ネトゲ女子は結婚生活を楽しみたい!【宮ノ入シリーズ②の続編】

椿蛍

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25 悪い男


徹底的にやる―――そう直真なおさださんは宣言すると、会社ではなく、朝一番に瀧平たきひらの家に行くと告げた。

「行くぞ。有里ゆり

「……はあ」

「なんだ、その気の抜けた声は」

いや、気は抜けてないよ?
直真さんはヤクザよろしく、前髪をあげ、眼鏡をかけていた。
どこからどう見ても、借金の取り立てにきたヤクザにしか見えない。
サングラスをかけてないだけでセーフだと思っているなら、大間違いなんですが?と言いたかった。
その後ろをついていくと、インターホンも鳴らさずにすたすたと家の中に入って行った。

「いい朝ですね。瀧平社長」

『ひっ!』だか『えっ!』だか、わからない声をあげて、朝食の味噌汁をひっくり返しそうになっていた。
食卓を見る限り瀧平家の朝は和食らしい。
奥様と姫愛ひめちゃんは口をポカンと開けたまま、直真さんを見ていた。
そうなるよね。
あの(偽)紳士みたいな直真さんしか知らないんじゃ。

「話があります」

「や、や、八木沢専務。今かね」

「有里」

はいはいと手に持っていた封筒その一を渡した。
直真さんはそれを受けとると、食卓の上に投げ捨てた。

「これは」

バラッと中身が飛び出し、写真と領収書が入っている。

「身に覚えがありませんか?説明しましょうか?」

にこにこと笑ってるけど、目はまったく笑ってない。

「い、いや」

「会社の金で役員が飲み食いした証拠ですよ」

「慰労会だ!これは!」

「有里」

「はい」

封筒その二を手渡した。
その一の上に放り投げられた。
中から、姫愛ちゃんが女子大に裏口入学した証拠が出てきた。

「お、お父様っ!」

本人は知らなかったのか、青い顔で父親を見た。

「どうやってこれを!」

たぶん、直真さんは瀧平に限らず、宮ノ入みやのいり子会社の社長や役員の弱味は握っている。

「もう降参した方がいいですよ。まだまだ封筒ありますから、中身がレベルアップしていくだけなんで」

「まってくれっ!なにが条件だ」

直真さんはにっこり微笑んだ。

「瀧平が持つ株の三割すべてをもらいたい」

「そんな!」

「過半数の株を手にして買収を止めさせる。班目まだらめが持つ株もすべて回収してやる」

何一つあの男に渡してやるかと悪どい顔をした直真さんが呟いたのが、聞こえた。
これは根が深い―――

「過半数あれば株式交換を行うのに十分だ。瀧平を宮ノ入の完全に子会社にする―――それが宮ノ入の決定だ。逆らうなら、社長の椅子から叩き落とす。お前を社長の椅子から蹴落とすくらいなんでもないことだからな」

株を寄越せとヤクザの取り立てのように言った。
いや、ヤクザだね。
間違いなく。

「選べ。今まで通り社長でいるか、会社から叩き出されるか」

瀧平社長は株を宮ノ入に渡すしか選択肢はなかった―――なぜなら、私の手にはまだ封筒がいくつもあるのを瀧平社長が視線で追っていたから。
心の中で合掌した。
また犠牲者が出たのだと。


◇    ◇    ◇    ◇    ◇


「うまくいってよかったですね!」

「そうだな」

実は封筒の中身はほとんどがからっぽだった。
そうそう簡単に弱味を山ほど見つけれるわけがない。

「今日は二人で静かにお弁当が食べれますねー」

「なにがお弁当食べれますね、だ!普段から、さっさと食べてスマホゲームしてソファーで昼寝してるだろうが!」

「あ、バレてました?昼休みにちょっと寝ておくと、本業が捗るんでいいんですよね」

「お前の本業は秘書だろうが!」

「ちがいますー。今は戦士でー」

説明しようとした瞬間、廊下を歩く足音とノックの音が聞こえた。

「あれ?誰?」

来客の予定はなかった。
こっちの返事を待たずに部屋のドアが開き、入ってきたのは竜成りゅうせいと秘書の清川きよかわさんだった。

「どういうつもりだ!」

「礼儀がなってないな」

直真さんは頬杖をつき、足を組み、余裕たっぷりな顔で言った。

「突然、瀧平社長が株を宮ノ入に渡したと言ってきた。理由は言えないと。何をしたんだ!」

「人聞きが悪い。快く瀧平社長には株を譲って頂いただけですよ」

快くねえ。
あんな青い顔をしているのが、快くだっていうんなら、直真さんの無理やり奪ったってラインは相当ヤバいんですが。

「そんなわけないだろう!社長は宮ノ入から、独立するために頑張っていた。それを―――」

「それで、こんな頭の悪そうな若造と手を組んだわけか」

「失礼な!」

清川さんが前に出たのを竜成が手で制した。

「確かにな。俺が持つ二割も無効にするつもりだろう」

「多少の金額は上乗せして、株は引き取ってあげますよ。そちらにしたら、いい勉強になったのでは?」

上から目線もいいとこで、もはや悪人にしか見えなかった。

「完敗か」

悔しそうに竜成はうつむいた。
ピュアさだけは負けてなかったよと教えてあげたかったけど、直真さんがいる手前、余計なことは一切話さずにいた。
目をあげて、私を見つめて竜成は言った。
なぜ、私?

「今回は俺の負けでいい。けど、必ず俺はお前に勝ってみせるからな!」

直真さんは鼻先で笑い飛ばした。

「若造がこいよ」

竜成は清川さんに目で合図し、部屋から出ていった。
悔しそうに両手を握りしめたまま。

「負け犬の吠える声は心地いいな」

直真さん。完全に悪人だよ、もう―――

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