幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

椿蛍

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26 お互いの存在

逢生の部屋は必要なもの以外は何もない。
服や小物類はクローゼットに入るだけしか持たない。
でも、その逢生が唯一飾ってあるのは私との写真だけ。
ちゃんと額に入っている。
小学校に上がる前から逢生の留学先で撮った写真まで。
何事にも関心の薄い逢生が私のものだけ大事にしてくれているのが嬉しい。
腕にしっかりと私を抱きしめているのも。

「……奏花?」

寝ぼけたように逢生がうっすらと目を開けた。

「うん」

ぼすっと髪に顔を埋めた。

「……いた」

私の姿を確認してホッと息を吐くと、また眠る。
何時まで寝るつもり……?
まるで今まで眠っていなかったかのように逢生は眠っていた。

「逢生?なにか作るから、ごはん食べない?」

「ごはんより奏花に触れていたい」

ぐうーと私のお腹が鳴った。
このタイミングでですか……
逢生が笑う声が耳元でした。

「し、仕方ないでしょ!逢生より燃費の悪い体なのよっ!」

「いいよ、ご飯で」

やっと逢生は起き上がった。
それなのにギュっとして離さない。

「なにしてるの?」

「堪能している」

立ち上がった私の腰にしがみつき、顔を背中に埋めていた。

「起きるんじゃなかったの?これだと動けないでしょ?」

「そうだけど」

逢生の手を解くと逢生はじっーと自分の両手を見つめていた。
なにがそんなに不安なんだろう。
逢生のことが好きだって言ったのに。
それに昨日、何度も―――思い出して顔が赤くなった。

「あ、逢生!スパゲッティでいいわよね!?」

「なんでもいいよ」

バッと振り返ると逢生が着ていたシャツを脱いでいたところだった。
ただ服を着替えようとしているところだったのにそれを正視できずに目を逸らした。
なに意識してるのよー!
逢生の体なんて見慣れてるのにっ!
ぶんぶんっと首を横に振っていると逢生がひょいっと肩越しに顔をのぞかせた。

「見てもいいのに」

「み、み、みっ……」

「セミ?」

「見ないわよっ!」

ボスッと軽くパンチをしてダッシュで部屋から出た。
キッチンに逃げると姿を隠すために身を低くした。
どうしても昨晩を思い出してしまう。
逢生ってあんなに色気あった?
今まで気づかなかっただけ?
キッチンカウンターからそっと逢生を盗み見るとちゃんと服を着ていて安心した。
にょきっと顔を出して立ち上がる。
ふう……危機は去ったわ。

「奏花。お願いがあります」

「え?なに?改まって」

しかも、大真面目な顔して。
炭酸水を冷蔵庫から取り出し、コップに注いだ。
逢生のぶんと私のぶん。
カウンターテーブルにコップを並べて甘くない炭酸水を飲んだ。

「毎日一緒に寝たい」

ブフッと炭酸水を吐きかけて口を手でおさえた。

「俺、彼氏だよね?」

「う、うん。そうね」

「だめ?」

「だめじゃないけど……ま、毎日は……」

体力が持たないと思っていると逢生が笑った。

「毎日でもいいけど、俺が言ってるのはただ一緒に眠るだけだよ」

「逢生!最悪ね!わざとでしょ!」

「奏花が勝手に勘違いしただけ」

勝手に!?
私の反応を見て『うん、いいよ』なんて言ったら毎日するつもりだったでしょうがっ!
自由にしようったってそうはいかないわよ。
ミートソース用の玉ねぎを握りつぶす勢いで逢生の顔をにらみつけた。

「せっかく恋人同士になったのに奏花が冷たい」

「節度を持って暮らしなさいよ」

「毎日、清く正しく生きてるよ」

逢生は炭酸水を口にする。

「俺はもっと奏花といたい」

「そ、そう?ありがとう」

寂しがり屋の犬みたいね……
逢生の両目がじいっーと私を痛いくらいに見つめている。
フライパンでひき肉と玉ねぎを炒めている間もずっとだ。
突き刺さるような視線に根負けして言った。

「わかったわよ。じゃあ、同じベッドで……」

にっこり逢生は微笑んだ。
これくらいで逢生は幸せそうにしているから、つい許しちゃうけど、なし崩し的に他の我儘まで聞いてしまいそうで怖い。
ケチャップを入れてみりん、料理酒、ソースを少々。
煮詰めて水分を飛ばし、いい香りのするソースをゆでたスパゲッティの上にのせた。
ドライパセリと粉チーズをかける。
逢生はデザートにプリンを出してきた。

「デパ地下のプリン!」

「お土産」

「買ってきてくれたの?」

「そうだよ。昨日の帰りに買った。ご機嫌取りに」

―――ご機嫌取り。
苦笑した。
つまり、焼きもちをやいていた逢生はイライラしてたけど、それを私に見せると嫌われると思って、プリンを買ったということ?

「それは言わなくていいのよ」

寿実すずみの『恋愛音痴』という言葉が頭に浮かんで手で打ち消した。
ふっ……!でもね!
もう私達は付き合っているんだから、そうは言わせないわよ!

「それで梶井かじいがどうして奏花の職場に?」

「え?」

「桑地と食事に行くことを知っていたのはあの日、周りにいた人間だけだ」

「こういうことだけ鋭いわね!」

「奏花のせいで危険を察知しやすいんだ」

「なんで私のせいよっ」

「悪い虫がつかないように昔から神経をとがらせていたからかな」

違うところに神経をつかいなさいよ……
得意げに言うことでもないわよ?
スパゲッティをくるくると巻きながら、はぁっとため息をついた。

「会社の仕事依頼がたまたま梶井さんだったっていうだけ。桑地さんもいるわよ」

「たまたまなわけない。わざと引き受けたと思う」

むうっと逢生がフォークを加え、不満そうにしていた。

「わざとでも仕事なんだから仕方ないでしょ」

スパゲッティを食べ終わるとプリンを残したまま、逢生がカウンターチェアから立ち上がった。

「逢生?」

部屋に行き、戻ってくるとコンサートのチケットをバンッとテーブルに置いた。
『チェリスト梶井かじい理滉みちひろとクラシック界のプリンス達』

「奏花。このコンサート、聴きに来て」

「逢生達がメインじゃない!?」

「……梶井の方が有名」

「逢生達のほうが人気があっても?」

「アイドルの世界じゃないから」

違ったんだ……
てっきり似たようなものかと思ったけど、梶井さんは大御所ってかんじなのかな?
よくわからないけど、大先輩なことだけは間違いなさそうだった。

「わかったわ。じゃあ、聴きに行くわね」

「そうして」

いつになく力強く逢生はうなずいた。
勝ち負けじゃないんだろうけど、これって男の意地?
逢生の顔を見て『小学生のくせに一人前の顔をしていたな』という梶井さんが言った言葉を思い出していた。

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