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10 戦いはまだ始まったばかり
私の荷物は引っ越し業者に頼まずとも運べる量だった。
学生時代のアルバムとかは思い出の品のような物は両親が住む田舎の家に持って行ってもらうことにしたため、今の生活に必要なものしか残さなかった。
田舎の家は広いから収納場所には困らないと言われて両親は快く引き受けてくれたけど。
なら私も収納してくれたらよかったのでは……?
「娘をよろしくね!逢生ちゃん!」
「奏花のことを頼んだよ」
まるで嫁に行くのを見送るみたいな態度はやめてほしい。
「任せてください」
いつもより数倍、きりっとした顔で逢生は返事をしていた。
なにが任せてくださいよ!
両親はこれで娘が片付いたという顔をしてるし。
「よかったわね、奏花。このまま彼氏もできないで終わりかと思ったら、逢生君がもらってくれて」
「結婚が決まったら連絡するんだぞ」
「け、結婚?なに言って―――もがっ!」
「はい。もちろんです」
逢生の手で口を覆われ、何も言えない。
しかも、いつもの百倍増しでしっかりしてますオーラ出している。
ニセモノー!おまわりさん、この人ニセモノです!
いつ買ったのか、家のそばに車があった。
それも外車。
ベンツのCクラス、カラーはブリリアントブルー。
目が覚めるような青色だった。
まさか逢生と青でかけてるんじゃないでしょうね……疑惑。
「なに?」
「車持ってたのね」
「知久が選んでくれた」
いえーい、見てくれたー?なんて言ってる陣川さんの明るい顔が目に浮かぶ。
「渋木さんに選んでもらった方がよかったんじゃないの?」
「地味なやつを選ぶぞって知久が言うから」
「手堅いの間違いでしょ」
額に手をあてた。
趣味は悪くないけど陣川さんの『あ、驚いた?驚いたよね?ウケてくれたらいいなって思って』という声が聞こえたような気がした。
「乗って」
「あ、うん」
車に乗ると逢生はメガネをかけた。
「逢生って視力悪かった?」
「これ?メガネじゃなくてクリアサングラス」
「あ、そうなんだ」
フレームが細くて色のないものだったからメガネかと思った。
留学で離れていた時間は意外に長かったのかもしれない。
最近、逢生のことで私が知らないことがいくつかあって、そのたびに不意打ちされたような気分になって戸惑う自分がいる。
真剣な顔で運転をする横顔は少なくとも初めて見た。
なんとなく気まずくなり、逢生に話しかけた。
「え、えーと。今日の夕飯はなに食べたい?」
逢生が嬉しそうに笑う。
「なに……?」
「一緒に暮らすんだなって思ってた」
そんなふうに笑わないで欲しい。
もし私に逢生以外に好きな人ができたらどうするの?
その逆だってあり得えない話じゃない。
高校時代からの同級生っていう桑地さんもいるわけだし。
これは期限付きのルームシェアなんだから。
ぼすっと助手席に座って前を向いた。
これ以上、逢生の顔を見るのは危険だ。
最近の私はおかしい。
昔の逢生と今の逢生。
違うところを探しているみたい。
探してそれを見ないように逃げてた。
大人の逢生を知りたくなくて。
「奏花はなにが食べたい?」
「私はなんでもいいわよって、大事なことを言っておかないと!」
ハッとした。
私としたことが。
そうよ、これだけはルールに従ってもらわないと。
「大事なことって?」
「そう。お菓子とかプリンは名前を書いて各自管理するわよ」
「えー」
「なにが『えー』よ!勝手に私のおやつを食べられたくないの!」
「俺はいいけど」
「逢生はよくても私が嫌なの!忘れたとは言わせないわよ。私のおやつを勝手に食べた苦い思い出を!」
食べ物の恨みは恐ろしいのよ。
ずっと忘れられないんだからね!
「あれはおばさんが食べてもいいっていうから食べた」
「名前書いてあったのにー!」
他にもカステラ、どら焼き、クッキーなどなど。
私の両親は逢生に甘すぎる。
おやつだけに―――ってそれはいいのよ。
「わかったわね?逢生!」
「他に大事なことってない?」
「ないわよ」
逢生はしょんぼりしていたけど、なにを言って欲しかったのかさっぱりわからない。
まさか前科者のくせに開き直り?
「俺よりプリン……」
そんなことをつぶやいていたけど、気にしない。
今後の安寧のためよ。
訪れよ、我が平穏。
そんなことを話しているとマンションに着いた。
マンションは私の会社と逢生が契約している事務所のちょうど真ん中の距離。
地下駐車場に車をとめるとカードキーを手にした。
エレベーターを使用するにもカードキーが必要らしい。
「高そうなマンションね」
「唯冬に選んでもらった」
それでマンションと事務所が近いのね、納得。
寝過ごした時もすぐに迎えに行ける距離にしたってわけ。
さすが渋木さん。
しっかりしている。
「防音室があるマンションを選んだだけ」
「……寝坊対策じゃなかったの?」
心を読まれてしまった。
「違う」
カードキーをエレベーターから抜く。
そのカードを口元にあて、逢生は耳元で囁いた。
「奏花が起こして」
自分で起きなさいよっといつもなら、言えていたのに言葉が出なかった。
耳を手でおさえているとくすりと逢生が笑う。
「行こう」
どこでこんな真似覚えてくるのよ!
きっとあの二人ね!?
ろくなことを教えないんだから。
エレベーターの中がいつもより狭く感じているのは気のせいじゃない。
逢生から距離をとろうとしているのにとれない。
「奏花、顔が赤い」
「エレベーター内が暑いせいです!」
逢生はするりと自分の指を私の指に絡めて手を握った。
ちょ、ちょっとー!
これはまずい、まずい展開よ?
相撲で言うと寄り切り。
頭の中で相撲の行司が軍配団扇を持っている姿が頭に浮かぶ。
「あ、逢生!手を離して」
「どうして?奏花は俺のこと意識してなかったんじゃなかった?」
エレベーターのドアが開き、手を握ったまま出るとそこに人がいた。
あああ!イチャイチャしてたんじゃないんですー!と見知らぬ人にまで言い訳をしそうになった。
けれど、その人は見知らぬ人じゃなかった。
エゴイストプラチナムの香り、首元のシャツのボタンをはずし、手にジャケットを手にしている姿は大人の男性という雰囲気。
コンサートで出会ったパンプレットを拾ってくれた人だった。
学生時代のアルバムとかは思い出の品のような物は両親が住む田舎の家に持って行ってもらうことにしたため、今の生活に必要なものしか残さなかった。
田舎の家は広いから収納場所には困らないと言われて両親は快く引き受けてくれたけど。
なら私も収納してくれたらよかったのでは……?
「娘をよろしくね!逢生ちゃん!」
「奏花のことを頼んだよ」
まるで嫁に行くのを見送るみたいな態度はやめてほしい。
「任せてください」
いつもより数倍、きりっとした顔で逢生は返事をしていた。
なにが任せてくださいよ!
両親はこれで娘が片付いたという顔をしてるし。
「よかったわね、奏花。このまま彼氏もできないで終わりかと思ったら、逢生君がもらってくれて」
「結婚が決まったら連絡するんだぞ」
「け、結婚?なに言って―――もがっ!」
「はい。もちろんです」
逢生の手で口を覆われ、何も言えない。
しかも、いつもの百倍増しでしっかりしてますオーラ出している。
ニセモノー!おまわりさん、この人ニセモノです!
いつ買ったのか、家のそばに車があった。
それも外車。
ベンツのCクラス、カラーはブリリアントブルー。
目が覚めるような青色だった。
まさか逢生と青でかけてるんじゃないでしょうね……疑惑。
「なに?」
「車持ってたのね」
「知久が選んでくれた」
いえーい、見てくれたー?なんて言ってる陣川さんの明るい顔が目に浮かぶ。
「渋木さんに選んでもらった方がよかったんじゃないの?」
「地味なやつを選ぶぞって知久が言うから」
「手堅いの間違いでしょ」
額に手をあてた。
趣味は悪くないけど陣川さんの『あ、驚いた?驚いたよね?ウケてくれたらいいなって思って』という声が聞こえたような気がした。
「乗って」
「あ、うん」
車に乗ると逢生はメガネをかけた。
「逢生って視力悪かった?」
「これ?メガネじゃなくてクリアサングラス」
「あ、そうなんだ」
フレームが細くて色のないものだったからメガネかと思った。
留学で離れていた時間は意外に長かったのかもしれない。
最近、逢生のことで私が知らないことがいくつかあって、そのたびに不意打ちされたような気分になって戸惑う自分がいる。
真剣な顔で運転をする横顔は少なくとも初めて見た。
なんとなく気まずくなり、逢生に話しかけた。
「え、えーと。今日の夕飯はなに食べたい?」
逢生が嬉しそうに笑う。
「なに……?」
「一緒に暮らすんだなって思ってた」
そんなふうに笑わないで欲しい。
もし私に逢生以外に好きな人ができたらどうするの?
その逆だってあり得えない話じゃない。
高校時代からの同級生っていう桑地さんもいるわけだし。
これは期限付きのルームシェアなんだから。
ぼすっと助手席に座って前を向いた。
これ以上、逢生の顔を見るのは危険だ。
最近の私はおかしい。
昔の逢生と今の逢生。
違うところを探しているみたい。
探してそれを見ないように逃げてた。
大人の逢生を知りたくなくて。
「奏花はなにが食べたい?」
「私はなんでもいいわよって、大事なことを言っておかないと!」
ハッとした。
私としたことが。
そうよ、これだけはルールに従ってもらわないと。
「大事なことって?」
「そう。お菓子とかプリンは名前を書いて各自管理するわよ」
「えー」
「なにが『えー』よ!勝手に私のおやつを食べられたくないの!」
「俺はいいけど」
「逢生はよくても私が嫌なの!忘れたとは言わせないわよ。私のおやつを勝手に食べた苦い思い出を!」
食べ物の恨みは恐ろしいのよ。
ずっと忘れられないんだからね!
「あれはおばさんが食べてもいいっていうから食べた」
「名前書いてあったのにー!」
他にもカステラ、どら焼き、クッキーなどなど。
私の両親は逢生に甘すぎる。
おやつだけに―――ってそれはいいのよ。
「わかったわね?逢生!」
「他に大事なことってない?」
「ないわよ」
逢生はしょんぼりしていたけど、なにを言って欲しかったのかさっぱりわからない。
まさか前科者のくせに開き直り?
「俺よりプリン……」
そんなことをつぶやいていたけど、気にしない。
今後の安寧のためよ。
訪れよ、我が平穏。
そんなことを話しているとマンションに着いた。
マンションは私の会社と逢生が契約している事務所のちょうど真ん中の距離。
地下駐車場に車をとめるとカードキーを手にした。
エレベーターを使用するにもカードキーが必要らしい。
「高そうなマンションね」
「唯冬に選んでもらった」
それでマンションと事務所が近いのね、納得。
寝過ごした時もすぐに迎えに行ける距離にしたってわけ。
さすが渋木さん。
しっかりしている。
「防音室があるマンションを選んだだけ」
「……寝坊対策じゃなかったの?」
心を読まれてしまった。
「違う」
カードキーをエレベーターから抜く。
そのカードを口元にあて、逢生は耳元で囁いた。
「奏花が起こして」
自分で起きなさいよっといつもなら、言えていたのに言葉が出なかった。
耳を手でおさえているとくすりと逢生が笑う。
「行こう」
どこでこんな真似覚えてくるのよ!
きっとあの二人ね!?
ろくなことを教えないんだから。
エレベーターの中がいつもより狭く感じているのは気のせいじゃない。
逢生から距離をとろうとしているのにとれない。
「奏花、顔が赤い」
「エレベーター内が暑いせいです!」
逢生はするりと自分の指を私の指に絡めて手を握った。
ちょ、ちょっとー!
これはまずい、まずい展開よ?
相撲で言うと寄り切り。
頭の中で相撲の行司が軍配団扇を持っている姿が頭に浮かぶ。
「あ、逢生!手を離して」
「どうして?奏花は俺のこと意識してなかったんじゃなかった?」
エレベーターのドアが開き、手を握ったまま出るとそこに人がいた。
あああ!イチャイチャしてたんじゃないんですー!と見知らぬ人にまで言い訳をしそうになった。
けれど、その人は見知らぬ人じゃなかった。
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