6 / 54
第1章
6 無礼な侍女
妃付きの侍女たちの力関係は、王に寵愛されている妃の侍女が強い。
後宮育ちの私には、それがわかっていた。
ジェレンは悔しそうに唇を噛んだだけで、なにもできなかった。
その様子を見て、くすりとベルタは意地悪く笑った。
「ジェレン、落ち着いて」
「わかっていますけど、あの態度! 我慢なりませんわ!」
「不利なのはこちらです。ジェレン、耐えてください」
「そんな……レフィカ様……」
ジェレンは嫌がらせと無縁の生活だっただろうけど、私は違う。
異母姉妹や妃たちは、立場の弱い私に、気まぐれで嫌がらせをすることが多かった。
――ベルタは私を煽ったつもりでしょうけど、嫌がらせへの耐性は、ジェレンたちよりあるんですよね。
私がベルタににこっと微笑むと、向こうは怯んだ。
「イーザック様が私の手紙を不要だとおっしゃるのであれば、燃やしていただけますか? 薪の代わりくらいにはなるでしょうから」
「え……? 燃やす? 薪?」
「はい、燃やしてください」
まさか、手紙を書いた本人から、『燃やしてください』なんて言われるとは思っていなかったようだ。
「どうせ捨てられるなら、燃料にしてもらえたほうが、無駄になりません」
「ね、燃料……?」
ベルタは呆気にとられていた。
「なぜ、そんな清々しい態度でいられるの……? メリア様に嫉妬し、恨まないのですか!?」
「恨むなんてとんでもないですわ。メリア妃にお伝えください。荷物を運び終えたら、すぐにでも自由……じゃなくて、すぐにでも出ていきますと」
危ない――うっかり本音が漏れてしまった。
ベルタは気まずそうな顔で、散らばった手紙を眺めていた。
嫌がらせをしたつもりが、私には通用せず、どうしていいかわからないようだ。
「王宮を去る前に、私の手紙を見ることができてよかったですわ」
「は……? なにがよかったの?」
私がイーザック様に宛てた手紙。
ベルタにぶちまけられてしまったけど、そのおかげでわかったことがある。
「イーザック様は、私の手紙を読んでくださっていたのですね」
ベルタがハッとした顔で、手紙に目をやる。
手紙の封さえ開けてもらえていないと思っていた。
でも、手紙の封はすべて開けられていた。
私の手紙を読んでくれていたのだ。
それも、破れたり折れ曲がった手紙はなく、綺麗に保管されていた。
「イーザック様は律儀で真面目な方なんですね。そんな方だから、一途に一人の女性を愛し続けていたのでしょう」
敵国のもくろみによって、押しつけられた妻。
それが私。
イーザック様はメリアへの愛を貫きたかったに違いない。
「手紙を見ただけで、どうしてわかるのよ……!」
私が言ったことは、間違っていなかったようだ。
ベルタは目に見えて動揺していた。
私は床に落ちた手紙を一通ずつ拾い集め、テーブルの上に置く。
そして、ベルタに告げた。
「私は二人の仲を引き裂くつもりはありません。王宮から静かに去ります」
ベルタがここへやってきて、嫌がらせをしたのは、私を王宮から早く追い出したかったからだ。
メリアに忠実な侍女のベルタ。
主の恋を邪魔した私を憎んでいた。
けれど、もう私を憎しむ必要はない。
妻として、愛されなかった私は、王宮から去って形だけの妃となるのだから。
「ジェレン。荷物は片付いたかしら?」
「はい……。侍女たちの荷物も馬車に積み終わりました」
新しい住まいは王宮の外にあるお屋敷だ。
「レフィカ様。手紙はどうなさいますか?」
私よりも悲しげな顔をした侍女が、私に尋ねた。
「……このまま、ここに残していきましょう。私が勝手に持っていっていいものではありませんから」
私が送った手紙は、イーザック様のものだ。
私のものではない。
煮ようが焼こうが、それはイーザック様が決めることだ。
「では、行きましょうか」
私と侍女が部屋を出ようとすると、ベルタが呼び止めた。
「レフィカ様! あなたは夫を奪われたのですよ? 正妃なのに、王宮を追い出されて悔しくないのですか? 悔しいと言ったらどうですかっ!」
「王宮を追い出されましたが、代わりにお屋敷をいただきました」
それも、立派なお屋敷である。
ありがたいことに、町が近く、でかけるのに、とっても便利だ。
王妃という立場上、どこへ行くにも許可や厳重な警護が必要で、外出なんてできなかった。かった。
――もうワクワクしかないですよ!
「イーザック様には、私と侍女が暮らせる場所を用意していただき、とても感謝しております」
『生活費も』とお礼を言いかけてやめた。
ベルタがイライラしているのが、わかったからだ。
「陛下が一番愛されている女性はメリア様ですわ! それをお忘れなきよう! いずれ、正妃になるのはメリア様ですからっ!」
――メリアの最終的な望みは、正妃になることなの?
私だけでなく、ジェレンや他の侍女たちは驚き、一斉にベルタを見た。
なぜなら【契約】が一つでも破られたら、王女がどうなるか、全員知っているからだ。
【契約】の内容は全部で五つあると、父から聞かされていた。
『王女を正妃として迎える』
『王女の逃亡を禁ずる』
『領土を奪わない』
『妻の不義』
どれか一つを破っても、私は死ぬ。
五つ目、最後の一つだけは教えてもらえなかった。
――ドーヴハルク王の【契約】の力をメリアは知らないはずない……
今となっては、古い昔話だと思っている人も多い『王の力』の話。
古代、神は争いが止まない大陸を嘆き、大陸に住んでいた部族に力を与えた。
それぞれの部族の長に与えた『王の力』――その力によって、大陸に争いがなくなり、国ができたという。
やがて、力は必要なくなり消えていったという話であるが、古い力を残す国もある。
私の故国、ドーヴハルク王国のように。
「正妃だけは譲れません」
「本性を現したわね! 正妃のままでいて、側妃のメリア様をバカにし続けるつもりでしょう!」
「違います」
【契約】の内容は、父とイーザック様だけが知る。
五つ目の【契約】がなんであるかわからない以上、私は慎重に行動しなくてはならない。
「一番愛されているメリア様こそ、正妃にふさわしいわ……! 絶対にメリア様を正妃にしてみせる!」
ブツブツと呪文のようにベルタは繰り返した。
――もし、イーザック様がメリアにお願いされて、正妃の地位を与えたら? そうなったら、そこで私の命は終わり……
いつ、イーザック様が心変わりするかわからない。
私は後宮で生まれ育ち、父の愛人を何人も見てきた。
長く寵愛を維持できた女性はいない。
後宮の女性たちは蹴落とし合いの奪い合い。
まずは国王陛下の侍女になるのが目標で、そこから王の目にとまって部屋をもらい、側妃となる。
側妃になれたら、次は正妃を蹴落とそうとする。
正妃になれば、側妃を貶める――終わりのない女の戦いが、延々と続く。
何度もそれを見てきたというのに……
想いが通じたら、妻になれたら、妃として権力を持てたら――その欲望には果てがない。
――イーザック様、わかっていますよね……?
私から正妃の地位を奪えば、死ぬということを。
メリアが正妃になる前に、私は心臓に刻まれた【契約】を無効にする方法を探さなくてはならない――生き延びるために。
後宮育ちの私には、それがわかっていた。
ジェレンは悔しそうに唇を噛んだだけで、なにもできなかった。
その様子を見て、くすりとベルタは意地悪く笑った。
「ジェレン、落ち着いて」
「わかっていますけど、あの態度! 我慢なりませんわ!」
「不利なのはこちらです。ジェレン、耐えてください」
「そんな……レフィカ様……」
ジェレンは嫌がらせと無縁の生活だっただろうけど、私は違う。
異母姉妹や妃たちは、立場の弱い私に、気まぐれで嫌がらせをすることが多かった。
――ベルタは私を煽ったつもりでしょうけど、嫌がらせへの耐性は、ジェレンたちよりあるんですよね。
私がベルタににこっと微笑むと、向こうは怯んだ。
「イーザック様が私の手紙を不要だとおっしゃるのであれば、燃やしていただけますか? 薪の代わりくらいにはなるでしょうから」
「え……? 燃やす? 薪?」
「はい、燃やしてください」
まさか、手紙を書いた本人から、『燃やしてください』なんて言われるとは思っていなかったようだ。
「どうせ捨てられるなら、燃料にしてもらえたほうが、無駄になりません」
「ね、燃料……?」
ベルタは呆気にとられていた。
「なぜ、そんな清々しい態度でいられるの……? メリア様に嫉妬し、恨まないのですか!?」
「恨むなんてとんでもないですわ。メリア妃にお伝えください。荷物を運び終えたら、すぐにでも自由……じゃなくて、すぐにでも出ていきますと」
危ない――うっかり本音が漏れてしまった。
ベルタは気まずそうな顔で、散らばった手紙を眺めていた。
嫌がらせをしたつもりが、私には通用せず、どうしていいかわからないようだ。
「王宮を去る前に、私の手紙を見ることができてよかったですわ」
「は……? なにがよかったの?」
私がイーザック様に宛てた手紙。
ベルタにぶちまけられてしまったけど、そのおかげでわかったことがある。
「イーザック様は、私の手紙を読んでくださっていたのですね」
ベルタがハッとした顔で、手紙に目をやる。
手紙の封さえ開けてもらえていないと思っていた。
でも、手紙の封はすべて開けられていた。
私の手紙を読んでくれていたのだ。
それも、破れたり折れ曲がった手紙はなく、綺麗に保管されていた。
「イーザック様は律儀で真面目な方なんですね。そんな方だから、一途に一人の女性を愛し続けていたのでしょう」
敵国のもくろみによって、押しつけられた妻。
それが私。
イーザック様はメリアへの愛を貫きたかったに違いない。
「手紙を見ただけで、どうしてわかるのよ……!」
私が言ったことは、間違っていなかったようだ。
ベルタは目に見えて動揺していた。
私は床に落ちた手紙を一通ずつ拾い集め、テーブルの上に置く。
そして、ベルタに告げた。
「私は二人の仲を引き裂くつもりはありません。王宮から静かに去ります」
ベルタがここへやってきて、嫌がらせをしたのは、私を王宮から早く追い出したかったからだ。
メリアに忠実な侍女のベルタ。
主の恋を邪魔した私を憎んでいた。
けれど、もう私を憎しむ必要はない。
妻として、愛されなかった私は、王宮から去って形だけの妃となるのだから。
「ジェレン。荷物は片付いたかしら?」
「はい……。侍女たちの荷物も馬車に積み終わりました」
新しい住まいは王宮の外にあるお屋敷だ。
「レフィカ様。手紙はどうなさいますか?」
私よりも悲しげな顔をした侍女が、私に尋ねた。
「……このまま、ここに残していきましょう。私が勝手に持っていっていいものではありませんから」
私が送った手紙は、イーザック様のものだ。
私のものではない。
煮ようが焼こうが、それはイーザック様が決めることだ。
「では、行きましょうか」
私と侍女が部屋を出ようとすると、ベルタが呼び止めた。
「レフィカ様! あなたは夫を奪われたのですよ? 正妃なのに、王宮を追い出されて悔しくないのですか? 悔しいと言ったらどうですかっ!」
「王宮を追い出されましたが、代わりにお屋敷をいただきました」
それも、立派なお屋敷である。
ありがたいことに、町が近く、でかけるのに、とっても便利だ。
王妃という立場上、どこへ行くにも許可や厳重な警護が必要で、外出なんてできなかった。かった。
――もうワクワクしかないですよ!
「イーザック様には、私と侍女が暮らせる場所を用意していただき、とても感謝しております」
『生活費も』とお礼を言いかけてやめた。
ベルタがイライラしているのが、わかったからだ。
「陛下が一番愛されている女性はメリア様ですわ! それをお忘れなきよう! いずれ、正妃になるのはメリア様ですからっ!」
――メリアの最終的な望みは、正妃になることなの?
私だけでなく、ジェレンや他の侍女たちは驚き、一斉にベルタを見た。
なぜなら【契約】が一つでも破られたら、王女がどうなるか、全員知っているからだ。
【契約】の内容は全部で五つあると、父から聞かされていた。
『王女を正妃として迎える』
『王女の逃亡を禁ずる』
『領土を奪わない』
『妻の不義』
どれか一つを破っても、私は死ぬ。
五つ目、最後の一つだけは教えてもらえなかった。
――ドーヴハルク王の【契約】の力をメリアは知らないはずない……
今となっては、古い昔話だと思っている人も多い『王の力』の話。
古代、神は争いが止まない大陸を嘆き、大陸に住んでいた部族に力を与えた。
それぞれの部族の長に与えた『王の力』――その力によって、大陸に争いがなくなり、国ができたという。
やがて、力は必要なくなり消えていったという話であるが、古い力を残す国もある。
私の故国、ドーヴハルク王国のように。
「正妃だけは譲れません」
「本性を現したわね! 正妃のままでいて、側妃のメリア様をバカにし続けるつもりでしょう!」
「違います」
【契約】の内容は、父とイーザック様だけが知る。
五つ目の【契約】がなんであるかわからない以上、私は慎重に行動しなくてはならない。
「一番愛されているメリア様こそ、正妃にふさわしいわ……! 絶対にメリア様を正妃にしてみせる!」
ブツブツと呪文のようにベルタは繰り返した。
――もし、イーザック様がメリアにお願いされて、正妃の地位を与えたら? そうなったら、そこで私の命は終わり……
いつ、イーザック様が心変わりするかわからない。
私は後宮で生まれ育ち、父の愛人を何人も見てきた。
長く寵愛を維持できた女性はいない。
後宮の女性たちは蹴落とし合いの奪い合い。
まずは国王陛下の侍女になるのが目標で、そこから王の目にとまって部屋をもらい、側妃となる。
側妃になれたら、次は正妃を蹴落とそうとする。
正妃になれば、側妃を貶める――終わりのない女の戦いが、延々と続く。
何度もそれを見てきたというのに……
想いが通じたら、妻になれたら、妃として権力を持てたら――その欲望には果てがない。
――イーザック様、わかっていますよね……?
私から正妃の地位を奪えば、死ぬということを。
メリアが正妃になる前に、私は心臓に刻まれた【契約】を無効にする方法を探さなくてはならない――生き延びるために。
あなたにおすすめの小説
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。