16 / 31
16 忍び寄る危機 (麗奈 視点)
しおりを挟む
「どうしたんだ?珍しいね。麗奈が職場に来るなんて」
「聡さんの顔が見たかったの。迷惑だった?」
「いや、嬉しいよ」
もしかしたら、私へのプレゼントを買ってくれただけかもしれないわ、と思い直して来たけれど、どうやら違うみたいね。
慌ててネクタイをしたのか、曲がっているし、シャツのボタンはかけ違えて、なんてだらしないのかしら。
なにより、社長室に甘い香水の香りが残っているのに平気な顔をして。
他の女もいるのかしら?
いいわ。
聡さんがモテるのは知っていたし、馬鹿な女が好きなこともね。
「お楽しみのところ、ごめんなさい」
「な、なんのことかな」
「女物のストッキングが落ちているわよ」
聡さんはソファーの方を振り返った。
慌ててストッキングを拾う情けない姿をスマホのカメラで撮った。
「れ、麗奈。これは」
「あなたのご両親だけじゃなく、ご近所にも知られたらどうなるかしら?」
「や、やめてくれ!」
「こんなのもあるのよ?」
ブランド店で腕を組み、いちゃつきながら買い物をする姿やホテルにはいるところ。
「この女性を調べたら、聡さんの前の職場の人だったから、会社に画像をつけてメールで送ってあげたの。この方、結婚予定だったみたいね。婚約者の方にお会いして、画像を見せて差し上げたら、物凄く取り乱していらっしゃったわよ」
「れ、麗奈。頼むよ。これ以上は!遊びだったんだ。絹山の社長になった途端に迫られて断れなかったんだ」
「聡さんは優しいから」
「一番は麗奈だって言ったんだけどね」
「当たり前でしょ?私は寛容だから、一度は許してあげるわ。ただし、二度目は許さないわよ?聡さん?」
聡さんのボタンとネクタイを直してあげた。
「あ、ああ!」
これで、聡さんは私に逆らえないわ。
「悪かったよ。ちゃんと麗奈だけをみるから、言いふらすのだけはやめてくれ」
懇願する聡さんを冷ややかに見下ろし、笑っていると社長室のドアがノックされた。
「なに?」
「鈴岡です」
副社長の鈴岡だった。
父と親しく、副社長の座につく前から父を助けてきたっていうけど。
聡さんは表情を曇らせていて、気に入らないことはすぐにわかった。
「なんの用かしら。入っていいわよ」
入ってきたのは鈴岡と私の元婚約者である時任様だった。
なによ、何の用?
ジャージに眼鏡、目は見えないけど、怒っているようだった。
「お姉様は元気なのかしら?」
「ああ」
短く返事をして、聡さんに対峙した。
二人並ぶと、元婚約者の貧乏くさい服装が目立つわね。
どんなお金持ちでもジャージ男だけは無理だわ。
私の隣に立つのに相応しくないもの。
その点、聡さんは隣にいて恥ずかしくないものね。
―――けれど、以前の様に自慢できる気分にはなれなかった。
まあ、ちょっと見栄えのいいアクセサリーかしら?という程度の気持ちしかわいてこない。
「なんのようかな?」
聡さんは時任様の前に立つ。
「絹山百貨店を潰すつもりか」
「潰すなんて、酷いな。総合スーパーにするだけだ。時代にあってるだろう?」
鈴岡が顔を青くさせて言った。
「スーパー!?この伝統ある絹山百貨店をですか?」
「もちろん。売れるかどうかわからない高価な物を仕入れて売るよりは安くて大量に仕入れることができるものを売る」
「なりません!この絹山百貨店でしか、手に入らない物を取り扱うのが絹山百貨店なんです。それを……」
「絹山の名前を守る必要はないよ。名前もこの際、変えようじゃないか!」
顔を青くさせていた鈴岡と違い、隣のジャージ男はまったく動じていない。
何しに来たの?この男。
「なるほど」
「納得してもらえてうれしいよ。やっぱり、若い君にはわかるんだね」
「ああ。お前が馬鹿だということを理解した。現状を見に来ただけだ。帰る」
ふいっと顔を背けて、もう用はないとばかりに社長室から出て行った。
「生意気な男だ」
「鈴岡。今までご苦労だったわね。聡さんが社長なの。聡さんに従えないなら、辞めて頂戴」
鈴岡は項垂れて、社長室から出て行った。
そうよ。
私は別に絹山の百貨店なんかいらない。
欲しいのは目先の利益と見栄えのいい男だけ。
お姉様みたいにがんばって絹山の百貨店を維持する?冗談じゃないわ。
「聡さん、今日、浮気相手の女性に会いに行きましょうよ」
「なぜ?」
「決まってるでしょ?目の前できちんと別れてもらわなきゃ。もちろん、弁護士付きでね」
慰謝料もちゃんともらってあげるわ。
聡さんは真っ青な顔で私を見ていた。
馬鹿な男でラッキーだったわ。
私は聡さんの腕を掴んで、その腕に頬を寄せた。
「聡さんの顔が見たかったの。迷惑だった?」
「いや、嬉しいよ」
もしかしたら、私へのプレゼントを買ってくれただけかもしれないわ、と思い直して来たけれど、どうやら違うみたいね。
慌ててネクタイをしたのか、曲がっているし、シャツのボタンはかけ違えて、なんてだらしないのかしら。
なにより、社長室に甘い香水の香りが残っているのに平気な顔をして。
他の女もいるのかしら?
いいわ。
聡さんがモテるのは知っていたし、馬鹿な女が好きなこともね。
「お楽しみのところ、ごめんなさい」
「な、なんのことかな」
「女物のストッキングが落ちているわよ」
聡さんはソファーの方を振り返った。
慌ててストッキングを拾う情けない姿をスマホのカメラで撮った。
「れ、麗奈。これは」
「あなたのご両親だけじゃなく、ご近所にも知られたらどうなるかしら?」
「や、やめてくれ!」
「こんなのもあるのよ?」
ブランド店で腕を組み、いちゃつきながら買い物をする姿やホテルにはいるところ。
「この女性を調べたら、聡さんの前の職場の人だったから、会社に画像をつけてメールで送ってあげたの。この方、結婚予定だったみたいね。婚約者の方にお会いして、画像を見せて差し上げたら、物凄く取り乱していらっしゃったわよ」
「れ、麗奈。頼むよ。これ以上は!遊びだったんだ。絹山の社長になった途端に迫られて断れなかったんだ」
「聡さんは優しいから」
「一番は麗奈だって言ったんだけどね」
「当たり前でしょ?私は寛容だから、一度は許してあげるわ。ただし、二度目は許さないわよ?聡さん?」
聡さんのボタンとネクタイを直してあげた。
「あ、ああ!」
これで、聡さんは私に逆らえないわ。
「悪かったよ。ちゃんと麗奈だけをみるから、言いふらすのだけはやめてくれ」
懇願する聡さんを冷ややかに見下ろし、笑っていると社長室のドアがノックされた。
「なに?」
「鈴岡です」
副社長の鈴岡だった。
父と親しく、副社長の座につく前から父を助けてきたっていうけど。
聡さんは表情を曇らせていて、気に入らないことはすぐにわかった。
「なんの用かしら。入っていいわよ」
入ってきたのは鈴岡と私の元婚約者である時任様だった。
なによ、何の用?
ジャージに眼鏡、目は見えないけど、怒っているようだった。
「お姉様は元気なのかしら?」
「ああ」
短く返事をして、聡さんに対峙した。
二人並ぶと、元婚約者の貧乏くさい服装が目立つわね。
どんなお金持ちでもジャージ男だけは無理だわ。
私の隣に立つのに相応しくないもの。
その点、聡さんは隣にいて恥ずかしくないものね。
―――けれど、以前の様に自慢できる気分にはなれなかった。
まあ、ちょっと見栄えのいいアクセサリーかしら?という程度の気持ちしかわいてこない。
「なんのようかな?」
聡さんは時任様の前に立つ。
「絹山百貨店を潰すつもりか」
「潰すなんて、酷いな。総合スーパーにするだけだ。時代にあってるだろう?」
鈴岡が顔を青くさせて言った。
「スーパー!?この伝統ある絹山百貨店をですか?」
「もちろん。売れるかどうかわからない高価な物を仕入れて売るよりは安くて大量に仕入れることができるものを売る」
「なりません!この絹山百貨店でしか、手に入らない物を取り扱うのが絹山百貨店なんです。それを……」
「絹山の名前を守る必要はないよ。名前もこの際、変えようじゃないか!」
顔を青くさせていた鈴岡と違い、隣のジャージ男はまったく動じていない。
何しに来たの?この男。
「なるほど」
「納得してもらえてうれしいよ。やっぱり、若い君にはわかるんだね」
「ああ。お前が馬鹿だということを理解した。現状を見に来ただけだ。帰る」
ふいっと顔を背けて、もう用はないとばかりに社長室から出て行った。
「生意気な男だ」
「鈴岡。今までご苦労だったわね。聡さんが社長なの。聡さんに従えないなら、辞めて頂戴」
鈴岡は項垂れて、社長室から出て行った。
そうよ。
私は別に絹山の百貨店なんかいらない。
欲しいのは目先の利益と見栄えのいい男だけ。
お姉様みたいにがんばって絹山の百貨店を維持する?冗談じゃないわ。
「聡さん、今日、浮気相手の女性に会いに行きましょうよ」
「なぜ?」
「決まってるでしょ?目の前できちんと別れてもらわなきゃ。もちろん、弁護士付きでね」
慰謝料もちゃんともらってあげるわ。
聡さんは真っ青な顔で私を見ていた。
馬鹿な男でラッキーだったわ。
私は聡さんの腕を掴んで、その腕に頬を寄せた。
75
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる