幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

椿蛍

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11 再会とキス

パンプレットを拾ってくれた人は私と逢生あおの顔を交互に見て、繋いだ手に目をやると笑った。

「女どころか人に興味なさそうな顔して意外だな」

逢生はすっと無視して横を通り過ぎた。
まるで誰もいなかったかのように。

「おい、深月逢生。挨拶くらいしろよ」

「こんにちは」

「その挨拶じゃない。違うだろ?今度、一緒に共演するんだからよろしくお願いしますくらい言えよ」

一気に空気が険悪になった。
二人は無言でにらみ合い相性が悪いことはすぐにわかった。

「逢生の知り合い?」

「知らない人」

「なにが知らない人だ。彼女にちゃんと紹介しろよ。子犬」

「子犬?俺が子犬ならそっちは発情期の犬だね」

「俺が誘ってるわけじゃない。女が寄ってくるだけだ」

「何人いるんだよ」

「何人いても特別はいない。子犬にはわからないだろうがな」

見えない火花が散っていた。
うわあああっ!
険悪ってレベルじゃないわよ。

「逢生。もう行くわよっ……!」

喧嘩になる前にここから、引き離さなくては。
逢生が喧嘩なんて珍しいことだ。
ずりずりと逢生を引きずってこの場から逃げようとすると腕をつかまれた。

「え?」

「やっぱりどこかで会ったことあるな」

梶井かじい奏花そよかから手を離せ」

「先輩だぞ。梶井さんって呼べよ」

梶井さんがサングラスをとり、胸ポケットに差し込んだ。
前髪をかき上げるとその顔がしっかり見えた。
やっぱり見覚えがある。
それもかなり昔―――

「もしかして、公園でチェロを弾いていた高校生!?」

「違うよ」

「なにサラッと嘘ついてるんだ。間違いなくそれは俺だ。やっぱりオデコちゃんか」

「オデコ!?」」

「もしくはチョンマゲオデコ」

なにそのネーミングセンス。
確かに私は小学生の頃、前髪を結んでたわよ?
こっちが胸キュンしている時に向こうはチョンマゲオデコって思っていたわけ?
なにこの現実。
ひどすぎる。

「あの時はスランプで悩んでいたけど、チョンマゲオデコのおかげで脱出できたんだったな。ありがとう」

ぽんぽんっと頭を叩かれた。
逢生がその手をばしっと叩こうとしたのを梶井さんはさっと避けた。

「おい!演奏家が手で殴ろうとするな!」

「奏花に触るから」

「とんだ狂犬だな。ああ、そうか。思い出した。チョンマゲちゃんの隣にいたあのクソガキか」

「誰がクソガキだ」

「俺の音を変だって指摘したあの生意気なガキな」

「正直に言っただけだ。音程が悪くて嫌だったから」

「訂正。今もクソガキだったな」

あの頃、一緒にピアノを習っていたけど、逢生はまだチェロをやっていなかった。
それなのにわかったということはやっぱり逢生は私と違うんだ……
私はチェロを初めて見て音を聴いたからすごいとしか思わなかった。

「チョンマゲちゃん、名前は?」

渓内たにうち奏花そよかです」

「俺は梶井かじい理滉みちひろ。奏花ちゃんか、可愛い名前だね」

顔が赤くなるのがわかった。
可愛い名前!?
そんなこと初めて言われた。

「奏花、行こう」

ぐいっと私の手をひっぱると梶井さんは逢生を挑発するように言った。

「余裕のない男は嫌われるぞ。もっと女の子には優しくな」

はははっと笑い、梶井さんは手を振る。

「面白くなりそうだ。これからよろしく」

「よろしくするわけない」

逢生は強い力で手を引き、早足でその場から遠ざかった。

「奏花。あいつ、悪い男だから気を付けて」

まあ、見るからにモテそうだもんね。
それはわかるけど……

「逢生、手が痛いから」

「……ごめん」

逢生はハッとしたように手の力をゆるめた。
部屋の中に入るとわずかに緊張が解けた。
それでも険しい顔をしている。

「仲が悪いの?」

「それもあるけど、あいつは毒だから」

「毒?」

「毒だけど、口にしたら甘い毒。だから毒だって気づかない。だから、気を付けて。奏花」

「う、うん」

その忠告の仕方が怖くて素直にうなずいてしまった。
セクシーな大人の男の人。
それが梶井さんのイメージだけど、確かにどこか影がある。
年齢を重ねた男性が持つ魅力っていうか――――じっーと逢生がこっちを見ていた。

「あ、あのね!?初恋って言っても小学校の頃だし。もう時効よ?」

「さっき顔が赤かった」

無駄に鋭いわね。
いつもはぼっーとしてるくせに。

「可愛い名前だね、なんて初めて言われたから」

「奏花は可愛いよ」

「うん。ありがと」

私と逢生は見つめ合った。
まあ、ドキッともしないわね。
そう思っていると逢生が壁に体を押しあてた。

「逢生?」

見上げると逢生の顔が近寄り、頬にキスをした。

「なにしてるのよっ!?」

ぎゃっー!!と声にならない叫び声をあげ、どんっと体を突き飛ばした。
逢生はからかうように私を見て笑った。

「ドキドキした?」

「当たり前でしょ!こっ、こんなっ……ほ、頬とはいえっ」

大人の梶井さんに張り合おうとしたんでしょうけど、なに対抗してるのよっ!
しかも、キ、キスって……!
頬を手でおさえてパクパクと口を動かしていると逢生は挑発するように言った。

「俺のこと弟って思っているなら頬くらい犬に舐められたみたいなものだよね」

「そうね……」

そうよ。
落ち着こう、私。
深呼吸する。
逢生は面白くなさそうな顔をしていた。

「これから毎日キスしよう」

「するわけないでしょ!」

「俺にドキドキしてもらわないと」

なにそれ―――私の心臓を違う意味でドキドキさせてるわよ。

「そんなのいいわよ。だいたい逢生にキスされたところでキュンなんてしないんだからっ」

そう言い終わった瞬間、引き寄せられて顎をつかまれキスをされた。
次は唇に。

「んっ……!?」

唇に触れているだけじゃない。
舌が隙間からはいってきて、中をなぞる。

「やっ、めっ……」

息ができない。
もがいても逢生の力が強くて体が動かずに抱きしめられ、深いキスを受け入れていた。

「もっ……っ……!」

逃れようとしても逃れられないキス。
繰り返されるキスに頭の中がぼうっとして涙が目じりからこぼれたのを逢生が指ですくいあげた。
頬を指が撫で、舌が奥まで入り込み、私の舌を絡めとる。
その舌の感触にぞくりと肌が粟立ち、体から力が抜け、崩れ落ちかけたのを大きな手が支えた。

「ちゃんとつかまってないと危ない」

「だ、だれのせい……」

脚に力が入らない。
強がる言葉もうまくでなくて息を乱した。

「最初のキスにしたら上出来かな?」

なにが最初よ!
息を整え、リビングにあったクッションを逢生に投げつけた。

「犬に噛まれたようなものよっ!」

そんな強がりを口にしたけど、心臓はとんでもないことになっていた。
逢生は不敵な顔で笑って私を見る。
年下のくせになんなのよ。
あの余裕はー!
恋愛だけは逢生に負けないと思っていた。
だから、悔しくてしかたがない。
涙目になった私は唇を手の甲でぐしぐしとふきながら、逢生をにらみつけたのだった。

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