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25 王宮の変化
「馬鹿馬鹿しい。せっかくのパーティーが台無しになる」
重苦しい空気を破ったのは、ザカリア様だった。
「兄上。今はパーティーを楽しむべきでは?」
「あ、ああ……。そうだな。音楽を奏でよ!」
デルフィーナは目論見が外れ、ザカリア様を睨んだ。
「デルフィーナ王妃。場を壊すような真似はもってのほか。王妃として、恥ずかしくない振る舞いをしていただきたい」
「わ、わ、わたくしが恥ずかしい女ですって!?」
「そう言っていませんが、ご自分が一番よくご存じのようだ」
貴族たちか、笑い声がもれる。
その声を耳に舌デルフィーナは赤面した。
「ロゼッテ! あなたのせいよ。セレーネの心をすぐ読まないからっ!」
「で、でも、お母様。セレーネ様は、わたしを殺すなんて、そんな怖いこと、思ってなかったから……」
デルフィーナの冷たい目に、ロゼッテが表情を強張らせた。
「ご、ごめんなさい。お母様……だ、だって、ここ、たくさんの人がお母様のことを……」
ロゼッテには、私たちには聞こえない声、別のなにかが聞こえているのだろう。
耳を両手で塞いで、震えている。
それを見たルチアノが、横からさっとロゼッテの手をとり、デルフィーナから引き離した。
「あっちに美味しそうなケーキがあったよ。ロゼッテ、ケーキが好きだよね? 一緒に食べよう」
「ちょっと! なれなれしいわよっ!」
デルフィーナを無視し、ルチアノはロゼッテを連れていった。
「デルフィーナ。子供同士、遊ばせておけばいいだろう? ロゼッテは難しいことが、わかる子ではない」
ルドヴィク様に言われ、さらにデルフィーナは苛立った様子を見せた。
「難しいことがわからない子だなんて、おっしゃらないでください! まるで、わたくしの子がセレーネの子に劣っているみたいじゃないですかっ!」
「実際、ルチアノは賢い。ロゼッテよりもな」
ルドヴィク様の言葉に貴族たちは察した。
「次期国王はルチアノ様か」
「そうだと思っていたが、早かったな」
そんな言葉が交わされる。
長く続くと思っていたデルフィーナの権勢は、今、終わりを告げようとしていた。
「そんな……」
これ以上、パーティーの雰囲気が悪くならないよう、ルドヴィク様は楽隊に命じた。
元々、ルドヴィク様は華やかな雰囲気が好きで、今日のパーティーも楽しみにしていたはずだ。
それを壊そうとしたデルフィーナをよく思わなかったようだ。
「明るい曲を奏でよ」
楽隊たちが奏でる明るい曲が、大広間を満たす。
「許さない……許さないわっ!」
デルフィーナは王妃であるにも関わらず、感情をあらわにすると、大広間から飛び出していった。
「今まで、王妃に好き放題させていた王も、とうとう見限ったか」
「ルチアノ様がいてくださってよかった」
貴族たちは口々にそう言い、私の元へやってくる。
「セレーネ様が王宮へお戻りになられ、町も美しさを取り戻しつつある」
「デルフィーナ王妃が破壊した町を修復しているとか」
去ったデルフィーナのことが気になったけど、貴族たちの対応もある。
それに、彼らの協力が必要だった。
「ええ。今は王都だけでなく、領地内を整えておりますの。皆様のお力をお借りしたいのです」
「我々でご協力できることがあるのなら、喜んで」
「セレーネ様の評判は噂で聞いております。人々の信頼も厚く、今日は協力を申し出るつもりで、やってまいりました」
今日集まっているのは、デルフィーナやルドヴィク様を避けていた貴族たち。
私が参加すると聞いて、王宮の様子をうかがうためにやってきたのだろう。
「では、皆様の領地内で余っている建築資材をこちらへ流していただけないでしょうか?」
大量の資材を必要とし、その値が上がっている。
その値上がりを抑えるため、他から仕入れる必要があった。
「資材ですか。そのくらいなんでもないことですよ」
「職人は足りていますか」
「ええ。雇用は問題ありません」
そんな話を私と貴族たちがしている間、ルドヴィク様のほうを見ると欠伸をしていた。
王の領地内のことなのに、まったく興味がないようだ。
とりあえず、今後、必要なものは、貴族たちに引き受けてもらえた。
ザカリア様は領地経営について、貴族たちから意見を求められていた。
成功しているザカリア様に続こうという気持ちらしい。
「セレーネ様、お話が終わったようですわね」
「昔のようにダンスを踊られたらいかが?」
「せっかくのパーティーですもの」
難しい話が終わると、男性陣を押しのけ、女性陣が前に出てきた。
その理由は簡単だ。
「ルチアノ様は、ダンスにご興味ないかしら? 実はわたくし、娘がいて……」
「あらぁ~! 抜け駆けですの?」
ルチアノはまだ七歳。
けれど、次期国王の可能性が高まったため、自分の娘を売り込みに来たらしい。
そんなお相手も五歳だとか、三歳なのだけど……
当のルチアノは、ロゼッテとケーキが並ぶテーブルでおしゃべりをしている。
「お相手は、おいおい決めさせていただきますわ」
そう答えるので精いっぱいだった。
まだ、そこまで頭が回らない。
会話を終えて、一息つく。
視線を感じ、振り返るとルドヴィク様と目があった。
――まさか、ずっと見ていた?
ルドヴィク様がなにを考えているかわからないけれど、私と目が合うと、椅子から立ち上がった。
――私をダンスを誘うつもりでは?
思わず、後ずさりしてしまった。
冗談ではない。
仲良くしているところを貴族たちが見れば、復縁するのではないかと勘違いされる。
けれど、逃げるに逃げられない。
「セレーネ。どうした?」
ザカリア様が背後に立っていて、私の両肩を支えた。
「あ、あの……」
ルドヴィク様に気づいたザカリア様は、私の手を取った。
「踊ろうか。あまり上手くはないが、お互いそのほうが良さそうだ」
気がつくと、ザカリア様はザカリア様で、積極的な令嬢たちに囲まれていた。
その輪の中から、するりと抜け出すと、私の手を取って、広間の真ん中まで連れていく。
「逃げ出せたようだ」
「私も助かりました」
やっと落ち着いた――でも、ルドヴィク様が不機嫌な顔で、こちらを見ている。
「デルフィーナは兄上とうまくいってないようだな」
「そうですね……」
ルドヴィク様は七年前、私ではなく、デルフィーナを選んだ。
デルフィーナを王妃に選んだのなら、その想いを貫き通してほしかった。
流されやすいルドヴィク様の性格は変わっておらず、七年前と同じ。
デルフィーナは、私と違う。
けれど、今になって、ルドヴィク様の愛情を失うのは辛いはず。
七年前の自分を思い出したせいか、不安な気持ちが広がり、心からパーティーを楽しむことはできなかった――
重苦しい空気を破ったのは、ザカリア様だった。
「兄上。今はパーティーを楽しむべきでは?」
「あ、ああ……。そうだな。音楽を奏でよ!」
デルフィーナは目論見が外れ、ザカリア様を睨んだ。
「デルフィーナ王妃。場を壊すような真似はもってのほか。王妃として、恥ずかしくない振る舞いをしていただきたい」
「わ、わ、わたくしが恥ずかしい女ですって!?」
「そう言っていませんが、ご自分が一番よくご存じのようだ」
貴族たちか、笑い声がもれる。
その声を耳に舌デルフィーナは赤面した。
「ロゼッテ! あなたのせいよ。セレーネの心をすぐ読まないからっ!」
「で、でも、お母様。セレーネ様は、わたしを殺すなんて、そんな怖いこと、思ってなかったから……」
デルフィーナの冷たい目に、ロゼッテが表情を強張らせた。
「ご、ごめんなさい。お母様……だ、だって、ここ、たくさんの人がお母様のことを……」
ロゼッテには、私たちには聞こえない声、別のなにかが聞こえているのだろう。
耳を両手で塞いで、震えている。
それを見たルチアノが、横からさっとロゼッテの手をとり、デルフィーナから引き離した。
「あっちに美味しそうなケーキがあったよ。ロゼッテ、ケーキが好きだよね? 一緒に食べよう」
「ちょっと! なれなれしいわよっ!」
デルフィーナを無視し、ルチアノはロゼッテを連れていった。
「デルフィーナ。子供同士、遊ばせておけばいいだろう? ロゼッテは難しいことが、わかる子ではない」
ルドヴィク様に言われ、さらにデルフィーナは苛立った様子を見せた。
「難しいことがわからない子だなんて、おっしゃらないでください! まるで、わたくしの子がセレーネの子に劣っているみたいじゃないですかっ!」
「実際、ルチアノは賢い。ロゼッテよりもな」
ルドヴィク様の言葉に貴族たちは察した。
「次期国王はルチアノ様か」
「そうだと思っていたが、早かったな」
そんな言葉が交わされる。
長く続くと思っていたデルフィーナの権勢は、今、終わりを告げようとしていた。
「そんな……」
これ以上、パーティーの雰囲気が悪くならないよう、ルドヴィク様は楽隊に命じた。
元々、ルドヴィク様は華やかな雰囲気が好きで、今日のパーティーも楽しみにしていたはずだ。
それを壊そうとしたデルフィーナをよく思わなかったようだ。
「明るい曲を奏でよ」
楽隊たちが奏でる明るい曲が、大広間を満たす。
「許さない……許さないわっ!」
デルフィーナは王妃であるにも関わらず、感情をあらわにすると、大広間から飛び出していった。
「今まで、王妃に好き放題させていた王も、とうとう見限ったか」
「ルチアノ様がいてくださってよかった」
貴族たちは口々にそう言い、私の元へやってくる。
「セレーネ様が王宮へお戻りになられ、町も美しさを取り戻しつつある」
「デルフィーナ王妃が破壊した町を修復しているとか」
去ったデルフィーナのことが気になったけど、貴族たちの対応もある。
それに、彼らの協力が必要だった。
「ええ。今は王都だけでなく、領地内を整えておりますの。皆様のお力をお借りしたいのです」
「我々でご協力できることがあるのなら、喜んで」
「セレーネ様の評判は噂で聞いております。人々の信頼も厚く、今日は協力を申し出るつもりで、やってまいりました」
今日集まっているのは、デルフィーナやルドヴィク様を避けていた貴族たち。
私が参加すると聞いて、王宮の様子をうかがうためにやってきたのだろう。
「では、皆様の領地内で余っている建築資材をこちらへ流していただけないでしょうか?」
大量の資材を必要とし、その値が上がっている。
その値上がりを抑えるため、他から仕入れる必要があった。
「資材ですか。そのくらいなんでもないことですよ」
「職人は足りていますか」
「ええ。雇用は問題ありません」
そんな話を私と貴族たちがしている間、ルドヴィク様のほうを見ると欠伸をしていた。
王の領地内のことなのに、まったく興味がないようだ。
とりあえず、今後、必要なものは、貴族たちに引き受けてもらえた。
ザカリア様は領地経営について、貴族たちから意見を求められていた。
成功しているザカリア様に続こうという気持ちらしい。
「セレーネ様、お話が終わったようですわね」
「昔のようにダンスを踊られたらいかが?」
「せっかくのパーティーですもの」
難しい話が終わると、男性陣を押しのけ、女性陣が前に出てきた。
その理由は簡単だ。
「ルチアノ様は、ダンスにご興味ないかしら? 実はわたくし、娘がいて……」
「あらぁ~! 抜け駆けですの?」
ルチアノはまだ七歳。
けれど、次期国王の可能性が高まったため、自分の娘を売り込みに来たらしい。
そんなお相手も五歳だとか、三歳なのだけど……
当のルチアノは、ロゼッテとケーキが並ぶテーブルでおしゃべりをしている。
「お相手は、おいおい決めさせていただきますわ」
そう答えるので精いっぱいだった。
まだ、そこまで頭が回らない。
会話を終えて、一息つく。
視線を感じ、振り返るとルドヴィク様と目があった。
――まさか、ずっと見ていた?
ルドヴィク様がなにを考えているかわからないけれど、私と目が合うと、椅子から立ち上がった。
――私をダンスを誘うつもりでは?
思わず、後ずさりしてしまった。
冗談ではない。
仲良くしているところを貴族たちが見れば、復縁するのではないかと勘違いされる。
けれど、逃げるに逃げられない。
「セレーネ。どうした?」
ザカリア様が背後に立っていて、私の両肩を支えた。
「あ、あの……」
ルドヴィク様に気づいたザカリア様は、私の手を取った。
「踊ろうか。あまり上手くはないが、お互いそのほうが良さそうだ」
気がつくと、ザカリア様はザカリア様で、積極的な令嬢たちに囲まれていた。
その輪の中から、するりと抜け出すと、私の手を取って、広間の真ん中まで連れていく。
「逃げ出せたようだ」
「私も助かりました」
やっと落ち着いた――でも、ルドヴィク様が不機嫌な顔で、こちらを見ている。
「デルフィーナは兄上とうまくいってないようだな」
「そうですね……」
ルドヴィク様は七年前、私ではなく、デルフィーナを選んだ。
デルフィーナを王妃に選んだのなら、その想いを貫き通してほしかった。
流されやすいルドヴィク様の性格は変わっておらず、七年前と同じ。
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