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26 宣戦布告
「桜帆がぐずぐず言う前に出しておこう」
「誰がぐずぐずよっっっ!!」
「書いて」
「書いてじゃないわよ!こんな人生の一大事をサラサラッと書けるわけないでしょ!?」
夏向はいつ準備したのか、婚姻届を私の前に置いた。
朝一番にだ。
しかも、早起きなんかしたことのない夏向が起こされる前に起きて正座して私と向き合っていた。
「朝ごはん、作りたいんだけど」
「作りたいなら、書いて」
どういう脅しよ。
「あ、あのね。こういうのはもっと時間をかけて、考えて、格好良くプロポーズっていう流れはないの?」
「ぐずぐず言ってる」
ボールペンをスッと夏向は差し出した。
「夏向、押し売り営業の才能あるわよ」
「そうかな?じゃあ、今の仕事が駄目になったら、次の仕事はそれにする」
「褒めてないわよ!!!」
書くまで、動かないつもりだろうか……。
夏向の両眼がじぃっーーーーとこっちを見つめていた。
「指輪もあるよ」
すすっと私の前に指輪の箱を差し出した。
「……聞いてもいい?」
「うん」
「いつ用意したの?」
婚姻届の証人欄には時任社長夫妻の名前が書いてある。
社長は出張でいなかったはずだ。
「ずっと前からだよ」
「私、結婚するって言ってないのに!?」
「断らせるつもりなかったから」
「怖っ!なに真顔で言ってるの!?」
夏向は書くまで梃子でも動かない構えだった。
覚悟を決めてボールペンを手に取り、サインすると満足そう微笑んだ。
「じゃあ、俺が出しておくから」
大切そうにその白い紙をジャケットの胸ポケットにしまった。
「一緒に出さないの?」
「桜帆に邪魔されると困るから」
邪魔されるって。私に?
思わず、額に手をあてた。
「よかった。俺とのこと、遊びじゃなくて」
どんな目で私を見てるのよ!?
朝ごはんを作ろうと、立ち上がると、夏向は手を掴んだ。
「ありがとう、桜帆。絶対に大事にする」
「……うん」
単純な私はそう言われて、悪い気はしなかったのだった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「突然で申し訳ないのですが、私、結婚しまして」
会社に報告すると、全員が『やっとか』みたいな顔で私を見ていた。
なんでっ!?
そして、拍手が巻き起こった。
「いやぁー!よかった!よかったよ!」
ほっとしたように社長は言った。
「あの?まだ私、相手の名前言ってませんけど」
「従兄の倉永君だろ?」
「そうですけど」
「いいじゃないか!いいと思うよ。彼は優秀だし。我が社のセキュリティどころか、新しい事業を提案してくれてね」
夏向が!?聞いてない。
「今日、発表だろう?時任社長が会見するって言っていたけれどね」
「……は、発表?」
「テレビをつけるぞー」
ミツバ電機の社員達がテレビの前にわらわらと集まってきた。
知らないのは私だけ?
テレビにずらっとスーツを着た六人が並んでいた。
時任の重役メンバーと出張から帰ってきた社長がいる。
「揃うと威圧感がすごいな」
「顔も良くて金もあるって神様は不公平だな」
テレビで見ると、別人みたいで一瞬、誰なのかわからなかった。
『時任グループが新事業に乗り出すそうですが』
フラッシュが眩しいのか、夏向は顔をしかめていた。
時任社長が余裕たっぷりな様子でインタビュアーを見ると、なぜかその女性は顔を赤くした。
『これから、時任は新時代の住居と生活スタイルを提供します』
時任社長が不敵に笑う。
その後に真辺さんが柔らかい口調で説明を始める。
『まずは人工知能による生活サポートから始めます。住んでいる人間に合わせた室温コントロール、冷蔵庫内やパントリー内の食品在庫を調べ、献立の提案、足りない食材を提携スーパーに注文し、自宅にお届けするなどのサービスはもちろん、人工知能の学習により、個人の好みにも対応可能となっております』
備中さんが続けた。
『また、一人暮らしの方の体調を人工知能が把握することにより、病気への早期の対応、異常を察知した際の外部への通報なども可能です。個々の生活スタイルにあわせたお好きなアロマの選択や自動での電気の点灯などの細部にわたる生活へのサポートも増やしていく考えです』
歓声が起きた。
『しかし、セキュリティ面での不安はありませんか?外部からの障害などの対応は?』
倉本さんが手をあげた。
『もちろん、安全のためには高度なセキュリティ管理が必要となります。よって我が社のセキュリティサービスと契約している会社がこの事業に関わるのは第一条件となっています』
『新しく時任が建設するマンションはこの先、そうなると思って頂ければ、結構です』
宮北さんが住居のパンフレットをす、と提示した。
『なるほど!それでは時任は住宅産業にものりだす、ということですね』
時任社長は口の端をあげた。
『今となっては細かいカテゴリはいらないかと。必要であれば、時任はすべての産業に関わっていく次第です』
『すばらしいですね』
『ありがとうございます。すべては我が社の有能な人材のおかげです』
夏向は社長の隣で目を細め、まるで挑発するように言った。
『新しくするのは体制ではなく、新しい発想かと』
それは諏訪部への宣戦布告だった―――それに気づいたのは先日の攻撃を知っている人間だけだろう。
時任のセキュリティサービスの契約を切って、諏訪部に乗り換えたたところは今頃、大騒ぎになっているだろう。
次世代型住居のプロジェクトから外されてしまったのだから。
まだ説明は続いていたけれど、ミツバ電機の社長が言った。
「なんと!この事業に我々、ミツバ電機が家電製品部門に抜擢された!」
「おおっー!!」
拍手が巻き起こる。
「ついては、このプロジェクトの責任者は島田さんにやってもらう」
「社長、倉永さんでしょ」
「おっ!本当だな!倉永さん、頼んだよ。いやあ、我が社も安泰だな!」
そうなるとは思っていたけどーーー
「社長、新事業より今の炊飯器の発売もちゃんと考えてくださいよ!!」
「ああ、それも倉永君が関わるらしいから、話を聞くといい。家電製品のプログラムについて説明があるらしいから」
まったく、聞いてない。
なにこのサプライズ。
画面の中の夏向が笑っている気がしたーーー
「誰がぐずぐずよっっっ!!」
「書いて」
「書いてじゃないわよ!こんな人生の一大事をサラサラッと書けるわけないでしょ!?」
夏向はいつ準備したのか、婚姻届を私の前に置いた。
朝一番にだ。
しかも、早起きなんかしたことのない夏向が起こされる前に起きて正座して私と向き合っていた。
「朝ごはん、作りたいんだけど」
「作りたいなら、書いて」
どういう脅しよ。
「あ、あのね。こういうのはもっと時間をかけて、考えて、格好良くプロポーズっていう流れはないの?」
「ぐずぐず言ってる」
ボールペンをスッと夏向は差し出した。
「夏向、押し売り営業の才能あるわよ」
「そうかな?じゃあ、今の仕事が駄目になったら、次の仕事はそれにする」
「褒めてないわよ!!!」
書くまで、動かないつもりだろうか……。
夏向の両眼がじぃっーーーーとこっちを見つめていた。
「指輪もあるよ」
すすっと私の前に指輪の箱を差し出した。
「……聞いてもいい?」
「うん」
「いつ用意したの?」
婚姻届の証人欄には時任社長夫妻の名前が書いてある。
社長は出張でいなかったはずだ。
「ずっと前からだよ」
「私、結婚するって言ってないのに!?」
「断らせるつもりなかったから」
「怖っ!なに真顔で言ってるの!?」
夏向は書くまで梃子でも動かない構えだった。
覚悟を決めてボールペンを手に取り、サインすると満足そう微笑んだ。
「じゃあ、俺が出しておくから」
大切そうにその白い紙をジャケットの胸ポケットにしまった。
「一緒に出さないの?」
「桜帆に邪魔されると困るから」
邪魔されるって。私に?
思わず、額に手をあてた。
「よかった。俺とのこと、遊びじゃなくて」
どんな目で私を見てるのよ!?
朝ごはんを作ろうと、立ち上がると、夏向は手を掴んだ。
「ありがとう、桜帆。絶対に大事にする」
「……うん」
単純な私はそう言われて、悪い気はしなかったのだった―――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「突然で申し訳ないのですが、私、結婚しまして」
会社に報告すると、全員が『やっとか』みたいな顔で私を見ていた。
なんでっ!?
そして、拍手が巻き起こった。
「いやぁー!よかった!よかったよ!」
ほっとしたように社長は言った。
「あの?まだ私、相手の名前言ってませんけど」
「従兄の倉永君だろ?」
「そうですけど」
「いいじゃないか!いいと思うよ。彼は優秀だし。我が社のセキュリティどころか、新しい事業を提案してくれてね」
夏向が!?聞いてない。
「今日、発表だろう?時任社長が会見するって言っていたけれどね」
「……は、発表?」
「テレビをつけるぞー」
ミツバ電機の社員達がテレビの前にわらわらと集まってきた。
知らないのは私だけ?
テレビにずらっとスーツを着た六人が並んでいた。
時任の重役メンバーと出張から帰ってきた社長がいる。
「揃うと威圧感がすごいな」
「顔も良くて金もあるって神様は不公平だな」
テレビで見ると、別人みたいで一瞬、誰なのかわからなかった。
『時任グループが新事業に乗り出すそうですが』
フラッシュが眩しいのか、夏向は顔をしかめていた。
時任社長が余裕たっぷりな様子でインタビュアーを見ると、なぜかその女性は顔を赤くした。
『これから、時任は新時代の住居と生活スタイルを提供します』
時任社長が不敵に笑う。
その後に真辺さんが柔らかい口調で説明を始める。
『まずは人工知能による生活サポートから始めます。住んでいる人間に合わせた室温コントロール、冷蔵庫内やパントリー内の食品在庫を調べ、献立の提案、足りない食材を提携スーパーに注文し、自宅にお届けするなどのサービスはもちろん、人工知能の学習により、個人の好みにも対応可能となっております』
備中さんが続けた。
『また、一人暮らしの方の体調を人工知能が把握することにより、病気への早期の対応、異常を察知した際の外部への通報なども可能です。個々の生活スタイルにあわせたお好きなアロマの選択や自動での電気の点灯などの細部にわたる生活へのサポートも増やしていく考えです』
歓声が起きた。
『しかし、セキュリティ面での不安はありませんか?外部からの障害などの対応は?』
倉本さんが手をあげた。
『もちろん、安全のためには高度なセキュリティ管理が必要となります。よって我が社のセキュリティサービスと契約している会社がこの事業に関わるのは第一条件となっています』
『新しく時任が建設するマンションはこの先、そうなると思って頂ければ、結構です』
宮北さんが住居のパンフレットをす、と提示した。
『なるほど!それでは時任は住宅産業にものりだす、ということですね』
時任社長は口の端をあげた。
『今となっては細かいカテゴリはいらないかと。必要であれば、時任はすべての産業に関わっていく次第です』
『すばらしいですね』
『ありがとうございます。すべては我が社の有能な人材のおかげです』
夏向は社長の隣で目を細め、まるで挑発するように言った。
『新しくするのは体制ではなく、新しい発想かと』
それは諏訪部への宣戦布告だった―――それに気づいたのは先日の攻撃を知っている人間だけだろう。
時任のセキュリティサービスの契約を切って、諏訪部に乗り換えたたところは今頃、大騒ぎになっているだろう。
次世代型住居のプロジェクトから外されてしまったのだから。
まだ説明は続いていたけれど、ミツバ電機の社長が言った。
「なんと!この事業に我々、ミツバ電機が家電製品部門に抜擢された!」
「おおっー!!」
拍手が巻き起こる。
「ついては、このプロジェクトの責任者は島田さんにやってもらう」
「社長、倉永さんでしょ」
「おっ!本当だな!倉永さん、頼んだよ。いやあ、我が社も安泰だな!」
そうなるとは思っていたけどーーー
「社長、新事業より今の炊飯器の発売もちゃんと考えてくださいよ!!」
「ああ、それも倉永君が関わるらしいから、話を聞くといい。家電製品のプログラムについて説明があるらしいから」
まったく、聞いてない。
なにこのサプライズ。
画面の中の夏向が笑っている気がしたーーー
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