キーナの魔法

小笠原慎二

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時の狭間の魔女編

お説教

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(終わり、なのか?)

ここで、このまま。呪いが解かれればテルディアスの旅は終わりだ。それはとても喜ばしい事のはず。だがしかし、心は晴れない。
キーナの言う通り、この先闇の者達と戦う事になるだろう。四大精霊の加護を持つあの4人ならば闇の者に立ち向かう事も出来るかもしれない。しかしテルディアスには無理だ。今までにもこの呪いがなければ対処できなかった。
それがなくなればテルディアスはただの人。闇に対抗できる力も持たないただの人でしかない。
ここで終わりだ。
分かっている。それは分かっているのだが…。
全身を淡い光が包み込む。キーナが目を閉じ集中し始めた。やはり難しい術なのかもしれない。

(いやだ…)

このまま1人で終わりを迎える。皆共に先へと進んでいくのに自分だけここで終わってしまう。何よりもうキーナと共にいられない。側にいることも許されない。

(いやだ…)

光が強くなる。体が軽くなっていく。呪いが解かれているのだろうか。
キーナは集中している。また少し光が強くなった。目の前で揺れる前髪が、銀から黒へと色を変えていく。

(いやだ…!)

このまま終わるなど。キーナの側にいられなくなるなど。初めて心の底から欲しいと願ったものが、目の前から離れていってしまう。
この想いが叶わなくとも、幸せになる姿は見届けたかった。せめて終わりまで見届けたかった。

(嫌だ!)

バチィ!

「うわ!!」
「っ!」

キーナが何かに弾かれたかのように後ろに倒れる。テルディアスも強い静電気を浴びたようにビクリとなり後退った。

「キーナ、大丈夫か…?」
「う、うん…。なんにゃ?」

尻餅をついたキーナが驚いた顔でテルディアスを見上げる。その姿はダーディンのままだ。

「なんか、強い抵抗を感じたと思ったら弾かれちゃった」

少しギクリとなるテルディアス。しかしそんなことを考えていたくらいで解呪に影響があるとも思えない。

「大丈夫か?」

テルディアスが差し出した手を借りて、キーナが痛いお尻をさすりつつ立ち上がる。

「うん。よく分かんないけど、もう1回やってみるね」

同じように距離を開け、再びキーナが集中し始める。テルディアスの体を光が包み込んだ。
今度はテルディアスも余計な事は考えないように注意する。しかし胸のモヤモヤは消えない。

バチィ!

「うわわ!」
「!」

再び弾かれたかのようになるキーナ。今度は足を踏ん張って倒れなかった。
テルディアスと目が合う。互いに不思議そうな顔をしながら、しばし無言で見つめ合う。

「も、もっかいやらせて!」
「ああ…」

三度挑戦するキーナ。しかし、

バチィ!

「うわい!」

結果は同じだった。

「な、なんで…、なんで…」
「キーナ…?」
「僕御子だよ?! この世界で一番強い力を持ってるんだよ?! この僕が解けない呪いがあるはずがないのに! なんで?!」

解けなかったね。
テルディアスも訳が分からず、なんとも答えようがない。
キーナが頭を抱えて座り込んだ。

「うそだ…うそだ…。僕にも解けないものがあるなんて…。なんでだよう…」
「き、キーナ…」

テルディアスが側に寄り、キーナの横に腰を下ろした。

「お、俺にはよく分からないが…、その、闇の力だから、とか、あるんだろうか…?」

キーナの頭にポンと手を置いて、なんとか慰めようと言葉を捻り出す。

「闇の…、力…」

キーナが困ったような顔をして、テルディアスを見上げた。

「う~ん。考えられない事もないかなぁ? 闇の御子じゃないと解けない何かがあるとか? え、でも闇と光の御子って同等の力を持ってるハズなんだけど…。何か系統の違いで外れる仕掛けでもあるのかな?」

キーナが難しい顔をしてぶつぶつと呟く。

「つまり、俺の呪いは闇の御子でなければ解けない、ということか?」
「つまり、そうなりますねぃ…」

顔を見合わせる。

「となると、俺も…」
「一緒に行かないといけなくなっちゃうね…」

闇の御子を探し出すには光の御子のキーナの側にいるのが一番だ。
2人でクスリと笑い出す。

「なぁんだ。結局そうなるのかぁ」

キーナは地面にお尻を付け、ぺたりと座り込む。テルディアスも隣で足を伸ばした。

「お別れなんて言って損したぁ」
「俺と、別れたくなかったのか?」
「まぁ、そりゃ、そうでしょう?」

キーナが恥ずかしそうに視線を逸らす。

「何故?」

テルディアスが意地悪い質問をしてくる。

「え? そりゃ、そりゃぁ、その、一緒の方が楽しいし…」
「それだけ?」
「そ、それだけだよぅ…」

キーナが微妙に上体を離して逃げようとするのを、テルディアスがその肩を掴んで阻止する。ぐいっとテルディアスの方に体を引かれた。テルディアスと密着する形となり、体温が感じられる。

「本当に? それだけか?」

耳元でテルディアスの良い声で囁かれ、背中がなんだかもぞ痒くなるキーナ。

「そ、それだけだってばぁ…」

テルディアスから体を離したいのだが、肩に置かれた手がそれを許してくれない。そもそもなんだか体に力が入らない。

「本当に?」

耳元でそんな良い声で囁かれたら、なんだか変な声が出てしまいそうになる。それに恥ずかしさも相まって体が熱くなってくる。逃げ出したいのに力も入らない。

「ほ、本当だよぅ…」
「俺の目を見て言ってみろ」

それほど強い力でもないのに、顔を引かれるままに振り向いてしまう。目の前にテルディアスの顔。キーナは自分の顔が赤面していくのがよく分かった。こんないい顔を全面ドアップに見せられて、ドキドキしない子女がいるのだろうか。
最後の抵抗とばかりに視線を彷徨わせるが、どこに視線を移そうが視界からテルディアスが消えることはない。

「俺と、離れたくない、理由は?」

テルディアスがゆっくりとキーナに問いかける。逃げることを許さないとでも言うかのように。
息のかかる距離でそんなことを囁かれ、思わず体がビクリと反応してしまった。目を瞑っても目の前にテルディアスの顔があることがわかるので恥ずかしさは消えない。

「テルと、離れたくない、理由は…」

うっすら目を開けると、こちらを見つめる潤んだ瞳とぶつかる。なんだかよく分からないがもう逃げられないような気がした。

「て、テルが…、す…」
「きゃあ!」
「痛いですわ!」
「馬鹿!」

背後から聞こえた声に2人が振り向くと、折り重なったメリンダとシア、その後ろの家の影でオロオロするダンと気まずい顔のサーガ。
何故揃っている。

「お、お前ら…」
「にゃ、にゃああああああ!!」
「キーナ?!」

はっとなったキーナが、テルディアスの呪縛から解き放たれたとばかりに逃げ出した。
その姿を呆然と見送るテルディアス。

「そ、その…。ごめん、テルディアス…」
「も、申し訳ありませんわ…、テルディアス様…」

きまずい顔したメリンダとシアが体を起こす。

「貴様ら…。覚悟は出来てるのだろうな…?」

ゆらりと立ち上がったテルディアス。すぐに剣を抜いて4人に襲いかかってきた。
その姿は闇の者に操られていた時よりも恐ろしかったと、後に説教を食らったダンは語る。
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