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10 あなたにとって、この結婚の意味は? (1)
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私の境遇で海外なんて夢のまた夢。
そう思っていたのにお祖父さんは私をイギリスに短期留学させてくれた。
父や芙由江さんはちょうど海外旅行中で紗耶香さんも留学している時期だったため、嫌味も言われず、三人に知られることなく短期留学を終えることができた。
これは偶然なんかじゃなくて、きっとお祖父さんが考えたに違いない。
お祖父さんは私になにも言わなかったけど『楽しんできなさい』という一言で悟った。
私のためにこの留学を考えてくれたのだということを。
そして、ホームステイ先もお祖父さんの知り合いの方のおうちで、とても優しい方達だった。
大学で教授とも仲良くなれたし、最終日にはメッセージカードをいただいた。
それから、本も数冊。
これでもっと英語を頑張れということだと察した。
何度も発音を訂正されたことはいうまでもない。
「じゃあ、朱加里さん。私は一足先に日本へ帰るわね」
私が留学中、仲良くなった友人の見送りのために友人と歩いていた。
彼女の荷物を持って宿泊先のホテルから、二人で尽きないおしゃべりをしていたけど、ここでお別れ。
私の帰国は明日だった。
「うん。気を付けてね」
「そっちもね。それじゃ、また日本でね!」
友人はヒースロー・エクスプレスに乗って空港まで向かう。
手にはハロッズで買った紅茶とチョコレート、ロゴ入りのバッグとテディベア。
ハロッズテディベアは定番の赤い制服を着た近衛兵で、山のようにお土産を買ってしまったと笑っていた。
私も記念にキーホルダータイプのテディベアを購入した。
町子さん達にはハロッズのビスケットと紅茶。
お祖父さんには万年筆を選んだ。
よく手紙を書くからか、お祖父さんは万年筆を愛用している。
ビスケットや紅茶の缶が可愛くて、お土産を理由にたくさん買ってしまった。
花柄や建物の柄、それから熊の絵柄に赤い二階だてのロンドンバス。
「たくさん買ったけど、みんなへのお土産だからね……うん、お土産だから……」
そんな言い訳をしてしまうくらい買ったお土産。
私の荷物はホテルの部屋に置いてある。
残り一日、ロンドン観光をするつもりだった。
楽しかったイギリス留学ももう終わり。
私は明日の便で日本に帰ることになる。
お祖父さんにお礼のメールを一足先に送っておこうと、スマホを取り出すとパソコンメールのアドレスの方に新着メールが入っていた。
「壱都さんから?」
『気が向いた時でいいので、メールをください』
今までのメールとは違う。
短いメール。
しかもメールをください?
「今?」
きょろきょろと周囲を見回したけど、それらしい人はいない。
それにフランスにいると前のメールに書いてあったような気がする。
ここはイギリス。
いるわけがないわね。
とりあえず、返信しておこうと考えた。
堅苦しいメールはやめて欲しいと言われてしまったし、どんなメールにしようか思い悩んだ。
『今、イギリスにいます。とても楽しかったです。私は明日、留学を終えて日本へ帰ります』
まるで小学生の絵日記風の文章になってしまった。
きっと壱都さんが欲しいメールはこんなかんじの内容ではないような気がしたけど―――
でも、どんな?
それがわからなくて、私はその小学生の絵日記文のようなメールを送るしかなかった。
ホテル横の公園に入り、そこのベンチに腰かけた。
目の前に広がる緑の芝生が眩しい。
最近、お祖父さんの体調はあまりよくない。
以前より、ずっと長く横になることが多くなってしまった。
お祖父さんが生きている間は壱都さんだって気にかけてくれているだろう。
けれど、お祖父さんがいなくなり、私一人になった時、きっと私のことなんてどうでもよくなる。
なにも持たない私のことなんて。
表向きは白河家と井垣家の政略結婚のようにみえるけど、私が井垣の娘として扱われていたならの話だ。
きっと恋をする暇もない私を気遣ったお祖父さんが私のために夢を与えてくれたのだと思う。
この婚約はお祖父さんがなくなるまでの期間限定の婚約。
だから、私は壱都さんを本気で好きになってはいけない―――そう思った時、スマホの着信音が鳴った。
そう思っていたのにお祖父さんは私をイギリスに短期留学させてくれた。
父や芙由江さんはちょうど海外旅行中で紗耶香さんも留学している時期だったため、嫌味も言われず、三人に知られることなく短期留学を終えることができた。
これは偶然なんかじゃなくて、きっとお祖父さんが考えたに違いない。
お祖父さんは私になにも言わなかったけど『楽しんできなさい』という一言で悟った。
私のためにこの留学を考えてくれたのだということを。
そして、ホームステイ先もお祖父さんの知り合いの方のおうちで、とても優しい方達だった。
大学で教授とも仲良くなれたし、最終日にはメッセージカードをいただいた。
それから、本も数冊。
これでもっと英語を頑張れということだと察した。
何度も発音を訂正されたことはいうまでもない。
「じゃあ、朱加里さん。私は一足先に日本へ帰るわね」
私が留学中、仲良くなった友人の見送りのために友人と歩いていた。
彼女の荷物を持って宿泊先のホテルから、二人で尽きないおしゃべりをしていたけど、ここでお別れ。
私の帰国は明日だった。
「うん。気を付けてね」
「そっちもね。それじゃ、また日本でね!」
友人はヒースロー・エクスプレスに乗って空港まで向かう。
手にはハロッズで買った紅茶とチョコレート、ロゴ入りのバッグとテディベア。
ハロッズテディベアは定番の赤い制服を着た近衛兵で、山のようにお土産を買ってしまったと笑っていた。
私も記念にキーホルダータイプのテディベアを購入した。
町子さん達にはハロッズのビスケットと紅茶。
お祖父さんには万年筆を選んだ。
よく手紙を書くからか、お祖父さんは万年筆を愛用している。
ビスケットや紅茶の缶が可愛くて、お土産を理由にたくさん買ってしまった。
花柄や建物の柄、それから熊の絵柄に赤い二階だてのロンドンバス。
「たくさん買ったけど、みんなへのお土産だからね……うん、お土産だから……」
そんな言い訳をしてしまうくらい買ったお土産。
私の荷物はホテルの部屋に置いてある。
残り一日、ロンドン観光をするつもりだった。
楽しかったイギリス留学ももう終わり。
私は明日の便で日本に帰ることになる。
お祖父さんにお礼のメールを一足先に送っておこうと、スマホを取り出すとパソコンメールのアドレスの方に新着メールが入っていた。
「壱都さんから?」
『気が向いた時でいいので、メールをください』
今までのメールとは違う。
短いメール。
しかもメールをください?
「今?」
きょろきょろと周囲を見回したけど、それらしい人はいない。
それにフランスにいると前のメールに書いてあったような気がする。
ここはイギリス。
いるわけがないわね。
とりあえず、返信しておこうと考えた。
堅苦しいメールはやめて欲しいと言われてしまったし、どんなメールにしようか思い悩んだ。
『今、イギリスにいます。とても楽しかったです。私は明日、留学を終えて日本へ帰ります』
まるで小学生の絵日記風の文章になってしまった。
きっと壱都さんが欲しいメールはこんなかんじの内容ではないような気がしたけど―――
でも、どんな?
それがわからなくて、私はその小学生の絵日記文のようなメールを送るしかなかった。
ホテル横の公園に入り、そこのベンチに腰かけた。
目の前に広がる緑の芝生が眩しい。
最近、お祖父さんの体調はあまりよくない。
以前より、ずっと長く横になることが多くなってしまった。
お祖父さんが生きている間は壱都さんだって気にかけてくれているだろう。
けれど、お祖父さんがいなくなり、私一人になった時、きっと私のことなんてどうでもよくなる。
なにも持たない私のことなんて。
表向きは白河家と井垣家の政略結婚のようにみえるけど、私が井垣の娘として扱われていたならの話だ。
きっと恋をする暇もない私を気遣ったお祖父さんが私のために夢を与えてくれたのだと思う。
この婚約はお祖父さんがなくなるまでの期間限定の婚約。
だから、私は壱都さんを本気で好きになってはいけない―――そう思った時、スマホの着信音が鳴った。
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