私はお世話係じゃありません!【時任シリーズ②】

椿蛍

文字の大きさ
39 / 43

39 喜ぶもの?

倉永のおばあさんはなかなか愉快な人だった。
それが私の感想なんだけど、夏向は違っていたみたいで、リビングでイモムシ状態になり、夏用のタオルケットにくるまって『めんどくさい』とか『家を継ぎたくない』とか言いながらコロコロと転がっていた。
「もうっ!夏向!そんなこと言ってないで、ポジティブにおばあさんが喜ぶものを考えるわよ!」
ほら、と焼き菓子の店で買ったブラウニーとマドレーヌを紅茶と一緒にローテーブルに置いた。
「そんなの簡単だよ」
「なに?」
「ひ孫」
はあ、とため息をついた。
言うと思った。
私がわかるくらいだから、倉永のおばあさんもわかるはず。
「夏向。おばあさんはそういう短絡的なことを望むようなタイプじゃないわよ」
「そうかなー」
「そうよ!」
半年後に『ひ孫でしょ?』みたいな態度で行ったら、おばあさんの軽蔑しきった顔が目に浮かぶ。
もぐもぐと夏向はブラウニーを食べ、紅茶に砂糖を五杯も入れた。
私は砂糖はいれない。太るから。
「桜帆はなんだと思う?」
「わからないけど、先生達が喜ぶ時って、成長した子供が元気でやってる時なのよ。だから、夏向がおばあさんにちゃんとやってますよってなにか見せるのはどう?」
「目の前でハッキング?」
「それはやっちゃだめ」
「わかった」
夏向のちゃんとやってますって、それ!?
どういう基準なのよ。
だいたい得意技の披露大会じゃないんだから。
おやつを食べ終わってもいい案はうかばなかった。
「困ったわね」
「なんなら、もっと手っ取り早い方法を考えようか?」
「待って!もう少し考えるから!」
面倒になった夏向が物騒なことを言い出し始め、焦って止めた。
下手にGOサインを出すとなにをしでかすか、わからない。
とりあえず、夕飯のお米を研ごうとたちあがり、炊飯器からお釜を取り出した。
「うん?」
「どうかした?桜帆」
「夏向!これよ!私と夏向が開発した炊飯器が完成したら、それをプレゼントするのよ」
「いいと思うけど」
「けど?」
「ひ孫の方がよかったなーーーって冗談だよ」
私の冷ややかな視線に気づいた夏向は慌てて、否定したけれど、冗談を言っているようには聞こえなかった。
「がんばろうね!夏向!」
「炊飯器になると、やる気だすね」
「なによ、悪い?」
「別にいいけど」
ちょっと不満そうな夏向はこの際無視よ!
完成に向けて頑張るわよ!
カモメの家のためにも!
気合いを入れてぐっと拳をにぎりしめたのだった。


◇    ◇     ◇    ◇    ◇


「木目調がいい」
夏向は出来上がってきたサンプルを見て言った。
「デザインはともかく、夏向のほうはプログラミング終わったの?」
「いやあ、倉永くらなが君は流石だね!」
社長が上機嫌で現れた。
「我が社の家電プログラムのチームも誉めていたよ。勉強になったと言ってたけど、時任ときとうに行かなくていいのかい?」
「これが終わらないと桜帆が構ってくれないから」
「ほー!そりゃ、大変だね」
社長の相づちに気を良くした夏向はボールペンをカチカチしながら言った。
「結婚式も落ち着かないうちはしないって言い出して」
「まじめだねぇ」
「楽しみにしてたのに」
「倉永君。夫婦円満の秘訣ひけつはなんだと思う?」
「なんですか?」
真面目な顔で夏向は社長に聞いた。
「嫁さんをたてることだよ」
「なるほど」
なにをあの二人は真剣に話しているんだろう。
社長と夏向は気が合うのか、意外と仲がいいのよね。
「デザインは決まったし、後は試作品ができたら、製品テストね」
炊飯器の完成が目前にまで迫っていたーーー

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

睡蓮

樫野 珠代
恋愛
入社して3か月、いきなり異動を命じられたなぎさ。 そこにいたのは、出来れば会いたくなかった、会うなんて二度とないはずだった人。 どうしてこんな形の再会なの?

お兄様「ねえ、イケナイ事をしよっか♡」

小野
恋愛
父が再婚して新しく出来たお兄様と『イケナイ事』をする義妹の話。