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白焔パーティー編

王都へ到着

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サーガがそんな旅を続けている頃。
ギルドに訪れる一人の女性がいた。普通と違うのはお供のメイドさんがいる事だろう。

「ようこそお越し下さいました、クラリス様。本日は何かご依頼をお受けに?」

サララににっこり微笑まれ、微妙な顔をするクラリス。

「ええと、やはりばれていたのかな?」
「クラリス様は民衆の間でも有名でしたよ?」

冒険者に憧れる貴族女性。そりゃあ噂にでもなるだろう。
ばつの悪い顔をしながら、クラリスはサララに話しかける。

「今日は受けに来たのではないんだ。実は、依頼を出したいと思って」
「ありがとうございます。ではこちらの用紙に必要事項をお書き下さい」

貴族に向かって代筆を申し出る事などもちろんしない。クラリスも普通に受け取ってサラサラと記入していく。

「これでいいだろうか」

書き終わった用紙をサララに差し出す。

「確認致します」

下級の貴族が依頼を出すのは珍しくは無いが、伯爵ともなる身分の者がどんな依頼を出すのかと興味半分見てみれば…。

「クラリス様…。申し訳ございません。こちら、お受け出来そうにございません」

サララがタラリと汗を流しながら、クラリスを見る。

「え? 何故だい?」

クラリスが不思議そうにサララに問いかける。
サララも何故クラリスがわざわざ自分の担当窓口に来たのか見当をつけた。
「申し訳ございません。このご指名のサーガさんは、ただ今別の方のご依頼で王都まで護衛をお受けしておりまして。今この街にはいないのです」
「何だって?!」

クラリスの出した依頼とは、王都まで行くことになったクラリスの護衛を頼むという仕事であった。
残念。














そんなクラリスの事情など知る由もなく、サーガ達は順調に旅を続けていた。

「ねえ。あれ、ジギタレスじゃない?」

カリンがオックス達に馬車を止めるように指示する。

「ジギタレスって何?」

当然の如くサーガが聞いて来る。

「いわゆる毒蛇ってやつさ。ただの毒蛇は噛まれるのを警戒すればいいんだが、ジギタレスは毒液を吐いてくるから厄介なんだ。だからBランク指定されている」

ここは俺の出番とばかりにフィリップが兜の前を閉めた。大楯に手を掛ける。

「なんだ、それだけ?」
「なんだとはなんだ。かすったらそれだけで皮膚が爛れ出すんだぞ。だからこそフィリップみたいに全身鎧の奴が前に出る必要がある」
「んにゃ。俺だけで十分だわ」

サーガが身軽に立ち上がりひょいっと馬車を降りる。

「ちょ、ちょっと待て!」

止めようにも全身鎧のフィリップが素早く動けるはずもなく。ジャッカスがサーガの後を追い、その肩を掴む。

「そんな軽装で行ったらどうなるか…」
「ちょいとちょいと、雨のこと忘れた?」
「あ…」

水を自動で弾いてしまうサーガの体質を思い出す。

「だしょ? それ以外は他の毒蛇と然程変わらんのだろ?」
「ああ、まあ…」
「んじゃ馬車で待ってろって」

ジャッカスの手を払い、サーガが悠々とジギタレスへと向かって行く。

「ちょっと! なんでサーガを止めないの?!」

カリンから怒号が飛ぶ。
いつの間にか「君」が抜けるようになっていた。それほど仲良しになったのか見下げ果てられたのか。

「いや、その、ほら、雨避けの技があるからって」
「あ」

カリンとエミリーがハッとした顔になる。

「サーガの技見られるなら良し」

リラはサーガを凝視していた。
もちろんサーガが手こずるはずもなく。勝負はあっという間についた。きっとミスリルの剣が凄いからだ。きっと。
頭と体に分割された、体長5メートルには及ぶかと思われる大蛇が道に転がる。
普通ならここで素材を剥ぎ取るのであるが、サーガは収納袋にそれを入れてしまう。

「やっぱり欲しいね、収納袋…」

カリンがポツリと呟く。

「そうですわね」

エミリーもポツリと返す。
桁が8桁くらい必要なものであるけれど。やはりその利便さを考えるとどうしても欲しい。

「私はあの男の種がむぐぅ」
「その話はもういいわ!」

カリンがリラの口を塞ぐ。あれから種種とうるさいのである。














それ以上に厄介な魔物には幸運にも出くわすことはなかった。その他にも獲った獲物はサーガやオックスが収納袋に入れてくれたので、白焔パーティーもほくほくだ。
予定より遅れること2日。オックス達の馬車は無事に王都の門を潜った。

「本当にありがとうございました。皆さんのおかげで無事にここまで来られました」

オックスはギルドの用事を済ませると、王都に住んでいる兄の元へ行くという。そこから必要な魔道具などを買い集めるのだそうだ。

「こちらこそ。お役に立て…たかどうか微妙ですが、高評価を頂きありがとうございます」

なんだかいろいろサーガに美味しい所を持って行かれた気がしないでもない白焔パーティーであったが、オックスが高評価をくれたのと持ち帰った獲物のおかげで懐が潤い、ホクホク顔だ。

「さて。で、この街の花街はどこ?」

ブレない奴である。

「サーガ君。よければ今晩、もちろん白焔パーティーの皆さんもご一緒に夕食にお誘いしたいのですが、如何ですかな? 私の馴染みの店ですが、味は保証しますよ」
「ん。行く」

即答サーガ。もらえるものはとりあえずもらう。

「ありがとうございます。ご厚意に甘えてご相伴に与ります」

丁寧に頭を下げる白焔パーティー。サーガも見習った方が良いと思う。

「では夕刻の鐘がなりましたら、この道の先にありますエックス魔道具店にお越し下さい。私の兄にも皆さんをご紹介しましょう」
「ありがとうございます」
「分かったー」

そしてオックスはメイジスと共に馬車に乗って去って行った。

「サーガ!」
「きゃあ!」

リラがサーガに飛びつくが、反射的にサーガが避ける。そのままじりじりと睨み合う2人。

「どうせ行くなら私で鬱憤を晴らせば良い。中○し、本○、なんでもOK。というかその種寄越せ」
「もうやだこの子! ちょっと誰か止めてくれよ!」

素人のしかも処女など、垂涎ものかもしれなけれど、その性格に難ありとなれば百戦錬磨のサーガとて腰が引ける。
しかも恥じらいもなく「種、種」と連呼されたらそんな気など失せてしまう。

「道の真ん中でなんてこと口走ってるんだ馬鹿!」

ジャッカスが「ごちん」とリラの頭を拳で殴る。

「痛い!」

あまりの痛さにリラが頭を抱えた。

「なか…? 本?」
「知らなくて良い。知らなくて良いんだよ、カリン」

フィリップがその肩に手を乗せる。エミリーも不思議そうな顔をしているが、そっち系の単語と察しているようである。

「すまん。どうも君のおかげで頭のネジが余計にぶっ飛んでしまったようだ。一応言い聞かせてはおくけど、夜は注意してくれ」

夜這いに行く可能性があると遠回しに言ってくる。

「お楽しみの所に邪魔しに来るなよ?」

さすがにそんな所まで来ないとは思うが…。

「だから私で済ませればいいだろう」
「やだ」

即答サーガ。

「何でだ?! なんで私は駄目なんだ?!」
「恥じらいが足りない、しおらしさがない、女性らしさに欠ける。他にも言おうか?」
「く…、確かに…」

納得するんかい。
リラががっくりと膝を付く。

「ならば、それらを身に付けたら、私を抱いてくれるか?」
「…。もう苦手意識が出来ちゃってるから、難しいかも…」
「く…、やり過ぎたか…」

後悔先に立たず。覆水盆に返らず。

「他にいい男は(きっと)いるから、そいつで我慢してくれよ。じゃ、また夕刻の鐘時に」

サーガが手を上げる。

「ああ。また」

ジャッカスも答えるように手を上げた。するとサーガはさっさと駆け出して行った。どこに行くのかは…想像が付くけれど考えない。

「ほら、リラ」

ジャッカスがリラに手を貸し、立たせる。

「う…。他の男なんて…」

ちょっと涙目になっている。かなり本気だったらしい。

「ま、まあ、きっといるわよ。あれくらい、いい男?」

何故最後に「?」が付くのかなカリン。

「そ、そうですよ。多分…」

カリンとエミリーにはサーガの何がいいのかよく分からない。しかし確かに魔法に精通していて(風だけだが)剣の腕も一流ということは分かる。
しかし性格がなぁ。
リラの事を言える立場ではない気がするのだけど、と2人は思っていた。

「人より精霊に近い人間なんて、そう滅多にいるものか…」

そう呟いたリラの言葉は、小さすぎて誰の耳にも届かなかったようだった。
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