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第1章
7 目ざわりな正妃(1) ※メリア
「レフィカ様が王宮を出て行かれました」
明るい日差しが降り注ぐ庭園に立ち、花を眺めていると、侍女のベルタが戻ってきた。
「そう。やっと出ていったの」
わたくしの目の前には、この辺りでは見かけることのないドーヴハルク王国の花が咲いている。
薔薇に似た花は、空色やピンク、クリーム色といった薄い色が多い。
南のほうの色鮮やかな花とは違い、控えめな色ばかりが咲いている。
庭師は育てやすく、虫もつきにくいドーヴハルクの花を誉め、イーザック様も切れとは言わなかった。
――なんて、目ざわりな花なの。この花を見るたびに、イーザック様はレフィカ様を思い出すかもしれないわ。
これは一年前、レフィカ様が嫁いだ時、庭師にともに植えた花。
庭師から聞き、なおさら、この花が嫌いになった。
「メリア様。ひとまず、安心ですね!」
「安心? 安心なんてできないわ」
そばの噴水の水面には、花とともに、わたくしの平凡な容姿が映っている。
レフィカ様は銀糸のような髪を持ち、濃い青の目をし、まるで人形のようだった。
イーザック様は黒髪に琥珀色の美しい瞳を持つ。
――それに比べ、わたくしの容姿は普通……平凡すぎるわ。
茶色の髪を手でなでた。
周囲はわたくしを可愛いと言うけれど、美しいとは言わない。
美人が多いと有名なドーヴハルク人。
特に王女たちは美人ばかりだという。
その美貌で、他国の王をたぶらかし、妃の地位を手に入れる悪魔のような王女たち。
――でも、イーザック様は惑わされなかったわ。
イーザック様はわたくしを愛してくれる。
けれど、その愛が永遠とは限らない――愛は永遠でないと、わたくしは知っている。
なぜなら、わたくしのお父様は、お母様一人を愛しているふりをして、家族を騙し続けたからだ。
お父様には愛する女性がいた。
――イーザック様だって、わたくしを愛していると言いながら、いつ裏切るかわからないわ。
「陛下はメリア様だけを愛していらっしゃいますよ」
「ベルタ、唯一の妃でなくては、意味がないのよ。イーザック様は正妃だけは駄目だとおっしゃって、譲らなかったわ!」
本当にわたくしを愛しているなら、正妃にしたはず!
「……ベルタ、ハサミをちょうだい」
「ハサミですか? 少々お待ちくださいませ」
ベルタは庭師からハサミを借りてくると、わたくしに手渡した。
「どうぞ、メリア様」
黙ってハサミを受け取った。
ハサミを手にした視線の先に、花があった。
庭一面に咲いた花を一本ずつ切り落としていく。
パチンとハサミの音が鳴るたび、花は地面に落ち、茎だけを残す。
「メリア様!?」
「ねぇ、ベルタ。知っていた? この花はドーヴハルク王国の花なんですって」
地面に落ち、泥にまみれた花を見て、くすりと笑った。
レフィカ様と同じ。
王宮から追い出されたレフィカ様。
あなたは平民に混じり、汚れた生活をするといいわ。
「わたくしはこの王宮で、美しく咲き誇る妃となるのよ!」
声を立てて笑うと、ベルタが怯えた顔をして、わたくしに言った。
「メ、メリア様……。花を切るのは庭師におまかせされては……ひっ!」
ハサミを持ったまま、ベルタのほうを振り向いただけ。
それなのに、ベルタは恐怖で顔を歪ませた。
その顔がおかしくて、クスクス笑った。
「ベルタ。青い顔をして、どうしたの? まるで、あなたが首と胴体を切り落とされたような顔をしているわ」
「い、いえ、その……」
「ねぇ、わたくしが切り落としているのは、花でしょう? 人ではなくてよ?」
「さ、さようでございますね……」
ベルタはひきつった笑いを浮かべ、なんとか笑おうと努力していた。
――なんて退屈な侍女かしら。
「一緒に楽しんでくれないなんて、とても悲しいわ」
パチンと音を一つ鳴らすたび、花は地面へ落ちていく。
「ベルタ。なにをしているの?」
「え……?」
「わたくしの言葉が、聞こえなかったのかしら? 一緒に楽しみましょう?」
「メリア様。王宮の花を陛下の許可なく、勝手に切ってもよろしいのでしょうか?」
おどおどとした態度で、ベルタは言った。
「陛下の部屋に忍び込んで、手紙を勝手に持ち出したくせに、庭の花を切るのをためらうの?」
あはははっと笑うと、ベルタは青ざめた顔で、わたくしを見た。
「お待ちください。私が忍び込んだとは、どういうことですか?」
ベルタの細い指が震えているのがわかる。
「陛下の許可あったから、メリア様は私に陛下の部屋に行けと命じたのではないのですか?」
「許可? 許可はないわ」
「で、では……、レフィカ様の物があれば、処分しろというのは陛下のご命令ではなく……」
「あれはね、わたくしがベルタにお願いしただけよ。処分してちょうだいって!」
ベルタは両手を握り、ガタガタと震え出した。
そんなベルタを見て、可哀想になった。
「大丈夫よ。今のベルタは、王の寵愛を受ける妃の侍女でしょう?」
「さ、さようでございますよね! もちろん、わかっておりました!」
わたくしがベルタを見捨てないとわかって安心したのか、ようやく笑顔を見せた。
陰鬱なベルタの顔にはうんざりする。
レフィカ様の侍女たちは、全員が明るく美しく、健康的だった。
それが、わたくしには艶のない黒髪に淀んだ黒目、暗い性格をした侍女のベルタだけ。
ベルタは痩せた体をしていて、見るからに貧相な女性だ。
もちろん、わたくしの世話をする王宮の侍女はいるけれど、彼女たちに『イーザック様の部屋に行って、レフィカ様の痕跡がないか探して』とは頼めない。
頼んだところで、『陛下のお部屋に入るには、陛下の許可が必要でございます。陛下付きの侍従におうかがし、陛下に尋ねてまいります』と、返ってくるだけだ。
わたくしに忠実で、自由に動かせる侍女は、ベルタしかいない。
王女であるレフィカ様と伯爵令嬢のわたくし。
大国グランツエルデの貴族令嬢だと言っても、しょせん貴族。
王族とは違う。
――レフィカ様に負けたくないのに……! どうして、王宮にはドーヴハルク人よりも美しい侍女がいないのよ!
王宮に来たばかりだというのに、わたくしの気に入らないことばかりが起きる。
「予想外だったわ。まさか、イーザック様がレフィカ様の手紙を大切にとってあったなんてね」
わたくしの怒りで歪んだ顔を隠すために、ベルタから顔を背けた。
苛立ちながら、また一つ花を切り落とす。
――もしかして、浮気ではなくて?
レフィカ様の手紙について、イーザック様に問いただす必要があるわ。
「わたくしを愛しているなら、イーザック様は手紙を処分する手間が省けたと、喜んでくれるはずよ」
「陛下は喜ばれるでしょう」
「そうよね? 部屋のゴミを片付けてあげただけですもの」
「もちろんですわ。メリア様がおっしゃるとおりです!」
わたくしは自分に忠実な侍女が欲しかった。
ベルタの生まれは、王都の貧民街出身。
家は多額の借金を抱えていた。
何日かベルタの行動を観察をし、ちょうど借金取りに殴られ、道に倒れ動けなくなっていたところを助けてあげた。
自分の境遇に絶望している姿を見て、わたくしは彼女に決めた。
ベルタの家の借金など、わたくしのお父様にすれば、はした金。
お父様に『侍女が欲しいの』と可愛らしくおねだりして、ベルタの家の借金を支払ってもらった。
わたくしは忠実な侍女を手に入れた。
『メリア様、ありがとうございます! 助けてくださったメリア様のためでしたら、なんでもやります!』
ベルタは地獄のような生活から救われ、わたくしを女神様のように崇めるようになった。
そんなベルタは、わたくしと一緒に花を切る。
この目ざわりな花を――
あと少しで終わるというところで、イーザック様が現れた。
「メリア、なにをしている」
顔を見なくても、イーザック様の声は戸惑い、驚いているのがわかった。
わたくしは一番可愛らしく、無邪気に見える笑みを作って、イーザック様の声がしたほうを振り返った。
明るい日差しが降り注ぐ庭園に立ち、花を眺めていると、侍女のベルタが戻ってきた。
「そう。やっと出ていったの」
わたくしの目の前には、この辺りでは見かけることのないドーヴハルク王国の花が咲いている。
薔薇に似た花は、空色やピンク、クリーム色といった薄い色が多い。
南のほうの色鮮やかな花とは違い、控えめな色ばかりが咲いている。
庭師は育てやすく、虫もつきにくいドーヴハルクの花を誉め、イーザック様も切れとは言わなかった。
――なんて、目ざわりな花なの。この花を見るたびに、イーザック様はレフィカ様を思い出すかもしれないわ。
これは一年前、レフィカ様が嫁いだ時、庭師にともに植えた花。
庭師から聞き、なおさら、この花が嫌いになった。
「メリア様。ひとまず、安心ですね!」
「安心? 安心なんてできないわ」
そばの噴水の水面には、花とともに、わたくしの平凡な容姿が映っている。
レフィカ様は銀糸のような髪を持ち、濃い青の目をし、まるで人形のようだった。
イーザック様は黒髪に琥珀色の美しい瞳を持つ。
――それに比べ、わたくしの容姿は普通……平凡すぎるわ。
茶色の髪を手でなでた。
周囲はわたくしを可愛いと言うけれど、美しいとは言わない。
美人が多いと有名なドーヴハルク人。
特に王女たちは美人ばかりだという。
その美貌で、他国の王をたぶらかし、妃の地位を手に入れる悪魔のような王女たち。
――でも、イーザック様は惑わされなかったわ。
イーザック様はわたくしを愛してくれる。
けれど、その愛が永遠とは限らない――愛は永遠でないと、わたくしは知っている。
なぜなら、わたくしのお父様は、お母様一人を愛しているふりをして、家族を騙し続けたからだ。
お父様には愛する女性がいた。
――イーザック様だって、わたくしを愛していると言いながら、いつ裏切るかわからないわ。
「陛下はメリア様だけを愛していらっしゃいますよ」
「ベルタ、唯一の妃でなくては、意味がないのよ。イーザック様は正妃だけは駄目だとおっしゃって、譲らなかったわ!」
本当にわたくしを愛しているなら、正妃にしたはず!
「……ベルタ、ハサミをちょうだい」
「ハサミですか? 少々お待ちくださいませ」
ベルタは庭師からハサミを借りてくると、わたくしに手渡した。
「どうぞ、メリア様」
黙ってハサミを受け取った。
ハサミを手にした視線の先に、花があった。
庭一面に咲いた花を一本ずつ切り落としていく。
パチンとハサミの音が鳴るたび、花は地面に落ち、茎だけを残す。
「メリア様!?」
「ねぇ、ベルタ。知っていた? この花はドーヴハルク王国の花なんですって」
地面に落ち、泥にまみれた花を見て、くすりと笑った。
レフィカ様と同じ。
王宮から追い出されたレフィカ様。
あなたは平民に混じり、汚れた生活をするといいわ。
「わたくしはこの王宮で、美しく咲き誇る妃となるのよ!」
声を立てて笑うと、ベルタが怯えた顔をして、わたくしに言った。
「メ、メリア様……。花を切るのは庭師におまかせされては……ひっ!」
ハサミを持ったまま、ベルタのほうを振り向いただけ。
それなのに、ベルタは恐怖で顔を歪ませた。
その顔がおかしくて、クスクス笑った。
「ベルタ。青い顔をして、どうしたの? まるで、あなたが首と胴体を切り落とされたような顔をしているわ」
「い、いえ、その……」
「ねぇ、わたくしが切り落としているのは、花でしょう? 人ではなくてよ?」
「さ、さようでございますね……」
ベルタはひきつった笑いを浮かべ、なんとか笑おうと努力していた。
――なんて退屈な侍女かしら。
「一緒に楽しんでくれないなんて、とても悲しいわ」
パチンと音を一つ鳴らすたび、花は地面へ落ちていく。
「ベルタ。なにをしているの?」
「え……?」
「わたくしの言葉が、聞こえなかったのかしら? 一緒に楽しみましょう?」
「メリア様。王宮の花を陛下の許可なく、勝手に切ってもよろしいのでしょうか?」
おどおどとした態度で、ベルタは言った。
「陛下の部屋に忍び込んで、手紙を勝手に持ち出したくせに、庭の花を切るのをためらうの?」
あはははっと笑うと、ベルタは青ざめた顔で、わたくしを見た。
「お待ちください。私が忍び込んだとは、どういうことですか?」
ベルタの細い指が震えているのがわかる。
「陛下の許可あったから、メリア様は私に陛下の部屋に行けと命じたのではないのですか?」
「許可? 許可はないわ」
「で、では……、レフィカ様の物があれば、処分しろというのは陛下のご命令ではなく……」
「あれはね、わたくしがベルタにお願いしただけよ。処分してちょうだいって!」
ベルタは両手を握り、ガタガタと震え出した。
そんなベルタを見て、可哀想になった。
「大丈夫よ。今のベルタは、王の寵愛を受ける妃の侍女でしょう?」
「さ、さようでございますよね! もちろん、わかっておりました!」
わたくしがベルタを見捨てないとわかって安心したのか、ようやく笑顔を見せた。
陰鬱なベルタの顔にはうんざりする。
レフィカ様の侍女たちは、全員が明るく美しく、健康的だった。
それが、わたくしには艶のない黒髪に淀んだ黒目、暗い性格をした侍女のベルタだけ。
ベルタは痩せた体をしていて、見るからに貧相な女性だ。
もちろん、わたくしの世話をする王宮の侍女はいるけれど、彼女たちに『イーザック様の部屋に行って、レフィカ様の痕跡がないか探して』とは頼めない。
頼んだところで、『陛下のお部屋に入るには、陛下の許可が必要でございます。陛下付きの侍従におうかがし、陛下に尋ねてまいります』と、返ってくるだけだ。
わたくしに忠実で、自由に動かせる侍女は、ベルタしかいない。
王女であるレフィカ様と伯爵令嬢のわたくし。
大国グランツエルデの貴族令嬢だと言っても、しょせん貴族。
王族とは違う。
――レフィカ様に負けたくないのに……! どうして、王宮にはドーヴハルク人よりも美しい侍女がいないのよ!
王宮に来たばかりだというのに、わたくしの気に入らないことばかりが起きる。
「予想外だったわ。まさか、イーザック様がレフィカ様の手紙を大切にとってあったなんてね」
わたくしの怒りで歪んだ顔を隠すために、ベルタから顔を背けた。
苛立ちながら、また一つ花を切り落とす。
――もしかして、浮気ではなくて?
レフィカ様の手紙について、イーザック様に問いただす必要があるわ。
「わたくしを愛しているなら、イーザック様は手紙を処分する手間が省けたと、喜んでくれるはずよ」
「陛下は喜ばれるでしょう」
「そうよね? 部屋のゴミを片付けてあげただけですもの」
「もちろんですわ。メリア様がおっしゃるとおりです!」
わたくしは自分に忠実な侍女が欲しかった。
ベルタの生まれは、王都の貧民街出身。
家は多額の借金を抱えていた。
何日かベルタの行動を観察をし、ちょうど借金取りに殴られ、道に倒れ動けなくなっていたところを助けてあげた。
自分の境遇に絶望している姿を見て、わたくしは彼女に決めた。
ベルタの家の借金など、わたくしのお父様にすれば、はした金。
お父様に『侍女が欲しいの』と可愛らしくおねだりして、ベルタの家の借金を支払ってもらった。
わたくしは忠実な侍女を手に入れた。
『メリア様、ありがとうございます! 助けてくださったメリア様のためでしたら、なんでもやります!』
ベルタは地獄のような生活から救われ、わたくしを女神様のように崇めるようになった。
そんなベルタは、わたくしと一緒に花を切る。
この目ざわりな花を――
あと少しで終わるというところで、イーザック様が現れた。
「メリア、なにをしている」
顔を見なくても、イーザック様の声は戸惑い、驚いているのがわかった。
わたくしは一番可愛らしく、無邪気に見える笑みを作って、イーザック様の声がしたほうを振り返った。
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