キーナの魔法

小笠原慎二

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時の狭間の魔女編

穴へ飛び込め

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「では、これからやることを説明する。あたしの言うことを1つでも破ったら命はないと思いな」

なんとなく壁際に整列した一同。真剣な顔でお婆さんに向き合った。

「まず、あたしがこの5日間かかって溜めた魔力を用いて、空間の扉を開く。しかしあたしの魔力じゃどう見積もっても1時間くらいしか開いていられないだろう。つまり、1時間の間に探し出さなければならない」

全員の顔を見渡した。

「しかしだね、今光の御子がいる場所は時間も空間も関係ない場所なんだ。だから、全員が扉を潜って探しに行くことは出来ない」

驚きに目が開かれる。全員で探しに行けるものだと思っていたからだ。

「2人だけ、腰に縄を付けて扉を潜ることを許そう。残った3人はあたしが合図したらその腰縄を2度引っ張りな。それが扉が閉まる合図だよ。それで戻って来なければ、探しに行った者も光の御子と同じように永遠に世界の狭間を彷徨うことになる」

メリンダがぶるっと体を震わせた。

「探しに行く者は特に光の御子に対して想いの強い者を選びな。時間も空間も関係ない場所では想いこそが力となる。強い想いを持てば光の御子を探しやすくなる」

全員がテルディアスを見た。テルディアスはお婆さんを見つめていた。

「さて、あたしは準備に入るから、その間に行く人を決めな。そして腰縄を付けるんだよ」

部屋の隅に縄が用意してあった。そしておばあさんが魔法陣の淵に立ち、何かぶつぶつと唱え始めた。

「テルディアスは決まりとして、あとは姐さんか?」

サーガが口を出す。

「あたしでいいの?」
「俺より姐さんの方がキーナのこと想ってる気がするよ?」

ダンもシアもメリンダ達ほど共に時間を過ごしていないので、メリンダの想いには敵わないと思われる。ならばサーガもとは思うが、サーガは風の性質のせいか、どうも思考が定まらない所があった。メリンダはキーナに対し思い入れも強い。テルディアスの次に最適と思われた。

「分かったわ。行って来る」

メリンダが頷く。それを聞いていたテルディアスも頷き、縄を取りに移動した。縄を取ってくるとメリンダに一方を手渡す。
テルディアスとメリンダが腰に縄を付け、その反対側をサーガとダンが持った。

「テルディアス様。お気を付けて。きっとキーナさんを探してきて下さいまし」
「ああ」

シアが祈るように手を組み、2人の(主にテルディアスの)無事を祈った。
それを見たお婆さんが声を掛ける。

「準備は良いな? 開けると同時に飛び込むのじゃ。そして出来るだけ光の御子の事を思え。さすれば見つかりやすくなる」

テルディアスとメリンダが頷いた。
お婆さんが眼を瞑った。

「我が意を持ちてここに開かん!!」

その声が終わるや否や、魔法陣の真ん中に暗い穴が開いた。

「行け! 飛び込むのじゃ!」

テルディアスが先陣切って穴へと飛び込んで行った。後からメリンダも飛び込む。
穴からは2本の縄が伸びるのみとなった。
サーガが縄を持って身構えていたが、縄は最初にメリンダが飛び込んでからその後入って行く様子がない。

「これ、姐さんちゃんと進めてんのか?」

動かない縄に心配になり、言葉を漏らす。

「大丈夫じゃ。先に言うたろう。あの中は時間も空間も関係ない場所じゃと。時の流れもなく空間の持つ距離さえ関係ない場所じゃ。縄がなければこちらの世界へ帰ってくることも難しかろう」

お婆さんが少し苦しそうな顔をしながら答えた。

「時間も空間も関係ない…。よく分からねえな」

サーガは強く縄を握り締めた。











飛び込んだ暗い穴の中は暗い場所だった。完全に暗いわけではなく、明るい部屋の中で目を瞑ったようなそんな明るさもあった。しかし地面も空も何もないので余計に暗く感じてしまう。

「テルディアス」

後ろからメリンダの声がして、テルディアスが振り向く。

「あたしはあっちに行ってみるわ」
「分かった。俺はこっちに行ってみよう」

時間も空間も関係ないと言われても、その感覚が分からない。2人はとりあえず左右に分かれることにした。
キーナのことを考える。強く思うほどに見つかりやすくなる。そう言われなくともテルディアスの頭の中はキーナを心配する思いでいっぱいだ。

「キーナ!」

叫んでも声は辺りに響くこともなく、ただ吸収されるように消えて行く。メリンダの声も聞こえず思わず振り向くが、すでにメリンダの姿は見えなくなっていた。ただその存在を示すかのように空間の1点から2本の縄が伸びている。
命綱。
まさにそれだった。
しかしテルディアスはそんなことを気に留めることもなく、左右に視線を走らせる。

「キーナ!」

届いているのかも分からない声を再び上げた。















「キーナちゃん!」

メリンダも走っているのか分からないがとにかく足を動かす。地面らしき地面もなく、蹴り上げる感触もないので自分が前に進んでいるのかの確証も持てない。だがとにかく探さなくてはと足を動かし声を上げる。

「キーナちゃん!」

キーナのことをひたすらに考えた。出会ってからこれまでの色々な事。

「キーナちゃん!」

響かない声に気持ち悪さを感じつつ、メリンダはとにかく足を動かした。



















サーガ達は黙って縄を持っていた。何もできずに只時間が過ぎるのを待っていた。無事にキーナが見つかることを祈りながら。
時が過ぎる程にお婆さんの顔が苦しそうになっていく。それほどにこの穴を維持することは負担が大きいことなのだろう。
だがサーガ達には何もできない。時折知らず縄を持つ手に力が籠もる。だが縄にも何の反応もない。
静かにじりじりとした気分でサーガ達は朗報を待っていたのだが、ついにその時は来てしまった。

「限界じゃ! 呼び戻せ!」

顔を青くしたお婆さんが、持っていた杖にしな垂れかかるようにして声を絞り出す。
一瞬身を固くしたサーガ達だったが、すぐに縄を2度引っ張った。帰ってこいの合図だ。

「帰ってこぬようなら無理矢理にでも引張れ!」

お婆さんが倒れそうになりながらも必死に立っている。限界が近いことがよく分かる。サーガ達も身構えた。















腰の縄が引かれた。帰還の合図だ。

「え? もう?」

そんな時間が過ぎていたのだろうかとメリンダは思う。しかしここは時間も空間も関係ない場所だということを思い出す。さっき入ったばかりのように思うのもそのせいかもしれない。

「でも、まだキーナちゃんが…」

前を見るがその景色は全く変わり映えを見せない。自分が何処を探していたのかも分からない。もしかして見当違いの場所を探していたのかもしれない。

「いえ、もしかしたら、テルディアスが…」

その可能性だって考えられる。とにかく戻ろうとメリンダは踵を返した。ここで戻らず自分が遭難するような事になってもまた不味い。縄を辿っていくと不自然に空中から縄が2本伸びていた。
2本…。
テルディアスもまだ見付けられていないのだ。
一瞬足を止めたメリンダだったが、そのまま縄が伸びる場所へと飛び込んで行った。














腰の縄が引かれる。

「もう?!」

時間なのかとテルディアスは驚く。そんなに時間が経ったとは思えなかった。

「しかし、まさか…」

もしかしたらメリンダがキーナを見付けたのだろうかと慌てて縄を辿った。しかし縄は2本。まだメリンダも帰って来てはいないのだ。つまりキーナは見つかっておらず時間切れ。
テルディアスはすぐに背を向けて走り出した。見つかっていないのならば帰る意味はない。例えこの空間で永遠に彷徨い続けることになろうと、キーナのいない世界に帰る選択肢はなかった。
だが、腰縄が強く引かれる。無理矢理にでも連れ戻そうとしているのだと分かった。ダンが引っ張っているのだろう。ともすればそのまま引き摺られて行ってしまう。

「・・・すまん」

聞こえないと分かっていても、テルディアスは呟いた。心配性のダンが目に涙を浮かべている様子が見えた。しかし、自分は戻るわけにはいかない。戻りたくない。
剣を引き抜き、縄を切る。伸びきっていた縄は勢いよくテルディアスの目の前から消えて行った。これで、帰る手立てはなくなった。
帰ることよりもキーナを見つけ出すことがテルディアスにとっては大事な事だった。例え永遠に彷徨う事になろうとも。
腰の縄を切り落とし、テルディアスは再び歩き出す。

「キーナ!」

空間がテルディアスの声を飲み込んでいく。














メリンダが穴から飛び出して来た。

「姐さん!」
「サーガ!」

勢いサーガに飛び込む形となったメリンダ。そのまま共に倒れ込む。

「無事で…」
「テルディアスは?!」

サーガの声に被さるようにメリンダが穴を見つめる。誰よりもキーナを想っていたテルディアスだ。もしメリンダと同じ気持ちを抱いていたならば…。嫌な予感が頭を過ぎる。
姿を現わさないことに焦れたのか心配になったのか、ダンが縄を引っ張りだした。向こうで抵抗しているのだろう。なかなか縄の先が見えてこない。

「あの野郎」

その意図を察したのか、サーガがメリンダをどかして縄に駆け寄り手を掛ける。一緒に一気に引っ張ってしまおうとしたのだ。しかし、サーガが力を込めた瞬間、突然縄が軽くなり、勢い踏ん張っていたダンと力を入れかけていたサーガが後ろにひっくり返った。

「ダン!」
「サーガ!」

倒れた2人にシアとメリンダが駆け寄る。

「馬鹿者…!」

お婆さんが苦しそうに呟くと、床に膝を付いた。
途端、穴は消滅した。
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