幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

椿蛍

文字の大きさ
10 / 39

10 戦いはまだ始まったばかり

私の荷物は引っ越し業者に頼まずとも運べる量だった。
学生時代のアルバムとかは思い出の品のような物は両親が住む田舎の家に持って行ってもらうことにしたため、今の生活に必要なものしか残さなかった。
田舎の家は広いから収納場所には困らないと言われて両親は快く引き受けてくれたけど。
なら私も収納してくれたらよかったのでは……?

「娘をよろしくね!逢生ちゃん!」

「奏花のことを頼んだよ」

まるで嫁に行くのを見送るみたいな態度はやめてほしい。

「任せてください」

いつもより数倍、きりっとした顔で逢生は返事をしていた。
なにが任せてくださいよ!
両親はこれで娘が片付いたという顔をしてるし。

「よかったわね、奏花。このまま彼氏もできないで終わりかと思ったら、逢生君がもらってくれて」

「結婚が決まったら連絡するんだぞ」

「け、結婚?なに言って―――もがっ!」

「はい。もちろんです」

逢生の手で口を覆われ、何も言えない。
しかも、いつもの百倍増しでしっかりしてますオーラ出している。
ニセモノー!おまわりさん、この人ニセモノです!
いつ買ったのか、家のそばに車があった。
それも外車。
ベンツのCクラス、カラーはブリリアントブルー。
目が覚めるような青色だった。
まさか逢生と青でかけてるんじゃないでしょうね……疑惑。

「なに?」

「車持ってたのね」

「知久が選んでくれた」

いえーい、見てくれたー?なんて言ってる陣川さんの明るい顔が目に浮かぶ。

「渋木さんに選んでもらった方がよかったんじゃないの?」

「地味なやつを選ぶぞって知久が言うから」

「手堅いの間違いでしょ」

額に手をあてた。
趣味は悪くないけど陣川さんの『あ、驚いた?驚いたよね?ウケてくれたらいいなって思って』という声が聞こえたような気がした。

「乗って」

「あ、うん」

車に乗ると逢生はメガネをかけた。

「逢生って視力悪かった?」

「これ?メガネじゃなくてクリアサングラス」

「あ、そうなんだ」

フレームが細くて色のないものだったからメガネかと思った。
留学で離れていた時間は意外に長かったのかもしれない。
最近、逢生のことで私が知らないことがいくつかあって、そのたびに不意打ちされたような気分になって戸惑う自分がいる。
真剣な顔で運転をする横顔は少なくとも初めて見た。
なんとなく気まずくなり、逢生に話しかけた。

「え、えーと。今日の夕飯はなに食べたい?」

逢生が嬉しそうに笑う。

「なに……?」

「一緒に暮らすんだなって思ってた」

そんなふうに笑わないで欲しい。
もし私に逢生以外に好きな人ができたらどうするの?
その逆だってあり得えない話じゃない。
高校時代からの同級生っていう桑地くわちさんもいるわけだし。
これは期限付きのルームシェアなんだから。
ぼすっと助手席に座って前を向いた。
これ以上、逢生の顔を見るのは危険だ。
最近の私はおかしい。
昔の逢生と今の逢生。
違うところを探しているみたい。
探してそれを見ないように逃げてた。
大人の逢生を知りたくなくて。

「奏花はなにが食べたい?」

「私はなんでもいいわよって、大事なことを言っておかないと!」

ハッとした。
私としたことが。
そうよ、これだけはルールに従ってもらわないと。

「大事なことって?」

「そう。お菓子とかプリンは名前を書いて各自管理するわよ」

「えー」

「なにが『えー』よ!勝手に私のおやつを食べられたくないの!」

「俺はいいけど」

「逢生はよくても私が嫌なの!忘れたとは言わせないわよ。私のおやつを勝手に食べた苦い思い出を!」

食べ物の恨みは恐ろしいのよ。
ずっと忘れられないんだからね!

「あれはおばさんが食べてもいいっていうから食べた」

「名前書いてあったのにー!」

他にもカステラ、どら焼き、クッキーなどなど。
私の両親は逢生に甘すぎる。
おやつだけに―――ってそれはいいのよ。

「わかったわね?逢生!」

「他に大事なことってない?」

「ないわよ」

逢生はしょんぼりしていたけど、なにを言って欲しかったのかさっぱりわからない。
まさか前科者のくせに開き直り?

「俺よりプリン……」

そんなことをつぶやいていたけど、気にしない。
今後の安寧のためよ。
訪れよ、我が平穏。
そんなことを話しているとマンションに着いた。
マンションは私の会社と逢生が契約している事務所のちょうど真ん中の距離。
地下駐車場に車をとめるとカードキーを手にした。
エレベーターを使用するにもカードキーが必要らしい。

「高そうなマンションね」

唯冬ゆいとに選んでもらった」

それでマンションと事務所が近いのね、納得。
寝過ごした時もすぐに迎えに行ける距離にしたってわけ。
さすが渋木さん。
しっかりしている。

「防音室があるマンションを選んだだけ」

「……寝坊対策じゃなかったの?」

心を読まれてしまった。

「違う」

カードキーをエレベーターから抜く。
そのカードを口元にあて、逢生は耳元で囁いた。

「奏花が起こして」

自分で起きなさいよっといつもなら、言えていたのに言葉が出なかった。
耳を手でおさえているとくすりと逢生が笑う。

「行こう」

どこでこんな真似覚えてくるのよ!
きっとあの二人ね!?
ろくなことを教えないんだから。
エレベーターの中がいつもより狭く感じているのは気のせいじゃない。
逢生から距離をとろうとしているのにとれない。

「奏花、顔が赤い」

「エレベーター内が暑いせいです!」

逢生はするりと自分の指を私の指に絡めて手を握った。
ちょ、ちょっとー!
これはまずい、まずい展開よ?
相撲で言うと寄り切り。
頭の中で相撲の行司ぎょうじ軍配団扇ぐんばいうちわを持っている姿が頭に浮かぶ。

「あ、逢生!手を離して」

「どうして?奏花は俺のこと意識してなかったんじゃなかった?」

エレベーターのドアが開き、手を握ったまま出るとそこに人がいた。
あああ!イチャイチャしてたんじゃないんですー!と見知らぬ人にまで言い訳をしそうになった。
けれど、その人は見知らぬ人じゃなかった。
エゴイストプラチナムの香り、首元のシャツのボタンをはずし、手にジャケットを手にしている姿は大人の男性という雰囲気。
コンサートで出会ったパンプレットを拾ってくれた人だった。

あなたにおすすめの小説

触れられないはずの私が、ただ一人の彼にだけ心も体も許してしまいました

由香
恋愛
男性に触れられると体調を崩す令嬢リリア。 そんな彼女にとって唯一“触れられる”存在は――幼なじみの公爵令息レオンだけだった。 手を取られ、抱き寄せられ、当たり前のように触れられる日々。 それがどれほど特別なことなのか、彼女はまだ知らない。 やがて政略結婚の話が持ち上がり、“触れられない相手との結婚”か、“彼に触れられる人生”かを選ぶことに。 「お前に触れていいのは俺だけだ」 逃げ場のない独占と、甘すぎる溺愛。 これは、触れられないはずの少女が、ただ一人にだけすべてを許していく物語。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

年下で可愛い旦那様は、実は独占欲強めでした

由香
恋愛
政略結婚で嫁いだ相手は―― 年下で、可愛くて、なぜか距離が近すぎる旦那様でした。 「ねえ、奥さん。もうちょっと近く来て?」 人懐っこく甘えてくるくせに、他の男が話しかけただけで不機嫌になる彼。 最初は“かわいい弟みたい”と思っていたのに―― 「俺、もう子供じゃないよ。……ちゃんと男として見て」 不意に見せる大人の顔と、独占欲に心が揺れていく。 これは、年下旦那様にじわじわ包囲されて、気づいたら溺愛されていた話。

番探しにやって来た王子様に見初められました。逃げたらだめですか?

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はスミレ・デラウェア。伯爵令嬢だけど秘密がある。長閑なぶどう畑が広がる我がデラウェア領地で自警団に入っているのだ。騎士団に入れないのでコッソリと盗賊から領地を守ってます。 そんな領地に王都から番探しに王子がやって来るらしい。人が集まって来ると盗賊も来るから勘弁して欲しい。 お転婆令嬢が番から逃げ回るお話しです。 愛の花シリーズ第3弾です。

仮面王の花嫁

松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。 しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?