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光の宮三度
眠り込んだキーナ
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道の端にお婆さんが蹲っていた。
それを目敏く発見したキーナが近寄っていく。
「どうしたんですか?」
お婆さんは顔を上げ、キーナを見るとにっこりと笑った。
「野草を採りに来たんだけどねぇ。ちょっと頑張り過ぎちゃったみたいでね。疲れたから座ってたんだよ」
村の近辺で採れない野草などを、街道沿いに採りに来ることはあるのだそうだ。
側の籠を見ると半分位埋まっている。確かにかなり頑張ったのだろう。
「僕、籠持ちますよ」
キーナが籠を持ち上げる。
「あら、ありがとうねぇ」
お婆さんがよっこらしょと立ち上がろうとすると、その前にダンが背を向けてしゃがみ込んだ。自分の荷物は前掛けにしている。
「あらあら、申し訳ないわねぇ」
そういいつつもお婆さんは疲れていたのか、ダンの背によっこらしょと乗った。
「おい。荷物、仕方ねぇから持ってやる」
サーガがぶすっとした顔をしながら、ダンの荷物を代わりに持ってやる。背が低いからお婆さんを背負うのを躊躇ったわけではない。決して。荷物が増えて下手に身動きが取りづらくなるのが嫌なだけだ。それだけだ。それだけなのだ。
「キーナちゃん、あたしが持つわ」
とメリンダがキーナの荷物を代わりに持とうとする。
「大丈夫。軽いよ」
キーナは籠をよいしょと背負う。確かに然程重くはなさそうである。荷物がある方があちこち行かないかもしれないと、メリンダも強く言うことはなかった。
ちなみにテルディアスはまだ完全にシアを信じ切れないということで、1人寂しく森の中を移動中のはずである。
「婆さん、どこに住んでんだ?」
サーガが問いかけると、お婆さんは今までキーナ達が進んでいた方向を指し示した。
「この先の小さな村だよ。すまないけど、よろしくねぇ」
お婆さんはにっこり笑った。
それほど行かないうちに、お婆さんが言っていた村が見えて来た。
「年を取ると、これだけの距離でも疲れるんだから」
とお婆さんは笑った。
寂れた村だった。人影もほとんど見かけず、朽ちかけた家も見える。
「若い者は皆大きな街になんか行っちまってね。ここも年寄りばかりだよ」
どこの世界でも過疎化の問題はあるらしい。
お婆さんの家は村からさらに小道を行った、奥まった所にあった。
周りを森に囲まれたこぢんまりとした家。
「ありがとうねぇ。せっかくだから、お茶でも飲んで行ってよ」
お言葉に甘えてと、キーナも籠を背負ったままお婆さんについて家の中へと入っていく。キーナが行くならもちろんメリンダも続く。シアはダンを見上げつつ、促されてダンと共に家へと入っていった。
サーガだけが少し渋い顔をしながらも、皆と一緒に家の中へと入っていったのだった。
キーナは台所に籠を下ろし、案内された小さな応接間へと行く。キーナが座ればメリンダもその隣に座る。その後ダンに教えられるままシアも腰を下ろした。
サーガは座る場所がなかったので、窓際に立ったままだ。ダンがオロオロと自分の席を勧めようとするが、
「いいから、お前が座っとけ」
とサーガに呆れられた。女性陣、サーガをもう少し気にかけてあげようよ…。
「お客さんなんて久しぶりだわ」
お婆さんが人数分のお茶と茶菓子を持ってやって来る。
「あらごめんなさい。座る場所がなかったわね」
「いえいえ、お構いなく」
お婆さんがキーナ、メリンダ、シア、ダンの前にお茶を置く。
「ちょっと待っててね。何か腰掛ける物がないか探してくるわ」
サーガの分もテーブルに用意しつつ、お婆さんが部屋から出て行く。
警戒心のないキーナは早速お茶と茶菓子を口にした。メリンダもキーナにつられるようにお茶を口にする。
「サーガも飲んだら? 美味しいよ?」
「俺は気持ちだけで十分です」
いつものようにサーガは出されたお茶に手を出そうとしない。日本人感覚のキーナからすると、せっかく出されたお茶なのに口も付けないのはちょっと失礼な感じもする。
「私達も頂きましょう」
とシアもダンを見て、飲んで良いかと確認する。どうもシアは自分の常識が多少ずれていると認識した辺りから、ダンを頼ることが増えている。
ダンもこくりと頷いて、お茶を手にした。
シアもお茶を手にし、覗き込んだ。
ダンがお茶を口にする。そして、
「あら? このお茶、何か入ってますわ」
ダンが口に含んだお茶を床に吐き出すのと、シアが声を上げるのは同時だった。
「飲むな!」
珍しくダンが声を上げる。
びっくりして固まるキーナとメリンダ。
ダンは何かを考え込んでいるようだった。
「姐さん! キーナ! 吐き出せ!」
サーガが2人の背に立ち、お茶を吐き出せと急かす。
「え、ちょ、いきなり言われても…」
「え、何? なんなの?」
吐き出せと言われてキーナが思い浮かんだのは、あの喉の奥に手を突っ込む方法…。しかしあれって結構辛いんじゃなかったっけ?
「眠り薬だ!」
ダンが再び叫んだ。舌に残った成分を分析していたようである。
「え? 眠り…ぐす…り…」
キーナの意識が揺らぐ。
「なん…で…」
メリンダの瞼も落ちる。
仲良く2人は椅子に寝落ちた。
「あのババア…」
サーガが部屋の入り口を睨む。未だに戻って来る様子はない。
「急いでここ出るぞ! ダン、キーナを頼む!」
サーガがメリンダの体に手を掛けようとしたその時、今までキーナ達以外にいなかった部屋に突如人の気配が現われた。
「!!」
サーガは振り向く前に、今までに感じたことのない痛みと痺れが全身を駆け抜けた。
「が…」
そのまま崩れ落ちる。
「なんですの?!」
シアがその突然現われた人物を驚いて見上げる。白いフードで顔を隠している、全身白ずくめの人物。
白は光の象徴の色。その色を全身に纏っているということは、光の宮の関係者?
「うっ!」
ダンの呻き声に振り向いて見ると、ダンが首筋から針のようなものを抜く所だった。
その向こうの部屋の入り口に、隠れるようにしてお婆さんが立っている。手には吹き矢のような筒。
ダンも床へと崩れ落ちる。
何か分からないが狙われていると認識したシアが、水の気配を集め出す。しかし、
バリッ!
そんな音を聞いた後、シアの意識も闇に落ちた。
「良くやってくれた」
「お褒めにあずかり、光栄にございます」
白い人物に向かって、お婆さんが最上の礼を取る。
そして白い人物はキーナの身体を荷物のように持ち上げた。
「残った者達は約束通り、お前の好きにするが良い」
「は。ありがとうございます」
白い人物はキーナを抱えたまま、玄関から出て行った。
「ふひひ。さて、良いものを貰ったねぇ」
お婆さんが先程とは違う、酷薄な笑みを浮かべる。
表から何か争うような音がしてきた。
「ま、あたしの仕事は終わったのだし、あの方なら大丈夫だろうよ」
と無視する。
椅子にもたれかかり眠るメリンダに近づき、その頭から爪先までじっくりと観察し始める。
「いいねぇ。なんとも切りがいのありそうな体をしてるよ。それに、こおんな綺麗な顔を切り刻めるなんて、楽しそうだねぇ」
メリンダの髪を一房掴み、鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。なんとも芳しい匂いがする。
「どんな顔をしてくれるかねぇ」
お婆さんが余計に薄く長く、口を横に伸ばす。嬉しそうに。
「さ~て、まずは、地下に運ぼうかねぇ」
そう言うと、いそいそとまた部屋を出て行った。
椅子の影で、ダンの体が仄かに緑色の光を纏っていることには気付かなかった。
白い人物が表に出る。
すぐに光の力を纏い、飛び立とうとするが、
「む?!」
森の中から人が飛び出して来て、集中を欠いた。咄嗟に光の障壁を張る。
ギイン!
障壁に思い切り叩きつけらた剣先。
「ち!」
舌打ちして飛び退るフードの男。
「あの時のダーディンか…」
光の御子と共に行動していた、闇の呪いを被った男。御子が男であると思っていたので間違えて攫ってしまった。
男は素早い身のこなしで、白い人物を狙う。
「こちらも少し、挨拶をしたいと思っていた所だ」
白い人物が口元をにやりと歪めた。
そして次の瞬間、
「!」
テルディアスの目の前から消える。
「光は時を司るのでな」
テルディアスの背後から声がした。
(! 早い?!)
テルディアスの目でさえ追うことのできない早さだった。
「対象の時間を早めたり、遅くしたりすることも可能なのだ。このようにな」
テルディアスが後ろを振り向く前に、肩に手が置かれた。すると、
(!!)
何故か、テルディアスの周りの時間が早回しで進んで行く。どんなに早く動こうとしても、世界はテルディアスよりも早く動いていく。
(なんだ?! これは?!)
テルディアスの耳に、いやに早口で喋る白い人物の声が聞こえてくる。
「何故御子様がお前のような穢れた存在にご執心なのかは分からぬが、それもここまでだ。御子様にはこのままお眠り頂いて、我らの為に新しい御子を産んで頂くのだ。我らの邪魔となるお前らは、ここで楽しく遊んでいるが良い」
そう言うと、テルディアスの腹に拳をめり込ませた。しかし、時間を遅くされているテルディアスの体はその衝撃をただ受けるだけ。
それをいいことに、白い人物は何度も何度もテルディアスを殴りつけ、蹴りつける。
「儀式の前故、私の手で殺しはせん。しかし、今まで御子様を誑かした罪、受け取るが良い」
ゆっくりとゆっくりと、テルディアスの体が宙に浮く。
「儀式にて御子様のお体に光の宮の力を集め、そして交わり、我らの為に御子を産んで頂くのだ! それこそが我らが使命! それこそが人類の希望なのだ!」
テルディアスの体が宙に浮き、徐々に徐々に後ろへと後退っていく。
「おっと、こんなところで遊んでいる場合ではなかったな。御子様がお目を覚まされてもいかん。早く宮へ戻らなければ」
白い人物がくるりとテルディアスに背を向けた。その途端、テルディアスの体は時間を戻されたのか、今までに受けた衝撃が全て体に伝わる。そしてその衝撃に弾き飛ばされる形で、勢い森の中へと飛んで行った。
白い人物はキーナを抱え、そのまま空へと消えて行った。
それを目敏く発見したキーナが近寄っていく。
「どうしたんですか?」
お婆さんは顔を上げ、キーナを見るとにっこりと笑った。
「野草を採りに来たんだけどねぇ。ちょっと頑張り過ぎちゃったみたいでね。疲れたから座ってたんだよ」
村の近辺で採れない野草などを、街道沿いに採りに来ることはあるのだそうだ。
側の籠を見ると半分位埋まっている。確かにかなり頑張ったのだろう。
「僕、籠持ちますよ」
キーナが籠を持ち上げる。
「あら、ありがとうねぇ」
お婆さんがよっこらしょと立ち上がろうとすると、その前にダンが背を向けてしゃがみ込んだ。自分の荷物は前掛けにしている。
「あらあら、申し訳ないわねぇ」
そういいつつもお婆さんは疲れていたのか、ダンの背によっこらしょと乗った。
「おい。荷物、仕方ねぇから持ってやる」
サーガがぶすっとした顔をしながら、ダンの荷物を代わりに持ってやる。背が低いからお婆さんを背負うのを躊躇ったわけではない。決して。荷物が増えて下手に身動きが取りづらくなるのが嫌なだけだ。それだけだ。それだけなのだ。
「キーナちゃん、あたしが持つわ」
とメリンダがキーナの荷物を代わりに持とうとする。
「大丈夫。軽いよ」
キーナは籠をよいしょと背負う。確かに然程重くはなさそうである。荷物がある方があちこち行かないかもしれないと、メリンダも強く言うことはなかった。
ちなみにテルディアスはまだ完全にシアを信じ切れないということで、1人寂しく森の中を移動中のはずである。
「婆さん、どこに住んでんだ?」
サーガが問いかけると、お婆さんは今までキーナ達が進んでいた方向を指し示した。
「この先の小さな村だよ。すまないけど、よろしくねぇ」
お婆さんはにっこり笑った。
それほど行かないうちに、お婆さんが言っていた村が見えて来た。
「年を取ると、これだけの距離でも疲れるんだから」
とお婆さんは笑った。
寂れた村だった。人影もほとんど見かけず、朽ちかけた家も見える。
「若い者は皆大きな街になんか行っちまってね。ここも年寄りばかりだよ」
どこの世界でも過疎化の問題はあるらしい。
お婆さんの家は村からさらに小道を行った、奥まった所にあった。
周りを森に囲まれたこぢんまりとした家。
「ありがとうねぇ。せっかくだから、お茶でも飲んで行ってよ」
お言葉に甘えてと、キーナも籠を背負ったままお婆さんについて家の中へと入っていく。キーナが行くならもちろんメリンダも続く。シアはダンを見上げつつ、促されてダンと共に家へと入っていった。
サーガだけが少し渋い顔をしながらも、皆と一緒に家の中へと入っていったのだった。
キーナは台所に籠を下ろし、案内された小さな応接間へと行く。キーナが座ればメリンダもその隣に座る。その後ダンに教えられるままシアも腰を下ろした。
サーガは座る場所がなかったので、窓際に立ったままだ。ダンがオロオロと自分の席を勧めようとするが、
「いいから、お前が座っとけ」
とサーガに呆れられた。女性陣、サーガをもう少し気にかけてあげようよ…。
「お客さんなんて久しぶりだわ」
お婆さんが人数分のお茶と茶菓子を持ってやって来る。
「あらごめんなさい。座る場所がなかったわね」
「いえいえ、お構いなく」
お婆さんがキーナ、メリンダ、シア、ダンの前にお茶を置く。
「ちょっと待っててね。何か腰掛ける物がないか探してくるわ」
サーガの分もテーブルに用意しつつ、お婆さんが部屋から出て行く。
警戒心のないキーナは早速お茶と茶菓子を口にした。メリンダもキーナにつられるようにお茶を口にする。
「サーガも飲んだら? 美味しいよ?」
「俺は気持ちだけで十分です」
いつものようにサーガは出されたお茶に手を出そうとしない。日本人感覚のキーナからすると、せっかく出されたお茶なのに口も付けないのはちょっと失礼な感じもする。
「私達も頂きましょう」
とシアもダンを見て、飲んで良いかと確認する。どうもシアは自分の常識が多少ずれていると認識した辺りから、ダンを頼ることが増えている。
ダンもこくりと頷いて、お茶を手にした。
シアもお茶を手にし、覗き込んだ。
ダンがお茶を口にする。そして、
「あら? このお茶、何か入ってますわ」
ダンが口に含んだお茶を床に吐き出すのと、シアが声を上げるのは同時だった。
「飲むな!」
珍しくダンが声を上げる。
びっくりして固まるキーナとメリンダ。
ダンは何かを考え込んでいるようだった。
「姐さん! キーナ! 吐き出せ!」
サーガが2人の背に立ち、お茶を吐き出せと急かす。
「え、ちょ、いきなり言われても…」
「え、何? なんなの?」
吐き出せと言われてキーナが思い浮かんだのは、あの喉の奥に手を突っ込む方法…。しかしあれって結構辛いんじゃなかったっけ?
「眠り薬だ!」
ダンが再び叫んだ。舌に残った成分を分析していたようである。
「え? 眠り…ぐす…り…」
キーナの意識が揺らぐ。
「なん…で…」
メリンダの瞼も落ちる。
仲良く2人は椅子に寝落ちた。
「あのババア…」
サーガが部屋の入り口を睨む。未だに戻って来る様子はない。
「急いでここ出るぞ! ダン、キーナを頼む!」
サーガがメリンダの体に手を掛けようとしたその時、今までキーナ達以外にいなかった部屋に突如人の気配が現われた。
「!!」
サーガは振り向く前に、今までに感じたことのない痛みと痺れが全身を駆け抜けた。
「が…」
そのまま崩れ落ちる。
「なんですの?!」
シアがその突然現われた人物を驚いて見上げる。白いフードで顔を隠している、全身白ずくめの人物。
白は光の象徴の色。その色を全身に纏っているということは、光の宮の関係者?
「うっ!」
ダンの呻き声に振り向いて見ると、ダンが首筋から針のようなものを抜く所だった。
その向こうの部屋の入り口に、隠れるようにしてお婆さんが立っている。手には吹き矢のような筒。
ダンも床へと崩れ落ちる。
何か分からないが狙われていると認識したシアが、水の気配を集め出す。しかし、
バリッ!
そんな音を聞いた後、シアの意識も闇に落ちた。
「良くやってくれた」
「お褒めにあずかり、光栄にございます」
白い人物に向かって、お婆さんが最上の礼を取る。
そして白い人物はキーナの身体を荷物のように持ち上げた。
「残った者達は約束通り、お前の好きにするが良い」
「は。ありがとうございます」
白い人物はキーナを抱えたまま、玄関から出て行った。
「ふひひ。さて、良いものを貰ったねぇ」
お婆さんが先程とは違う、酷薄な笑みを浮かべる。
表から何か争うような音がしてきた。
「ま、あたしの仕事は終わったのだし、あの方なら大丈夫だろうよ」
と無視する。
椅子にもたれかかり眠るメリンダに近づき、その頭から爪先までじっくりと観察し始める。
「いいねぇ。なんとも切りがいのありそうな体をしてるよ。それに、こおんな綺麗な顔を切り刻めるなんて、楽しそうだねぇ」
メリンダの髪を一房掴み、鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。なんとも芳しい匂いがする。
「どんな顔をしてくれるかねぇ」
お婆さんが余計に薄く長く、口を横に伸ばす。嬉しそうに。
「さ~て、まずは、地下に運ぼうかねぇ」
そう言うと、いそいそとまた部屋を出て行った。
椅子の影で、ダンの体が仄かに緑色の光を纏っていることには気付かなかった。
白い人物が表に出る。
すぐに光の力を纏い、飛び立とうとするが、
「む?!」
森の中から人が飛び出して来て、集中を欠いた。咄嗟に光の障壁を張る。
ギイン!
障壁に思い切り叩きつけらた剣先。
「ち!」
舌打ちして飛び退るフードの男。
「あの時のダーディンか…」
光の御子と共に行動していた、闇の呪いを被った男。御子が男であると思っていたので間違えて攫ってしまった。
男は素早い身のこなしで、白い人物を狙う。
「こちらも少し、挨拶をしたいと思っていた所だ」
白い人物が口元をにやりと歪めた。
そして次の瞬間、
「!」
テルディアスの目の前から消える。
「光は時を司るのでな」
テルディアスの背後から声がした。
(! 早い?!)
テルディアスの目でさえ追うことのできない早さだった。
「対象の時間を早めたり、遅くしたりすることも可能なのだ。このようにな」
テルディアスが後ろを振り向く前に、肩に手が置かれた。すると、
(!!)
何故か、テルディアスの周りの時間が早回しで進んで行く。どんなに早く動こうとしても、世界はテルディアスよりも早く動いていく。
(なんだ?! これは?!)
テルディアスの耳に、いやに早口で喋る白い人物の声が聞こえてくる。
「何故御子様がお前のような穢れた存在にご執心なのかは分からぬが、それもここまでだ。御子様にはこのままお眠り頂いて、我らの為に新しい御子を産んで頂くのだ。我らの邪魔となるお前らは、ここで楽しく遊んでいるが良い」
そう言うと、テルディアスの腹に拳をめり込ませた。しかし、時間を遅くされているテルディアスの体はその衝撃をただ受けるだけ。
それをいいことに、白い人物は何度も何度もテルディアスを殴りつけ、蹴りつける。
「儀式の前故、私の手で殺しはせん。しかし、今まで御子様を誑かした罪、受け取るが良い」
ゆっくりとゆっくりと、テルディアスの体が宙に浮く。
「儀式にて御子様のお体に光の宮の力を集め、そして交わり、我らの為に御子を産んで頂くのだ! それこそが我らが使命! それこそが人類の希望なのだ!」
テルディアスの体が宙に浮き、徐々に徐々に後ろへと後退っていく。
「おっと、こんなところで遊んでいる場合ではなかったな。御子様がお目を覚まされてもいかん。早く宮へ戻らなければ」
白い人物がくるりとテルディアスに背を向けた。その途端、テルディアスの体は時間を戻されたのか、今までに受けた衝撃が全て体に伝わる。そしてその衝撃に弾き飛ばされる形で、勢い森の中へと飛んで行った。
白い人物はキーナを抱え、そのまま空へと消えて行った。
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