獣人は花嫁を選ぶ~百獣の王と少女の恋~【獣人シリーズ①】

椿蛍

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第二章

14 クリスマスパーティー

獅央家のクリスマスパーティーは高級ホテルをまるっと貸し切っていた。

「カップルの敵ね」

「そうだね。このクリスマスの時期に高級ホテルを貸しきりとか残虐非道もいいところだよ」

「なにが残虐非道だ。招待客が無駄に多いせいだ。行くぞ」

高也は私のコートを手にして預けるとそれだけでホテルのスタッフは驚いていた。
そして、隣の私を見て二度驚くのもやめてほしい。
女性のスタッフは高也を見てきゃあきゃあ言ってるし、まだパーティーも始まってないのにこの扱いの差はない。

「おい。佳穂。周りをにらみつけるなよ」

「にらみつけてないよ」

落ち込んでいるだけだよ。
パーティー会場であるホールはすごく広かった。
誰がどこにいるかなんてわからないよねって思っているとそんなことはなく―――

「高也様だ」

「狼谷家の泉地いずち様もいるぞ」

二人が現れるとそんなささやき声が聞こえてきた。
そして、自然に高也の前が開く。

「人が勝手に避けてくれるから便利でいいわね」

希和は笑っていたけれど、こっちは心臓が飛び出しそうだった。
けれど、ホールに入ると緊張が吹き飛んだ。

「わぁー!」

ホールにはチョコフォンデュ用の大きなチョコレートファウンテンがドーンッと存在感をみせていて、フルーツやバームクーヘン、プチシューまである。
フルーツがふんだんに使われたホールケーキ、焼き菓子、デニッシュパンやクロワッサン。
コックがチキンやビーフステーキを目の前で焼いていて、ローストビーフも切り分けてくれる。
さらにサラダバー、スープバー、ドリンクバー、パスタ、お寿司、カレーや魚のフライにソテーにマリネ、ビーフシチューなどの煮込み料理。

「ねえねえ。希和。食べれるかな」

両手を胸の前に組み目をキラキラさせると、希和はギョッとしてすぐに止めた。

「無理でしょ!? 食べ過ぎないのよ」 

「わ、わかってるよー」

動けなくなったら困るしね。
高也の足が止まる。

「高也さん。よく来てくれたわね」

真っ赤な口紅が印象的な美女で背中と胸が大きくあいた黒のドレスにファーのストール。
女優さんみたいな女の人が挨拶にきた。

「誰?」

狼谷さんが代わりに小声で教えてくれた。

詩織しおりさん。高也の父親の正妻だよ」

その人の娘だろうか。
背後に着飾った三人の娘がいた。
三人とも高也を見る目が冷たい。

「よくこれたわね」

「図々しい」

「さすが育ちが悪いだけあるわ」

なら、招待状出さなきゃいいじゃないと思いながら高也を見上げると、冷たい視線を投げかけていた。
高也がぎろりと三人を睨み付けると黙りこんだ。

「高也さん。せっかく来たのだから、皆さんにごあいさつをしてもらうわよ」

詩織さんはちらりと私を見てクスッと笑った。

「誰にもなびかないと思ったら、高也さんはお子様が趣味だったのね」

お子様って―――もしかして私のこと!?
ひそひそと後ろの三人がなにか話していたけれど聞こえなかった。
ただ私のことを言ってるんだろうなっていうのは私を見る目で気づいた。
母親も感じ悪いけど、その娘たちも相当意地悪だよね。
負けじとジロッと睨みつけると向こうは小さい悲鳴をあげてサッと目を逸らした。
どうやら、私が狩人であることは知っているらしい。
私が三人をけん制している間に詩織さんが狼谷さんに近寄った。
悪女みたいに毒々しい笑みを浮かべている。
詩織さんは誘惑するように狼谷さんの頬に指を這わせて囁いた。

「狼谷家トップの貴方がまだ護衛なんかしているの?」

「高也とは友人ですから」

「友人は選びなさい」

狼谷さんは目を細め、無遠慮に触れる指を睨みつけていた。
うっかりすると噛みつかれそうなくらいの苛立ちと不快な感情が伝わってくる。
私にでもわかるのに詩織さんはまったく気づいていなかった。

「佳穂。挨拶してくるから待ってろ。なにかあったらいつでも呼べ」

「うん」

「泉地。行くぞ」

高也は狼谷さんに声をかけ、詩織さんから離すと、一緒に人の輪の中へ入って行った。
大人みたいに高也達が会話するのを私達は遠巻きに眺めつつ、気持ちはごちそうへ。
すでに希和はステーキやローストビーフを皿にのせ、もぐもぐと食べていた。

「とりあえず、やることもないから食べたら?」

「うん」

「ほらっ! 佳穂。チョコフォンデュやろうぜ。チョコフォンデュ!」

「それは後だよ。賀久がく。わかってないなー。まずはお肉からって決めてるの!」

「希和。チキンソテーのソース、オレンジの味がしたよ!」

古柴君がいそいそと焼いてもらったチキンを持ってきて希和と半分こしていた。
なごやかな狩人の様子に獣人達は距離を置いて眺めている。
お世辞にも友好的な視線ではなかったけど、高也の怒りが怖いのか私より高也を気にしているのが丸わかりだ。
そして、狼谷さん。
二人は獣人達の中でも特別なのだろうか。
夕貴也ゆきやさんが捕まらなければ、ここに豹路ひょうじさんも加わっていたのかもしれない。
そんな中でホールが暗くなり、詩織しおりさんにスポットライトがあたる。

「本日は大切なご報告があります。夫である夕貴也さんが狩人に捕まるという事件がありましたが、後継者として私の娘達の三人のいずれかが獅央家を継ぐことにしました」

詩織さんの提案に笑い声が響いた。
一人だけじゃなく、そこらへん中から。

「我々を統べることができるのは獣人の王のみ」

「強い者が獣人達の上に立つ。それが我々のルールだ」

適合者マリアでもない娘に獣人をあてがってどうするつもりなのかしら」

容赦ない言葉が詩織さんに浴びせられて顔を赤くし、悔しそうに手を握りしめていた。

「勘違いしてもらっては困る。夕貴也様と戦って勝ったのは狩人ではなく、高也様だ」

希和も賀久も少しムッとしていたけど、何も言えなかった。
高也の強さを二人はよく知っている。

「高也さんは狩人を妻にしたいとおっしゃっていますのよ。獣人の王として認められまして!?」

ざわめきが広がった。

「銀の銃弾で撃ったのはそこの小娘、狩人達よ!」

この時のために私達を招待したのだとわかった。
高也になにがなんでも獅央家を継がせたくないらしい。

「なるほどねぇ」

希和はステーキを噛みながら頷いた。
攻撃されるようなことはないものの視線が痛い。
ローストビーフを二枚同時に口の中に入れたところだったから、今はやめて欲しかった。

「まだデザートに行ってないのに……」

「やっぱ、先にチョコフォンデュしようぜ」

「そうだね」

私と賀久はこのままだとデザートにいけないのではという危機感にハラハラしていた。
慌ててチョコフォンデュをする私達に高也と狼谷さんは苦笑しているのが見えたけど、こっちは真剣なんだよ!
二人はごちそうに慣れているかもしれないけど、普通の高校生がこんな高級ホテルの料理を目の前にして平常心でいられる!?
いられるわけないよー!

「希和。チョコつけないでイチゴは反則じゃない?」

「いいでしょ。別に」

チョコフォンデュを楽しむ私達を見た獣人達からは本当に狩人なのかと疑問の声があがった。

「見るからに普通の高校生なんだが」

「一人、小学生みたいな子もいるしな」

うん?
それはもしかして私?
チョコバナナを食べながら、声がしたほうを見ていると高也が中央へと歩いていく姿が見えた。

「高也?」

高也は詩織さんがいるところまで歩いて行くと、その手にあったマイクを奪った。

「なにをするの!」

「挨拶をしろと言っていただろう?」

不敵な笑みを浮かべ、高也は周囲を見回した。
さっきまで騒いでいた獣人達が静まり返った。
全員を見下ろすその姿は王様そのもの。
高也が話すのを全員が待っていた。

「俺は獅央家が嫌いだ。縁を切り、二度と関わる気はないとはっきり言っておく」

なにを言っているのかわからない―――そんな顔で獣人達は高也を見ていた。
好きじゃないっていうのはわかっていた。
だから、私は驚かないけど、それを知らない獣人達はショックだったと思う。

「そして、俺は狩人補佐官になった」

そうそう、狩人補佐官って―――え?
新たなバナナにチョコをつけていた手を止めた。
狩人補佐官になった?

「えっ!? ええええ!!」

「な、なんですって!?」

「はあっ!?」

私と希和、賀久は思わず叫んでいた。
私達の中で驚いていないのは古柴君だけ。

「古柴! あんた知ってたの!?」

「う、うん。こないだ一緒に本部に行ったから」

「言いなさいよっ!」

「キングに内緒だって言われたんだよー!」

「獅子が狩人補佐官なんて冗談でしょ!」

いつもは冷静な希和でさえ動揺していた。
それもそのはず。
狩人補佐官は犬の獣人しかいない。
獅子が犬になるなんて前代未聞。
高也はトドメと刺すように狩人補佐官が所持する端末を掲げたのだった。

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