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手から伝わる熱を感じて握り返した。
そして、梶井さんに微笑んだ。
「なに言ってるんですか。梶井さんは一人じゃないですよ。気にかけてくれる人がいるじゃないですか」
驚いた顔で私を見る。
梶井さんは孤独な人だ。
でも、梶井さんはただ気づいてないだけ。
「海外のオーケストラに招待されていたじゃないですか。海外に行くんですよね?」
「どうしてそれを……って風邪をひいた時か」
手紙は二枚あった。
一番上にあったのは断るためのもの。
でも、二通目に送られてきた手紙には返事をまだ書いてなかった。
迷っていたけど、結局は決めたのだ―――梶井さんはもうここにはいなくなる。
きっと今日、私と『デート』と口では言いながらお別れの挨拶をするのだろうと思っていた。
これからの自分のために。
そして、この先もチェロを弾いていくために。
梶井さんはまいったなぁ……と言って笑った。
「俺が尊敬するチェリストから一緒にやろうと言われている。迷っていたけど、引き受けた。その方もお年を召しているから」
梶井さんの視線の先には先生がいる。
「時間は無限じゃなくて有限だからね」
その言葉は梶井さんがいつも思っていることなのだろう。
「奏花ちゃんは俺と一緒に行ってくれないってことか」
「一緒に行けません。一人で頑張ってください」
「冷たいな!まあ、一人で頑張るしかないけどね」
思わず笑ってしまった。
「私、留学する逢生にも同じことを言ったんです」
「深月にも?」
「でも、逢生は一人では頑張れない。毎日連絡するし、こっちにきてくれないと死ぬとか言って」
「脅しかよ!」
「そうなんですよね」
本当に逢生はどうしようもない。
ホームシックになるし、すぐにすねるし、焼きもちやくし、私が彼氏を作ろうとしても邪魔してくるし。
「でも、いつも逢生は私だけを待ってるんです。犬みたいにずっと」
はぁっとため息をついた。
もうね、私が好きになるまでしつこく『マテ』してるような男よ。
じっーと見つめてくるあの目から逃れられるわけがない。
「あんな子犬のどこがいいんだ?」
絶対に俺のほうがかっこいいだろうと梶井さんがあきれた顔で言った。
「私よりも私のことが好きなところです」
「は……」
「誰だって、自分が嫌いな時ってあるでしょ?でも逢生はそんな時でも私のことが好きなんです」
「……なるほどね」
「きっと前世は犬ですよ」
そう私が言い終わると、公園内が騒然としていることに気づいた。
全員が空を見上げている。
菱水音大附属高校の生徒達の演奏が終わっていて、空に向かって指をさしている。
演奏中でなくて、本当によかったと心から思った。
なんて迷惑な先輩達だろうか。
これには梶井さんも頬をひきつらせた。
ヘリが飛んでる。
そして、公園の広い芝生の上ヘリをギリギリまで降下させ、そこから人が三人降りてきた。
「やっぱりここにいたー!」
陣川さんが手を大きく振った。
菱水音大附属高校の生徒が『陣川先輩だ』『なにしてるんだ?』『渋木先輩と深月先輩もいるぞ』と大騒ぎしている。
「デートが終わっただろうから、迎えにきた」
「ほんの数十分だったけど、それってデートになるの?」
「数分でも多いくらいだよ」
これで帳消しになったねと言って梶井さんに不敵に笑ってみせた。
最初からこのつもりでいたんじゃないの?というくらい行動が早かった。
「ここにいるってよくわかったな。GPSを仕込まれているかもしれないと思ってバッグを深月に渡したのに」
渋木さんがくすりと笑った。
「梶井さんの考えはだいたいわかりますよ。初めて会った場所のことは逢生から聞いていましたからね」
「腹黒い王子だな」
「褒め言葉をどうも」
渋木さんはにっこりと微笑んだ。
けれど―――
「陣川!渋木!深月!お前達はなにをしているのかね!後輩の演奏会にヘリで乗り込むとはなにごとだ!」
年配の気むずかしそうな男の先生がこらっ!と三人に叱りつけていた。
かばう気にはなれないのはなぜだろう。
むしろ『もっと言ってやってください』と思ってしまう。
これが日頃の行いってやつね……
先生が怒っているというのに三人は反省するどころかケロッとしていて、なぜか堂々たる態度で言った。
「ヘリは帰らせたし、なんなら飛び込みで弾こうか?」
「野外というのも悪くない」
「おわびに弾く?」
陣川さんも渋木さんも逢生も反省というものを知らないということだけはわかった。
「すみませんでした。すぐに撤収させますから」
代わりに謝って逢生の手を握った。
逢生の目が嬉しそうに私を見る。
いや、叱られてるのを連行していくだけだからね?
なによ、その手をつないでくれたみたいな顔は。
ほらね。この目に勝てるわけがないの。
「試合で勝って勝負に負けたな」
梶井さんはため息をついた。
そして、先生に言った。
「先生。久しぶりに俺のチェロを聴きますか。お好きでしょう?俺のプレリュード」
怖い顔をしていた先生の表情が優しいものに変わる。
「む、そうだな」
梶井さんには誰もいないなんてことはない。
すぐに梶井さんの周りには菱水音大付属高校の生徒が集まり、賑やかになった。
人を惹きつける梶井さん。
チェロを弾いている限り、梶井さんが一人になることはない。
「帰るわよ。逢生」
「負けた俺でいい?」
男のプライドってやつだろうか。
こういうときだけ、しおらしい。
しばらく、しゅんっとした逢生でもいいけど笑った顔のほうが好きだから、教えてあげた。
大事なことを。
そっと耳元で囁いた。
「逢生。また私のためにチェロを弾いてくれる?私が好きなのは逢生のチェロだけなんだから」
そう言うと、逢生は私の体をぎゅっと抱き締めた。
これできっと逢生はずっとチェロを弾き続けてくれる。
私の言葉を逢生は忘れず、この先何度でも奏でるだろう。
あの優しい音を。
そして、梶井さんに微笑んだ。
「なに言ってるんですか。梶井さんは一人じゃないですよ。気にかけてくれる人がいるじゃないですか」
驚いた顔で私を見る。
梶井さんは孤独な人だ。
でも、梶井さんはただ気づいてないだけ。
「海外のオーケストラに招待されていたじゃないですか。海外に行くんですよね?」
「どうしてそれを……って風邪をひいた時か」
手紙は二枚あった。
一番上にあったのは断るためのもの。
でも、二通目に送られてきた手紙には返事をまだ書いてなかった。
迷っていたけど、結局は決めたのだ―――梶井さんはもうここにはいなくなる。
きっと今日、私と『デート』と口では言いながらお別れの挨拶をするのだろうと思っていた。
これからの自分のために。
そして、この先もチェロを弾いていくために。
梶井さんはまいったなぁ……と言って笑った。
「俺が尊敬するチェリストから一緒にやろうと言われている。迷っていたけど、引き受けた。その方もお年を召しているから」
梶井さんの視線の先には先生がいる。
「時間は無限じゃなくて有限だからね」
その言葉は梶井さんがいつも思っていることなのだろう。
「奏花ちゃんは俺と一緒に行ってくれないってことか」
「一緒に行けません。一人で頑張ってください」
「冷たいな!まあ、一人で頑張るしかないけどね」
思わず笑ってしまった。
「私、留学する逢生にも同じことを言ったんです」
「深月にも?」
「でも、逢生は一人では頑張れない。毎日連絡するし、こっちにきてくれないと死ぬとか言って」
「脅しかよ!」
「そうなんですよね」
本当に逢生はどうしようもない。
ホームシックになるし、すぐにすねるし、焼きもちやくし、私が彼氏を作ろうとしても邪魔してくるし。
「でも、いつも逢生は私だけを待ってるんです。犬みたいにずっと」
はぁっとため息をついた。
もうね、私が好きになるまでしつこく『マテ』してるような男よ。
じっーと見つめてくるあの目から逃れられるわけがない。
「あんな子犬のどこがいいんだ?」
絶対に俺のほうがかっこいいだろうと梶井さんがあきれた顔で言った。
「私よりも私のことが好きなところです」
「は……」
「誰だって、自分が嫌いな時ってあるでしょ?でも逢生はそんな時でも私のことが好きなんです」
「……なるほどね」
「きっと前世は犬ですよ」
そう私が言い終わると、公園内が騒然としていることに気づいた。
全員が空を見上げている。
菱水音大附属高校の生徒達の演奏が終わっていて、空に向かって指をさしている。
演奏中でなくて、本当によかったと心から思った。
なんて迷惑な先輩達だろうか。
これには梶井さんも頬をひきつらせた。
ヘリが飛んでる。
そして、公園の広い芝生の上ヘリをギリギリまで降下させ、そこから人が三人降りてきた。
「やっぱりここにいたー!」
陣川さんが手を大きく振った。
菱水音大附属高校の生徒が『陣川先輩だ』『なにしてるんだ?』『渋木先輩と深月先輩もいるぞ』と大騒ぎしている。
「デートが終わっただろうから、迎えにきた」
「ほんの数十分だったけど、それってデートになるの?」
「数分でも多いくらいだよ」
これで帳消しになったねと言って梶井さんに不敵に笑ってみせた。
最初からこのつもりでいたんじゃないの?というくらい行動が早かった。
「ここにいるってよくわかったな。GPSを仕込まれているかもしれないと思ってバッグを深月に渡したのに」
渋木さんがくすりと笑った。
「梶井さんの考えはだいたいわかりますよ。初めて会った場所のことは逢生から聞いていましたからね」
「腹黒い王子だな」
「褒め言葉をどうも」
渋木さんはにっこりと微笑んだ。
けれど―――
「陣川!渋木!深月!お前達はなにをしているのかね!後輩の演奏会にヘリで乗り込むとはなにごとだ!」
年配の気むずかしそうな男の先生がこらっ!と三人に叱りつけていた。
かばう気にはなれないのはなぜだろう。
むしろ『もっと言ってやってください』と思ってしまう。
これが日頃の行いってやつね……
先生が怒っているというのに三人は反省するどころかケロッとしていて、なぜか堂々たる態度で言った。
「ヘリは帰らせたし、なんなら飛び込みで弾こうか?」
「野外というのも悪くない」
「おわびに弾く?」
陣川さんも渋木さんも逢生も反省というものを知らないということだけはわかった。
「すみませんでした。すぐに撤収させますから」
代わりに謝って逢生の手を握った。
逢生の目が嬉しそうに私を見る。
いや、叱られてるのを連行していくだけだからね?
なによ、その手をつないでくれたみたいな顔は。
ほらね。この目に勝てるわけがないの。
「試合で勝って勝負に負けたな」
梶井さんはため息をついた。
そして、先生に言った。
「先生。久しぶりに俺のチェロを聴きますか。お好きでしょう?俺のプレリュード」
怖い顔をしていた先生の表情が優しいものに変わる。
「む、そうだな」
梶井さんには誰もいないなんてことはない。
すぐに梶井さんの周りには菱水音大付属高校の生徒が集まり、賑やかになった。
人を惹きつける梶井さん。
チェロを弾いている限り、梶井さんが一人になることはない。
「帰るわよ。逢生」
「負けた俺でいい?」
男のプライドってやつだろうか。
こういうときだけ、しおらしい。
しばらく、しゅんっとした逢生でもいいけど笑った顔のほうが好きだから、教えてあげた。
大事なことを。
そっと耳元で囁いた。
「逢生。また私のためにチェロを弾いてくれる?私が好きなのは逢生のチェロだけなんだから」
そう言うと、逢生は私の体をぎゅっと抱き締めた。
これできっと逢生はずっとチェロを弾き続けてくれる。
私の言葉を逢生は忘れず、この先何度でも奏でるだろう。
あの優しい音を。
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