幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】

椿蛍

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31 浮気!?

梶井さんの言ったとおり、インターホン連打の訪問者は逢生あおだった。

「これは浮気だよ」

「お邪魔しますくらい言えよ」

「お邪魔されたのはこっちのほう」

「二人の仲をって?」

梶井さんの言葉に逢生はうなずいた。
鍵はかけていなかったから、逢生はなんの障害もなく部屋に入ってきた。
そして、不機嫌そうな顔で仁王立ちしたあげくの浮気認定。
すっと手を上げた。

「あのー……逢生。いいわけしてもいい?」

「だめ」

問答無用!?
怒っている逢生と笑っている梶井かじいさん。

「帰るよ、奏花」

「待て。子犬」

逢生が私の腕をつかみ、部屋から出ようとしたのを梶井さんが止めた。

「奏花ちゃんは仕事でここにきて看病をしてくれただけだ」

「……わかってる。けど、相手がお前だっていうのが気に入らない」

「気に入らないのはこっちも同じだ」

どうしよおおおと思っていると梶井さんが挑発するように逢生に言った。

「彼氏になったんだって?その割に余裕がないな。奏花ちゃんを信じてないってことか」

「そんなことない」

「ああ、そうか。お前は自分に自信がないんだな」

逢生の目が細められた。

「俺の方が男として上だから焦ってる?まあ、それは間違いじゃないか。俺の方がチェロもうまいし?」

「誰が。俺はお前に負けない」

初めて見る逢生の闘争心。
梶井さんはそれを楽しそうに眺めていた。
気のせいじゃなかったら、梶井さんは逢生といる時が一番楽しそうに見える。

「コンサートが楽しみだな。俺に負けるなよ。子犬」

「それはこっちのセリフだ」

コンサート?
コンサートって、そんな戦いの場じゃないでしょ。
私がなにか聞く前に逢生が強い力で引っ張った。
慌てて自分のバッグを手にして逢生についていく。

「看病、ありがとう。奏花ちゃん。深月が嫌になったら、いつでもこの部屋にきていいよ」

逢生は梶井さんの部屋を出ると無言でドアを閉めた。
部屋にも寄らずにすぐここにきたらしく、鍵がかかったままだった。

「ご、ごめんね。でも、梶井さんは床に転がっていて……」

「浮気してないのはわかってる」

「もちろんよ!」

うんうんっと頷いたけど、逢生は納得いかない顔をしていた。

「でも、奏花は情にもろいところがあるから」

最後の最後まで信じなさいよ……そこは。
結局疑っているじゃないと思いながら、玄関のドアを開けて中に入った。
でも、浮気していないってことをわかってくれているのならまあいいかと、ほっと胸をなでおろした。
誤解されるのは嫌だし。
よかった。
そう思っていると。逢生が部屋に入るなり、唇をふさいだ。

「んむっ!?」

「わかっているのと赦すのは別」

唇を一瞬だけ離して、そんなこと言った。
どういう意味よっー!!
噛みつくようなキスをして、逢生は壁に体を押しあてた。
深く絡みつく舌が言葉を奪い、口内を蹂躙していく。
唇は柔らかな感触なのにされるキスは荒々しい。

「逢生っ……!」

苦しくてもがいても赦してはくれない。
逃げようとしても追われて塞がれ、今までのキスは逢生は手加減していたのだと知った。
自分の感情を抑えたキスだったんだと―――

「ん……」

チリっとした痛みに顔をしかめても逢生は容赦なく痕をつけていく。
赤い痕を残されてもだめとは言えなかった。
いくつかの痕を残すと、やっと唇を私の体から離してくれた。

「俺は独占欲が強いよ」

鋭い目と低い声―――やっぱり怒っている。

「し、知ってる」

「今日はここまでにしておく」

「う、うん……そ、そう」

ぼうっと熱っぽい頭でうなずいた。

「練習しないと」

なんの?と聞くまでもない。
チェロの練習に決まっている。
次のコンサートは梶井さんとのデュオがあるという話だ。
つまり二人で演奏する。
この仲の悪い二人で演奏なんて、事務所もよく許したと思う。
どんな演奏になるんだろうか。
いつもの穏やかな凪のような目はなく、鋭い獣のような目をして逢生は言った。

「梶井には絶対に負けない」

初めて私は逢生の『負けない』という言葉を聞いた。
それは梶井さんが逢生に一番言わせたかった言葉だったのかもしれない―――と、この時になって気づいた。
逢生は私を見ずにチェロがある自分の部屋に入って行った。
多分、次のコンサート、逢生は本気でチェロを弾く。
それを梶井さんは聴きたかったんじゃないだろうか。
逢生の音を引き出すために怒らせて。
練習する逢生はいつもより真剣な顔をしていた。
多分、逢生は梶井さんと一緒に演奏することで成長する。
今までよりずっと素敵な音を奏でるようになるだろう。
そんな予感がした。

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