51 / 54
第4章
51 父の訪れ(2)
父と一年ぶりに顔を合わせた。
その壮健さは変わらず、ドーヴハルクの地に吹く冷たい風を思い出させる青い目と長い銀髪。
王としての威厳を漂わせた雰囲気に、出迎えたグランツエルデ王国側は、圧倒されていた。
「グランツエルデ王に出迎えられるとは思わなかった。会うのは【契約】以来だろうか」
父は【契約】を持ち出し、双方が対等な立場であることを仄めかした。
そんな父にーザック様は動じることなく、優雅に微笑んだ。
「ドーヴハルク王が、子煩悩な方だったとは知りませんでした。意外な一面があるものですね」
嫁いだ娘を心配して訪れたというのが、表向きの理由である。
でも、娘の命を利用した同盟を結んでおいて、子煩悩なわけがない。
【契約】の話を持ち出した父に、イーザック様は嫌みを含んだ返しをした。
「いつ命を落とすかわからない娘だ。会って顔を見ておかねば、リュザール王国に嫁いだイレーネのようになるかもしれないだろう?」
父はわざとイレーネお姉様の名を出し、私の表情の変化を探る。
――やっぱりお父様は、イレーネお姉様が生きてることに気づいてるわ。
でも、私からイレーネお姉様のことを言うつもりはない。
幸せに暮らしているカリム様とイレーネお姉様のことは隠し通す――絶対に!
顔を上げ、父の視線を真っ向から受けた。
「お父様にご心配おかけてしてしまい、申し訳ございません。王宮前ではなく、中でお話しされてはいかがでしょうか?」
「噂で聞いていたよりも、王妃らしい振る舞いをしているな」
「私の噂ですか?」
「そうだ。他の女に夫を奪われ、王宮を追い出されて、平民に混じって働いていると耳にした」
――だいたい合ってる。
私が王都にいない間、そんな噂が流れていたとは知らなかった。
イーザック様の顔を見ると、気まずそうな顔をしていた。
「王の兄に拾われ、世話をされているとも聞いた。それは本当か?」
「ええ。まあ……」
「夫を奪われるとは情けない娘だ」
そう言われると思っていた。
まだ『この役立たずめ!』と罵られ、殺されなかっただけマシである。
父と話すのは、嫁ぎ先が決まった日以来だった。
【契約】の場で、父との会話はなかった。
道具でしかない娘にかける言葉はないのだろう。
けれど、今、父は私を見て会話をしている。
「お父様。部屋に軽い食事と飲み物を用意してあります。中へどうぞ」
「食事は済ませている」
用心深い父は、毒味が済んでいないものを口にしたくないようだ。
「庭で話すというのはどうだろう?」
「俺は構いませんよ」
父はイーザック様を庭へ誘い、狭く戦いにくい場所を避けた。
父の周りを固めているのは、ドーヴハルク王国の兵士たちだ。
その兵士たちの風貌は、全員が戦い慣れた戦士のような男性ばかり。
イーザック様の周りを護衛する華やかな騎士たちとは雰囲気が違う。
【契約】で同盟を結んでいても、父は自分以外の人間を心から信じることはない。
イーザック様が庭へ行く前に、横目でジグルズ様の存在を確認した。
ジグルズ様は『大丈夫だ』というように、無言でうなずいた。
騎士たちが弱いわけではないだろうけど、ジグルズ様がいることで、安心感は倍になる。
「ジグルズ、久しぶりだな。最近はもう旅をしていないのか?」
お父様がジグルズ様に声をかけた。
ジグルズ様は動じることなく、友人のように親しげな笑みを浮かべた。
「俺は公爵ですからね。昔よりは気楽ではないですね」
お父様とジグルズ様が、すでに顔見知りだったことに驚いた。
――二人は初対面ではない? そういえば、以前、ドーヴハルク王国のことを言っていたような……
『旅をしていた頃、ドーヴハルク王国には何度か立ち寄ったが、草原と森林が広がる寒い地だったな』
初めて会った時、ジグルズ様がそんなことを言っていたような気がする。
「兄上とドーヴハルク王が顔見知りだったとは、知りませんでした」
「ジグルズと偶然出会っただけだ。誰にも言ってなかったのか?」
「お忍びだったので、言わないほうがいいかと思いまして」
父は王宮を抜け出し、どこかに行くこともあったようだ。
お忍びを知られたくないだろうと、ジグルズ様に言われ、その通りだったのか、父は否定しなかった。
「では、庭へ」
イーザック様が庭へ案内する。
「新しく妻にした女が、レフィカの命を狙ったそうだな?」
グランツエルデ王国内では、『正妃の命を狙い、牢屋に入れられた』という話は、すでに有名な話になっていた。
国民が知っている情報は、父の耳にも入っていると思ったほうがよさそうだ。
「牢屋にいますよ。ドーヴハルク王が娘の命を狙った相手に、そこまで興味があるとは思いませんでした」
父は私の命を狙った相手に興味はない。
興味があるのは――
「グランツエルデ王の子を産むであろう娘だ。大事にして当然だろう?」
自分の血を引いた子が、グランツエルデ王となることだけ。
イーザック様は父の思惑を察して、表情を強ばらせた。
薔薇園にさしかかり、全員が足を止めた。
「見事な薔薇園だ」
「薔薇がお好きで?」
「いや、特に興味はない。ただ、寒い地で育てられる花は限られると思っただけだ」
父は表情を変えずに薔薇を眺めた。
「我々にも美しい薔薇園を造れる土地があればいいのだが」
その言葉に、イーザック様は顔を強ばらせた。
父は自分の野心を隠さない。
今よりも南下して、グランツエルデ王国の領地を手に入れたいと、遠回しに伝えたのだ。
そして、【契約】による同盟の重要さをわからせようと、わざと脅した。
返事に窮したイーザック様に気づき、横から口を挟んだ。
「お父様。強い花はどこであっても咲きますわ」
「俺もそう思う。ドーヴハルク王国の花はどれも強い花だ」
私とジグルズ様は微笑んだ。
私たちを見た父は、勝ち誇った笑みを浮かべて言った。
「ジグルズ。王にならなかったことを後悔させたいと思っていた」
「俺は後悔してませんよ」
「レフィカを妻にできなくてもか?」
父の思惑は、グランツエルデ王家を乗っとることだけではなかったのだ。
ジグルズ様に対しても仕掛けられていた。
「なるほど。王女たちの中から、あえてレフィカを選んで嫁がせたのは、ドーヴハルク王のたくらみでしたか」
「レフィカは娘たちの中でも美しい。そして、馬鹿ではない。ジグルズが気に入るだろうと思っていた」
初めて父から褒められたのに、嬉しくなかった。
父はイーザック様ではなく、ジグルズ様のことを考え、私を嫁がせた――なぜ、そんなことを。
「だが、残念だ。【契約】がある。王女を妻にできる資格があるのは、【契約】した王のみ」
王位を目指した父と王位を捨てたジグルズ様。
父にとって、王位を捨てて生きるジグルズ様は、自分を否定する存在なのだ。
イーザック様のほうを見ると、話を聞いて呆然としていた。
そんなイーザック様を気にするどころか、無視して父は話を続ける。
「俺はジグルズに王になれと言ったはずだ。なぜ、王にならなかった」
ジグルズ様が王にならなかったことが、父は不満なようだ。
「何度聞かれても、俺は同じ答えしか返せませんよ。王の力を捨てるためです。弟のイーザックがいたからこそ、俺は迷わずに済んだ」
「兄上……」
父の目は冷ややかで、ジグルズ様が王位を望まなかったことが、理解できないようだった。
――でも、お父様にはきっとわからない。
父にとって、他の兄弟は協力するものではなく、王位を争い殺し合うだけの存在だからだ。
「愚かな。王の力があったからこそ、他国から領土を守ってこれたのではないか」
イーザック様は父の言葉に反発した。
「俺はそう思わない。俺は即位してから一度も王の力を必要としなかった。なくても、国は治められる」
「若い王らしい思い上がりだ。思い上がるのもいい加減にしてもらいたいものだ。王の力があれば、俺の剣も簡単にかわせるだろう。だが、なければ……」
なにをしようとしているのか、父の手が剣の柄に触れた。
「お父様、やめてください! イーザック様はグランツエルデ王です。剣を向けるなんて許されません!」
護衛の騎士たちが、今にも剣を抜き、動こうとしている。
それをジグルズ様が止めた。
「王の力をいらないと言うからには、自分の力に自信があるのだろう? どうだ? 剣を交えてみないか?」
父はイーザック様を挑発した。
この間の暗殺者の襲撃でわかったことだけど、イーザック様の剣の腕前はそれほど強くない
それに対し、父は幼少の頃から命を狙われていたこともあり、戦闘経験はイーザック様よりも上だ。
かなりの腕前ではないかと、想像できた。
「剣の勝負をしたいなら、俺でよろしいのでは?」
ジグルズ様が前へ出た。
「ジグルズ様……! 父と剣の勝負だなんて……」
「レフィカ、心配ない」
ぽんっと私の頭を叩いて、いつものように笑った。
「王を守るのは貴族の役目。公爵である俺が代わりに引き受けましょう」
「ジグルズか。いいぞ。王の力を拒むお前に、王の力を使わせるのも一興だ」
すでに父は、ジグルズ様が王の力を継承していると気づいていた。
「どうして、お父様はジグルズ様が王の力を持っていると知っているのですか?」
「簡単なことだ。王の力は必ず身近な者を犠牲にする。お前が犠牲になったようにな」
――私はまだ生きている。
それなのに、父は私の死が確定しているような口ぶりだった。
【契約】を簡単に無効にはできないと、父から言われたような気がした。
「さて、ジグルズ。王の力を見せてもらおうか?」
父は嬉々として剣を抜いた。
ドーヴハルク王に即位するまで、一度の負けも許されなかった父。
負ければ、待っているのは死だった。
父は大勢の王子たちの屍の上に立っている。
それが父の自信の源でもある。
自信に満ち溢れた姿で、ジグルズ様に剣先を真っ直ぐ向けた。
その壮健さは変わらず、ドーヴハルクの地に吹く冷たい風を思い出させる青い目と長い銀髪。
王としての威厳を漂わせた雰囲気に、出迎えたグランツエルデ王国側は、圧倒されていた。
「グランツエルデ王に出迎えられるとは思わなかった。会うのは【契約】以来だろうか」
父は【契約】を持ち出し、双方が対等な立場であることを仄めかした。
そんな父にーザック様は動じることなく、優雅に微笑んだ。
「ドーヴハルク王が、子煩悩な方だったとは知りませんでした。意外な一面があるものですね」
嫁いだ娘を心配して訪れたというのが、表向きの理由である。
でも、娘の命を利用した同盟を結んでおいて、子煩悩なわけがない。
【契約】の話を持ち出した父に、イーザック様は嫌みを含んだ返しをした。
「いつ命を落とすかわからない娘だ。会って顔を見ておかねば、リュザール王国に嫁いだイレーネのようになるかもしれないだろう?」
父はわざとイレーネお姉様の名を出し、私の表情の変化を探る。
――やっぱりお父様は、イレーネお姉様が生きてることに気づいてるわ。
でも、私からイレーネお姉様のことを言うつもりはない。
幸せに暮らしているカリム様とイレーネお姉様のことは隠し通す――絶対に!
顔を上げ、父の視線を真っ向から受けた。
「お父様にご心配おかけてしてしまい、申し訳ございません。王宮前ではなく、中でお話しされてはいかがでしょうか?」
「噂で聞いていたよりも、王妃らしい振る舞いをしているな」
「私の噂ですか?」
「そうだ。他の女に夫を奪われ、王宮を追い出されて、平民に混じって働いていると耳にした」
――だいたい合ってる。
私が王都にいない間、そんな噂が流れていたとは知らなかった。
イーザック様の顔を見ると、気まずそうな顔をしていた。
「王の兄に拾われ、世話をされているとも聞いた。それは本当か?」
「ええ。まあ……」
「夫を奪われるとは情けない娘だ」
そう言われると思っていた。
まだ『この役立たずめ!』と罵られ、殺されなかっただけマシである。
父と話すのは、嫁ぎ先が決まった日以来だった。
【契約】の場で、父との会話はなかった。
道具でしかない娘にかける言葉はないのだろう。
けれど、今、父は私を見て会話をしている。
「お父様。部屋に軽い食事と飲み物を用意してあります。中へどうぞ」
「食事は済ませている」
用心深い父は、毒味が済んでいないものを口にしたくないようだ。
「庭で話すというのはどうだろう?」
「俺は構いませんよ」
父はイーザック様を庭へ誘い、狭く戦いにくい場所を避けた。
父の周りを固めているのは、ドーヴハルク王国の兵士たちだ。
その兵士たちの風貌は、全員が戦い慣れた戦士のような男性ばかり。
イーザック様の周りを護衛する華やかな騎士たちとは雰囲気が違う。
【契約】で同盟を結んでいても、父は自分以外の人間を心から信じることはない。
イーザック様が庭へ行く前に、横目でジグルズ様の存在を確認した。
ジグルズ様は『大丈夫だ』というように、無言でうなずいた。
騎士たちが弱いわけではないだろうけど、ジグルズ様がいることで、安心感は倍になる。
「ジグルズ、久しぶりだな。最近はもう旅をしていないのか?」
お父様がジグルズ様に声をかけた。
ジグルズ様は動じることなく、友人のように親しげな笑みを浮かべた。
「俺は公爵ですからね。昔よりは気楽ではないですね」
お父様とジグルズ様が、すでに顔見知りだったことに驚いた。
――二人は初対面ではない? そういえば、以前、ドーヴハルク王国のことを言っていたような……
『旅をしていた頃、ドーヴハルク王国には何度か立ち寄ったが、草原と森林が広がる寒い地だったな』
初めて会った時、ジグルズ様がそんなことを言っていたような気がする。
「兄上とドーヴハルク王が顔見知りだったとは、知りませんでした」
「ジグルズと偶然出会っただけだ。誰にも言ってなかったのか?」
「お忍びだったので、言わないほうがいいかと思いまして」
父は王宮を抜け出し、どこかに行くこともあったようだ。
お忍びを知られたくないだろうと、ジグルズ様に言われ、その通りだったのか、父は否定しなかった。
「では、庭へ」
イーザック様が庭へ案内する。
「新しく妻にした女が、レフィカの命を狙ったそうだな?」
グランツエルデ王国内では、『正妃の命を狙い、牢屋に入れられた』という話は、すでに有名な話になっていた。
国民が知っている情報は、父の耳にも入っていると思ったほうがよさそうだ。
「牢屋にいますよ。ドーヴハルク王が娘の命を狙った相手に、そこまで興味があるとは思いませんでした」
父は私の命を狙った相手に興味はない。
興味があるのは――
「グランツエルデ王の子を産むであろう娘だ。大事にして当然だろう?」
自分の血を引いた子が、グランツエルデ王となることだけ。
イーザック様は父の思惑を察して、表情を強ばらせた。
薔薇園にさしかかり、全員が足を止めた。
「見事な薔薇園だ」
「薔薇がお好きで?」
「いや、特に興味はない。ただ、寒い地で育てられる花は限られると思っただけだ」
父は表情を変えずに薔薇を眺めた。
「我々にも美しい薔薇園を造れる土地があればいいのだが」
その言葉に、イーザック様は顔を強ばらせた。
父は自分の野心を隠さない。
今よりも南下して、グランツエルデ王国の領地を手に入れたいと、遠回しに伝えたのだ。
そして、【契約】による同盟の重要さをわからせようと、わざと脅した。
返事に窮したイーザック様に気づき、横から口を挟んだ。
「お父様。強い花はどこであっても咲きますわ」
「俺もそう思う。ドーヴハルク王国の花はどれも強い花だ」
私とジグルズ様は微笑んだ。
私たちを見た父は、勝ち誇った笑みを浮かべて言った。
「ジグルズ。王にならなかったことを後悔させたいと思っていた」
「俺は後悔してませんよ」
「レフィカを妻にできなくてもか?」
父の思惑は、グランツエルデ王家を乗っとることだけではなかったのだ。
ジグルズ様に対しても仕掛けられていた。
「なるほど。王女たちの中から、あえてレフィカを選んで嫁がせたのは、ドーヴハルク王のたくらみでしたか」
「レフィカは娘たちの中でも美しい。そして、馬鹿ではない。ジグルズが気に入るだろうと思っていた」
初めて父から褒められたのに、嬉しくなかった。
父はイーザック様ではなく、ジグルズ様のことを考え、私を嫁がせた――なぜ、そんなことを。
「だが、残念だ。【契約】がある。王女を妻にできる資格があるのは、【契約】した王のみ」
王位を目指した父と王位を捨てたジグルズ様。
父にとって、王位を捨てて生きるジグルズ様は、自分を否定する存在なのだ。
イーザック様のほうを見ると、話を聞いて呆然としていた。
そんなイーザック様を気にするどころか、無視して父は話を続ける。
「俺はジグルズに王になれと言ったはずだ。なぜ、王にならなかった」
ジグルズ様が王にならなかったことが、父は不満なようだ。
「何度聞かれても、俺は同じ答えしか返せませんよ。王の力を捨てるためです。弟のイーザックがいたからこそ、俺は迷わずに済んだ」
「兄上……」
父の目は冷ややかで、ジグルズ様が王位を望まなかったことが、理解できないようだった。
――でも、お父様にはきっとわからない。
父にとって、他の兄弟は協力するものではなく、王位を争い殺し合うだけの存在だからだ。
「愚かな。王の力があったからこそ、他国から領土を守ってこれたのではないか」
イーザック様は父の言葉に反発した。
「俺はそう思わない。俺は即位してから一度も王の力を必要としなかった。なくても、国は治められる」
「若い王らしい思い上がりだ。思い上がるのもいい加減にしてもらいたいものだ。王の力があれば、俺の剣も簡単にかわせるだろう。だが、なければ……」
なにをしようとしているのか、父の手が剣の柄に触れた。
「お父様、やめてください! イーザック様はグランツエルデ王です。剣を向けるなんて許されません!」
護衛の騎士たちが、今にも剣を抜き、動こうとしている。
それをジグルズ様が止めた。
「王の力をいらないと言うからには、自分の力に自信があるのだろう? どうだ? 剣を交えてみないか?」
父はイーザック様を挑発した。
この間の暗殺者の襲撃でわかったことだけど、イーザック様の剣の腕前はそれほど強くない
それに対し、父は幼少の頃から命を狙われていたこともあり、戦闘経験はイーザック様よりも上だ。
かなりの腕前ではないかと、想像できた。
「剣の勝負をしたいなら、俺でよろしいのでは?」
ジグルズ様が前へ出た。
「ジグルズ様……! 父と剣の勝負だなんて……」
「レフィカ、心配ない」
ぽんっと私の頭を叩いて、いつものように笑った。
「王を守るのは貴族の役目。公爵である俺が代わりに引き受けましょう」
「ジグルズか。いいぞ。王の力を拒むお前に、王の力を使わせるのも一興だ」
すでに父は、ジグルズ様が王の力を継承していると気づいていた。
「どうして、お父様はジグルズ様が王の力を持っていると知っているのですか?」
「簡単なことだ。王の力は必ず身近な者を犠牲にする。お前が犠牲になったようにな」
――私はまだ生きている。
それなのに、父は私の死が確定しているような口ぶりだった。
【契約】を簡単に無効にはできないと、父から言われたような気がした。
「さて、ジグルズ。王の力を見せてもらおうか?」
父は嬉々として剣を抜いた。
ドーヴハルク王に即位するまで、一度の負けも許されなかった父。
負ければ、待っているのは死だった。
父は大勢の王子たちの屍の上に立っている。
それが父の自信の源でもある。
自信に満ち溢れた姿で、ジグルズ様に剣先を真っ直ぐ向けた。
あなたにおすすめの小説
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる──
侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。
だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。
アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。
そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。
「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」
これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。
⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。過激ざまぁタグあります。
4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです
藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。
理由は単純。
愛などなくても、仕事に支障はないからだという。
──そうですか。
それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。
王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。
夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。
離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。
気づいたときにはもう遅い。
積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。
一方で私は、王妃のもとへ。
今さら引き止められても、遅いのです。