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第一章
22 欲
観覧車から出ると狼谷さんが迎えに来てくれていた。
まるで見計らったかのようにちょうどいい時間。
夕暮れの風に狼谷さんの前髪が揺れ、いつもは見えにくい目が見えた。
「高也が楽しめたみたいでよかったよ」
高也を見る目は優しく、狼谷さんは高也にとって味方なんだとわかった。
「泉地。最初から隠さずに言え」
高也はじろりと狼谷さんを睨み付けた。
けれど、狼谷さんは平気な顔をしていた。
「高也。これで、佳穂ちゃんと二人で食事をしたこと許してくれるかな?」
「ああ」
まだ高也は学食で私と狼谷さんが食事をしていたことを怒っていたらしい。
いったい、高也はどれだけ独占欲が強いの!?
でも、高也は狼谷さんを信頼して心を開いているんだと感じた。
狼谷さんだけは裏切らないという確信がそこにはあって、二人が笑いあった時、私のいなかった七年間の間、高也が一人でなかったことにホッとした。
「佳穂。またな」
「うん」
去り際、高也は私のおでこにキスをした。
ちらりと古柴君をにらみつけることも忘れない。
「佳穂……。あんた、気をつけなさいよ。獣人は嫉妬深いんだからね。他の獣人ならともかく血を見るだけじゃすまないわよ」
「……そうだね」
私もそう思うよ、希和。
古柴君はぶるぶると震えて、希和にぴったりと体を寄せていた。
「今のはマジの威嚇だった」
「古柴がふざけすぎるからでしょ」
「希和、佳穂ちゃん! 俺がキングに殺られそうになったら助けてよ!?」
「はいはい」
「うん、わかったよ」
希和と私が返事をすると古柴君は安心したように耳をピンッとたてた。
狼谷さんはそんな古柴君に苦笑していたけど、犬には犬の生き方がある。
「じゃあ、コンビニに寄って学園に戻ろうか」
「はーい!」
「助かるわ」
久しぶりのコンビニに私と希和はバッと財布を開いた。
「俗世よ!」
「久しぶりの娑婆に我らは帰還した!」
「二人ともどこの刑務所にいたのかな」
私と希和は狼谷さんを本気でにらんだ。
「いつでも外に出れる人とは違うんですっ!」
「そうよ! あたし達、一般学生の気持ちがわかってたまるかっー!」
ブルジョワは黙ってろ状態で私と希和はコンビニのお菓子を買いあさった。
それを静かに見守る狼谷さん。
古柴君は犬の姿のため、コンビニの外で待機していた。
近所の小学生だろうか。
古柴君は小学生達に『犬だ』『お手!』と言われて、ちゃんと犬のふりをしてお手をしていた。
『わんっ!』と可愛く鳴くのも忘れてない。
すごいプロ意識だよ……
狼谷さんはまだしばらくかかると思ったのか、先にコンビニを出て行った。
希和は会計と同時に郵便物も送る。
「外はいいわね。用事も済ませられるし」
「ほんとだねぇ」
スマホ類の使用も許可制で高也達はどうか知らないけど、私達のような一般学生は基本禁止されていた。
だから、外部と連絡をとるにはパソコンメールか学園にあるポストに手紙を送る手段のみ。
学園のセキュリティ管理のためらしいけど、ものすごく厳しい。
「おまたせー!」
狼谷さんと運転手さんはコンビニから出てきた私と希和の姿を見て、ドン引きしていた。
無表情な狼谷さんが動揺する顔を見られるのは嬉しいけど、もしかして買いすぎた?
ガサガサと白いレジ袋を両手に持って登場した私と希和。
小さいレジ袋にはアメリカンドッグやフライドチキン、ポテトが入っている。
エコ?
うん、そんな言葉もあったけど、今はいい。
だって、今は自由だから!
ピ〇キオ状態の私と希和は車に乗るとはしゃぎながら袋を開いた。
運転手さんには食べやすいフランクフルトをあげた。
「それ、食べきれる?」
「一日じゃ食べませんよ! いわば、非常食なんです」
「お坊ちゃんにはわからないでしょうけどね」
そうそうっと希和の言葉にうなずきながら、あんまんを頬張った。
希和はカレーまんを食べて、古柴君には特選肉まんを割って食べさせてあげていた。
人間の姿なら、『もー!イチャイチャしてっ!』ってなるところ、犬の姿のせいか、残念ながらそんな気持ちになれなかった。
「狼谷さんもどうぞ」
「ありがとう」
スッとからあげを差し出すと狼谷さんは素直に受け取った。
「初めて食べる」
本当にお坊ちゃんなんだ……と私も希和も古柴君も狼谷さんを静かに眺めた。
「もうすぐ入学して初めてのテストがあるね」
「そうですね」
アメリカンドッグにケチャップとマスタードをつけながらうなずいた。
「こぼさないでよ、佳穂」
「うん」
「真剣に聞いて」
狼谷さんはバックミラー越しに私と希和を見て言った。
「マリアステラ学園には外部の教育機関とは違う特殊なルールがある。成績順のランキングが一度決定してしまうとそれは変えられない。これは絶対ルールだ」
「上位に立てばいいってことでしょ? わかってるわよ」
希和はふんっと鼻先で笑う。
「わかってるならいい」
高也や狼谷さん達も成績で上位六名として選ばれている。
そして、それは適合者達も同じ。
学力と体力の二つの成績でランキングが決まる。
「獣だけに優秀な交配をしようと必死ねぇ。本当に獣は野蛮だわ」
くすりと希和は笑った。
優秀な女性のみを上位獣人達に近づけさせるための学園のシステムを希和は皮肉った。
「仕方ないよ。俺達、獣人は虐げられた歴史があるからね。少しでも強くならないといけない。犬のように強い女王様に従うことができるなら別だけど」
狼谷さんは皮肉に皮肉で返す。
二人は微笑み合っていたけど、そのギスギスした雰囲気は周りに伝わってきて私と古柴君が身を寄せ合ったのは言うまでもない―――
まるで見計らったかのようにちょうどいい時間。
夕暮れの風に狼谷さんの前髪が揺れ、いつもは見えにくい目が見えた。
「高也が楽しめたみたいでよかったよ」
高也を見る目は優しく、狼谷さんは高也にとって味方なんだとわかった。
「泉地。最初から隠さずに言え」
高也はじろりと狼谷さんを睨み付けた。
けれど、狼谷さんは平気な顔をしていた。
「高也。これで、佳穂ちゃんと二人で食事をしたこと許してくれるかな?」
「ああ」
まだ高也は学食で私と狼谷さんが食事をしていたことを怒っていたらしい。
いったい、高也はどれだけ独占欲が強いの!?
でも、高也は狼谷さんを信頼して心を開いているんだと感じた。
狼谷さんだけは裏切らないという確信がそこにはあって、二人が笑いあった時、私のいなかった七年間の間、高也が一人でなかったことにホッとした。
「佳穂。またな」
「うん」
去り際、高也は私のおでこにキスをした。
ちらりと古柴君をにらみつけることも忘れない。
「佳穂……。あんた、気をつけなさいよ。獣人は嫉妬深いんだからね。他の獣人ならともかく血を見るだけじゃすまないわよ」
「……そうだね」
私もそう思うよ、希和。
古柴君はぶるぶると震えて、希和にぴったりと体を寄せていた。
「今のはマジの威嚇だった」
「古柴がふざけすぎるからでしょ」
「希和、佳穂ちゃん! 俺がキングに殺られそうになったら助けてよ!?」
「はいはい」
「うん、わかったよ」
希和と私が返事をすると古柴君は安心したように耳をピンッとたてた。
狼谷さんはそんな古柴君に苦笑していたけど、犬には犬の生き方がある。
「じゃあ、コンビニに寄って学園に戻ろうか」
「はーい!」
「助かるわ」
久しぶりのコンビニに私と希和はバッと財布を開いた。
「俗世よ!」
「久しぶりの娑婆に我らは帰還した!」
「二人ともどこの刑務所にいたのかな」
私と希和は狼谷さんを本気でにらんだ。
「いつでも外に出れる人とは違うんですっ!」
「そうよ! あたし達、一般学生の気持ちがわかってたまるかっー!」
ブルジョワは黙ってろ状態で私と希和はコンビニのお菓子を買いあさった。
それを静かに見守る狼谷さん。
古柴君は犬の姿のため、コンビニの外で待機していた。
近所の小学生だろうか。
古柴君は小学生達に『犬だ』『お手!』と言われて、ちゃんと犬のふりをしてお手をしていた。
『わんっ!』と可愛く鳴くのも忘れてない。
すごいプロ意識だよ……
狼谷さんはまだしばらくかかると思ったのか、先にコンビニを出て行った。
希和は会計と同時に郵便物も送る。
「外はいいわね。用事も済ませられるし」
「ほんとだねぇ」
スマホ類の使用も許可制で高也達はどうか知らないけど、私達のような一般学生は基本禁止されていた。
だから、外部と連絡をとるにはパソコンメールか学園にあるポストに手紙を送る手段のみ。
学園のセキュリティ管理のためらしいけど、ものすごく厳しい。
「おまたせー!」
狼谷さんと運転手さんはコンビニから出てきた私と希和の姿を見て、ドン引きしていた。
無表情な狼谷さんが動揺する顔を見られるのは嬉しいけど、もしかして買いすぎた?
ガサガサと白いレジ袋を両手に持って登場した私と希和。
小さいレジ袋にはアメリカンドッグやフライドチキン、ポテトが入っている。
エコ?
うん、そんな言葉もあったけど、今はいい。
だって、今は自由だから!
ピ〇キオ状態の私と希和は車に乗るとはしゃぎながら袋を開いた。
運転手さんには食べやすいフランクフルトをあげた。
「それ、食べきれる?」
「一日じゃ食べませんよ! いわば、非常食なんです」
「お坊ちゃんにはわからないでしょうけどね」
そうそうっと希和の言葉にうなずきながら、あんまんを頬張った。
希和はカレーまんを食べて、古柴君には特選肉まんを割って食べさせてあげていた。
人間の姿なら、『もー!イチャイチャしてっ!』ってなるところ、犬の姿のせいか、残念ながらそんな気持ちになれなかった。
「狼谷さんもどうぞ」
「ありがとう」
スッとからあげを差し出すと狼谷さんは素直に受け取った。
「初めて食べる」
本当にお坊ちゃんなんだ……と私も希和も古柴君も狼谷さんを静かに眺めた。
「もうすぐ入学して初めてのテストがあるね」
「そうですね」
アメリカンドッグにケチャップとマスタードをつけながらうなずいた。
「こぼさないでよ、佳穂」
「うん」
「真剣に聞いて」
狼谷さんはバックミラー越しに私と希和を見て言った。
「マリアステラ学園には外部の教育機関とは違う特殊なルールがある。成績順のランキングが一度決定してしまうとそれは変えられない。これは絶対ルールだ」
「上位に立てばいいってことでしょ? わかってるわよ」
希和はふんっと鼻先で笑う。
「わかってるならいい」
高也や狼谷さん達も成績で上位六名として選ばれている。
そして、それは適合者達も同じ。
学力と体力の二つの成績でランキングが決まる。
「獣だけに優秀な交配をしようと必死ねぇ。本当に獣は野蛮だわ」
くすりと希和は笑った。
優秀な女性のみを上位獣人達に近づけさせるための学園のシステムを希和は皮肉った。
「仕方ないよ。俺達、獣人は虐げられた歴史があるからね。少しでも強くならないといけない。犬のように強い女王様に従うことができるなら別だけど」
狼谷さんは皮肉に皮肉で返す。
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