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時の狭間の魔女編
闇の魔女、現る
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音楽に乗って体を、腕や足を動かす。とても滑らかに動く。
キーナは考えていた。テルディアスのことを。
この世界に来たその時から側にいてくれた存在。辛い時にはいつも側にいてくれて、困った時には手を差し伸べてくれて。側にいることが当たり前になっている。
始めから無愛想ではあったが、近頃はその表情も柔らかくなり、微笑んでいることも多くなって来た。サーガと喧嘩も良くするが。
怒った顔、笑った顔、焦った顔、困った顔、呆れた顔、色々な顔を見てきた。何故かどの顔も見ていて飽きない。もっといろいろな顔を見たいとも思う。
(テル…)
キーナはテルディアスの為に舞っていた。会場中の人に見せるのではなく、木の下に佇んでいたテルディアスに見せる為だけに踊っていた。見て欲しい。今の自分の姿を。
(テル…)
想いを込めて舞う。胸が温かくなっていく。想うだけでこんなにも幸せな気持ちになれる。この感情は…。
(好き…なんだ…)
そうだ。もしかすると最初から惹かれていたのかもしれない。孤独に苛まれた寂しそうな目をした青年。1人では置いておけないと思った。半分無理矢理側にいたいと駄々をこねたのも、この人を1人にしたくないと思ったからだ。
(好き…)
自覚してみればいろいろな事に説明が付く。何故テルディアスと共にいると安心出来たのか。側に入れてくれるだけでほっとするのか。
(テルが…好き…)
自覚したせいなのか、想いが溢れてくる。とめどなく。体中に熱いものが広がり、テルディアスのこと以外考えられなくなっていく。
(テルが好き)
キーナは舞った。ただテルディアスのことだけを考えて。
だから、自分の体が光り輝き始めていることに気付かなかった。
番号が呼ばれ、キーナが恥ずかしそうに出て来て、舞台中央に立つ。音楽が流れ始め、キーナが舞い始めた。
テルディアスは見ていた。瞬きすることさえ疎うように、キーナを見ていた。
(綺麗だ…)
先程見た時よりも、舞っている姿はとても綺麗だった。少しの動作も見逃すものかとでもいうくらいにじっくりと見ていた。
会場の観客もメリンダの時と同じように、惹きつけられていた。先程と違うのは呆れたような顔をしていた女性達もキーナの舞に惹きつけられていることだろうか。
そこにいる全ての人達がキーナに惹きつけられていた。その美しさに。その華蓮な舞に。
(好き…)
テルディアスはそんな声が聞こえた気がした。キーナの声だ。聞こえるはずがない。しかし、
(テルが好き)
しっかり聞こえた気がした。
(キーナ…)
テルディアスの胸の内も温かくなる。幻聴でも構わない。嬉しくてどうにかなってしまいそうだ。
そのうちに不思議な事が起こる。キーナの体が光りを帯び始めたのだ。
みるみる光は強くなっていく。しかし不思議と眩しいと感じることはない。キーナの髪も伸び、白く長い髪がなびいて、やはり光を放っているかのように見える。
(これは…?)
テルディアスも驚きを隠せない。まさにその姿はキーナが御子の力を発現する時の姿だったからだ。
(何故今…?)
「なんだか面白い事やってるわねぇ♡」
「!」
頭上から声が振ってきて、テルディアスの背筋に悪寒が走り抜けた。
上を見れば、あの時以来見ることもその声を聞くこともなかった、闇の魔女が枝に腰掛けて会場を眺めていた。
「・・・!!」
驚きすぎて声が出ない。闇の魔女は確か、ミドル王国の大魔導師と呼ばれている魔法の師匠が、よく分からないがとても遠い、とてもではないが帰って来られない場所へ送ったと聞いていた。そのおかげかどうか、この2年はパッタリとテルディアスに干渉してくることはなく、テルディアスももう闇の魔女に関わることはないのだろうと安心してしまっていた。
それが、目の前に居る。
剣に手を掛ける。いつでも抜けるように。しかしこの魔女に剣だけで敵うわけがない。
「あらやだ。久しぶりなのになあに? その警戒するような顔。ふふ、そんな顔もそそるわねぇ…」
ペロリと唇を舐める魔女。テルディアスの背筋がゾワリとなる。
「貴様…何故ここに…」
「うふふ。私もまさかあそこから帰ってこられるとは思ってなかったけど。でもまさかまさかよね。あの子が目覚めてくれたおかげで、帰ってこられたみたい☆」
と舞台を指す。そこには光を放ちながら舞い続けるキーナの姿。
目覚めた。
魔女の言葉にやはりそうなのかとテルディアスは思う。何がきっかけなのかは分からないが、キーナは光の御子として本当に目覚めたのだ。
「でもね、やられっぱなしはやっぱり腹が立つじゃない? だから、仕返しすることにしたのよ」
テルディアスが魔女を睨み付ける。
逃げるべきか、戦うべきか。どちらをとっても碌な結果になりそうにはない。
「目覚めたばかりなら、まだ力の使い方も分かってないでしょう? だからね、あたしと同じ所に送ってあげようと思って♪」
「?!」
「特に、私のような闇ならともかく、光ではあそこから帰ってくることは難しいでしょうね。さあテルディアス、どうする?」
魔女が楽しそうにテルディアスに笑いかけ、キーナに向かって手を伸ばした。
「! キーナ!」
咄嗟にテルディアスはキーナに向かって走り始めた。間に合わないと分かっていても手を伸ばさずにはいられない。
「キーナ!」
テルディアスの声に、観客が目が覚めたようにハッとなった。キーナも動きを止めた。
「テル?」
テルディアスが何やら必死な様子で人ごみを掻き分けて来る。何かあったのだろうかと足を踏み出したキーナの背後で、闇が口を開けた。
「キーナ!!」
サーガとダンもそれに気付いた。キーナの背後に開いた闇の間。それまでにもルイスなどが使っていたのを見ていたので、それが闇の力であることには気付いた。しかし、何故今それがそこにあるのかと戸惑う。
「キーナ!」
テルディアスが魔法を使ったのか、宙に浮き、キーナに向かって飛ぶ。
キーナも背後のそれに気付いた。テルディアスに向かって手を伸ばす。
「テル…!」
闇がキーナを飲み込んでいく。
「キーナ!!」
「テ…」
テルディアスがその手を掴もうとした瞬間、嘲笑うように闇がキーナを完全に飲み込んだ。
「!」
舞台に降り立つテルディアス。しかしその手には何もない。
「キーナ…」
目の前で消えてしまった。その手を掴むことが出来なかった。
「!」
舞台から魔女を睨み付ける。剣に手を掛ける。
「ほほほほ。いい顔だわテルディアス。もっと良く顔を見せて」
そんな声が響き渡った。それと同時にテルディアスのフードとマスクが破かれた。
「!」
「な!」
「ひ!」
「きゃあああ!!」
会場にいた人々が悲鳴を上げ始めた。
テルディアスは愕然となる。
「あらあら、これは大変なことになっちゃったわねぇ。ふふふ。どうするのか、見させて貰うからね♡」
そんな声が舞台に届き、魔女は姿を消した。
魔女のいた場所を睨み付けつつ、テルディアスは周囲を伺う。会場は騒然としていて、すぐに警備をしていたのだろう衛兵が舞台の袖に姿を見せ始めた。
(しまった…!)
逃げるに逃げられない。どうするかと迷っていたその時、
ゴウ!!
突如会場を突風が渦巻いた。
「今のうちに逃げろ!」
テルディアスの耳元でそんな声が囁いた。サーガだ。
突風で身動き出来なくなっている衛兵達を突き飛ばしながら、テルディアスはそこから逃げ出したのだった。
「何がどうなってるんですの?!」
「いいから! 着替えるのよ!」
事態を把握し切れていないシアと、何となくだが把握したメリンダ。シアを急かしつつ急いで身支度を整える。ついでにテルディアス用にとちょっとフードやらを拝借していく。
テントを出た所でサーガとバッタリ。
「用意出来たか?!」
「ええ!」
いまいち事態を理解し切れていないダンとシアを急かしつつ、4人は急いで街を出た。
会場はダーディンが出現したことと、まさに光の巫女とも呼べる少女がいなくなってしまい混乱していたとか。
サーガの案内に従い、街から離れて行く一行。大分離れた森の中、木の下に蹲る影を見付けた。もちろんその影はテルディアスである。
「テルディアス!」
メリンダが駆け寄る。
「無事で良かったわ。とりあえずほら、フード。これと変えなさい」
とにかくフードだけでもどうにかしないとと差し出すが、テルディアスは顔を膝の間に埋めたまま。こちらを見ようともしない。
「テルディアス!」
メリンダが肩を揺さぶると、やっと顔を上げた。その顔は青緑色のせいかどす黒く、生気の抜けたような顔をしていた。
のろのろとテルディアスがフードを取り替える。これでとりあえず街道は歩けるようにはなった。次は…。
「テルディアス、あれはなんだったんだ?」
サーガが質問した。
サーガも気付かぬうちに現われた闇の気配。力を抑えていたのか、そこまでしっかり感じ取ることは出来なかった。そしてキーナを飲みこんだ闇。
「魔女だ…」
掠れる声でテルディアスが答えた。
「! お前の言っていた闇の魔女って奴か? なんでいまさら…」
テルディアスが重そうに言葉を吐き出す。
「キーナが…、光の御子として、完全に目覚めたらしい…。そのせいで闇の魔女も力を取り戻したらしい…。それで、帰って来たと…」
「! それって…」
光と闇。相反しながらも引き合う者達。キーナが光の御子として、目覚めた時に現われたとなれば、闇の魔女が闇の御子と言っているようなものではないか。
それが何故相手を貶めるような真似をするのか。
「で、キーナは…?!」
「分からん…。奴がいた所へ送ったと…。俺はその場所を知らない」
「俺はってことは、知ってる奴がいるのか?」
テルディアスがサーガを見上げた。
「ミドル王国の俺の師匠なら知ってるはずだ…。だがあそこまでどれだけの時間が…」
「仕方ねえから運んでやるよ! ほら立て!」
サーガが急かすも、いつもなら反発して絡んでくるテルディアスは死人のような顔をして座ったままだ。
「テルディアス、座ってても何もならないでしょう! さあ立って! 諦めてる場合じゃないのよ!」
だがテルディアスの顔に生気は戻らない。テルディアスだけは知っている。あの魔女の恐ろしさを。他の4人は知らない。それが違いだった。
キーナを取り戻せるとは思えない。テルディアスは絶望に支配されていた。
自分のせいで巻き込んでしまった。まただ。また巻き込んで、苦しい思いをさせてしまっている。もっと早くに離れるべきだった。
そんなことをグルグルと考える。キーナも彼女も、自分のせいで…。
「ミドル王国まで行かずとも、良い方法がありますよ」
突然側の木陰から声がした。
サーガが身構える。
「誰だ?!」
ダンもすぐに結界を張れるようにと身構えた。
木陰からゆっくりと人が出て来た。緑の髪に青い瞳の女性だった。
「私はエレクトラ。親しい者にはエラと呼ばれております。そして、世間では緑の賢者と呼ばれている者ですわ」
その女性がにっこりと笑った。
キーナは考えていた。テルディアスのことを。
この世界に来たその時から側にいてくれた存在。辛い時にはいつも側にいてくれて、困った時には手を差し伸べてくれて。側にいることが当たり前になっている。
始めから無愛想ではあったが、近頃はその表情も柔らかくなり、微笑んでいることも多くなって来た。サーガと喧嘩も良くするが。
怒った顔、笑った顔、焦った顔、困った顔、呆れた顔、色々な顔を見てきた。何故かどの顔も見ていて飽きない。もっといろいろな顔を見たいとも思う。
(テル…)
キーナはテルディアスの為に舞っていた。会場中の人に見せるのではなく、木の下に佇んでいたテルディアスに見せる為だけに踊っていた。見て欲しい。今の自分の姿を。
(テル…)
想いを込めて舞う。胸が温かくなっていく。想うだけでこんなにも幸せな気持ちになれる。この感情は…。
(好き…なんだ…)
そうだ。もしかすると最初から惹かれていたのかもしれない。孤独に苛まれた寂しそうな目をした青年。1人では置いておけないと思った。半分無理矢理側にいたいと駄々をこねたのも、この人を1人にしたくないと思ったからだ。
(好き…)
自覚してみればいろいろな事に説明が付く。何故テルディアスと共にいると安心出来たのか。側に入れてくれるだけでほっとするのか。
(テルが…好き…)
自覚したせいなのか、想いが溢れてくる。とめどなく。体中に熱いものが広がり、テルディアスのこと以外考えられなくなっていく。
(テルが好き)
キーナは舞った。ただテルディアスのことだけを考えて。
だから、自分の体が光り輝き始めていることに気付かなかった。
番号が呼ばれ、キーナが恥ずかしそうに出て来て、舞台中央に立つ。音楽が流れ始め、キーナが舞い始めた。
テルディアスは見ていた。瞬きすることさえ疎うように、キーナを見ていた。
(綺麗だ…)
先程見た時よりも、舞っている姿はとても綺麗だった。少しの動作も見逃すものかとでもいうくらいにじっくりと見ていた。
会場の観客もメリンダの時と同じように、惹きつけられていた。先程と違うのは呆れたような顔をしていた女性達もキーナの舞に惹きつけられていることだろうか。
そこにいる全ての人達がキーナに惹きつけられていた。その美しさに。その華蓮な舞に。
(好き…)
テルディアスはそんな声が聞こえた気がした。キーナの声だ。聞こえるはずがない。しかし、
(テルが好き)
しっかり聞こえた気がした。
(キーナ…)
テルディアスの胸の内も温かくなる。幻聴でも構わない。嬉しくてどうにかなってしまいそうだ。
そのうちに不思議な事が起こる。キーナの体が光りを帯び始めたのだ。
みるみる光は強くなっていく。しかし不思議と眩しいと感じることはない。キーナの髪も伸び、白く長い髪がなびいて、やはり光を放っているかのように見える。
(これは…?)
テルディアスも驚きを隠せない。まさにその姿はキーナが御子の力を発現する時の姿だったからだ。
(何故今…?)
「なんだか面白い事やってるわねぇ♡」
「!」
頭上から声が振ってきて、テルディアスの背筋に悪寒が走り抜けた。
上を見れば、あの時以来見ることもその声を聞くこともなかった、闇の魔女が枝に腰掛けて会場を眺めていた。
「・・・!!」
驚きすぎて声が出ない。闇の魔女は確か、ミドル王国の大魔導師と呼ばれている魔法の師匠が、よく分からないがとても遠い、とてもではないが帰って来られない場所へ送ったと聞いていた。そのおかげかどうか、この2年はパッタリとテルディアスに干渉してくることはなく、テルディアスももう闇の魔女に関わることはないのだろうと安心してしまっていた。
それが、目の前に居る。
剣に手を掛ける。いつでも抜けるように。しかしこの魔女に剣だけで敵うわけがない。
「あらやだ。久しぶりなのになあに? その警戒するような顔。ふふ、そんな顔もそそるわねぇ…」
ペロリと唇を舐める魔女。テルディアスの背筋がゾワリとなる。
「貴様…何故ここに…」
「うふふ。私もまさかあそこから帰ってこられるとは思ってなかったけど。でもまさかまさかよね。あの子が目覚めてくれたおかげで、帰ってこられたみたい☆」
と舞台を指す。そこには光を放ちながら舞い続けるキーナの姿。
目覚めた。
魔女の言葉にやはりそうなのかとテルディアスは思う。何がきっかけなのかは分からないが、キーナは光の御子として本当に目覚めたのだ。
「でもね、やられっぱなしはやっぱり腹が立つじゃない? だから、仕返しすることにしたのよ」
テルディアスが魔女を睨み付ける。
逃げるべきか、戦うべきか。どちらをとっても碌な結果になりそうにはない。
「目覚めたばかりなら、まだ力の使い方も分かってないでしょう? だからね、あたしと同じ所に送ってあげようと思って♪」
「?!」
「特に、私のような闇ならともかく、光ではあそこから帰ってくることは難しいでしょうね。さあテルディアス、どうする?」
魔女が楽しそうにテルディアスに笑いかけ、キーナに向かって手を伸ばした。
「! キーナ!」
咄嗟にテルディアスはキーナに向かって走り始めた。間に合わないと分かっていても手を伸ばさずにはいられない。
「キーナ!」
テルディアスの声に、観客が目が覚めたようにハッとなった。キーナも動きを止めた。
「テル?」
テルディアスが何やら必死な様子で人ごみを掻き分けて来る。何かあったのだろうかと足を踏み出したキーナの背後で、闇が口を開けた。
「キーナ!!」
サーガとダンもそれに気付いた。キーナの背後に開いた闇の間。それまでにもルイスなどが使っていたのを見ていたので、それが闇の力であることには気付いた。しかし、何故今それがそこにあるのかと戸惑う。
「キーナ!」
テルディアスが魔法を使ったのか、宙に浮き、キーナに向かって飛ぶ。
キーナも背後のそれに気付いた。テルディアスに向かって手を伸ばす。
「テル…!」
闇がキーナを飲み込んでいく。
「キーナ!!」
「テ…」
テルディアスがその手を掴もうとした瞬間、嘲笑うように闇がキーナを完全に飲み込んだ。
「!」
舞台に降り立つテルディアス。しかしその手には何もない。
「キーナ…」
目の前で消えてしまった。その手を掴むことが出来なかった。
「!」
舞台から魔女を睨み付ける。剣に手を掛ける。
「ほほほほ。いい顔だわテルディアス。もっと良く顔を見せて」
そんな声が響き渡った。それと同時にテルディアスのフードとマスクが破かれた。
「!」
「な!」
「ひ!」
「きゃあああ!!」
会場にいた人々が悲鳴を上げ始めた。
テルディアスは愕然となる。
「あらあら、これは大変なことになっちゃったわねぇ。ふふふ。どうするのか、見させて貰うからね♡」
そんな声が舞台に届き、魔女は姿を消した。
魔女のいた場所を睨み付けつつ、テルディアスは周囲を伺う。会場は騒然としていて、すぐに警備をしていたのだろう衛兵が舞台の袖に姿を見せ始めた。
(しまった…!)
逃げるに逃げられない。どうするかと迷っていたその時、
ゴウ!!
突如会場を突風が渦巻いた。
「今のうちに逃げろ!」
テルディアスの耳元でそんな声が囁いた。サーガだ。
突風で身動き出来なくなっている衛兵達を突き飛ばしながら、テルディアスはそこから逃げ出したのだった。
「何がどうなってるんですの?!」
「いいから! 着替えるのよ!」
事態を把握し切れていないシアと、何となくだが把握したメリンダ。シアを急かしつつ急いで身支度を整える。ついでにテルディアス用にとちょっとフードやらを拝借していく。
テントを出た所でサーガとバッタリ。
「用意出来たか?!」
「ええ!」
いまいち事態を理解し切れていないダンとシアを急かしつつ、4人は急いで街を出た。
会場はダーディンが出現したことと、まさに光の巫女とも呼べる少女がいなくなってしまい混乱していたとか。
サーガの案内に従い、街から離れて行く一行。大分離れた森の中、木の下に蹲る影を見付けた。もちろんその影はテルディアスである。
「テルディアス!」
メリンダが駆け寄る。
「無事で良かったわ。とりあえずほら、フード。これと変えなさい」
とにかくフードだけでもどうにかしないとと差し出すが、テルディアスは顔を膝の間に埋めたまま。こちらを見ようともしない。
「テルディアス!」
メリンダが肩を揺さぶると、やっと顔を上げた。その顔は青緑色のせいかどす黒く、生気の抜けたような顔をしていた。
のろのろとテルディアスがフードを取り替える。これでとりあえず街道は歩けるようにはなった。次は…。
「テルディアス、あれはなんだったんだ?」
サーガが質問した。
サーガも気付かぬうちに現われた闇の気配。力を抑えていたのか、そこまでしっかり感じ取ることは出来なかった。そしてキーナを飲みこんだ闇。
「魔女だ…」
掠れる声でテルディアスが答えた。
「! お前の言っていた闇の魔女って奴か? なんでいまさら…」
テルディアスが重そうに言葉を吐き出す。
「キーナが…、光の御子として、完全に目覚めたらしい…。そのせいで闇の魔女も力を取り戻したらしい…。それで、帰って来たと…」
「! それって…」
光と闇。相反しながらも引き合う者達。キーナが光の御子として、目覚めた時に現われたとなれば、闇の魔女が闇の御子と言っているようなものではないか。
それが何故相手を貶めるような真似をするのか。
「で、キーナは…?!」
「分からん…。奴がいた所へ送ったと…。俺はその場所を知らない」
「俺はってことは、知ってる奴がいるのか?」
テルディアスがサーガを見上げた。
「ミドル王国の俺の師匠なら知ってるはずだ…。だがあそこまでどれだけの時間が…」
「仕方ねえから運んでやるよ! ほら立て!」
サーガが急かすも、いつもなら反発して絡んでくるテルディアスは死人のような顔をして座ったままだ。
「テルディアス、座ってても何もならないでしょう! さあ立って! 諦めてる場合じゃないのよ!」
だがテルディアスの顔に生気は戻らない。テルディアスだけは知っている。あの魔女の恐ろしさを。他の4人は知らない。それが違いだった。
キーナを取り戻せるとは思えない。テルディアスは絶望に支配されていた。
自分のせいで巻き込んでしまった。まただ。また巻き込んで、苦しい思いをさせてしまっている。もっと早くに離れるべきだった。
そんなことをグルグルと考える。キーナも彼女も、自分のせいで…。
「ミドル王国まで行かずとも、良い方法がありますよ」
突然側の木陰から声がした。
サーガが身構える。
「誰だ?!」
ダンもすぐに結界を張れるようにと身構えた。
木陰からゆっくりと人が出て来た。緑の髪に青い瞳の女性だった。
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