キーナの魔法

小笠原慎二

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青い髪の少女編

パン!

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不格好なシアの切り分けた材料も無事に鍋の中で他の具材と共に煮立っている。
味付けはまだ任せるわけにも行かないので、仕上げはダンが行う。メリンダもダンが持っている調味料の全てを把握しているわけではないので、その辺りは任せている。

「出来ました? 出来ました?」

初めて自分が担った料理が出来上がるのが待ち遠しいのか、シアが側でワクワクと出来上がるのを待っている。そのうるさい様子を気にかけないダンに、キーナとメリンダも感心していた。

「何事にも動じないとは思ってたけど」
「あのうるさいのを気にせずに作業できるのは凄いわね」

適当に薪を拾いつつ、2人の様子を離れた所から見守る。
なんというか、年の離れた妹をあやすお兄さんにしか見えない。
ダンがシアに味見をさせている。どうやら出来上がったようだ。

「私の作った料理が出来上がりましてよ! さあお集まり下さいませ!」

私の…。お前は食材を3つしか捌いていないだろうが…。
そんなツッコミは飲み込んで、キーナとメリンダは苦笑いしつつ2人の元へと向かう。サーガも木々の向こうから姿を現わした。

「テルディアス様はまだかしら?」

シアがソワソワとテルディアスがやって来るのを待っている。初めて料理を作ったことを褒めて貰いたいのだろう。だがしかし、無情にもシアは座っている丸太に固定されることになる。

「これは何故ですの?」
「食べる、立つ、駄目」

皆が食べようとしている時に立つのは失礼だと、ダンが言い聞かせる。間違って食器などに当たって零してしまうような事があったらいけない。

「私はテルディアス様にご報告したいだけですわ」

シアがちょっとふて腐れた顔になる。

「言うだけ。立つ必要、ない」

まあそうなのだけれど。
シアがふくれっ面になっている間にサーガがテルディアスを呼んだのか、テルディアスが姿を現わした。

「テルディアス様!」

シアの顔が輝く。

「テルディアス様! 今日は私が作りましたのよ! さあご賞味下さいませ!」

お前が作ったのではなくて…。まあいいか。
シアがワクワクと待っているが、テルディアスは当然のようにキーナの隣に座る。

「テルディアス様! こちら、こちらが空いてますわ!」

サーガとシアの間に空いた空間を指し示し、こちらへ座れとがなるが、もちろんだがテルディアスは聞いちゃいない。
ダンから器を手渡され、皆で有り難く夕食を頂く。
テルディアスが隣に来てくれないことにふくれっ面になるシア。しかし今日はテルディアスにどうしても言いたいことがある。

「テルディアス様! 今日は私が作りましたのよ!」

テルディアスに一言「美味しいよ」と言ってもらいたくて、シアは声を張り上げる。しかしテルディアスは何の反応もない。

「テル、今日はシアも手伝ってくれたんだよ。ほら、その…、その小さい奴…」

ダンが気を使ってテルディアスの器に入れたのか、シアが切ったと思われる不格好な食材がテルディアスの器の中に見えた。

「そうか」

それだけ言って、テルディアスはそれをさっさと食べてしまった。その後もいつもと変わらず食事を続ける。
さすがのシアも傷ついたのか、珍しく黙り込んだ。

「て、テル…。もう少し何か…」

さすがに可哀相な気がして、キーナが気を使って話しかけるが、

「別に。どうせほとんど作ったのはダンなんだろ? いつもと変わらん」

そうなんだけど、もうちょっとさ~…。
その後もキーナがなんやかんやと話しかけるが、シア関連については冷たい対応のテルディアス。
そして、何故かキーナを見るシアの視線がどんどん痛いものになって行ったのだった。
何故キーナが睨まれるのだろう?













食後の後片付けではシアが役に立った。やはり洗い物には水ですね!
あっという間に汚れを落とし、ついでに乾燥まで済ませてしまう。キーナとメリンダは仕事がなくなった。
ダンが「すごい」と褒めそやす。どうだとばかりに振り向くが、テルディアスは見てもいない。
食後のお茶をメリンダが入れ、それをキーナ達とのんびり飲んでいた。キーナと楽しそうに話すテルディアスを見て、シアはキーナを睨み付けた。

食事が終わればお風呂タイム。女性陣が先行してお風呂へと入りに行く。
階段を降りた所で、シアが足を止めた。

「キーナさん」
「ん? 何?」

呼び止められて振り向くキーナ。メリンダも足を止め、シアを見る。

「あなた、どうして私とテルディアス様の邪魔をするのです?!」

キーナ、お目々をパチクリ。
メリンダもお目々をパチクリ。
メリンダから見ればどう見てもシアがキーナとテルディアスの間を邪魔しているようにしか見えない。

「貴女はテルディアス様の弱みでも握っていらっしゃるの? 食事の時も隣に無理矢理座らせて、テルディアス様が嫌がっているのに話しかけたりして」

どう見たらそう見えるのか、教えて欲しいとメリンダは思った。

「私とテルディアス様の邪魔をしないで下さいませ! おかげで私ほとんどテルディアス様とお話出来てませんのよ! 今日だって、私が作ったのに…」

褒めて貰えなかったことが余程悔しかったのか。
溜まった不満をキーナにぶつけているようにしか見えない。

「貴女のような光の御子を騙るような方がテルディアスの隣にいるなんて失礼ですわ! 髪だって短いし、そんな小汚い格好をして、男の方にしか見えませんのよ!」

これにはちょっとキーナも傷ついた。男の子に間違われるのは既に当たり前にはなっているけれど、小汚いって…。普通の旅服なんだけど。髪だってメリンダにも伸ばすなと止められているし、自分も伸ばす気はない。

「あなたのような芋臭い方よりも、テルディアス様の隣には、私のような女性らしさを備えた高貴な者が相応しいのですわ! 分を弁えなさい!」
「ちょっとあんた。何言ってんのよ」

さすがにメリンダ口を挟む。

「あんたこそどこに目が付いてるわけ? キーナちゃんと話すテルディアスがどう見たら嫌がってるように見えるのよ。巫女だなんだって言う前に、もうちょっと常識を身に付けて来なさいよね!」
「まあ? 胸が大きいだけのおばさん・・・・が何か仰ってますわ」
「お、おばぁ?!」
「め、メリンダさん! 落ち着いて!」

慌ててキーナがメリンダを押さえる。メリンダの周りの空気が大分熱くなっている。やばい。
まあ12歳から見れば、20ゴニョゴニョ歳はもうおばさんなのかもね…。あ、心が痛い。

「何をやってる」
「テル」
「テルディアス」
「テルディアス様!」

騒ぎが聞こえたのか、テルディアスが下りて来た。

「テルディアス様~!」

喜び勇んでシアが駆け寄る。しかし、

パン!

テルディアスがシアの頬を叩いた。
キーナとメリンダの顔があっとなる。シアは叩かれたショックか、動かない。
テルディアスとしては大分加減して叩いたのだろう。でなければシアなぞ壁際まで吹っ飛ばされていただろう。

「いい加減にしろ」

テルディアスの声にも怒気が含まれている。

「なんでもかんでもキーナのせいにするな。それ以上キーナに暴言を吐くなら、誰が何と言おうと森の中に置いて行くぞ」

本気だ。
声も、瞳も、その本気の度合いが見て取れる。ダンがいくら反対しようと、テルディアスは多分実行する。森の中に置き去りにし、勝手に妖魔に食われてしまえとでもするのだろう。
キーナもテルディアスを止めようと思うのだが、テルディアスの様子に気圧されて、なんだか口を挟めない。

「な、何故ですの? どうして、こんな方をかばうのです?」

叩かれた頬に手を当て、涙目でテルディアスを見上げる。

「何か弱みでも握られているのですか? でなければこんな方…!」
「うるさい。黙れ」
「私の方が可愛いですわ! もう少しすれば私だって、もっと魅力的な女性になります! こんな芋臭い方を嫌々選ばなくたって…」
「黙れ!」

シアがビクリとなって黙り込んだ。

「お前のような勘違い女は俺が一番大嫌いな人種だよ。はっきり言って目障りだ。自分が何様だと思っているのか知らないが、俺から見たらお前は最低最悪な女だ。お前如きのどこを可愛いと思えるんだ?」

シアの目が驚きに見開かれる。テルディアスからの冷たい言葉が突き刺さったのだろうか。

「わ、私のことが、嫌いなんですの?」
「ああそうだ」
「わ、私のどこが…」
「全部」

テルディアスがズバリと言い切る。

「人の話を聞かない。常識が無い。ピーチクパーチクうるさい。人に許可無く勝手に飛びついて来る。自分が可愛いと自惚れている」
「そ、そんな…」
「金の勘定も出来ない、簡単な料理も出来ない。欠点だらけじゃないか?」
「ふ…う…ううう…」

シアの目に涙が溜まり始める。

「泣けばどうにかなると思ってるのか? やはりガキだな」
「!!」

シアがテルディアスを避け、階段を走って上って行ってしまった。

「ふん」

言いたいことを言い切ってスッキリしたのか、テルディアスの表情が晴れ晴れとしている。
しかし前を見ると、ジト目で見る女性2人。

「な、なんだ?」
「テルディアス…、あんたってキーナちゃん意外には本っっっっ当に冷たい奴ね」
「テル…さすがに言い過ぎだと思うけど…」
「あ、あれくらい言わないと分からないだろ、あれは」

テルディアスちょっぴりタジタジ。

「あのまま変な所まで走って行っちゃったらどうすんのよ」
「知るか」

あ、見捨てる気だ。まあ森の中に捨てる宣言してたしね。

「ま、サーガもいるし、大丈夫か」

その辺りは信頼しているメリンダだった。

「先に入ってましょ、キーナちゃん。頭が冷えたら戻って来るでしょ」
「でも、大丈夫かな?」
「あたしやキーナちゃんが行っても逆効果になるわよ」
「そうだね…」

ここは森の中。結界の張ってある街道からも少し離れている。もう日が沈んで真っ暗であるし、どこにも行けやしない。
しばらくしたら戻って来るだろうと、キーナとメリンダはお風呂に向かったのだった。
テルディアスはもちろん階段上がって外で待機です。サーガの監視も担っているので。

「ん? ダンは?」
「ちみっこ追いかけてったぜ」

どうやらダンはシアを心配して追いかけて行ったらしい。
テルディアスは軽く溜息を吐きつつ、ダンが用意していったお茶に手を付けるのだった。
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