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伯爵家クラリス編
ダンジョンクズレター
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元冒険者が綴った物語らしい。その中で語られる冒険に幼い頃から憧れていたのだと、クリスが目を輝かせながら語る。
「だから私も幼い頃から冒険者になりたくて!」
で、冒険者になったらしい。しかし家の者達からは反対されていたようだ。
「自分なりに鍛えて、20歳になるまでにCランクに上がれなければ冒険者を諦めると約束させられているんだ…」
声に力がなくなり、しょんぼりとなる。
クリスはすでに19歳。もはや時間はない。
普通に頑張っても20歳でCランクになるのはかなり難しいことだ。普通ならば。
「ふ~ん。でも冒険するのに冒険者である必要ってある?」
サーガの言葉に、クリスが首を傾げる。
「冒険をするから冒険者なんじゃないか?」
「俺が昔聞いた話だと、騎士とかでもそういうのがあった気がする」
なんとなくぼんやりとそんな話を聞いた覚えがある。
「騎士が盗賊を退治するとか、妖魔を退治するとか、なんかそんな話があった気がするけど…」
思い出せない。
「騎士…。しかし、騎士にそんなこと…」
「国の命令でなんか難しい魔物を退治しに行くこととかもあるんじゃないのか? 単騎でぶつかる冒険者より、複数で当たれる騎士の方がお姉さんには合ってそうに思えるけど」
冒険者だってパーティーを組めば単騎で当たらなくてすむけれど。このお姉さんと好き好んで組みたがる冒険者がいるとは思えなかった。
「騎士…そうか、騎士か…」
平民が易々となれるはずないだろう、というツッコミがないことが、お姉さんが貴族の一員であることを如実に物語っている。しかしクリスがそれに気付いた様子はない。
見た所鎧などの装備も一級品。そしてEランクでは到底持てないだろう収納袋を持っている所を見ても、ただの平民ではないことが知れる。となれば貴族と組みたがる平民出の冒険者は少ないものであって、おまけに冒険者になりたいという貴族は必然的に少ないものであるからして…。
爵位の低い貴族の次男三男とならば、生活の為に冒険者になる者もいないではないが、どちらかといえば生活の安定する騎士になろうとするものである。つまりやっぱり好き好んで冒険者になる貴族はなかなかいない。
必然的にクリスは単体行動となるわけである。
「冒険者ってのは自由はあれど、結局生活するのに皆ヒーコラ言ってるばかりで、お姉さんの理想にある冒険できる冒険者なんてほとんどいないぜ? それより体勢が整ってる騎士の方が自由は無いけど、いろいろやれることが多いと思うんだけどな」
「確かに…。私もそれほど稼げていない…。皆この金額でどうやって生きているのかと疑問に思っていたが…」
それは価値観の違いもあると思う。
「なるほど! 冒険者は無理でも、騎士ならば家の者を説得出来るかもしれない! それに騎士でも冒険が出来るかもしれないのだな!」
クリスの顔が輝きだした。そんなに冒険したいのか。
サーガもそういう性分なので、クリスの気も分からないでもない。しかし女性だと騎士になるのも大変そうではある。まあ貴族であれば、百合の騎士団とかありそうではある。
何故百合かって? 女性だからだよ。
街に着くとクリスがギルドへ行くというのでサーガも着いて行く。ちゃんと報酬を受け取るまで離れる気はない。
ギルドに入って行くと、
「サーガさん!」
なんだか嬉しそうなサララの声が出迎えた。しかし隣にいるクリスを見て、何故か暗い顔になる。
「何か、御用でしょうか…?」
明らかにテンションが下がった声で2人を迎える。
「ああ、常時依頼のアルキノコを収穫して来たのだが…」
「ではまずあちらへどうぞ」
と査定カウンターを示す。
「ああ」
クリスがそちらへ向かう。
「久しぶり~サララさん」
「お久しぶりです。サーガさん。いつの間にかパーティーを組まれたのですか?」
何故か暗い顔で聞いて来る。
「いんや。森で会っただけなんだけど」
「そうなんですね!」
あからさまにサララの顔が輝いた。
「何か常時依頼でもこなしてきたのですか?」
ただ森を歩いていたわけではなかろうとサララが聞いて来る。
「うん。ダンジョンぶっ壊して来ちゃった」
いつものにっかり笑顔で答えるサーガ。
フリーズするサララ。
「…今、なんて?」
「ダンジョン行ったらさ、山が崩れちゃった」
ニコニコと答えるサーガ。
「サーガさん」
サララがサーガの腕をがっしり掴む。
「ギルマスの所へ行きましょう」
「え? なんで? ちょ、クリスさ~ん! ちょっと待っててちょ~!」
「あ、ああ…」
サララに引き摺られて行くサーガを、クリスは査定カウンターにアルキノコ提出しながら見送った。
ギルマスの部屋まで引き摺られて行き、何故かゴルドも呼び出しをくらい、3人でサーガの話しを聞いた。
「あの地震はそのせいだったのか…」
ヤンが頭を抱えている。
「オレハナニモキカナカッタ。じゃ!」
逃げだそうとしたゴルドをサララが扉の前に陣取り逃がすまいとする。
「サララ! どけ!」
「駄目です! ゴルドさんも運命共同体ですよ!」
いつの間にか仲間にされている。
「ゴルド。逃げても私が許さないよ?」
ヤンの迫力満点の笑顔に睨まれ、ゴルドも諦めたように元の場所に戻った。
「あ~、やっぱまずかった?」
サーガも空気を読んで、苦笑い。
「坑道の最奥まで1人で乗り込んでいく所からして非常識だよ?」
こめかみを押さえながらヤンが言う。
「ましてや山を崩してしまうなんて…。君、本当に人間かい?」
「人間のつもりだけどなぁ」
その他の生き物になった覚えはない。
「ダンジョンが消えた上に坑道が潰れた…。元々人気のないダンジョンではあるけど、あそこからは希少な鉱石もたまに取れたのに…。それにDランク辺りには持って来いの力場だったのに…」
失ったものは大きい。
「まあ、ダンジョンの主らしき魔物を退治したのであれば、もしかしたら早々に消える所だったかもしれないけれど…。ダンジョンコアは発見していないんだね?」
「なにそれ?」
「いや、だったらいいよ」
ダンジョンコア。魔力溜まりがあると稀に生まれるダンジョンを生成する種のようなものである。これを回収しなければダンジョンは復活することがある。
今回の場合は非常識が過ぎるので、ダンジョンが復活するかは分からない。
「まあ、いつ崩れるかと心配するようなダンジョンだったしね。一応ダンジョンが無くなったことは関係各所に報せよう。サララその辺りは頼むよ」
「かしこまりました」
サララが頭を下げる。
「う~ん、今回のことでランクを上げるのは…、ちょっと難しいかな…? なんできちんと依頼を受けて行かなかったんだい?」
「知らんかった」
サーガにはその辺りの常識が抜けている。ダンジョンに関する依頼だって無いわけでは無い。それをきちんと受けて行ってくれれば、ランクを上げるのに無理はなかった。
「次からは何かする時はギルドを通しておくれね?」
「分かったー」
本当に分かったのか分からない返事をし、サーガはサララと共に退出して行った。
残ったヤンとゴルドは揃って溜息を吐く。
「人間じゃ無いだろ?」
「人間じゃ無いね」
2人は目を合わせ、苦笑いする。
「どうやったら廃鉱山で穴だらけとは言え、一山崩れるような事になるんだよ…」
「元Sランクの私と言えど、そんなことは出来ないよ?」
また揃って溜息を吐く。
「野放しにしていていいのか? あれ」
「かといって首輪を付けられる自信もないよ?」
2人にはただ頭を抱えることしか出来なかった。
「お待たせ―クリスさん」
「ああ。私も査定が終わった所だ」
クリスに走り寄ろうとするサーガの腕を、サララががっしりと掴む。
「サーガさん、何かする時は、ギルドを通して下さいね?」
迫力のあるにっこり笑顔に凄まれて、
「は、はい…」
サーガは素直に返事を返し、逃げるようにクリスの元へと急ぐ。
その様子を見ながら、ミーヤはやはり望み薄ではないかと心の中で溜息を吐いた。
そんなことなど気にもせず、サーガはクリスと共にギルドを出る。
「そ、その、だな。あのその…。手持ちが少ないので私の家で報酬を支払いたいのだが…。その、私の家を見ても驚かないで欲しい…」
「うん。別に良いけど?」
もう貴族だということは察しているし。
どんどん街の中心へとクリスは向かって行く。サーガもそれに着いて行く。そして一際立派な建物の前で、1度クリスは足を止めた。
「申し訳ない。私は身分を偽っていた。私の本当の名前は、クラリス・プレ・サクセス。この街を治めるサクセス伯の末娘なんだ」
「うへえ。貴族様とは思ってたけど、伯爵様の娘かぁ」
「え?! 貴族だとばれていたのか?!」
「いや、皆気付いていたと思うよ?」
気付かれていないと思っていたらしい。
「だから私も幼い頃から冒険者になりたくて!」
で、冒険者になったらしい。しかし家の者達からは反対されていたようだ。
「自分なりに鍛えて、20歳になるまでにCランクに上がれなければ冒険者を諦めると約束させられているんだ…」
声に力がなくなり、しょんぼりとなる。
クリスはすでに19歳。もはや時間はない。
普通に頑張っても20歳でCランクになるのはかなり難しいことだ。普通ならば。
「ふ~ん。でも冒険するのに冒険者である必要ってある?」
サーガの言葉に、クリスが首を傾げる。
「冒険をするから冒険者なんじゃないか?」
「俺が昔聞いた話だと、騎士とかでもそういうのがあった気がする」
なんとなくぼんやりとそんな話を聞いた覚えがある。
「騎士が盗賊を退治するとか、妖魔を退治するとか、なんかそんな話があった気がするけど…」
思い出せない。
「騎士…。しかし、騎士にそんなこと…」
「国の命令でなんか難しい魔物を退治しに行くこととかもあるんじゃないのか? 単騎でぶつかる冒険者より、複数で当たれる騎士の方がお姉さんには合ってそうに思えるけど」
冒険者だってパーティーを組めば単騎で当たらなくてすむけれど。このお姉さんと好き好んで組みたがる冒険者がいるとは思えなかった。
「騎士…そうか、騎士か…」
平民が易々となれるはずないだろう、というツッコミがないことが、お姉さんが貴族の一員であることを如実に物語っている。しかしクリスがそれに気付いた様子はない。
見た所鎧などの装備も一級品。そしてEランクでは到底持てないだろう収納袋を持っている所を見ても、ただの平民ではないことが知れる。となれば貴族と組みたがる平民出の冒険者は少ないものであって、おまけに冒険者になりたいという貴族は必然的に少ないものであるからして…。
爵位の低い貴族の次男三男とならば、生活の為に冒険者になる者もいないではないが、どちらかといえば生活の安定する騎士になろうとするものである。つまりやっぱり好き好んで冒険者になる貴族はなかなかいない。
必然的にクリスは単体行動となるわけである。
「冒険者ってのは自由はあれど、結局生活するのに皆ヒーコラ言ってるばかりで、お姉さんの理想にある冒険できる冒険者なんてほとんどいないぜ? それより体勢が整ってる騎士の方が自由は無いけど、いろいろやれることが多いと思うんだけどな」
「確かに…。私もそれほど稼げていない…。皆この金額でどうやって生きているのかと疑問に思っていたが…」
それは価値観の違いもあると思う。
「なるほど! 冒険者は無理でも、騎士ならば家の者を説得出来るかもしれない! それに騎士でも冒険が出来るかもしれないのだな!」
クリスの顔が輝きだした。そんなに冒険したいのか。
サーガもそういう性分なので、クリスの気も分からないでもない。しかし女性だと騎士になるのも大変そうではある。まあ貴族であれば、百合の騎士団とかありそうではある。
何故百合かって? 女性だからだよ。
街に着くとクリスがギルドへ行くというのでサーガも着いて行く。ちゃんと報酬を受け取るまで離れる気はない。
ギルドに入って行くと、
「サーガさん!」
なんだか嬉しそうなサララの声が出迎えた。しかし隣にいるクリスを見て、何故か暗い顔になる。
「何か、御用でしょうか…?」
明らかにテンションが下がった声で2人を迎える。
「ああ、常時依頼のアルキノコを収穫して来たのだが…」
「ではまずあちらへどうぞ」
と査定カウンターを示す。
「ああ」
クリスがそちらへ向かう。
「久しぶり~サララさん」
「お久しぶりです。サーガさん。いつの間にかパーティーを組まれたのですか?」
何故か暗い顔で聞いて来る。
「いんや。森で会っただけなんだけど」
「そうなんですね!」
あからさまにサララの顔が輝いた。
「何か常時依頼でもこなしてきたのですか?」
ただ森を歩いていたわけではなかろうとサララが聞いて来る。
「うん。ダンジョンぶっ壊して来ちゃった」
いつものにっかり笑顔で答えるサーガ。
フリーズするサララ。
「…今、なんて?」
「ダンジョン行ったらさ、山が崩れちゃった」
ニコニコと答えるサーガ。
「サーガさん」
サララがサーガの腕をがっしり掴む。
「ギルマスの所へ行きましょう」
「え? なんで? ちょ、クリスさ~ん! ちょっと待っててちょ~!」
「あ、ああ…」
サララに引き摺られて行くサーガを、クリスは査定カウンターにアルキノコ提出しながら見送った。
ギルマスの部屋まで引き摺られて行き、何故かゴルドも呼び出しをくらい、3人でサーガの話しを聞いた。
「あの地震はそのせいだったのか…」
ヤンが頭を抱えている。
「オレハナニモキカナカッタ。じゃ!」
逃げだそうとしたゴルドをサララが扉の前に陣取り逃がすまいとする。
「サララ! どけ!」
「駄目です! ゴルドさんも運命共同体ですよ!」
いつの間にか仲間にされている。
「ゴルド。逃げても私が許さないよ?」
ヤンの迫力満点の笑顔に睨まれ、ゴルドも諦めたように元の場所に戻った。
「あ~、やっぱまずかった?」
サーガも空気を読んで、苦笑い。
「坑道の最奥まで1人で乗り込んでいく所からして非常識だよ?」
こめかみを押さえながらヤンが言う。
「ましてや山を崩してしまうなんて…。君、本当に人間かい?」
「人間のつもりだけどなぁ」
その他の生き物になった覚えはない。
「ダンジョンが消えた上に坑道が潰れた…。元々人気のないダンジョンではあるけど、あそこからは希少な鉱石もたまに取れたのに…。それにDランク辺りには持って来いの力場だったのに…」
失ったものは大きい。
「まあ、ダンジョンの主らしき魔物を退治したのであれば、もしかしたら早々に消える所だったかもしれないけれど…。ダンジョンコアは発見していないんだね?」
「なにそれ?」
「いや、だったらいいよ」
ダンジョンコア。魔力溜まりがあると稀に生まれるダンジョンを生成する種のようなものである。これを回収しなければダンジョンは復活することがある。
今回の場合は非常識が過ぎるので、ダンジョンが復活するかは分からない。
「まあ、いつ崩れるかと心配するようなダンジョンだったしね。一応ダンジョンが無くなったことは関係各所に報せよう。サララその辺りは頼むよ」
「かしこまりました」
サララが頭を下げる。
「う~ん、今回のことでランクを上げるのは…、ちょっと難しいかな…? なんできちんと依頼を受けて行かなかったんだい?」
「知らんかった」
サーガにはその辺りの常識が抜けている。ダンジョンに関する依頼だって無いわけでは無い。それをきちんと受けて行ってくれれば、ランクを上げるのに無理はなかった。
「次からは何かする時はギルドを通しておくれね?」
「分かったー」
本当に分かったのか分からない返事をし、サーガはサララと共に退出して行った。
残ったヤンとゴルドは揃って溜息を吐く。
「人間じゃ無いだろ?」
「人間じゃ無いね」
2人は目を合わせ、苦笑いする。
「どうやったら廃鉱山で穴だらけとは言え、一山崩れるような事になるんだよ…」
「元Sランクの私と言えど、そんなことは出来ないよ?」
また揃って溜息を吐く。
「野放しにしていていいのか? あれ」
「かといって首輪を付けられる自信もないよ?」
2人にはただ頭を抱えることしか出来なかった。
「お待たせ―クリスさん」
「ああ。私も査定が終わった所だ」
クリスに走り寄ろうとするサーガの腕を、サララががっしりと掴む。
「サーガさん、何かする時は、ギルドを通して下さいね?」
迫力のあるにっこり笑顔に凄まれて、
「は、はい…」
サーガは素直に返事を返し、逃げるようにクリスの元へと急ぐ。
その様子を見ながら、ミーヤはやはり望み薄ではないかと心の中で溜息を吐いた。
そんなことなど気にもせず、サーガはクリスと共にギルドを出る。
「そ、その、だな。あのその…。手持ちが少ないので私の家で報酬を支払いたいのだが…。その、私の家を見ても驚かないで欲しい…」
「うん。別に良いけど?」
もう貴族だということは察しているし。
どんどん街の中心へとクリスは向かって行く。サーガもそれに着いて行く。そして一際立派な建物の前で、1度クリスは足を止めた。
「申し訳ない。私は身分を偽っていた。私の本当の名前は、クラリス・プレ・サクセス。この街を治めるサクセス伯の末娘なんだ」
「うへえ。貴族様とは思ってたけど、伯爵様の娘かぁ」
「え?! 貴族だとばれていたのか?!」
「いや、皆気付いていたと思うよ?」
気付かれていないと思っていたらしい。
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