは分かれ。

「つまりだな、お前さんみたいに人前でも飛びついて来るような奴は苦手なんだよ。奴は恥ずかしがり屋さんだからな」
「なるほど」

恥ずかしがり屋、という言葉には納得出来たようである。
キーナも耳を傾けながら、今までの自分の所業を思い出していた。心当たりがあり過ぎる…。
確かに往来で飛びついたりすると怒られたりはしていた。しかしシアのように拒絶されたりはしていない。キーナは首を傾げた。

「恥ずかしがり屋の奴には押せ押せだと不味いんだよ。時には引くことも重要だ」
「そうなんですのね」

いつの間にやらシアがサーガの言葉に引きずり込まれている。
さすが、とメリンダ心の中で拍手した。

「いきなり部屋で待ってるってのは、周囲にこれからいちゃこらしますって言ってるようなもんだろ? それよりも少し周りが落ち着いた時に部屋に訪れた方が、周囲の目も気にならなくなる」
「ふむふむ」

つまり、とにかく押しかけるのはやめろと言ってるんですね。メリンダ心の中で納得。

「だから俺が鍵をあいつに渡しておく。その時にあいつにお嬢ちゃんのことも耳打ちしておくさ」
「なるほど! 分かりましたわ!」

何が分かったのだろう。
キーナとメリンダが眉を顰めつつ、騒がしかった夕飯を終えた。














「サーガ」
「ん? 何?」

メリンダに呼び止められ、振り返るサーガ。

「さっきのって、どういうこと?」
「あん? もちろん、俺が鍵を渡す時に「あの水娘が来るかもしれんから用心しとけ」って伝えるだけだぜ?」
「え?」
「え?」
「え、でも、そういう風には聞こえなかったような…」
「俺は耳打ちしておくとは言ったけど、どういうことを、とは言ってないけど」
「あー…、うん…」

確かに。
上手い具合に誘導したものだ。あんな言い方をされたなら、

「後で来るから部屋で仕度して待っててね♡」

などという風にも聞こえる。
さすがはサーガというかなんというか…。メリンダ改めてサーガを見直してしまう。
いやそうすると胸の鼓動がまた早まったりするので、横に置いておくことにする。

「あ、それと、また、後で、いい?」

メリンダが少し恥ずかしそうに言う。

「ん。待ってら」

サーガはヒラヒラと手を振って、自分の部屋へと戻って行った。
とりあえずキーナに今の事やらなどを伝えて、またサーガの元へ訓練・・に行くのだ。

(きょ、今日こそは…)

メリンダは胸の前で拳を握り締める。
今日こそは、なんとか最後まで…。出来たら良いなと思う。
そろそろサーガを誤魔化すのも限界な気がしている。これ以上サーガに我慢させるのも申し訳ない。
とにかく一先ず、キーナが寝る仕度をしているだろう部屋へと戻って行った。
夜はこれからだ。
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