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時の狭間の魔女編
帰ろう
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時間も空間もない場所。そこでテルディアスはただ藻掻いていた。
無限に続く暗がり。地面も空も何もない場所。そこにキーナが本当にいるのかと不安になってくる。
だがしかし、諦めるわけにはいかない。
「キーナ…」
発する声は周りの空間に吸収されてしまう。腰縄を外したせいか、余計に自分がどこにいるのか分からなくなっていた。
キーナのことだけを考えながら、とにかく足を動かす。しかしその足もきちんと動いているのか、自分が前に進めているのかも分からなくなっていく。
「キーナ…」
声もきちんと出ているのかさえ分からなくなっていく。もしかしたらそう考えているだけなのかもしれない。しかし止まるわけにも行かない。必死に体を動かす。とにかく何か、どうにかしなければと闇雲にただ動く。
「キーナ…」
とにかく、とにかくキーナを見付けなければならない。それだけしか考えられなくなっていた。
キーナを見付けたい。キーナの側にいたい。キーナを…。
ゆっくりと、テルディアスの瞳が闇色に染まっていく。
テルディアスが動きを止めた。何者も動く事のなくなった空間に静けさが戻る。
テルディアスはただそこに居た。天も地も何もない場所。浮かんでいるとも言い難いその場所で、ただ存在しているだけのものになった。
そして息を吸うと、テルディアスは静かに言葉を吐き出した。
「光の元へ。道を示せ。我が前に」
キュリン!
テルディアスの右耳に付けていた双子石が音を鳴らした。
すると、前方の一画で光が溢れた。そしてテルディアスの足元まで一直線に光の筋が走った。それはまるで暗がりに用意された光る道。
道が終わる場所では、キーナが踊り子の姿のままで寝転んでいるのが見えた。
テルディアスがその光る道を歩き出す。一歩一歩。今度は確実に進んでいることが分かる。次第にキーナの姿が大きくなっていく。テルディアスはゆっくりと歩を進め、キーナの元へと歩いて行く。
キーナの元へと来ると、テルディアスはそっと近づき、キーナの傍に膝を付いた。
それに気付いたのか、キーナがゆっくりと瞼を開く。
「テル…?」
少し焦点の定まらない目でテルディアスを見つめ、そして微笑んだ。
「良かったぁ…。目が覚めたらね、テルがいるってね、思ってたの。やっぱり、いてくれたんだね…」
キーナがそっとテルディアスの顔に手を伸ばす。
テルディアスはその手に自分の手を重ねた。
「ああ。ずっと共にいてやる。どこにいようと。俺はお前の傍にいる」
安心したようにキーナは目を閉じた。テルディアスはゆっくりと、優しくキーナを抱き上げた。
「帰ろう。俺達の世界に」
テルディアスがそう言うと、2人の目の前に穴が開いた。
皆、言葉を発することも出来ず、呆然と座り込んでいた。穴は消えてしまった。これでキーナとテルディアスが行方不明になってしまった。
お婆さんのぜいぜいという息づかいが聞こえる。相当疲れたのだろうことが分かる。だが誰も何も言葉を発することができなかった。何も考えられなかった。
「ま、魔力が…溜まれば…、また、穴は、開く、ことができる…。き、希望を、捨てるでは、ないぞ…」
お婆さんが切れ切れに言葉を発するも、誰も反応しなかった。
また探しに行ったとして、探し当てられるのだろうか? それも魔力を溜めるのに5日、探すのはたったの1時間。途方もない時間がかかるのではなかろうか? 誰の顔も暗いままだ。
お婆さんもそれが分かっているのかそれ以上何も言わなかった。しばらくお婆さんの息づかいだけが部屋に響いていた。
その時、音もなく再び空間に穴が開いた。
「な…?」
驚き、目を見開くお婆さん。
サーガ達も突然の事に顔を上げ、穴を見つめる。
そして穴からゆっくりと、テルディアスの足が見え、その腕に抱えられたキーナが見え、そしてテルディアスの全身がその穴から現われた。テルディアスが出てくると同時に穴は消えた。
しばし誰もがポカンと2人の姿を見上げていた。
「テルディアス…様?」
シアが驚いたような声を上げた。そしてその瞳を見て口を噤んだ。その瞳は闇色に染まっていた。
テルディアスの体がぐらつく。そして膝を付いて、キーナを抱えたまま倒れ込んだ。
「「テルディアス?!」」
サーガとメリンダが急いで駆け寄り、ハッとなったダンも慌てて側に駆け寄る。シアだけはその場から動けなかった。
お婆さんもほっとしたような顔になって、楽な体勢を取った。
2人を診断していたダンが大丈夫だと頷いた。サーガとメリンダもほっとした顔になる。
「またこいつの訳の分からん呪いの力かよ」
と気絶したテルディアスの頭を殴る真似をする。
「でも良かったわ。2人共無事で…」
メリンダはキーナを大事そうに抱え、泣きそうになっている。
ダンも嬉しそうにうんうんと頷いている。相変わらず喋らん奴だ。
そんな光景に、お婆さんも口元を緩める。
「なんにせよ、無事で良かったわい。あたしも休むで、その2人も部屋へ運んでおやり」
「あ、ありがとうございます。魔女様…!」
メリンダが壊れ物のようにキーナを抱え上げた。ダンも頑張ってテルディアスを抱え上げる(姫抱っこ)。
サーガが先行し、扉を開けていく。すぐに5人は部屋から姿を消した。
「お主はいかんのか?」
部屋に残り、側に寄ってきたシアを見上げてお婆さんが尋ねる。
「私だって、自分が今やるべき事くらい、察しがつきますわ」
とお婆さんに手を掛けた。
「やれやれ、済まないね。じゃあ有り難く手を借りようかね」
お婆さんがシアの手を借り立ち上がる。そしてヨロヨロと隣のお婆さんの寝室へと移動していったのだった。
無限に続く暗がり。地面も空も何もない場所。そこにキーナが本当にいるのかと不安になってくる。
だがしかし、諦めるわけにはいかない。
「キーナ…」
発する声は周りの空間に吸収されてしまう。腰縄を外したせいか、余計に自分がどこにいるのか分からなくなっていた。
キーナのことだけを考えながら、とにかく足を動かす。しかしその足もきちんと動いているのか、自分が前に進めているのかも分からなくなっていく。
「キーナ…」
声もきちんと出ているのかさえ分からなくなっていく。もしかしたらそう考えているだけなのかもしれない。しかし止まるわけにも行かない。必死に体を動かす。とにかく何か、どうにかしなければと闇雲にただ動く。
「キーナ…」
とにかく、とにかくキーナを見付けなければならない。それだけしか考えられなくなっていた。
キーナを見付けたい。キーナの側にいたい。キーナを…。
ゆっくりと、テルディアスの瞳が闇色に染まっていく。
テルディアスが動きを止めた。何者も動く事のなくなった空間に静けさが戻る。
テルディアスはただそこに居た。天も地も何もない場所。浮かんでいるとも言い難いその場所で、ただ存在しているだけのものになった。
そして息を吸うと、テルディアスは静かに言葉を吐き出した。
「光の元へ。道を示せ。我が前に」
キュリン!
テルディアスの右耳に付けていた双子石が音を鳴らした。
すると、前方の一画で光が溢れた。そしてテルディアスの足元まで一直線に光の筋が走った。それはまるで暗がりに用意された光る道。
道が終わる場所では、キーナが踊り子の姿のままで寝転んでいるのが見えた。
テルディアスがその光る道を歩き出す。一歩一歩。今度は確実に進んでいることが分かる。次第にキーナの姿が大きくなっていく。テルディアスはゆっくりと歩を進め、キーナの元へと歩いて行く。
キーナの元へと来ると、テルディアスはそっと近づき、キーナの傍に膝を付いた。
それに気付いたのか、キーナがゆっくりと瞼を開く。
「テル…?」
少し焦点の定まらない目でテルディアスを見つめ、そして微笑んだ。
「良かったぁ…。目が覚めたらね、テルがいるってね、思ってたの。やっぱり、いてくれたんだね…」
キーナがそっとテルディアスの顔に手を伸ばす。
テルディアスはその手に自分の手を重ねた。
「ああ。ずっと共にいてやる。どこにいようと。俺はお前の傍にいる」
安心したようにキーナは目を閉じた。テルディアスはゆっくりと、優しくキーナを抱き上げた。
「帰ろう。俺達の世界に」
テルディアスがそう言うと、2人の目の前に穴が開いた。
皆、言葉を発することも出来ず、呆然と座り込んでいた。穴は消えてしまった。これでキーナとテルディアスが行方不明になってしまった。
お婆さんのぜいぜいという息づかいが聞こえる。相当疲れたのだろうことが分かる。だが誰も何も言葉を発することができなかった。何も考えられなかった。
「ま、魔力が…溜まれば…、また、穴は、開く、ことができる…。き、希望を、捨てるでは、ないぞ…」
お婆さんが切れ切れに言葉を発するも、誰も反応しなかった。
また探しに行ったとして、探し当てられるのだろうか? それも魔力を溜めるのに5日、探すのはたったの1時間。途方もない時間がかかるのではなかろうか? 誰の顔も暗いままだ。
お婆さんもそれが分かっているのかそれ以上何も言わなかった。しばらくお婆さんの息づかいだけが部屋に響いていた。
その時、音もなく再び空間に穴が開いた。
「な…?」
驚き、目を見開くお婆さん。
サーガ達も突然の事に顔を上げ、穴を見つめる。
そして穴からゆっくりと、テルディアスの足が見え、その腕に抱えられたキーナが見え、そしてテルディアスの全身がその穴から現われた。テルディアスが出てくると同時に穴は消えた。
しばし誰もがポカンと2人の姿を見上げていた。
「テルディアス…様?」
シアが驚いたような声を上げた。そしてその瞳を見て口を噤んだ。その瞳は闇色に染まっていた。
テルディアスの体がぐらつく。そして膝を付いて、キーナを抱えたまま倒れ込んだ。
「「テルディアス?!」」
サーガとメリンダが急いで駆け寄り、ハッとなったダンも慌てて側に駆け寄る。シアだけはその場から動けなかった。
お婆さんもほっとしたような顔になって、楽な体勢を取った。
2人を診断していたダンが大丈夫だと頷いた。サーガとメリンダもほっとした顔になる。
「またこいつの訳の分からん呪いの力かよ」
と気絶したテルディアスの頭を殴る真似をする。
「でも良かったわ。2人共無事で…」
メリンダはキーナを大事そうに抱え、泣きそうになっている。
ダンも嬉しそうにうんうんと頷いている。相変わらず喋らん奴だ。
そんな光景に、お婆さんも口元を緩める。
「なんにせよ、無事で良かったわい。あたしも休むで、その2人も部屋へ運んでおやり」
「あ、ありがとうございます。魔女様…!」
メリンダが壊れ物のようにキーナを抱え上げた。ダンも頑張ってテルディアスを抱え上げる(姫抱っこ)。
サーガが先行し、扉を開けていく。すぐに5人は部屋から姿を消した。
「お主はいかんのか?」
部屋に残り、側に寄ってきたシアを見上げてお婆さんが尋ねる。
「私だって、自分が今やるべき事くらい、察しがつきますわ」
とお婆さんに手を掛けた。
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