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第4章
50 父の訪れ(1)
まさか、父自身がグランツエルデ王国へやってくるとは思わなかった。
五つ目の【契約】を教えてもらえないまま、私はドーヴハルク王国からやってくる父を王宮で待つようイーザック様に命じられた。
そして、なぜか別居前に使っていた部屋とは別の部屋を与えられた。
さらにイーザック様から、花やドレス、アクセサリーなどが届き、違和感と戸惑いしかない。
――なぜ、今になって……?
そう思ったのは、私だけではなかった。
「ここは以前と同じ部屋ではありませんわね」
父が到着する前に、シャルク・ホジャにいたジェレンと侍女たちが、大急ぎで王宮へやってきた。
私のそばに、自分がつけたはずの侍女がいなければ、父がなにかおかしいと、勘づくに違いない。
とはいえ、抜け目のない父のことだから、すでに私が別居されたことも、イーザック様が新しい妻を迎えたことも知っているはずだ。
――やってきて、私に正妃としての役目を果たすよう命じるはず……
「なんというか……。この部屋は豪華ですけれど、薄暗くて重々しい雰囲気ですわね。それに、テーブルにはひっかいたような傷がありますわ……」
ジェレンは部屋を眺め、浮かない顔をした。
金の装飾が施された立派な木のテーブルは、ジェレンが言った通り、爪でひっかいたような細い線が残っている。
私を部屋に案内した侍従の説明によれば、歴代の王妃が使っていた部屋だという。
この部屋には、戦いを描いた絵画や豪奢な金の刺繍が施されたカーテン、金の燭台、神々の天井画が描かれている。
天井にはクリスタルシャンデリアがきらめき、部屋は明るく美しく贅沢なもの。
素晴らしい部屋だけど、私たちはシャルク・ホジャのお屋敷へ戻りたいと思っていた。
――シャルク・ホジャに帰りたい……。ゼリヤやハリル、町役場の人たちは元気でいるかしら?
窓の外をぼんやり眺めた。
前の王が、王妃のために造らせたという薔薇園には、見事な薔薇の花が咲いている。
「レフィカ様。もしかしたら、この豪華な部屋は王妃が使う部屋かもしれませんね。でも、いったいどんな風の吹きまわしで、こんな待遇になったのでしょうか?」
ジェレンは怪訝そうな顔をし、イーザック様から届いたドレスや靴、宝石を横へやった。
「それが、イーザック様はなにも言ってこないのよ……」
私が五つ目の【契約】を教えてほしいとお願いしたのが悪かったのか、イーザック様とはあれ以来、一度も顔を合わせていない。
それはジグルズ様も同じで、避けられているらしい。
ジグルズ様は王宮に来たら使う部屋をお持ちだそうで、そちらに滞在している。
「ジグルズ様のお屋敷から、レフィカ様のドレスを持ってきました。こちらをお召しになりますか?」
「ええ。そうね」
さすがに毒は仕込まれていないと思うけど、ジェレンたちはなにかウラがあるのではと怪しんで、使う気になれないようだ。
それは、他の侍女たちも同じだった。
「メリア様がいなくなったから、別居を解消して、レフィカ様を妃に戻すなんて、都合がよすぎますわ!」
「まずは、レフィカ様に謝罪をしていただかないと!」
「なにもなかったような顔で、夫として振る舞うおつもりでしょうか?」
今までの冷遇ぶりを考えたら、ジェレンたちのように思って当たり前だ。
「イーザック様は同盟を維持するため、私を妃に戻したいのかもしれません」
もしかしたら、シャルク・ホジャへ帰れない可能性もある。
――このまま、王宮でイーザック様の妃として、私は縛られ続けるの?
「レフィカ様……。泣かないでくださいませ」
ジェレンがハンカチを差し出した。
気づかないうちに泣いていたらしく、私はハンカチを受け取って、涙をぬぐう。
「わかっております。レフィカ様の今までの行動は、【契約】を無効にし、自由になるのが目的だったのでしょう? リュザール王国へ行ったのも、イレーネ様にお会いするためだったのではないですか?」
「ジェレン……。なぜ、それを……」
「私たちはレフィカ様付きの侍女に選ばれるにあたり、ドーヴハルク国王陛下より、密命を承っておりました」
やはり、父はイレーネお姉様の死を信じていなかったのだ。
そして、私とイレーネお姉様が親しかったことから、いつか接触するのではと思っていた。
ジェレンたちに私の監視役を命じていた――
「ご安心くださいませ。イレーネ王女の姿は見ておりませんと報告しておきました」
「ジェレン!」
「嘘はついておりませんわ。見ておりませんもの」
侍女たちも同様にうなずいている。
「カリム様しか見ておりません! 見目麗しいエキゾチックな男性で!」
「ジグルズ様とカリム様が並ぶと、魅力が増しますわ」
「目の保養になりますよねぇ~」
「色んなタイプのイケメンがいるシャルク・ホジャは最高です!」
シャルク・ホジャでの生活が楽しかったのは、私だけではなかったようだ。
「ドーヴハルク王国からシャルク・ホジャへ。そして、遠いリュザール王国の地まで行かれたレフィカ様に、私たちは誰よりも幸せになってほしいと願っております」
私が【契約】を無効にし、生きようとしていたことに、彼女たちは最初から気づいていたのだ。
ドーヴハルク王国から、ここまでの間、ずっと一緒にいて助けてくれた。
「今まで、私についてきてくれて本当にありがとう」
左胸に手を置き、私は父と対峙する覚悟を決めた。
――父が来る。
父は多くの王子たちの中で、生き延びて王位を手に入れた。
中途半端な嘘であれば、簡単に見抜くだろう。
「もし、お父様に嘘をついたと責められたら、私に頼まれたと言ってください」
「レフィカ様!?」
「全員、お父様を知っているはず。甘い人ではありませんよ」
ジェレンは貴族令嬢で、他の侍女たちもそれなりの家柄である。
ドーヴハルク王国には大切な家族がいる。
「いいですか? 必ず、自分の身を守ってください。お父様は容赦なく、あなたたちに罰を与えるでしょう」
誰も『違う』とは言わなかった。
「ドーヴハルク王が到着されました」
侍従が部屋にやってきて、父の到着を告げた。
「出迎えましょう」
ジェレンたちを伴い、部屋を出た。
私はグランツエルデ王国に嫁ぎ、多くの人と出会い、二度と会えないはずだったイレーネお姉様と再会した。
そして、私にはジグルズ様がいる。
私はもうドーヴハルク王国の後宮の片隅で、虐げられていた王女ではないのだ――
五つ目の【契約】を教えてもらえないまま、私はドーヴハルク王国からやってくる父を王宮で待つようイーザック様に命じられた。
そして、なぜか別居前に使っていた部屋とは別の部屋を与えられた。
さらにイーザック様から、花やドレス、アクセサリーなどが届き、違和感と戸惑いしかない。
――なぜ、今になって……?
そう思ったのは、私だけではなかった。
「ここは以前と同じ部屋ではありませんわね」
父が到着する前に、シャルク・ホジャにいたジェレンと侍女たちが、大急ぎで王宮へやってきた。
私のそばに、自分がつけたはずの侍女がいなければ、父がなにかおかしいと、勘づくに違いない。
とはいえ、抜け目のない父のことだから、すでに私が別居されたことも、イーザック様が新しい妻を迎えたことも知っているはずだ。
――やってきて、私に正妃としての役目を果たすよう命じるはず……
「なんというか……。この部屋は豪華ですけれど、薄暗くて重々しい雰囲気ですわね。それに、テーブルにはひっかいたような傷がありますわ……」
ジェレンは部屋を眺め、浮かない顔をした。
金の装飾が施された立派な木のテーブルは、ジェレンが言った通り、爪でひっかいたような細い線が残っている。
私を部屋に案内した侍従の説明によれば、歴代の王妃が使っていた部屋だという。
この部屋には、戦いを描いた絵画や豪奢な金の刺繍が施されたカーテン、金の燭台、神々の天井画が描かれている。
天井にはクリスタルシャンデリアがきらめき、部屋は明るく美しく贅沢なもの。
素晴らしい部屋だけど、私たちはシャルク・ホジャのお屋敷へ戻りたいと思っていた。
――シャルク・ホジャに帰りたい……。ゼリヤやハリル、町役場の人たちは元気でいるかしら?
窓の外をぼんやり眺めた。
前の王が、王妃のために造らせたという薔薇園には、見事な薔薇の花が咲いている。
「レフィカ様。もしかしたら、この豪華な部屋は王妃が使う部屋かもしれませんね。でも、いったいどんな風の吹きまわしで、こんな待遇になったのでしょうか?」
ジェレンは怪訝そうな顔をし、イーザック様から届いたドレスや靴、宝石を横へやった。
「それが、イーザック様はなにも言ってこないのよ……」
私が五つ目の【契約】を教えてほしいとお願いしたのが悪かったのか、イーザック様とはあれ以来、一度も顔を合わせていない。
それはジグルズ様も同じで、避けられているらしい。
ジグルズ様は王宮に来たら使う部屋をお持ちだそうで、そちらに滞在している。
「ジグルズ様のお屋敷から、レフィカ様のドレスを持ってきました。こちらをお召しになりますか?」
「ええ。そうね」
さすがに毒は仕込まれていないと思うけど、ジェレンたちはなにかウラがあるのではと怪しんで、使う気になれないようだ。
それは、他の侍女たちも同じだった。
「メリア様がいなくなったから、別居を解消して、レフィカ様を妃に戻すなんて、都合がよすぎますわ!」
「まずは、レフィカ様に謝罪をしていただかないと!」
「なにもなかったような顔で、夫として振る舞うおつもりでしょうか?」
今までの冷遇ぶりを考えたら、ジェレンたちのように思って当たり前だ。
「イーザック様は同盟を維持するため、私を妃に戻したいのかもしれません」
もしかしたら、シャルク・ホジャへ帰れない可能性もある。
――このまま、王宮でイーザック様の妃として、私は縛られ続けるの?
「レフィカ様……。泣かないでくださいませ」
ジェレンがハンカチを差し出した。
気づかないうちに泣いていたらしく、私はハンカチを受け取って、涙をぬぐう。
「わかっております。レフィカ様の今までの行動は、【契約】を無効にし、自由になるのが目的だったのでしょう? リュザール王国へ行ったのも、イレーネ様にお会いするためだったのではないですか?」
「ジェレン……。なぜ、それを……」
「私たちはレフィカ様付きの侍女に選ばれるにあたり、ドーヴハルク国王陛下より、密命を承っておりました」
やはり、父はイレーネお姉様の死を信じていなかったのだ。
そして、私とイレーネお姉様が親しかったことから、いつか接触するのではと思っていた。
ジェレンたちに私の監視役を命じていた――
「ご安心くださいませ。イレーネ王女の姿は見ておりませんと報告しておきました」
「ジェレン!」
「嘘はついておりませんわ。見ておりませんもの」
侍女たちも同様にうなずいている。
「カリム様しか見ておりません! 見目麗しいエキゾチックな男性で!」
「ジグルズ様とカリム様が並ぶと、魅力が増しますわ」
「目の保養になりますよねぇ~」
「色んなタイプのイケメンがいるシャルク・ホジャは最高です!」
シャルク・ホジャでの生活が楽しかったのは、私だけではなかったようだ。
「ドーヴハルク王国からシャルク・ホジャへ。そして、遠いリュザール王国の地まで行かれたレフィカ様に、私たちは誰よりも幸せになってほしいと願っております」
私が【契約】を無効にし、生きようとしていたことに、彼女たちは最初から気づいていたのだ。
ドーヴハルク王国から、ここまでの間、ずっと一緒にいて助けてくれた。
「今まで、私についてきてくれて本当にありがとう」
左胸に手を置き、私は父と対峙する覚悟を決めた。
――父が来る。
父は多くの王子たちの中で、生き延びて王位を手に入れた。
中途半端な嘘であれば、簡単に見抜くだろう。
「もし、お父様に嘘をついたと責められたら、私に頼まれたと言ってください」
「レフィカ様!?」
「全員、お父様を知っているはず。甘い人ではありませんよ」
ジェレンは貴族令嬢で、他の侍女たちもそれなりの家柄である。
ドーヴハルク王国には大切な家族がいる。
「いいですか? 必ず、自分の身を守ってください。お父様は容赦なく、あなたたちに罰を与えるでしょう」
誰も『違う』とは言わなかった。
「ドーヴハルク王が到着されました」
侍従が部屋にやってきて、父の到着を告げた。
「出迎えましょう」
ジェレンたちを伴い、部屋を出た。
私はグランツエルデ王国に嫁ぎ、多くの人と出会い、二度と会えないはずだったイレーネお姉様と再会した。
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