獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第一章

11 鷹の獣人

昼休みになったけど、高也たかやは教室に来なかった。

希和きわ。お昼休みが終わっちゃうよ。お昼食べに行こ」

いろいろ気にしてたってしかたない。
それよりまずは腹ごしらえだよね。
腹が減っては戦ができぬよ!

「そうね。でも、学食に行けば、噂の餌食になってゆっくり食事もできないわ。古柴こしばにお弁当を買ってこさせるから、お昼は外で食べましょ」

「うん」

古柴君はお昼休みになってすぐにここへ来た。希和のもとへ駆けつけたっていうのが正しいけどね……
暑苦しいと怒られて、しょんぼりしてどこかに行ったと思ったら、お弁当を買いに行ってくれたらしい。
なんという忠犬ぶり。
教室から外に出ると、すでにカヴァリエとなった適合者マリア達が獣人のパートナーと一緒に楽しそうに歩いているのが目に入った。
授業以外で獣人と適合者マリアが会えるのは昼休みくらいで、昼食に誘われて嬉しそうにしている子達もいた。
それに比べて私は獣人達からも近寄ってはいけない人として認識されてしまっているらしく、どことなく避けられていた。
それはいいけど―――

「簡単に高也に会えなくなっちゃった……」

さすがに会えないことを実感すると落ち込んでしまう。
希和は人の目の少ない校舎裏のツツジの木の蔭に隠れた静かな場所を探してくれた。
いいかんじにベンチまである。

「ありがと。希和」

「いいのよ。佳穂、大丈夫?」

「うん」

「希和っー! お弁当と飲み物持ってきたよー!」

人の姿をした古柴君が現れた。
ほめて、ほめてっーと希和に頭を押し付ける。
イチャイチャというより、これはもう飼い主と犬の戯れにしか見えない。

「はいはい、偉いわよ。古柴」

希和がよしよしと古柴君の頭を撫でてあげると嬉しそうに微笑んで、希和の足元に寄り添った。

「古柴。獣人側はどう?」

「えっと。二年のクラスとは別だから、詳しくはわからないけど。佳穂ちゃんがカヴァリエじゃなくなって、キングは授業を休んだらしい。実家に連絡したみたいだ。その後は誰も近寄れないくらいに怖い」

「誰もって。大袈裟な」

「大袈裟じゃない! 教師も近寄れないくらいなんだ。だから、二年の獣人のクラスは午後から授業がない」

「えっ!? 授業が休みになったの?」
  
「あー。それは危険ね」

希和が眼鏡をくいっと指であげた。

「あのね、佳穂。獣人の本性は獣なの。一番強い者が王。その王が殺気を放ったなら、もう誰も平常心なんか保てない。殺されるかもって思いながら、授業を受けれると思う?」

「獣人の王様ってすごいね」

「他人事みたいに言うんじゃないわよ。高也君がその王様なのよ?」

「高也が王様……」

「そして、その王様を鎖で縛り付けているのが獅央家。例え、力があったとしても、人質をとったり、しがらみでたった一人の王を縛ることなんて簡単なことよね」

「人質……」

ふと、私の頭の中に高也のお母さんの顔が浮かんだ。
高也が連れ去られてから、高也はお別れにやって来たけど高也のお母さんはいなかったことに気づいた。
もしかして、人質って高也のお母さん……?

「とりあえず、ご飯をたべましょ」

希和が私の暗い顔を察してか、古柴君が買ってきてくれたお弁当のふたを開けた。
鮭と昆布のおにぎり、唐揚げや卵焼きが入っていた。

「わぁー! 美味しそう!」

お弁当は家庭の味ってかんじでじゅうぶん美味しかった。

「佳穂。あんたはキングのカヴァリエなんだから、しっかり自覚しなさいよ。相手は幼馴染みの高也君じゃなくて、獅央家の高也君なんだってこと」

「うん……。あっさり剥奪されちゃったけどね……」

それも一日で。
もしかして、学園始まって以来、最短最速記録じゃなかろうか。
でも、希和が言いたいことはそういうことじゃない。
形だけのカヴァリエではなく、いざという時は私が高也を止めろという意味。
きっと希和はそれが言いたいんだ。
人質やしがらみがなくなった時の高也は誰も止められないくらい強いに違いないから。
卵焼きを箸で切った。

「ややこしいことになったわね」

希和はそう言いながら、古柴君が大好きな玉子焼きを箸でつまみ、古柴君の口に入れてあげていた。
冷たい態度をとるくせにラブラブなんだからー。
にまにまと笑っていると、希和が私の顔見て言った。

「なに笑ってるのよ。顔も気持ちも引き締めなさいよ」

「わかってるよー」

天気もいいし、空には鳥も飛んでいて平和な昼休み。
引き締めろと言われても危機感もそんなにないんだよね。
このままゴロゴロ芝生に転がって昼寝をするもの悪くない。
ぼんやり空を見上げていると、鳥が一気に急降下してきた。
な、なに!?

「私のお弁当はあげないわよ!」

公園とかでよくある『トンビに注意!』っていう看板を思い出した。
これは私のお弁当狙いとみて間違いない!
バッとお弁当を体でかばった。

「佳穂。あの鳥はお弁当狙って降下したわけじゃないわよ。しかも、トンビじゃなくて、あれは鷹」

「え? 違うの?」

「ひどいなぁ。俺をトンビと間違えるなんて」

鷹はすぐそばのツツジの木にとまると人の言葉を話しだした。

「しゃべった!?」

「失礼な後輩だね! 俺は昨日会ったポーンの鷹我おうが昭良あきらだよ」

「鷹の姿がかっこいいですね」

「人の姿も褒めてよっ!」

「触っても?」

「どうぞ」

うわああああ!
かっこいい!
本物の鷹だ!

「ちょっとこの腕にとまってみてくれませんかね」

さあ、どうぞと私は腕を差し出した。
鷹が腕にとまる瞬間を見たかった。
鷹狩りで見るようなカッコいいやつを再現しようというわけですよ。

「いいけど。素人がやると怪我するから、止めといたほうがいいよ」

鷹我さんはギラリと鋭い爪を見せた。

「そうですよね……」

くー!鷹匠の気分を味わいたかったっ!

「俺がここにきたのはキングの命令だよ」

「高也、元気にしてる? 大丈夫?」

「軽っ……! えーと、周りが大丈夫ではないかな……。キングが苛立っていて誰も近寄れないよ。キングの実家である獅央家しおうけからの横やりで身動きがとれなくなったんだ」

獅央家―――奴隷のような立場から獣人達を開放し、今や政財界にまでその権力は及ぶと言われる絶対的強者にして、高也の実家。

「獅央家はキングのカヴァリエは自分達の決めた相手にするべきって言ってるっぽいね。わかってたことだけど、獅央家は簡単にキングを自由にはさせないよ。カヴァリエ候補は一乗寺か豹路ってとこかなぁ」

「希和。鷹って卵焼き食べるかな?」

「虫じゃないの?」

「話を聞いてよっ」

「聞いてますって。私は元気にしてるって伝えて下さい」

「佳穂はあたしが守るから、ご心配なく」

「親友っー!」

希和に抱き着くと古柴君が恨めしい顔で私を見ていた。
うん、ごめん……離れます。
すすっと希和から離れた。
希和は表情一つ変えず、むしろ挑発するような態度で鷹我さんに言った。

「キングも所詮、家の力には勝てないのね」

バサッと鷹我さんは翼を軽く動かした。

「そうだねー。なんか、脅されたみたいだよ。キングが勝手な真似をするなら、どんな手段を使っても学園から佳穂ちゃんを追い出すってさ」

「えっ!?入学させてくれたのに?」

「入学までは適合者マリアでしかないから、世間一般のルールに従っただけだね」

外界ルールみたいに言わないで欲しい。
つまり、私は豹路だけじゃなくて、獅央家まで敵に回しちゃってる!?
もしかして、そうかなって思ってたけど、やっぱりそうんなんだ……

「獅央家は佳穂の入学は認めてもキングのカヴァリエにはさせない意向なのね」 

「そうらしいね。でも、獣人の世界は獅央家だけで成り立ってるわけじゃない。豹路家も一枚噛んでるのは間違いないよ。あ、でも、安心して。鷹我家は佳穂ちゃん派だよ。なんでかっていうと、俺がキングの味方だからー」

バサッバサッと羽ばたく音が気になって、頭に入ってこない。
たぶん、本人は人の姿の時の感覚でなにか身ぶり手振りしているんだろうけど、激しい羽ばたきが気になって話にまったく集中できなかった。

「そういうワケでこっちの事情は伝えたからね! それじゃ、俺はキングのところに戻るねー!」

「はい。ありがとうございました」

「俺はけっこう君のこと気に入ってるから、頑張ってよ。お姫様!」

鷹はバサッと大きな音をたてて、高く飛んでいった。

「いいなあ。飛べて」

獣人の世界は力がすべて―――そのトップが獅央家。
高也を連れ去ったのも獅央家だ。
空を見上げて、ぎゅっと拳を握る。
まだ足を踏み入れて二日目だというのに手加減はしてくれない。
私はその力を思い知らされていた。

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