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28 救い
「直真さん、私、竜成に拉致られました」
なるべく、声のトーンを落とし、こそっと言った。
電話したことがバレたら、場所を移動されるかもしれない。
『今、どこだ?』
「試着室です。どこなのか土地勘ないから、わからないんですよー!」
『落ち着いて、思いつくものすべて言え』
「大きい川があって、ショップがずらっと並んでます」
『わかった。すぐに行く』
ブツッと切れた。
えっ?これだけで?
直真さーん!やっぱり頼りになるよ!
「お客様」
「あ、はいはーい。ぴったりでした」
適当なことを言っておいた。
竜成は私が電話したことも気づいていない。
「レストランで食事をしようか」
なんて定番おきまりコースを言ってきた。
「わかったわよ」
「なんでそんな好戦的なんだよ。食事くらい楽しんでもいいだろ?」
「私は人妻なんだってばっ!直真さんの妻!わかる?他の男と二人で食事したら、どんな目にあわされるか。海に沈められるんだからね!」
「おおげさだな」
いや、マジだからね?
思わず、真顔よ、真顔。
「有里が俺を心配してくれるのは嬉しいな」
ダメだ。
なにこのポジティブ野郎は。
何を言っても無駄だ。
「レストランに行こうか」
時計を見た。
メンテ明けまで後一時間―――祈るように手をギュッと胸の前で握りしめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「前菜は海老とサーモンのテリーヌに野菜、コンソメのジュレ添えになります」
海老、サーモン、もう頭の中に合成素材のアイテムにしか単語が変換されない。
美味しいのか不味いのかすら、謎。
虚ろな目で皿を見ていた。
「有里が八木沢専務と結婚した理由はなんだ?」
直真さんと結婚したのは―――ん?
なんでだった?
思い出せない。
「理由なんか、考えて結婚しないと思う」
かっこよくまとめると、竜成は悲しい顔をした。
「理由がわかれば、俺にもチャンスがあると思ったんだ」
「ないよ」
無表情で即答した。
こっちの予定もお構いなしで拉致する奴にチャンスなんかあるかっ!
「有里は八木沢専務が好きなんだな」
「改めて言われると照れるけど。まあ、そうです」
「そっか。わかった」
それなら、仕方ないと竜成はしょんぼりした。
ちょっと可哀想だったかな―――と、思った瞬間、レストランの入り口が騒がしくなった。
「み、宮ノ入の八木沢様っ!」
「久しぶりだな。オーナー。少し騒ぎになるかもしれない」
財布を取り出すと、何枚あるのかわからないけれど、万札をレストランのオーナーに握らせた。
「直真さんっ!」
いつも魔王とか思っていて、ごめんなさい。
今はもう神様だよー!
「どうしてあいつが!」
「若造。人の妻を拉致して食事とはいい度胸だな」
あ、これ、ヤクザモードだ。
竜成は驚き、目を瞬かせていた。
ガツッと椅子ごと蹴り倒し、腹の上に靴底をこすりつけた。
「誰だ、お前っ」
「八木沢だが?」
足を掴もうとしたのを、直真さんがサッと避けたのを見て竜成はすばやく立ち上がり、構えたのをみて、直真さんが殴りかかろうとしたのを抱きついて止めた。
「有里?」
「直真さん、なにしてるんですかっ!殴り合いなんかしてる場合じゃないんです!」
「はあ?お前っ!俺がどんな気持ちで迎えにきたかわかってんのか」
「私の気持ちだって、わかってくださいよ!今日がなんの日かわかりますよね!?」
涙目で必死に訴えた。
「俺なら有里の気持ちをわかって―――」
竜成が手を伸ばしたのをパチンと叩き落とした。
「もう最低です!こんな無理やりさらって!謝って済むなら警察はいらないんですよ!」
「警察!?」
「直真さん。早く帰りたいです」
ううっと直真さんに抱きついて、お願いっと顔を埋めた。
「わかった」
はあっと直真さんはため息をついた。
「これに懲りたら、二度と手を出すなよ。二度目はこんなものですまさないからな」
なぜか、直真さんはトーンダウンして竜成に対して哀れみの目を向けていた。
そんな目をされたせいか、悔しそうに竜成は言った。
「俺はあきらめない!いつか、お前に勝ってみせるからな!」
「吠えてろよ。負け犬が」
本当に悪人だよ。
直真さんはそう言い捨てると、私の手を引き、レストランから出た。
振り返りもしないで、早足で車に乗った。
なんの余韻もない。
「さすがに同情する」
「は?奴はコーラとポテチを奪った罪深き人間ですよ。コンビニ寄って下さい」
「どっちかといえば、お前の方が人間として罪深いぞ」
「なにがですか!スタートダッシュが大事なのに最悪です。かなり出遅れましたよ!」
涙を浮かべて怒っていると、直真さんはあきれていた。
「どうせそんなことだろうと思っていた」
「迎えにきてくれて、ありがとうございます。もうっ!大好きです。直真さん!」
「礼を言われても複雑なんだが 」
「そんなことないですよ!すごくかっこよかったですよ?」
直真さんは運転しながら、嬉しくねえと小さく呟いてため息をついていた。
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