キーナの魔法

小笠原慎二

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サーガの村編

風の村の芝居

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その後ダンはリュートの制作にも取りかかったが、こちらはどうしても弦がいる。なので近くの街、しかも取り扱っている店がある街まで買いに行かなければならない。その辺りは風の一族の出番である。
取り扱っている店の特徴をキーナとテルディアスから聞き出し、買い出し班がまさにひとっ飛びで行ってきた。便利なり。
しかしリュートは笛よりも制作に時間が掛かるもので…。しばしキーナ達は風の村にご厄介になることになったのだった。

となれば、制作しない者達は暇となる。最初の頃はキーナ達も笛の音に合わせて舞いを舞ったりなどして遊んでいたが、毎日それでは飽きてくる。
そこでキーナは慣れ親しんだ元の世界の歌を思い出しつつ、それを風の者達に頼んで演奏してもらう。それに合わせてキーナはカラオケを楽しんだ。
なにせ1度聞けば次には演奏できるという天才ばかりなので。

「こんなのはどお?」

とキーナ大好きなとあるアニメ挿入歌?を歌う。いわゆるディ○ニーアニメだ。話しの中で感情が盛り上がる所などを歌で表現する。特に美女と野○が作者も大好きです。
聞き慣れない歌にメリンダやシアも面白そうに耳を傾け、風の者達も一緒に歌い出す。

「んでね、このシーンはこうなって」

とキーナ、暇も手伝いストーリーを説明して行く。そして簡易ミュージカルの舞台が整っていく。若干この世界風の価値観の入り混じったものになっていくのはしょうがない。
ノリの良い風の者達は珍しい歌に小芝居が気に入ったのか、キーナの指導の下、簡易ミュージカルをこなしていく。一通り出来上がるとメリンダやシア、テルディアスも引っ張って来て、広場で鑑賞会が始まった。それなりに衣装も使ってみるとなかなかの見物となる。

余談ではあるが、美女と野○の話しに、テルディアスが何かもにゃもにゃ言っていたとかなんとか。自分の姿と重ね合わせたりしたのだろうか。

小芝居の完成度は低いが、その歌声と音楽は最高のものであり、見ていた者達は思わず手に汗握り涙した。

「やだもう~、ちょっとなにこれ~、いいじゃない~」

メリンダ号泣。最後ハッピーエンドなのが余計に良かったらしい。

「姿を変える魔法なんて、テルディアス様みたいですわね」

むう、設定が被ったか…。
シアも気に入ったようだった。

「別に…」

テルディアスはいつも通りである。しかし舞台?に見入っていたので、それなりに気に入ったのかも知れない。

「面白えな。もっとないの?」

村の者がキーナに聞いてくる。

「こんなのもあるよ!」

アラ○ンや人魚姫の話なども教えていく。歌がうろ覚えの所などは、これも本職というか風の者達が上手い具合に組み立てていく。まさに音楽の申し子達である。
他にもミュージカルにはなっていないが、いろんな知っている話しをキーナは吐き出していった。しかしいっぺんに話されても覚えきれる物ではない。

「よければ書いてくれない?」

子供達の寝物語にするのも面白そうだと、女性陣からも頼まれ、紙に書き出すことになったが…、問題が1つ。

「う…まだ上手く書けないんだよね…」

テルディアスが代筆することとなった。テルディアスは何気に字も綺麗なのだ。
1つのテントを借りて、微妙な距離を取りながら、2人は仲良く物語を清書していく。

その他暇になったメリンダとシアは、お針子も得意なメリンダは余った布などを用いて舞台衣装などに取り組んでいた。メリンダさん女子力高い。

残ったシアは唯一この世界の舞台というものを観賞したことがある人物だったので、役者達に上座下座や上手い見せ方などの指導をすることになった。特に社交系のダンスなどはシアが専門だ。

サーガ?サーガは適当にうろついたり舞台鑑賞したり口を挟んだり仲間と遊んだりだべったりと、あちこちフラフラしておりましたよ。此奴はいつも通り。












そんな村の様子を面白そうに見ていたクラウダー。いつもならば剣を持ってじゃれている男達が、その手に笛やリュートを持ち戯れているのを興味深そうに眺めていた。

やがてダンが注文された数のリュートを作り終える。仕事をやり遂げてダンも満足そうだ。
リュートを受け取った村の者達も、早速弾き始める。楽しそうである。
そしてダンが作り上げたということで、そのお礼にと、大分完成された舞台を上演することになった。演目は衣装もそれなりに整った美女と野○。
晴れた空の元、高らかに音楽と歌声が流れる。そして舞台は幕…はないが幕を開ける。





風の村はお客さんが立ち寄れるようにと、街道から入って来られるようにそれなりに道が整備されていた。そしてその音楽は街道の方まで届いた。たまたまそこを通りがかった商人がおり、なんの音楽なのだろうと馬車を止め、ソロリソロリと音楽の鳴る方へと近づいて行った。
そしてそこで行われていることを目にする。質素ながらも少し目立つ衣装を纏った女性と、よく分からない仮面を被ったおかしな格好をした男性。そしてその周りにまたおかしな格好をした女性と男性が数人動き回っている。
なにをやっているのかと商人はそれに見入った。場面場面で台詞と歌が入り交じる。広場中央で目立つ衣装の女性と仮面の男性がそれぞれの想いを歌にし、そして踊り出す。
初めて見るそれに商人は時を忘れて見入った。話しは佳境へと入り、仮面の男性がその身を犠牲にして女性を悪意ある者の手から守った。そして倒れた仮面の男性に寄り添いながら、女性が口にする。

「あなたを愛しています」

広場中央にそっと飾られていたバラの花と覚しきその最後の花弁が、はらりと散った。
空は晴れているのに、そこだけ暗くなったかのように錯覚する。
お互いに想い合っているのにこれで終わってしまうのかと思ったその時、仮面の男性のマントが膨れ上がる。そして突風が吹き、商人は思わず眼を瞑る。
風が止み、広場に目をやると、なんと仮面の男性が仮面を外して立っていた。
そして、

「ありがとう。君のおかげで僕は元の姿に戻ることができた。僕も君を愛している」

2人は抱き合い、おかしな格好をしていた周りの者達も衣装を替え、2人の周りで舞い始める。そして嬉しそうな幸せそうな歌と音楽が響き渡り、皆と一緒に2人も踊り出す。
そして歌と共に音楽が終わり、その話が終わったことが分かった。役者達が勢揃いして、観客達に頭を下げる。
商人は我知らず手が痛くなるほど拍手をしていた。

「あら、お客さんかしら?」

芝居に見入っていた女性が商人に気付き、近づいて来た。

「ああ! 良い物を見せて貰ったよ! すまない只見してしまった。鑑賞料はいくらだい?」

何故か女性がビックリした顔をしている。

「ええ? あれにお金を払うのかい? まだ何もしてないのに?」

何もとはなんのことだろう?

「とても良かったよ! 特に歌と音楽が素晴らしい! また上演しないのかい? どうせなら最初から見て見たいんだが」

女性がなにやらまごまごしていたが、

「ちょ、ちょっと待ってておくれね」

と言って慌ててテントの方へと走って行ってしまった。
商人がしばらく待っていると、緑がかった髪をした男を連れて戻って来た。

「あれに金を払ってくれると?」
「ああ。あれは芝居だろ? こんな所でやっているとは知らなかったよ。歌や音楽が入っていてとても斬新だったね。とても面白かったけど途中から只見してしまったから、正規の料金で最初から見たいと思うんだがね。今度はいつ上演するんだい?」

早口で商人が捲し立てる。余程気に入ったようだった。
呼ばれてきた男、クラウダーは顎に手を当てて考える。

「すまないがまだ立ち上げたばかりでね。ご覧の通りまだ荒削りで見せられた物では無いんだよ。だからきちんと上演することになったら改めて告知させて貰うよ」

商人が残念そうな顔になる。

「そうかい。とても良かったんだけどね。あれで荒削りとなったら完成したらどんな物になるんだろうね。今から楽しみだよ」
「良かったらあちこちで宣伝してくれるかい? 客が来ないんじゃ上演しても意味がない」
「ああ! それくらいお安い御用さ。上演することになったら是非にも教えておくれね。この先の街で触れ込んで貰えれば私のも分かるから」
「ああ、早いうちに上演出来るように頑張るよ」
「そういえば料金は…」
「今回はいいさ。まだ完成していない物だからな」
「そうかい。なんだか私だけ得してしまった気分だな。ああ、そうだ。ちょっと待っててくれるか」

商人が慌てて馬車に戻って行って小さな酒樽を取ってきた。

「このままじゃ心苦しいからね。これをあの役者達に差し入れてやってくれ。とても良かったと伝えてくれよ」
「分かった。ありがとう」
「こちらこそ、良い物見せて貰ったよ」

商人はにこにこと嬉しそうに笑いながら去って行った。
その後ろ姿をやはり嬉しそうに見送りながら、クラウダーは呟いた。

「オーガ。お前の悩み、サーガが解決してくれたみたいだぞ。さすがはお前の息子だな」

芝居が終わった後の余韻に浸っている皆の所へクラウダーが足を向ける。

「みんな、ちょっといいか」

手をパンと叩き、皆の視線を集める。

「今の芝居もとても良かったと思う。良い出来だった」

演じた役者達が少し照れたように笑う。演奏者達も満足そうな顔をしている。

「その証拠にたまたま立ち寄った商人が、ほれ、とても良かったからと酒を置いて行ってくれたぞ」

わあと声が上がる。

「待て待て。これは役者達に振る舞ってくれと言われたんだ。他の者達は違うぞ」

歓声が収まった。一部不満そうな顔をしているが、納得はしているようだ。

「そこでだな、思ったんだ。この芝居でこの先食べていけるんじゃないかとな。だからな」

クラウダーが一呼吸置き、皆の顔を見渡す。

「ここらで剣を置かないか?」
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