キーナの魔法

小笠原慎二

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青い髪の少女編

そうだ、置いて行こう

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「そうだ。置いて行こう」

京都に行こうみたいに言い出した。

「ダンには悪いがあれとここに置いて行こう。そうだそれがいい。今すぐ出発しよう」

テルディアスが言い出した。嫌すぎて錯乱し始めたのかも知れない。

「落ち着けテルディアス。それについては悪い情報がある」
「なんだ!」

サーガにイライラをぶつけるように睨み付ける。

「あの水っ子、水の宝玉の気配を追えるらしいぜ。なんとなくではあるけれど」

思い返してみれば、シアは出会い頭に「泥棒!」と叫んできたのだ。あれも水の宝玉の気配を察してのことだったのかもしれない。
そして、水の宝玉はテルディアスが持っている。火の宝玉はメリンダが、地の宝玉はダンが持っている。いや、ダンを置いて行けないじゃないか。
キーナに持たせると玩具にするので預けておけず、サーガは宝玉を持ちたがらない。というか、他の属性の宝玉は「なんだか怖い」と言って、ダンもメリンダも持ちたがらないのである。

つまり、テルディアスが水の宝玉を持っている限り、あの水娘は地の果てまでも追いかけてくるだろう。かといって水の宝玉を捨てていくわけにも行かない。
テルディアスががっくり膝を付いた。それほどショックだったのだろう。

「そうだ。切り捨てよう」

テルディアスが剣に手を掛けた。

「テル、テル、落ち着いて落ち着いて」

半分正気を失いつつあるテルディアスを、なんとかキーナが宥めたのだった。














「テル」
「キーナ」

夕飯を終えて後は寝るだけ自由時間。今日も今日とて屋根の上にて逢い引きの時間。
キーナはテルディアスのすぐ隣に座り込む。

「あのお店行った? どうだった?」

遅い昼飯を食べに行った所をテルディアスに教えたのだ。

「ああ。美味かった」

美味しい物を食べて多少は気も紛れたのか、テルディアスの表情も落ち着いている。
キーナは嬉しそうに微笑んだ。
何故かテルディアス目を逸らす。

「明日からは…また大変だね…」
「そうだな…」

テルディアスもなんとか水娘が付いてくるという事実を受け入れた。嫌だけれども。

「また離れて着いてくることになるの?」
「それしかないな…」

側にいれば飛びついて来る。離れていても気持ちの悪い視線を浴びる。となれば姿を隠して着いて行くしかあるまい。

「ぬぅ…。寂しくなるなぁ」

キーナがふくれっ面になる。
テルディアス、その頬を突きたくなった。が、やめた。

「お前は余所見をせずに歩けよ」

キーナはしょっちゅうキョロキョロして、面白そうな物を見つけると走り出そうとする。その度にテルディアスが襟首を捕まえたり腕を捕まえたり頭を掴んだりして防いでいる。
テルディアスが目を離した隙などには、サーガが追いかけたりしている。なんとも落ち着きがない。
始めの頃、2人で旅していた時などは、テルディアスが人に姿を見られたくなくて結界の外を歩くのがしょっちゅうだった。そのせいかキーナはすぐに結界の外へ行こうとする。どうも危機意識が欠けている。育て方を間違えたようである。

「う~ん、テルを探しながら歩こうかな」

歩きながらウォー○ーを探せをやるらしい。ウォー○ーではなくテルディアスであるが。

「前を見て歩け」

余所見して転びでもしたらどうする気だ。
その後も他愛もない事を話していると、キーナの目がショボショボして来た。

「そろそろ戻れ」

テルディアスが警戒して、少し距離を取る。

「うにゅぅ…」

キーナがテルディアスを見た。そして両手を広げる。

「抱っこ」
「自分で戻れ!!」

大声出すと気付かれるよ?

「めんどうくしゃい~…」
「お前は…」

こうなると余程のことがなければ動かないキーナ。さすがにこれまでの付き合いで分かっている。
頭がぐらぐらしている。余程眠いのだろう。こうなるまえに自力で戻れば良いものを…。
テルディアスは諦めの溜息を吐いた。このままでいても結局ここで寝落ちして、テルディアスが運ぶ羽目になるのだ。仕方なく立ち上がる。

「ほら。運んでやるから」
「にゅふぅ」

テルディアスが屈むと、キーナがテルディアスの首に腕を回す。顔が近い。

(寝てからにすれば良かったんじゃ…)

そうすればこれ程に顔が近くなることもなかった。眠り込んでぐったりしたキーナを運べばいいだけだったのだ。しかしここまで来て「やっぱやめた」とも言えない。

「にゅふぅ。テルにゃ~」

半分寝たような顔をしたキーナがテルディアスに顔を擦り寄せる。良い匂いが…。
テルディアスが呼吸を止めた。
キーナを姫抱っこで担ぎ上げ、風を纏う。開いていた窓から部屋へと入り、キーナをベッドに降ろした。

「キーナ…。腕」

キーナが腕を外さない。

「にゅぅ…。一緒に寝よう」
「アホ言うな!!」

テルディアスがキーナの腕を引っぺがした。
残念そうな顔でテルディアスを見上げるキーナ。
布団を掛けてやり、目に掛かりそうになっていた前髪を払ってやった。

「さあ、寝ろ」
「うん…。おやすみにゃ、テル…」

そのままキーナは眠りの淵へと落ちて行った。
相も変わらず寝付きが良い。

「おやすみ」

キーナの頬を指で軽く撫でると、また窓から出て行った。
どうせ夜中に一緒に寝るくせに。などとは思ってはいけません。













次の日の朝。

「にゅ…」

珍しくキーナの方が先に目覚めた。
目の前には気持ちよさそうに眠るテルディアスの寝顔。

(可愛い…)

少しぼんやりした頭でそんなことを考える。
いつも気を張っているような顔をしているが、寝ている時はまだ少年の面影が残っている。
そんな寝顔を眺めていると、なんとなく胸が温かくなってくる。

(にゅふふ)

なんとなくくすぐったいような嬉しいような、フワフワした感じがする。キーナはよりテルディアスに体を近づける。

(えへへ。温かい)

テルディアスの体温を味わっていると、

「う…ん」

テルディアスがもぞっと動いた。起きたのかと思い顔を上げると、テルディアスの腕が降ってきた。

「にょ?!」

テルディアスの腕がキーナの腰に回され、そのままずりっと引き寄せられる。まさにキーナはテルディアスと密着する形となった。

(え~と…)

腰に固定された腕は動かせそうにない。目の前にはテルディアスの逞しい胸板。息ができないわけではないので大丈夫。しかし、ここまで密着すると、さすがのキーナも気恥ずかしさが湧いてくる。

(う~ん…。さすがにこれは…)

テルディアスが起きないと動けないだろう。それでもどうにか出来ないかと探っていると、

(? 下の方にでっぱりがある? ベルトかな?)

それは考えないであげてください。
キーナが気恥ずかしさからもぞもぞしていると、それに気付いたのか、テルディアスが目を覚ました。

(ん?)

腰に回された腕。そしてほぼ全身で感じられるキーナの体温と柔らかさ。
ちらりと視線を下に向ければ、こちらを見上げてくるキーナと視線が合った。

「あ、テル、起きた?」

ちょっと恥ずかしそうなキーナの顔。

「・・・・・・!」

その日、久しぶりにテルディアス目覚まし時計が機能しましたとさ。
















「誰かの悲鳴が聞こえましたけれど、何かありましたの?」

朝食の席でシアが聞いて来たが、誰も何も言わなかった。
街を出ようとすると、そこでもフェイスチェックをしていた。念の為街を出て行く者の顔も確かめているらしい。それを知ったサーガがテルディアスに連絡。テルディアスが渋々という感じで路地から出て来た。

「テルディアス様!」

飛びつこうとしたシアが何かに足を取られ地面に正面激突。好きだね。
物陰でメリンダに化粧を施して貰い、一同と共に街を歩く。1人で行くよりは団体で行った方が怪しまれないからだ。

「うふふ。テルディアス様♡ お会いしたかったですわ」

顔に会いたくもなかったという文字が見えて来そうなテルディアス。ベタベタくっつくシアに我慢しながら検問をすり抜けた。しばらくは怪しまれないように一緒に歩いて行く。
その姿をつまらなそうに見つめるキーナ。そんなキーナの様子を見てシアにムカつくメリンダ。絶対に属性だけの問題ではないはず。

(あの小娘~。キーナちゃんの目の前で~)

テルディアスが嫌がっているのも気付かず、キーナの寂しそうな視線にも気付かない水娘。メリンダもテルディアスと同じくシアを置いて行けるものなら置いて行きたかった。
街が森に隠れ人目がなくなると、テルディアスがシアの腕を振りほどいて森へと消えて行った。

「あん、テルディアス様!」

追いかけようとしたシアの足がまた何かに躓き顔面衝突。好きだね。

「一体なんなんですの?!」

ダンがテルディアスのことを思って邪魔しているのです。
そのまま一行はテルディアスがいないまま街道を進んで行く。シアはほぼ森の方へ視線を向けて歩いているので危ない。ダンが様子を見つつシアと共に歩く。
キーナもサーガとメリンダに挟まれる格好で、チラチラと森を気にしながら歩いていた。
その様子にサーガとメリンダも苦笑いしていた。

この日は野宿することになった。ダンの提案でもあった。どうにかシアを使えるように教育したいらしい。頑張れ、ダン。
夕飯の準備をする一行と、辺りの哨戒に行くサーガ。街道が近くとも、妖魔はいないとも限らないのだ。テルディアスもきっと見えないながら周りを警戒しているのだろう。
残されたキーナにメリンダにシアにダン。キーナとメリンダは手慣れた手つきで材料の下拵えを始める。ダンはいつの間に買ってきたのか、シア用に用意した小さなナイフをシアに手渡した。

「下拵え、教える」
「何故私がこのようなことをしなければなりませんの?」

料理は出される物だったシア。料理しようと考えたこともないのだろう。
倒木に座らされて固定されたシアは、渡された刃物と食材を手に不愉快そうにダンを見る。

「出来ると、テルディアス、喜ぶ」
「頑張りますわ」

コロッと変わるシアの顔。
ダンもシアの取り扱いが分かって来たようである。
何も知らないシアに、ダンが手取り足取り教えていく。ナイフの握り方から皮のむき方。今回の食材はいちょう切りに切り揃えていくようだ。
ダンがまるで芸術のように美しく切り分けていく横で、皮、という範囲を大きく捕らえたシアの食材がみるみる小さくなっていく。ま、まあ…初めてじゃあしょうがないよね…。

「どうですの?!」

やってやったぜという顔のシア。食材は見事に一口サイズに小さくなっていた。

「上出来」

しかしそこで褒めるダン。良くやったと手を叩く。嬉しそうなシア。しかしダンの切り分けた食材を見て、顔の輝きが消える。

「ほ、本当はこうならなければならないのですわね…」

美しく切り分けられたダンと、一口サイズになってしまった自分のを見比べる。

「初めて。上出来。これから。大丈夫」

ダンが拙い言葉でシアを褒める。口角が若干あがり、その顔には微かに笑みが…。

「ダンが…、ダンが笑ってる…?!」
「なんていう子…!」

表情がほぼ固定されているダンに笑みを浮かべさせた。キーナとメリンダは驚愕に目を見開き、珍しいダンの表情をガン見するのだった。
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