キーナの魔法

小笠原慎二

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サーガの村編

風の宝玉

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「代々受け継がれてると言えば、あれがあったじゃない?」

マリアーヌさんが何か指摘してきた。

「うん? ああ、だがあれは形だけのものだろう?」
「え? 何? 何かあんの?」

この際なんでもいいから手掛かりがないかと、サーガが食いつく。

「ああ、一応メッカを引き継ぐ者がその証として引き継いでいる物があるんだ」
「何それ何それ? それ何?」

宝の地図? それとも鍵? サーガが最後の望みとばかりに目を輝かせる。

「いや、箱に入っていてな、見たことはないんだ」
「え? 見ちゃ駄目なん?」
「いや、見る気にもならなかったから」

ずっこけた。

「それって、見ちゃ駄目なんですか?」

ここでキーナが食いついてきた。何か思う所があるのだろうか。

「ん? まあ、見せちゃいかんとも聞いてないしな。持って来てみようか」

とクラウダーが立ち上がり、奥に行ってゴソゴソする。

「おい、ここに置いとかなかったっけ?」
「あら、この間片付けた時に他にやっちゃったかしら?」

とマリアーヌさんも立ち上がり、一緒にゴソゴソ。

「ああ、これでしょ」
「ああ、これだな」

ようやっと見付けたらしく、その箱を持って来た。然程大きくもない、特に派手な装飾もない、普通の箱だった。

「どうぞ、見たければ」

と箱を差し出して来た。見る気も起きないということなのか?

「メッカの証なのに何かも知らないって不味くないのか?」
「別に。これまでに特に支障は無かったぞ?」

いいらしい。

「サーガ、開けてみて」

キーナがずずいっとサーガの前に箱を押しつける。

「え? 俺?」

自分が開けて良い物かと、怖々サーガが箱に手を伸ばした。
掛け金を外し、蓋を開けると、中には布の袋に入った丸い物。

「な、なんか、背筋が寒くなったな…」
「そ、そうね…」

クラウダーとマリアーヌが、両手で体をさすっている。
メリンダとダンとシアも寒気を感じていた。

(これは…多分本物ね)

メリンダが布の袋に包まれたそれを見て思う。他の属性の宝玉を前にすると、言い知れない恐怖心が湧くのだ。
しかしそんな大事な物をこんな簡素な箱に入れたり、「どこにやった?」などと言っていたり…。いいのか風の一族。

「これ、しばらく借りてってもいいか?」

サーガの落ち着いた声が響く。

「ん? ああ、いいぞ。別に使っている物でも無いしな」
「あんがとよ」

箱の中から布の袋ごと取り出し、ふらりと立ち上がる。

「ちょっと、確かめてくる」

と言うと、ふらりと家から出て行く。

「サーガ? ちょっと、何処行くのよ!」

メリンダがそれを追いかける。

「サーガ待って!」

キーナも追いかける。

「キーナ」

キーナが追いかけるとテルディアスも追いかける。

「テルディアス様!」

テルディアスが追いかければシアも追いかける。
ダンがぺこりとクラウダー達に頭を下げ、慌てて5人を追いかける。

「なんだか、忙しないなぁ」
「そうねぇ」

残ったクラウダーとマリアーヌが揃って頭を傾げた。

















フラフラと歩いているだけなのに、サーガの足は何故か早い。
それを追うキーナとメリンダ。その後ろから追ってくるテルディアス、シア、ダン。
開けた場所が見え、その先が崖になっているのが見えた。サーガはそこへとフラフラ歩いて行く。
サーガが崖っぷち手前で足を止めた。

「サーガ? …きゃ!」

近づこうとして、メリンダが何かに弾かれた。

「え? 何?」

メリンダが手を伸ばすと、風の壁が出来ていた。これではサーガに近づけない。

「え? なんで、どうして…?」
「どうしたの? メリンダさん」

風の壁などどこへやら、メリンダが弾かれた場所よりも進んだ場所で、キーナが振り向いた。

「ここから先に行けないの」
「ええ? なんで?」
「分からないわ」
「どうした?」

テルディアスが追いついてくる。

「ここから先に行けないのよ」
「…あれは?」
「キーナちゃんだからじゃない?」

行けない先に行っている。やはりキーナだからか?
試しにテルディアスも足を踏み出してみる。

「? 行けるぞ?」
「え?! そんな!」

もう一度踏み出す。

「きゃん!」

やはり無理だった。

「どうしたのです? きゃん!」

シアも弾かれた。
追いついて来たダンも、不思議そうに手を伸ばすが、弾かれた。

「先へ行けませんわ!」
「テルディアス、キーナちゃんをお願い!」

行けないならば仕方ないと、メリンダがテルディアスにキーナを頼む。言われなくともそうするとも思うが。
頷いて、テルディアスがキーナと共に歩き出す。崖っぷち手前に立つサーガの元へと。
心地よい風が吹いている。サーガのマントが揺れている。

「サーガ?」

近づいたキーナがサーガに声を掛ける。振り向いたサーガの顔は、いつもの悪戯っ子のような顔をしていなかった。
いつの間にか袋から出していたのか、その手には黄色い宝玉が握られていた。その宝玉が薄らと光を放ち始め、サーガの体を黄色い光が包み込んでいく。
そして光が収まると、そこにはサーガそっくりな、サーガとは違い背が高く、どこか気品のある柔らかな衣装を纏った男の人が立っていた。
黄色い髪を後ろで1つに縛って流し、それが風にさらさらとなびく。その瞳が開かれると、優しげな黄色い光を湛えていた。そしてキーナとテルディアスを見ると、片膝を付いた。

『御身が前に』
「うん、よろしくね」

顔を上げ、改めてキーナとテルディアスを見つめると、うっすらと笑みを浮かべつつまた黄色い光が溢れた。そして光りが収まると、そこにはいつものサーガがいた。

「ん? あれ? なん?」

サーガがキョロキョロと辺りを見回す。

「あれ? なんで膝付いてんの? あれ? え? 宝玉? いつの間に?!」

混乱している。

「サーガ、サーガ、落ち着いて」

キーナがサーガに声を掛ける。

「サーガ!」

メリンダも走って来た。風の壁も消えたらしい。

「やだちょっと何今の!」

近づこうとして、離れた所で止まった。ダンとシアもそこから近づこうとしない。
それ以上は寒気がして近づけないのだ。

「は? 何が? え? ここどこ?」

キョロキョロキョロ。

「え~とね、まずは落ち着いて。う~んとね、宝玉が無事に見つかったって事は分かる?」
「え? 宝玉? あ、これ? 本物なん?」
「そ。そいでね、今神降ろしみたいなことをしたの。だから記憶がちょっと飛んでるかも」
「は? 神降ろし? はああああ?!」

まだ混乱は続きそうだった。




















宝玉を再び布の袋に入れる。こうすればメリンダ達も安心して近づける。

「なんなの! なんなの今の!」
「なんですの! なんでしたの今の!」

2人が興奮している。

「メリンダさんはダンの時も見たでしょ? 特に適した人には一時的に神降ろしみたいなことになるみたいだね。適正者を見極めました~てな感じで」
「え?! じゃあサーガも宝玉に選ばれたって事なの?!」
「そういう事だねい」
「やっだ~! 凄いじゃない!」

バシン!

「いだい!」

思い切りサーガの背をメリンダが叩き、サーガが悲鳴を上げた。

「サーガのおかげで風の宝玉も見つかったし。ありがとうね、サーガ」
「いや、べつに…」

面と向かってありがとうと言われ、照れるサーガ。素直じゃない。

「やだ、ちょっと格好良かったわよ…」

確かに、あの姿は今の姿よりも格好いいなとはキーナも思った。あの気品のある感じが。気品がね。つまり気品かな?
普段のサーガは悪戯っ子だからな~。
ちょっと思い出してぽわんとなっているメリンダに、サーガが微妙な顔をする。

「俺は今のままでも十分格好いいです!」

誰もそんなこと言ってくれない。

「そいで? テル、宝玉揃ったよ!」

キーナ、話題を逸らしたのか、天然か。

「ああ、そうだな」

テルディアスは意識的に無視だな。

「で、どうすんの? 4つ置いたら龍が出てくるとか?」

それは7つ集めた話しだと思う。

「いや、なんで龍?」

そこは聞かないであげて。

「試しに4つ出してみようよ!」

ノリノリのキーナの提案で、試しに4つの宝玉を目の前に出してみることにした。
円座になって座り、各々の前に宝玉を置く。
メリンダの前には火の宝玉。サーガの前には風の宝玉。ダンの前には地の宝玉。そして、テルディアスの前に水の宝玉。

「配置…まあいいか」

キーナが聞こえないように呟いた。

「そんで? ここからどうすんだ?」

サーガが問いかける。
綺麗な赤青黄緑の4色の宝玉が並んでいる。淡い光を放つそれは、とても綺麗だ。

「…分からん」

テルディアスが声を絞り出した。

「はあ?」

サーガが渋い顔をする。

「先生は…、宝玉を集めたら元に戻れるかもしれないと言っていただけで…。そこから先は…、知らない」

聞いていない、とも言う。

「なんっだそれ!」

サーガが突っ込む。

「なんか、難しい呪文とか唱えるとか、ないのか?」
「知らん」

サーガに突っ込まれて、こちらも渋い顔をするテルディアス。2人が睨み合う。

「まあまあ。おじいさんも集められるとは思ってなかったのかもしれないし。だからその先を言わなかったのかもしれないし」

宝玉のこと事態、最初は眉唾な話から始まったのだしね。あるかどうかも分からない宝玉探しから始まり、とうとう4つの宝玉を探し出すことができた。

「この先が分からないとなると…」
「もう一度、ミドル王国に、行くしかないな…」

キーナとテルディアスが顔を見合わせた。その顔がどこかほっとした顔になっている気がするのは、メリンダとサーガの気のせいということにしておこう。

「ということで、次の行き先はミドル王国だね!」
「そうだな」
「ミドル王国かぁ、何気に行ったことなかったわね」
「俺も行ったことないかも」
「私もそういえばありませんわ」
「・・・・・・」

ダンももちろんない。

次の行き先も決まったことだし、と、それぞれに宝玉を仕舞い、腰を上げる。

「そういや、その先生って、確か赤の賢者じゃあ…」

サーガが尋ねる。

「まあ、世間ではそう言われているな…。お前と話が合うかもしれんぞ」

女性関係で。

「え? そんな偉い人と話し合うか?」

合うと思う。

「やだ、ちょっといい服着た方が良いかしら?」
「私はこのままで大丈夫ですわね!」
「いいえ、あんたもちょっと見繕いましょう。ほら、ほつれてきたりしてるし」
「ええ?!」

シアが服を確かめ始める。ダンもシアの服を確かめ始めた。お母さんか。

「おじいさんに会うの2年振りか…。元気にしてるかな?」
「大丈夫だろ。あの人は」

テルディアスがちょっと虚ろな遠い目をする。何故そんな顔をするのかと、キーナは不思議に思い首を傾げた。
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