私はお世話係じゃありません!

椿蛍

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18 一緒にいたい

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倉永くらながの叔父夫婦が会社まで来た」
帰ってくるなり、険しい顔をした夏向かなたが唐突に言った。
「いきなり!?」
こくり、と夏向はうなずいた。
「縁を切った」
「どういう流れでそうなるのよ!?」
説明がないため、前後がまったくわからない。
「何がどうなって、そうなったの?きちんと話して」
「やるべきことをやっただけ」
夏向にとって説明とはなんのか、ちょっと問いただしたいけど、そんなことを言ってる場合ではない。
「ずっと前からそうするつもりだった」
「そんな簡単に縁を切ってよかったの?」
正直、心中は複雑だった。
私には親がいない。
ただしくは親がいただろうけど、親が誰なのかわからない。
私にとって、肉親は欲しくても手に入らない存在だった。
ずっと私は待っていた―――あの時、捨てたのはやむを得ぬ事情があったんだと言って迎えにきてくれるのを。
私にもいつか誰かが迎えにきてくれるんじゃないかと思っていた時期もあった。
それは叶わなかったけれど、夏向は違っていた。
ちょうど中学に上がる時、夏向は一度叔父夫婦に引き取られたのだ。
「もう少し考えてからにしたら?」
叔父夫婦と縁を切ってしまえば、夏向にはもう血のつながった人達との関わりはなくなってしまう。
私には血のつながりがある人がいないから、夏向が叔父夫婦を嫌っていることを知っていても、どうしていいかわからなかった。
そっと夏向の腕に触れ、そう言ったけれど、首を横に振った。
桜帆さほがいてくれれば、それでいい!」
まるで、不安を吐き出すようにして言った。
「もう
離れたくないではなく―――昔を思い出し、私はそれ以上、何も言えなくなった。
夏向はいまだ心に傷を負ったままなのだとわかったから。
不安そうな目で私を見ていた。
見覚えがあった。
私の頬に触れた夏向の手は冷たく、その手を握った。
「大丈夫…。もう夏向は大人だし、誰も夏向を連れて行く人はいないのよ」
ぎゅっと夏向は私の体を抱きしめ、髪に顔を埋めた。
背中をなでてあげると、少し落ち着いたのか、冷たかった手が暖かく感じてほっとした。
いったい夏向に何を言ったのか、傷をえぐられたような痛々しさを感じた。
こんな不安そうな夏向はいつぶりだろう。
夏向は大きな会社の副社長になって、自分の武器となる力と知識を得て、すごく強くなったのにそれでも過去の傷を消せずにいた。
「桜帆といたい」
「うん……」
「俺の事好き?」
「うん、夏向のこと好きよ」
そう言いながら、背中をぽんぽんと叩いてあげた。
「本当に?ちゃんと男として好き?」
「うん」
「それなら、結婚して」
「ま、また!?それ!?」
「いいって言って?」
夏向は泣きそうな顔で私の顔を覗き込み、答える前に唇を塞いだ。
まるで、不安を埋め尽くしてしまいたいというような激しいキスに息もつけない。
「かっ…夏向っ……」
何度も角度を変え、貪るようにキスを繰り返し、首筋に唇をあてた。
「…っ…は…あっ」
呼吸を整えている間に首筋にちりっとした痛みがはしった。
「な、に」
「印つけた」
「ばっ…ばか!!なにしてるのよ!!」
「俺の印」
涙目だったくせに今は満足そうな顔でにっこりと笑っている。
こ、このっ……!
心配した結果がこれ!?
「まだしたい」
キスしようとした夏向を手でおさえた。
「スマホの着信音がなってるわよ」
「……ほんとだ」
夏向はがっかりしながら、体を離した。
あ、危なかった……。
このまま、ずるずると流されるかと思った。
なんなの、あのおねだり顔は。
もはや凶器でしかない。
「今すぐ行く」
夏向の低い声にハッとして顔をあげた。
「どうしたの?夏向?」
「サーバに侵入された」
そう言った夏向はまるで、獲物を狙う獣のような目をしていた。
「会社に戻る」
「う、うん」
「桜帆。考えておいて」
「えっ」
「結婚するって話」
「こんな時に言う!?」
一瞬だけ、表情が和らいだけれど、夏向はすぐに険しい顔をして部屋を飛び出して行った。
まさか―――時任ときとうが攻撃を受けている?
会社に戻る夏向なんて初めて見た。
胸が苦しいのは不安なせいなのか、結婚の話のせいなのか、今の私にはわからなかった。
ただ夏向とはこのままではいられない。
それだけは私にも理解できたのだった。
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